東方暇潰記   作:黒と白の人

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長々とお待たせしましてすいません


第96記八雲の式と家族

フヨフヨと少女が飛んで行くのを見送り、俺と藍は互いに目を会わせた

 

「ふむ、時間が出来てしまったな……」

「他に用事はないのか?」

 

藍は少し悩むような顔をして首を横に振った

 

「ないな、本当は買い物する前にアヤツを見つけ買い物が終わった頃には研ぎは完了しているだろうから、そうやって帰ろうと思っていたのだが、当てが外れた」

 

藍は少し顔を曇らせて溜め息を一つ吐いた

 

「始めから店に…居るわけないか?」

「あぁ、見て分かったと思うがアレは妖怪だ、一つの場所に定住している方が珍しい」

 

藍は茶を飲んでフゥと一息吐いた

ふむと俺は唸り大通りを行き交う人間や妖怪を眺めながら藍に続くように茶を飲んだ

 

「ここにいても仕方があるまい、先に荷物を家に置いて来よう、その後のことは家で考えれば良かろう」

 

藍は湯呑みを盆の上に置いて立ち上がりチラリと俺を見た

 

「そうするかっと」

 

俺も藍に続くように湯呑みを盆の上に置いて立ち上がり背伸びをした

 

「勘定を頼む!」

「あぁ藍いくらだ?」

 

藍はクルリと背を向けて店の奥の男に声をかけた、俺は続くように藍に団子と茶の値段を聞いた

 

「気にするな私が出す、ありがとな虚」

 

藍は俺を見てクスリと笑い、俺が何か言う前に店から出て来た男に手早く金を渡した

 

「行くぞ虚?」

 

藍はスキマの符をかざしてスキマを開いて振り返り、首を傾げて俺を手招きした

俺がスキマに近づくと藍は俺の腕を引いてスキマに引きずり込む

 

「わっとと!藍?!」

「ほれ、符術のスキマはあまり長くは開けんのだ」

 

俺は買い物の荷物を落とさないようにバランスを取り藍に抗議の視線を送るが藍はどこ吹く風のように受け流した

 

「はぁ、もういい、それで?これどこに運べば良いんだ?」

「とりあえず勝手場の方へと頼む」

「了解」

 

俺は荷物を担ぎ藍の後ろをついていく

 

勝手場に案内された俺は藍に続いて勝手場に掛かっていた暖簾を潜る

 

「食材は机の上にでも置いてくれ」

 

俺は藍の指示に従って荷物を全て机の上に置いていく、改めて見てみるとかなりの量だ、酒は八種類ほどと少ないがそれは食材がかなりの量を占めているから相対的にそう見えるのだろう

 

「しかしなんとまぁ……買いすぎたな」

 

藍は机に並べられた買い物を見て苦笑した

 

「あぁやっぱり買いすぎなのか」

「やはり旬ものは網羅したいしなぁ……」

「これは全部あの冷蔵庫らしきものに入れれば良いのか?」

 

俺は勝手場の隅に置かれている大きな直方体の箱に指を差す

 

「うむ、河童が作った物なのだが中々に重宝している」

 

この幻想郷において河童は凄腕の技術者のようで何かと明治の面影を残している幻想郷に過ぎたものが見えるのは全て河童が作るものらしい

 

「電力はあるのか?」

「前も言ったと思うがここは紫様のスキマの力の符を使わなければ出られはせん、つまり外から入るにもここから出るにも符が無ければならないのだ、更にスキマの符は長続きはせん、そのためアレは電力で動いてはいない、代わりとしてアレは妖力で動く充電式だ」

 

こっちでは妖力だが、霊力の代替エネルギーに近いものか、都市を思い出すなぁ…あっちは霊力でそんなのがあったっけかな、まぁ家電製品は供給が簡単な電力で、霊力エネルギー技術は兵器等の武装方面でしか使われていなかったが……

 

「どうした遠い目をして?」

「いや、少し昔を思い出しただけだ」

 

俺はクスリと笑って手早くその冷蔵庫に食材等を詰め込んで行く、そして酒を中に入れようとして藍から待ったが掛かった

 

「あぁ虚、酒はそっちではなくこっちに頼む」

 

