まずは謝罪から始まります。
黒歌弄りを期待した方には申し訳ありませんが番外編です。
朧サイド
いつも俺が寝転んでいる校舎の屋上じゃない。
ソーナが始めて注意してきた場所ではない屋上、でも俺はこの屋上を……。
この場所を知っている。いや、覚えているの方が正しいだろう。
俺はそこに立って、寝転んでいる男を見下ろしている。
「授業サボってんのか……」
「……誰だよ、テメェ。その制服、内の学校の奴じゃねぇな」
「ハッ、他人に名前を聞くときは自分から言うのが礼儀ってもんだぜ?」
「……チッ」
俺の言葉に寝転んでいた男はその場に座り直して、こちらを睨みつけてくる。
「で?」
「……三日月 朧」
「へぇ、奇遇だな。俺も三日月 朧ってんだ」
「あっそ」
俺の事を睨みながらも言葉をはなっていく。わけがわかんねぇがどうやらこいつは俺のようだ。俺がまだこの世界に来る前の、白夜に逢う以前の俺だ。初対面のくせに俺のことが嫌いなようだ。
「気色悪くニヤニヤ笑ってんじゃねぇよ」
「そういうテメェは気色悪く仏頂面してんじゃねぇよ」
俺の言葉を聞いて、あいつは立ち上がり踵を返してその場からいなくなろうとする。
「テメェみてぇな野郎は嫌いだ」
「そうだったな」
何が楽しいのか全くわからなかったから。自分は何もわからかったから。
「この世界が嫌いだ」
「知っている」
この世界はいつも灰色で、何もかもが代わり映えのしないつまらないものだったから。
「他人が嫌いだ」
「分かってる」
少し他人と違い、出来すぎるせいで色々言われたから。周りの奴らに合わせるのも面倒だったから。
「逆廻 十六夜が嫌いだ」
「そうだな」
自分と同じ容姿なのに、周りにはたくさんの奴がいた。独りの俺がどうしようもなく嫌になった。自分の力を満足に奮うことのできる世界に行けたから。
「集団行動が嫌いだ」
「……嘘だ」
これは違う。
あいつの言うことでこれだけは嘘だ。
「んだと?」
「……独りでいるのは好きじゃかった」
生まれてから、ほとんど独りだった。他人と合わせるのが嫌いな癖に、独りでいるのがどうしようもなく嫌いだった。
「……チッ」
「今、考えれば随分と変なこと考えてたもんだな。本気で無気力だった」
あの世界じゃあ、何をするのも退屈だった。何をしても満足することなんてなかった。
「……なぁ、俺は死んでもいいか?」
「ヤハハ、心配しなくても後少しすれば死んでしまうからもう少し待ってろ」
「はぁ?後で死ぬなら今死んでも変わんねぇだろぉがよ」
「変わるさ」
俺の言葉にあいつが振り返って俺を睨みつけてくる。こうして客観的に見直してみると、随分と腐った目つきをしているみたいだな。
「ピンとこねぇかもしんねぇけどな。後で変な幼女にあうぜ?それとドSの癖に優しい女とか、一見クールなのにからかうと可愛くなる女に紅い髪の弄りやすい女。脳まで筋肉でできてんのかって思う女に引きこもり気味の女、お人好しで誰にも優しい女とか、変態でどうしようもねぇ馬鹿だけど気の合う男、イケメンのクセにあんまり報われない面白い男とか」
「……」
俺の言葉にあいつはこっちを睨みつけてくるだけ。何にも感じて無いような目だ。
「それとな、テメェみてぇな野郎とずっと一緒にいたいって言うモノ好きな女もいるからよ。……きっと、いや絶対にいるからよ」
「……知らねぇよ」
あいつは横を向いて俺に悪態をつく。つまらないな、本当につまらない奴だったよ俺は。
俺はあいつに歩みよって片手で顔を無理やりこちらを向くように弄る。
「ヤハハ」
「……んだよ、その笑いかた」
「テメェも後でこの笑いかたになるぜ?」
「ハッ」
「中二病みてぇな考えは辞めろや。後で必ず側にいたいって思う奴がいるから」
「……チッ」
俺の手を乱暴に振りほどいて、目を伏せるあいつ。表情はよく見えないが何と無くわかるような気がする。なんせ昔の俺だから。
「……それが、本当なら俺は…」
俺は……。
ゆっくりと目を開く。
ベッドに横たわっている俺は上半身を起こして目元を拭う。
何の夢を見ていたんだろう。わからない。
でも、俺の目元は何故か少し濡れていた。
「何の夢だったっけ?わかんねぇ」
夢の内容を思い出そうと、黙って考えこもうとする。しかし、そんな事は出来ないようだ。何故なら……
バーン!
