東方暇潰記   作:黒と白の人

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第92記 八雲の家の朝

ボーッとする頭を支えながら俺は起き上がる

 

「あぁ虚、起きれたのかおはよう」

 

隣で藍は先程まで毛繕いをしていたのか片手に懐かしい櫛が握られている

 

「……おはよ、頭がまだ痛い」

「無理もない、昨夜は激しかったからな」

 

ハハと藍は短く笑い俺を胸元に埋めるように抱き締めた

俺は特に抵抗らしい抵抗はせずに受け入れる

柔らかく吸い付くような肌が口を塞いで少しばかり息苦しい

 

「……藍、少し苦しい」

「それはすまぬ、だが嫌ではないのだろう?」

 

俺は何も言わず首を縦に振る

俺もまた腕を藍の背中に回して抱き締めた

 

「ずいぶんと積極的だな」

「出来る限り愛するって約束したからな」

「そして私もまたお前を愛する、そう言う約束だったな」

 

俺はコクリと頷く

 

「……服、着るか」

 

現在俺と藍、そして紫は一糸纏わぬ姿である

藍もそうだが無防備にかつ幸せそうな顔で眠りチラチラと胸などが見える紫も非常に眼に毒だ

ヤるだけヤって何を今更だがそれでも

気恥ずかしいものもある

 

「その前に軽く体を流せ、昨夜の後がまだ残っておろう?」

「そうだな…あぁ藍」

「ん?」

 

俺を放して髪の寝癖を直しに戻った藍

俺は立ち上がる前に藍の口に唇を触れさせる程度の軽いキスをする

何をされたか理解した藍はすぐに俺を抱き締めようとするがその腕を俺は抑える

 

「……抱き締めるくらい良いであろうに」

「抱き締めてそのままやらかしそうな雰囲気だったから止めさせてもらった」

「つれん男だ……」

「やっぱりその気だったのか……」

 

俺は藍にジトリとした視線を向ける

 

「昼過ぎまで気絶するであろうと予想しておったのだがまだまだ余裕そうで安心したよ、今夜はもっと激しくできそうだな、夕食はうんと精の付くものを作ってやるからな」

 

藍はニヤリと笑みを浮かべる

 

「楽しみにしてる、でも夜の方はお手柔らかに、と言っても無駄か?」

「あぁ無駄だな、あぁそれと虚」

 

藍はクツクツと笑いを噛み殺し、思い出したかのように俺の名前を呼ぶ

 

「私は腕が使えなくてもお前を抱けるぞ?」

 

後ろでゆらゆらと揺れていた尻尾が俺に迫る

俺は藍の腕を離して後ろに下がる

足元から忍び寄るように近づいていた一本を躱すが背中にポフッと柔らかく、くすぐったい感触

 

「二段構え、だと……?!」

「油断しすぎだ」

 

数えてみると前から五本の尻尾が迫ってきており二本は待機するようにゆらゆら揺れて一本は先程躱して後一本が現在俺の背中を支えている

その支えていた尻尾が俺に巻き付き俺を藍の下へと引き寄せる

 

「……放してくれないか?」

「拒否する、まだ朝の奉仕が残っているではないか」

 

藍は舌なめずりをして、俺の耳に息を吹き掛け耳を甘噛みする

 

「ん!んぐ、くすぐったいぞ藍」

「これ暴れるでない」

「このままじゃ昨日の晩と同じ、んぐ!」

 

ようになる、と言いかけて藍に口を塞がれた

キスは口の唾液を混ぜ合わせ更にそれを全て俺の口から奪っていくような激しいものだった

 

「……やはり朝はキスから始まるのが私は良い」

「毎、朝こんな、俺が腰砕けに…なる、ような濃厚、な奴を、しろと?」

 

息も絶え絶えな俺の言葉に藍は大きく頷く

 

「うむあの程度の軽いものではなくな、私はそうして欲しいのだ」

「俺の、体力が持たない、から、勘弁して、くれ」

「仕方がないな、体力はこれから鍛えていくとしよう」

「はぁ……ふぅ、よしだいぶマシに、なったかな体力自信あったんだ、がな……」

 

マシとは言っても息切れが少しマシになった程度で体が痺れて藍とその尻尾に抱き抱えられているのは変わりない

 

「まだまだ夜の方は拙いな、教育のしがいがある」

「本当俺、嫁さんに何て言おう……」

「違う女に抱き抱えられ肩で漏らす言葉ではないな」

 

俺が唸っているとクスクスと藍は笑う

 

