東方暇潰記   作:黒と白の人

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スランプというやつなんですかね、長々とお待たせしてすいませんでした
第96記と同時の二話連続ですのでそちらもどうぞ

後書きに独自設定 十六夜咲夜を載せました


第97記紅い館のメイドと門番

あの後は夜までは手は出さん、と言われたが抱き締められるのはそのまま続けられ、尻尾でくるまれながら藍の胸の中に抱き締め続けられた

 

幸福感と罪悪感で板挟みで唸っていると時間が経つのは速いらしく、良い頃合いとなったので奇抜な傘の少女の家に行くことにした

 

 

俺は藍に案内され人里から少し離れた場所にある多々良の家らしき場所に来た

少し大きな茅葺(かやぶき)屋根の家だ、家の手前側に大きな煙突がありその煙突からは煙は上がっていない

ガラリと引き戸を開けると中では少し暇そうに玄関に座り足をブラブラさせている多々良が居た

 

「おっ来た来た、もう出来てるよー!」

 

多々良は反動をつけて立ち上がりこちらに走り寄ってきた、小脇に抱えられている物はおそらく藍が預けていた風呂敷だろう

多々良は風呂敷を解いて自慢するように中身の包丁を藍に見せた

渡す前の物を見ていないためハッキリとは言えないがとても丁寧な仕事をしていると思う

 

「うむ、相変わらず良い仕事だ」

「綺麗な仕上がりだな」

「これがわちきの仕事だからね!」

 

多々良はンフフーと笑って自信を表した

 

「そう言えばお兄さんの名前は?わちきは多々良小傘(たたらこがさ)!」

「俺は黄昏虚と言う」

「うん虚だね!あの時の感情はとっても美味しかったよありがとね!」

 

俺は驚いてくれてありがとうと感謝され何とも不思議な感覚に包まれる

 

「そう…なのか?」

「うん!お兄さん高位の妖怪でしょ!そのお兄さんが驚いてくれて私がその感情を食べるの!妖力や霊力が強い人ってとても美味しいんだよ!」

 

霊力や妖力が強い者は美味い、まぁ確かにそうだ俺も人間を喰ったことがないわけではない……精神的にはもう喰いたいとは思わないが…

 

「しかしコヤツの化かしは失敗率の高さが有名だが、まさかお前程の奴が引っ掛かるとはな……」

「それは一重にわちきの力量と言う奴なんですよ!」

 

思い起こすのは初めて人間を喰った記憶

死体だった、近くに妖怪の姿も見えた為に相討ちなのだろうと思った、かなり霊力の強い人間だったのか美味そうに見えた、それはとても……気がつけば手は血に濡れて辺りにはおびただしい血痕、そして口に広がるのは独特の匂いと血の味……それさえもとても、旨いと感じて……

 

「うっぐ…!」

 

俺は咄嗟に口を覆って吐き気を堪える

 

殺すこと、そこに躊躇いはない

喰ってしまったことが一番駄目だったのだろう、妖怪を喰うことに躊躇いは……あまりない、だが人間の型に近づくと駄目だった、これは精神的なものだろう、俺が化物と自称してもそこは人間だった記憶が邪魔をしているのだと俺は推測した

 

「虚?!」

「お兄さん?!」

 

なんとか呼吸を調えて俺は二人に大丈夫だと言う

 

「どうしたのだ…?」

「わ、わちき何か駄目なこと言った……?」

 

多々良は慌てて俺を玄関に座らせて俺の背を擦り

藍はずっと俺の手を握っていた

 

「いや、何でもないんだ、本当に…すまない」

「……そうか、あまり無理をするでないぞ?」

 

藍は追及しなかった、これ以上掘り返されると今度は完全に吐きかねないのでありがたかった

 

「ありがとな藍、多々良も」

「ごめんね、わちきが多分駄目だったんだよね……」

 

多々良は涙を目に溜めてそう言った

今度は俺が慌てて多々良は悪くないと言って慰める番になった

 

「大丈夫だ、少し昔の…苦い記憶が呼び起こされただけだから」

 

多々良は心配そうな目を俺に向けた

 

「少しドタバタしたな、早めに帰ってコイツを休ませるとするよ」

「うん、お兄さん体は大事にね!」

 

小傘の見送りをもらって俺達は人里を軽く歩いた

 

 

「気分は良くなったか?それでは帰るとするか」

「あー悪い、少し用事がある」

 

俺は頬を少し掻いて藍から目を逸らす

逸らした方向は昨日の紅い館の方角だった

 