俺の部屋の扉が勢い良く開き、数人が俺の部屋に雪崩れ込んでくる。
おい、衝撃で俺の部屋の扉が御臨終しちまったぞ。
「…朧先輩!一緒にデザート食べ放題に行きましょう」
「小猫、それは昨日もいった」
まずは初めに小猫がチラシを見せながら。
「朧くん、服を買いに行きたいのですが付き合ってくれませんか?」
「朱乃、それは明日も行く約束がついているハズだが?」
朱乃が何時ものように笑いながら。
「朧、申し訳ありませんが生徒会の手伝いを頼みたいのですが」
「ソーナ、お礼のクッキーだけは勘弁してくれ」
ソーナが眼鏡を触りながら。
「お、朧先輩!僕、ここに行ってみたいです」
「ギャスパー、お前最近だが俺をタクシーか何かと勘違いしてないか?」
ギャスパーが少しオドオドしながら。
「朧!私と鍛錬に行くぞ!」
「ゼノヴィア、お前だけ何か色気がねぇぞ」
ゼノヴィアが何故か自信満々にしながら。
「朧!俺と松田と元浜とナンパにいかねぇか!」
「行っても何時も見たいにお前らが失敗するだけだぞ?」
イッセーが鼻息を荒げながら。
「朧、イッセーに変なこと教えないでちょうだい!」
「話し聞いてたか?お嬢様」
グレモリーが少しとち狂いながら。
「朧さん!桐生さんから聞いたことなんですけど……」
「アルジェント、それは後で教えてやろう」
アルジェントが頭を傾げながら。
「あはは、ごめん止め切れなかったよ」
「止める気があったのか、木場」
木場が一歩離れた位置から。
それぞれが俺に話しかけてくる。
「あー、うるせぇな。取り敢えずリビングで待ってろ。話はそれからだ!」
俺の一声でその場にいたオカルト研究部の奴らがブツブツ言いながらもリビングに戻っていく。
ただ独りを除いて。
「…朧先輩?」
「なんだ、小猫」
ほとんどの奴らがいなくなった俺の部屋に俺と小猫だけがいた。
「…どうかしたんですか?」
「…ッ。何でもねぇよ、ほらお前もリビングに戻ってろ。それとも俺の着替えでも見たいのか?」
「にゃっ⁈も、戻ります」
少しからかうと、顔を真っ赤にして小猫は俺の部屋から出ていく。まさか、小猫に心配されるとはね。良く気づいたなあいつ。
「どこにも居なくならない……か。本当に居なくならないで欲しいのはどっちだか……」
「…朧先輩」
独り言をつぶやいていると、何故か小猫が俺の部屋にまた戻ってきて、扉があった方から少し顔を覗かせている。なんだ?
「小猫?」
「…無理、しないで下さいね」
ああ、全く。
こいつは本当に……。
「ヤハハ、大丈夫だって」
「…そうですか」
「なぁ、小猫」
「…なんですか?」
「側にいるぜ」
「にゃっ⁈にゃ、にゃんですかいきなり!」
小猫は自分の髪と同じような白い肌を、真っ赤にしてしまった。
さて、さっさとリビングでうるさい奴らの所にでも行くとしますかね。
俺なんかと一緒にいたいって思ってくれる奴らがいる。
側にいる。
側にいてくれる。
書いてて、後付け過ぎたかなぁ?
とか思いました。
あまり、評価が悪いならば消すことも視野に入れている。
一応、京都編に向けての伏線でもあります。
初めは十六夜を出そうかとも迷いました。