「確かに、それじゃ少し体流してくる」

「うむ」

 

藍はそう返事をして頷いた

暫く俺は藍を見つめて藍もまた俺を見つめ返す

 

「………………返事は良いけど解いてくれない?」

「……一回だけ」

 

藍の腕の力が強くなり押し倒そうと俺に体重を乗せてくる

俺は後ろに倒れないように藍を押し返す

 

「駄目」

「……な?」

 

小首を傾げて誘惑するように言いつつ俺に巻き付いている尻尾が後ろへと引く力を強めている

 

「拒否」

「……なら無理矢理…」

「敷地内なら能力で転移できるんだが?」

 

その気になれば紫が張った結界も抜けて外に出れることは初めにここに来て橙と話しているときに分かった、だが言えば紫と藍と言う術の天才二人がかりによって封じられかねないので言わない

 

「…………」

「すがるような目で見ても駄目だって」

「なぁ虚よぉ……」

「甘ったるい声して頼んでも無理」

 

俺がそう返すと藍は憤慨し紫を起こさないようにするためか器用に小さく怒りの声をあげる

 

「むぅ!何故だ!」

「一回で済む保障がないからだよ!」

 

藍に合わせて俺も声を小さくして叫ぶ

 

「保障をしてしまえば一回しかできぬではないか!」

「朝から全裸で気絶とか嫌だよ俺!」

「終わった後服を着せてやる、ほら問題ないではないか!」

「大有りだわ!てか橙が来たらどうするつもりだ!」

「ここに住む新しいお父さんとして紹介するに決まっておろう!」

「グレるわ!昨晩自分が怯えていた相手が次の日の朝にお父さんになってましたとか俺でもグレるわ!」

 

相手が言い終えれば直ぐ様返しの言葉を一息に言い切るこれを繰り返し俺と藍は肩で息をしていた

 

「……仕方がない昨晩の告白で手を打とう」

 

俺はため息をつく

 

「ん、んぅ」

 

少しモゾモゾと身動ぎすると藍から熱のこもった吐息が漏れる俺はそれを気にしないようにしつつ藍の尻尾の間から手を出して藍の肩を掴んで引き寄せ口を塞いだ、だがすぐに主導権を奪われ藍のされるがままになる

 

「……まだまだな口づけだな、それに誤魔化された気もするな、ほれ昨晩の告白を聞かせてくれ?」

「……告白は恥ずかしいんだ勘弁してくれ」

「二人だけ世界作ってずるくないかしら?」

 

ムクリと紫は起き上がり

プスッと頬を膨らまして拗ねたような声で何かを求める

 

「……紫様へのフォローは忘れるなよ?私は朝食の準備をして参ります」

 

藍は残念そうに俺にそう囁いて尻尾の拘束を解き自身の服に袖を通して部屋から出ていった

 

「えっと……」

「私には何もないのかしら?」

 

紫はジトリとした目を俺に向ける

 

「鈍いの?それともわざと?」

 

紫は苛立ったような声をあげる

 

「ごめんごめん、嫉妬を表に出されたことって結構少なかったから少しからかった」

 

俺は苦笑して紫の腕を引いて抱き止める

 

「……体が痛いわ」

「それは何か…ごめん」

「初めてだったのに優しくしてって言ったのに……」

 

紫の目が睨むように細められていく

 

「ごめん」

「嫌……ただじゃ許さない」

 

紫はそっぽを向く、頬が少し赤く言葉にはまだ私は怒っていますということがありありと見える

 

「キスして、藍が貴方にしたように私を腰砕けにするような濃厚な奴」

 

紫は俺の首に手を掛けて自身の体を俺へと引き寄せ俺と目を合わし紫は目を瞑り待つ体勢に入った

俺は紫のサラサラとした髪を撫でて唇を落とす

 

五分……十分……程度だったと思う時間が過ぎた

 

「…………これくらいで勘弁してくれ」

「……おまけで及第点あげるわ」

 

紫はジトリとした目は治ることはなく

すねたような声で言う

 

「手厳しいな」

「夜は更に激しいのを期待するわ」

 

紫はそれだけ言い残して

スキマを開いて中に入っていった

 

「…………服着るかな」

 

俺は袴は履かずに上だけを着て帯を結び着流しにする

 

「ここも掃除しないとな」

 

昨晩の名残のような匂いが籠っており、布団はグシャグシャに荒らされている

 

「止めろ思い出すな、何も思い出すな」

 

俺は頭を抑えて頭の中に昨晩の情事がフラッシュバックする、それを忘れようと俺は頭をブンブンと振る

 