「大丈夫なのか?体調が優れんようだし明日でも良いではない…むっ結界に綻び?…こんな時にあの巫女めがまた人間を外に還したな……」

 

藍は俺を気遣うように俺の目を覗き込み、続いて博麗神社の方に視線を向けてそう呟いた

 

「先にそっちを済ますか?」

「…お前の言う用事はどれ程掛かる?」

「そこまでは掛からないと思うが……」

「ならばお前は用事を済ませてくると良い、私は結界を点検してくるとしよう…これを渡しておく、家に直通しておるから用事が終わるか気分が悪くなればそれを使って先に帰っておれ」

 

藍は袖に手を入れて中から一枚の符を取り出し俺に渡した、どうやら紫の家の合鍵のような物らしい

 

「あぁ分かった…そのありがとな」

「あまり心配はさせないでくれよ……それではな、愛しの旦那様」

 

藍は笑みを浮かべながらそう言い残して俺の頬にキスを落とし、もう一枚の符を使いスキマの中へと消えて行った

 

「行ってらっしゃいのキス的なものに俺って弱いんかな……」

 

もう藍からのキスとかは慣れたと思っていたのだがそんなことはなかったらしい、キスをされた頬を擦り気恥ずかしさと少し嬉しいと思ってしまった自分に自己嫌悪をしながら俺は紅い館へと足を進めた

 

 

 

湖を越えて紅い館…跡が見えてきた

やはり昨日今日では直らないらしい、一番目立っていた大きな時計搭が無くなっているのが目についた、だが幾つかの建物は復旧されており瓦礫は一ヶ所に纏められている

 

少しずつ館が大きくなったいくように見えてくると鉄格子の門が見えてきた

門の隣では昔門番と名乗っていた女、紅美鈴が扉の横の壁を背もたれにして眠っていた

 

「……鼻提灯ってここまで立派になるんだな」

 

俺は肩を震わせながら笑いを堪える

それでも少し漏れてしまっているが赤髪の中華風の妖怪、紅美鈴は一向に起きる兆しを見せない

ヒュッと風切り音と共に銀のナイフが門の隙間から飛んできた、俺は正面から来たナイフを指で挟んで受け止める

 

「あ痛ぁぁぁぁぁ!?」

 

叫び声の主は紅美鈴だった

その頭には俺が持っているナイフと同じ物が()()()()()()()()

 

……まぁ妖怪っぽいし、死にはしないだろう

 

俺は内心でそう結論付けて紅美鈴を放置した

 

「お久しぶりですね、黄昏様?」

「丁度百年ぶりかな?十六夜」

 

先程まで誰もいなかった門のすぐ手前に銀髪のメイド、十六夜咲夜が立っていた

 

「そんなことより良いのか?アレ」

 

チラリと視線を頭から血を流しながら倒れている紅美鈴に向けると十六夜もチラリと一瞥だけしてすぐに視線を戻した

 

「えぇ問題ありません、何時もの事です」

「し、心配無用です!私はだ、大丈夫です…よ!」

 

紅美鈴はグッとサムズアップしながらそう言い、それを見た十六夜は、ね?とでも言いたげに首を横に傾げた

 

俺はため息を吐いて指を一つパチンと鳴らした

 

視線を紅美鈴に移すと地面に血の痕が残るが頭に突き刺さっていたナイフは消えて流れていた血は止まっていた

 

「あれ?痛くない?」

「……何かしましたね?」

 

十六夜は短いスカートの上から自分の太股を触って何かの感触を確かめていた

 

ナイフはそこに仕込んでいるのか……

 

「ずっと地面に倒れられていたら気になるからな」

「いやはや、ありがとうございます!」

 

紅美鈴は素早く立ち上がり快活に笑った

 

「この度は何か御用ですか黄昏様?」

 

十六夜は何事もなかったかのようにそう言った

 

「昨日の夜の弾幕ごっこで館が壊れたのを見てね、直ってなければ直そうかなってね」

「館内に部外者を入れるのは少し難しいですね」

「あぁ、いやこの場所から直せる…構わないか?」

 

十六夜はコクリと頷いた

それを確認した俺は十六夜達に頷き返して指を一つパチンと鳴らした

瞬間、紅魔館の倒壊していた部分は元通りに戻り一ヶ所に纏められていた瓦礫は綺麗に消え去っていた

 

「これは……」

「わぁ元通り……」

 

不思議そうな顔をした二人に俺は後ろを振り向けと指で紅魔館を指した

振り返った二人は驚きの表情(かお)を見せた

 