藍は床の扉を指を差して俺を手招きしている

 

「床下に入れるのか?」

「こっちも冷やせるからな、まぁ大きな点はこれだな、解!」

 

藍は扉に手を突きそう唱えた

床の扉に蒼い線が走るが文字が読めない、暗号化されているようだ、何を隠しているのだと言いたい程にかなり厳重に鍵が掛けられている

 

「……酒を入れるんだよな?」

「そう言っているであろう?ほれ中には酒しか入って……あぁまたやられた…」

 

藍はそう言って眉間を押さえた

中はいくつか酒瓶が入っているだけの特に何の変哲もないもない小さな収納スペースがあるだけだ、ひとつ違和感があるとすれば瓶数本分の空きがあるくらいだろうか

 

「盗られてる?……いやあの厳重な鍵を突破する程の腕を持つ奴は……」

「あぁ考えている通り紫様だよ」

 

藍は溜め息を吐いてそう言った

 

「大変だな」

 

俺はこの式神と主との主従関係であるこの二人が家族のような関係になっているのが少しおかしく感じてしまい吹き出した

 

まぁ、だからこそ俺は紫に藍を渡したのだが

 

「笑うところではないぞ、このままでは紫様が飲み過ぎで倒れることになるのだぞ!」

「妖怪はそこまで柔じゃないだろう?」

「……わかってはおるのだがなぁ」

 

藍はそう言いつつ酒を床下の中に入れていき最後に先程よりも術式の数を多くして鍵を掛けた

 

俺と話ながら片手間でさっきより厳重な鍵を掛けるのか、これを解ける紫もだいぶ狂ってるなぁ……

 

俺がこの術を解くのなら十数時間は掛かる、それならば太刀で術式を斬る方が断然に早く簡単だ

 

「これで終わりか?」

「うむ、そうだな買い出し品は全て保存したからな、後は折を見て多々良に出した包丁を受けとるだけだ」

 

藍はそう言って立ち上がり、まるでこうする事が当然で何時もしている事だろうとでも言うように流れるように俺を抱き寄せてキスをした

それは流麗なダンスのようで動作の繋ぎが見えず俺は固まっていた

軽く唇と唇を触れ合わせるだけのキス

藍はそれを何度か繰り返した、六回目辺りで俺は正気を取り戻して顔を放そうと動くがいつの間にやら体は尻尾でしっかりと拘束されて動けない

藍は俺が動き出した事に気付き閉じていた目を開いて微笑を浮かべ舌を俺の口の中に潜り込ませた

そして俺は藍に全く抵抗らしいことが出来ずに攻められ蹂躙され、散々弄び満足したのか藍は口を放した

 

「…虚、まだ意識はあるか?」

「う…ぐぁ……」

「フフッまだあるようだな」

 

藍はチロリと舌なめずりをして妖艶に笑った

まだ頭が甘く痺れて上手く力が入らない

そんな俺を藍は腕と尻尾で抱き抱えた、モフモフとした尻尾はまるで毛布のように俺を包み込んだ

 

「よし此方へ来い」

 

来いと言っているが俺は藍の尻尾に巻かれ少し体を浮かされて運ばれている

勝手場近くの部屋に俺は運ばれゆっくりと畳の上に寝かされた

 

「……ここは?」

「私の部屋だ」

 

指や腕、足と順に動かしていく、体の痺れはもう取れたようで俺は体を起こし首を動かして部屋を見渡した

八畳程の部屋は違い棚や床の間が見えた、床の間には華が飾られ違い棚には写真が飾られていた、その写真が目に留まった、写真には紫と橙と藍の三人で撮られた物だった、三人共幸せそうな微笑みを浮かべていた

 

「ふふっ今度は虚も交えて撮るとしよう」

 

写真、永琳と撮ったものはたくさんあったが現像した物は全て永琳が持っていったか爆発に巻き込まれて焼けたかしただろう、そんな事を考えていたのだが藍は俺が羨ましそうに見ているように見えたのかニコリと微笑んで俺を交えたのを撮ろうと提案した

 

「いや別に構わない」

「遠慮するでない、四人の家族写真を撮ろうではないか?」

 