「よし、剣を振ろう」

 

そうだ!京都に行こうと言うようなノリで俺はそう決めた、何かを忘れるには何かに集中すると良い、俺にとって無心になってする事ができる事はやはり刀を振ること

俺は一度拍手を打ち鳴らして太刀を創造する

さらに草履も創造してそれを履く

 

広い庭、紫は春をイメージしてこの庭を作ったのだろうか大きな桜の木が立っている

 

庭の中心に立ち太刀を抜き大きく振りかぶり振り下ろす

手に馴染むのは当たり前、鮮明に記憶にあるのは振り馴れた太刀、そんなものは一つしかない

 

深呼吸して再度振り上げて振り下ろす

真っ直ぐ振り上げ振り下ろす

 

型なんてない、どんな銃器より、どんな武器より、俺は刀を振るうのが性にあった、ただ目の前に写る敵を最短最速で切り伏せる、やっていることはそれだけ、それだけでどんな妖怪も人間も全て切り伏せることが出来た

 

「良し最後」

 

真っ直ぐ振り下ろした太刀を鞘に納める

一拍置いて振り抜く

チンッと鍔鳴りの音を響かせて俺は太刀を納めた

 

「こんなものかな」

 

俺は屈んで二つに別れた桜の花弁を手に取る

パチパチと拍手の音

俺は振り返り拍手の主を探す

 

「格好良かったぞ虚」

「藍、見てたのか」

「居合の部分だけだがな」

 

頭に札が付いた帽子を被り割烹着のような服を着た藍は優しげな笑顔で言う

 

「なぁ藍、この幻想郷で俺がコイツを抜くことなんてあると思うか?」

 

俺は腰の太刀に目を落として藍に聞く

 

「さぁな?無いに越したことはないんじゃないか?それを抜くと言うことはお前は戦うのだろう?私はお前が傷つくのを見たくなはないな」

「……だな、でも俺も傷つくのは見たくないんだ、俺がどうなってもね」

 

俺がそう言って藍から目を逸らした瞬間目の前を黄色の大きな何かが通り過ぎる

俺は体を後ろに仰け反らしてそれを躱す

 

「それは駄目だぞ」

 

目の前を通り過ぎたものは藍の尻尾だった

その時俺が考えたのは

 

あの尻尾どれだけ伸びるんだろう……

 

至極どうでもいいそんな事だった

そのどうでもいい事を考えているうちに俺は藍の尻尾によって拘束される

引き寄せられる感覚あるが俺は動かない

 

「重いぞ!」

「…あぁうん、くっくふ、ごめん…!」

 

ムッとした表情で藍は怒ったような声を出す

俺は体を震わせて必死で笑いを堪えながら藍に謝る

 

「それか!その刀か!」

「正っ解!」

 

俺の腰にある太刀は都市防衛のときの太刀、それは永琳が作った合金で作られた太刀、折れず曲がらず砕けずを目的として作られた合金、その代償としてとてつもない重量がある、そんな太刀もあの鬼には砕かれたが今はそこが問題ではなく、この太刀はとてつもなく重いという事だ

 

「お前はもっと強引な方が良いのだな?」

「え?」

 

ニヤリと笑った藍は俺を縛り引き寄せる尻尾の数を増やす

二本目で俺の体が少し動いた

三本目で俺の足が砂を引き摺りながら動き始めた

四本目で俺の体が宙に浮いた

 

「四本か、中々重いな」

「現在俺の体重百キロ越えてるはずなんだが……」

「長い付き合いのある自分の体だ、十全に扱えて当然だろう?」

「こうも手足みたいに尻尾でくるまれると怖いんだが」

「……今が夜ならばこのまま寝室へと連れ込むのだがな」

 

心の底から残念そうに藍は言う

 

「朝食もあることだ……これで我慢するとしよう」

 

藍は俺の頬にそっと手を当て撫でるように動かし俺の顎を上げてキスをする

朝のように全て奪い取っていくような激しいものではなく、舌を少し触れあわせる優しい口づけ

 

流されるように俺は藍に身を任せる

背筋がゾクゾクと震える

 

「……腰砕けにしてやったのに襲えんとはとんだ据え膳だ」

 

藍は口を離し拗ねた声で言う

俺は体を震わせ藍の尻尾に完全に体を預けている

 

「すまん、が藍、肩貸し、て……」

「このまま背負ってやる、お前を居間に運ぶ間には治っていると良いな」

 

藍はクスクスと微笑み他人事のように言った


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