「中も元通りだと思うぞ」

「そのようですね、部屋も全て元に戻っていますね」

 

十六夜はまるで見てきたように自信タップリにそう言いきった

 

「……『時を止める』、かな?」

「ふふっ惜しいですね、しかし近いとだけは言っておきましょう」

 

十六夜は不敵な笑みを浮かべて笑う

 

「貴方は…そうですね『元に戻す』…いえ『過程を飛ばす』、もまだ少し違いますね、『現実を書き換える』……違いますね、『無かった事にする』……と言ったところでしょうか?」

 

思わず俺は目を見開き言葉を失った

ニアピンだが間違ってない、むしろ当たっている『嘘と真実を操る程度の能力』の『嘘』の部分をピタリと当てた、十六夜に能力を見せたのはかなり少ない、両手で数えれば足りる程度ではないだろうか

 

「……どうやってそこまで答えを導いたんだ?」

「紅魔館の修理でやはり真っ先に出てくるのは『元に戻す』力…しかし百年前の美鈴との戦いで貴方は美鈴の攻撃を正面から受けて平然としました、私は武術には詳しくありませんのでハッキリとは言えませんが武術的に衝撃を逸らされたのなら美鈴は彼処まで呆然として無様に敗北などしなかったでしょう、美鈴はこんなでも武術の達人ですからね、ここで私は『元に戻す』ではなく『過程を飛ばす』と思いました」

 

十六夜は一つ二つと指を立てていきながら自分の推理を披露していく

その推理にほぅと俺は感嘆の声を漏らして十六夜の話を静かに聞く

 

「アレ私、貶されてるんですか?褒められているんですか?」

「静かに拝聴なさい」

「ナイフ危ないから投げないでください!?」

 

ヒュッと風切り音と共に投げられたナイフを美鈴は白羽取りのように両手を合わせて掴んだ

 

「しかしアイツとの戦いにおいて貴方はアイツの力、吸血鬼としての変身能力を封じました、そこから『現実を書き換える』…ですが、貴方の力を『現実を書き換える』と仮定しましょう、ならば貴方が先程美鈴を治した時に何故私の手元にナイフが戻ってきたのでしょうか?『現実を書き換える』ならばそれは手間です、なので私の手元にナイフが戻るのは強制的なもの…だからこそ『無かった事にする程度の能力』…どうでしょうか?」

 

御傾聴ありがとうございますと十六夜は一礼した

俺はパチパチと拍手を送る

 

「お見事だ」

 

一言の感想だが純粋にそう思った

 

「ふふっ紅魔館の瀟洒なメイドたるものこれくらいの推理出来なくてどうします?」

 

十六夜のそのうっすらとした微笑みはドヤァと擬音が付けれそうな程愉悦に満ちていた

 

「わーわー咲夜さん凄いですね!」

 

俺の拍手に便乗するように紅美鈴もパチパチと手を打ち鳴らして拍手を送っていた

 

「紅美鈴その気はないのだろうが馬鹿にしているようにしか聞こえん」

「へ?うわぁ?!」

 

十六夜は紅美鈴にナイフを投げた

紅美鈴は正面から来た一本のナイフを横に避け、カーブを描きながら飛ぶ二本目は手で弾き飛ばし、紅美鈴は何かに気付いたように後ろに下がった、その後先程まで紅美鈴が立っていた場所に真上から垂直に三本目のナイフが落ちてきた

 

ナイフを避けきった紅美鈴はケロリと何事もなかったような顔をしていた

この十六夜がナイフを投げて紅美鈴が避けると言うのは戯れのようなものなのだろうと思った

 

「さて俺はそろそろ帰るとするよ」

「分かりました、今日は御嬢様が留守ですので次は御嬢様がいらっしゃる時にでも、御嬢様は貴方に興味を持っていらっしゃるので」

「また来てくださいねー」

 

紅美鈴は手をブンブン振り、十六夜は優雅に一礼して俺を見送ってくれた

 

「了解」

 

俺はそれだけ返してスキマを開き家に戻った

 




独自設定 十六夜咲夜
ブラド・スカーレット(幻想郷支配を目論んだ吸血鬼(名前出す機会がなくてここが最初という悲しいオリキャラ))を殺すために紅魔館に潜入したが返り討ちにあいレミリア・スカーレットに命を救われ、そこにカリスマのようなものを感じ仕える事を決意
しかし何時か寿命で自分が死んでしまった場合レミリア・スカーレットに仕える事が出来なくなる事に恐怖して自身の能力『時を操る程度の能力』によって老いる時間を停め現在に至る

と言う妄想設定です

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