いつの間にかに俺の隣に座り優しげな笑みを浮かべた藍は俺の腕を引き、自身の胸の中に埋めるように俺を抱き留めた

 

「おっとと……」

「お前は強情な奴だ……愛してくれるのだろう?ならば幸せを感じさせてくれ、な?」

「……今度な」

 

嬉しそうな笑みで藍はコクリと頷き、さらに俺を自分の胸の中に押し込むように抱き締めた

息苦しいので抗議の意味を込めて藍の額を指で弾いた、その時帽子に指が引っ掛かり帽子が飛んで行ってしまった

 

「あぁ悪いな」

 

俺は力が弱まった藍の腕から離れ片腕を支えにして少し離れた位置に落ちた藍の帽子に手を伸ばした、だが伸ばした腕を藍はパシンと払い除けた

さらに藍は俺の体を支えさせていたもう片方の腕の内肘を押して肘を曲げさせ力を抜けさせた

 

「うをっ?!」

 

体は腕で支えていた、その支えを失った体は重力に従い俺の体は下へと落ちて倒れた

倒れる瞬間俺の体の下に藍の腕が滑り込んだ、俺は転がされ仰向けにさせられた

その上に藍は乗って俺に体重をかけた

 

早業にも程があるだろう……

 

俺は何処か他人事のようにそう思った

そう思ってしまうほどの早業だった、そのため押し倒されたと認識するのが遅れ俺は目を丸くして藍を見つめ続けていた

 

「ふふっどうした虚、鳩が豆鉄砲を受けたような顔をしておるぞ?」

「……流石にあんな早業で押し倒されたら目を丸くして驚くだろっん?!止め……!」

 

藍は俺の耳をチロリと舐めさらに甘く噛んで俺の言葉を遮った

そのくすぐったさに逃げようとするが藍に体重を掛けられて体は動かない、頭だけでも放そうとするが首が動く範囲など高が知れている、結局俺は逃げ切れずに藍に耳を甘く噛まれチロチロと舐められた

耳を甘噛みされる感触と舐める感触がなくなって息を切らしながら視線だけを横に移すと藍と目が合った、柔和な笑みを浮かべるように目を細めて笑っていた

 

「ふふっ本当に耳が弱いな、そんなに良い反応をされると…もっと、責めたくなってきてしまうではないか」

「……藍、昨日の…約束を、反故にする、気はない…」

 

俺は息を切らしながら藍の背中に片手を回して抱き締めた

もう片方の腕は藍のサラサラとした手触りの良い髪とフサフサして芯がある柔らかい軟骨の耳を撫でる

 

「でもだ、流石に昼からと言うのは俺も恥ずかしいんだ、だからその……夜まで待ってくれ」

 

俺は体を横に向けそれに藍も巻き込むようにゴロンと転がった、その拍子に藍の顔が正面に来て俺と目が合ってしまった

意図せず正面からそう言ってしまい俺は少し気恥ずかしくなり誤魔化すように笑った

 

「……良かろう、ならば待ってやる」

 

そこで安堵の息を吐こうとしたら藍はさらにこう続けた

 

「だが、お前がそう言うのだから私は期待しても良いのだな?」

「き、期待……?」

「うむ実は紫様と少しシフトを組んだのだ、三人も良かったが一対一で愛されたいとも思うておったしな、試験的にやるこにしたのだ、今日は私とお前の一対一だ、勿論だが三人の日もある、だから今夜は期待しても良いのだろう?」

「えっと…え?」

 

俺の知らない場所で何かとんでもないものが組まれていた件について

 

そんなテンプレートのような言葉を考えながら俺はあーだのうーだのと返事にもならない言葉で答えを先伸ばしていく

 

「ん?聞こえんぞ、もっとしっかり言ってくれ」

 

藍はニヤニヤと笑っている、その顔はイキイキとしていてとても愉しそうだ

 

「…………頑張る」

「ほぅ…」

 

俺は逃げ道が思い付かず観念してそう言い、藍は少し驚いたように目を開いてそう漏らした

 

「ふふっ今夜が楽しみでならんな!」

 

藍は嬉しそうにそう言って俺を抱き寄せた


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