4000文字ってこんなにしんどかったのか……
後書きを手直ししました
俺の火照った体から湯気が立ち上る
この火照りは風呂に入っていたからだと思いたいなぁ
そんなことを考えつつ俺は藍から受け取った青色の紺の縦縞が入った浴衣に袖を通し、月を眺めながら居間へと足を運ぶ
季節は夏だが夜風は涼しく、火照った体を冷ましてくれている
居間の前で俺は縁側に胡座を掻いて座る
「黄昏様?」
少し幼い声、後ろの居間の障子を開けて出てきたのは予想通り黒の化け猫橙だった
「橙か、紫をしらないか?」
「おしょらく入浴かと」
「俺が呼びにいく必要は無かったか……」
俺はそう呟いて夜桜を眺める
「……あ、あの黄昏様」
「ん、何?」
その夜桜を眺めていると橙が怯えながら恐る恐ると声をかけてくる
……俺何かしたっけな?
「黄昏様は、お強いですよね」
「……うん、単純に相手との殺し合いなら強いと思うよ」
「ぶ、物騒な言い方でしゅね……でも羨ましいです」
少し引き気味に橙は言う
余計に怖がらせたかも、いや怖がらせたね俺
俺は頭を少し掻いて目線を逸らして少し笑って謝る
「あははごめんよ、でも何故羨ましいんだい?」
「……黄昏しゃま、私は、化け猫です、化け猫の話は数多くあると思います、そしてその話の数以上の化け猫は存在していました」
過去形にしたのは外の世界がほぼ妖怪の生きられない環境であるからだろうか
「それで?」
「化け猫は力がなければ生きられません」
「それは化け猫だけと言わず全ての妖怪に当てはまる当たり前のことじゃないのかい?」
俺がそう問い掛けると橙は首を横に振った
「いえ、まず化け猫の外見は猫と変わりません、私のこの姿でさえ藍様の式にしてもらって初めて化けることができましゅ、つまり化け猫は人間にとって一番身近な妖怪であるとも言えます、だから畏れられ妖力を集めるのが難しいのです」
身近に、しかもどこにでもいる猫に襲われるかもしれない、喰われるかもしれないと恐怖する
これほど馬鹿らしいことはないだろう
だからきっと、人間は猫を、化け猫を畏れない
「だから私達化け猫は群れました、数は力でしゅ、そして畏れを集めることには成功しました、代わりに……」
そこで橙は口を閉ざして顔を俯かせた
「……代わりに弱い同族を殺し始めた、かな?」
橙は頷いて肯定する
「……はい、同族の弱者は自分達の力を落とすものでしゅ、だから殺します、そしてできる限り無惨にやります、それを見た人間は怯え、畏れます、そして私は……弱者側でした、そしてその死にかけの私を拾ってくれたのは藍しゃまです」
「そうか」
年下に英雄譚を聞かせるように言う橙
俺はクスリと笑ってそう返した
「はい、妖術で妖怪を薙ぎ倒す藍様はとても綺麗で格好良かったでしゅ、だから藍様は私の自慢の主であり、憧れでもあります!」
橙はどこか夢見る子供のような目で言い
でもと続けた
「でも藍様はたまに悲しそうな、寂しそうな顔をするんです……おそらく黄昏様、貴方のことを想っていたんだと思います」
「……」
「私が言うのも差し出がましいと思います、でも藍様を悲しませないでください、私は藍しゃまが好きです、いつも笑っている藍様が好きです、優しいお母さんみたいな藍様が好きです」
ニコリと笑い首を傾けるようにして橙は俺と目を合わせる
少しバツが悪くなった俺は頬を掻いて視線を逸らした
「……善処はする、言えるのはこれくらいだな」
「わかりました、今はそれで構いましぇん、せん」
「……全く、俺には勿体ない
俺は空を見上げてため息をついて呟く
「それを決めるのは藍様だと思いましゅよ」
「……藍は、藍は本当に俺を好いてくれているのだろうか?」
「……もしそれを本気で言っているのならば、私は怒ります」
橙は少し目を厳しくさせて静かに言った
「俺はさ、自分を最低だと評価してる、それこそ嫁さん居るのに他の女性を作るという風にね」
「……一応、私は貴方のことは藍しゃまから聞いています、私は藍様と一緒にいた期間は長いと思います、藍様が貴方のことを話すときの言葉には、嘘はなかったと思います、貴方は愛されていますよ黄昏様、私が嫉妬してしまう程度には、です」
「……そうか」
なんとかそれだけを口に出して俺は夜空を見上げる
そうしていると後ろから誰かに抱き締められた
慌てて首を動かして後ろを見る
「……全くお前はそんなに私が嫌いか?」
藍は俺の脇の下から腕を通し肩に顔を乗せるように抱きついてきた
「いや、嫌いな訳ではないよ」
「ならば、何故そんなことを言うのだ」
「……分からないんだよ、藍もそうだが嫁さんもだ、俺自身藍や嫁さんに愛されるほどの人物でもなければ、一途に好かれる程の男じゃないと思う」
永琳、諏訪子、神奈子、妹紅、藍、萃香、勇儀、そして紫、全員息を呑む程の美女であり、現在俺と話している藍は実際に国を傾けた、しかし俺には彼女達が好いてくれる何か取り柄はあるのだろうか?
「虚、私はお前の優しさが好きだ……私はどうやら、寂しがりやらしくてな、独りと言うものが耐えられなくなった、だから求めたのだ私は人間とのふれあいを……まぁ結果は知っての通りお前は私を拾った、つまりそう言うことだ……そしてまぁアレだ、夢もないことを言ってしまえば所謂つり橋効果という奴だよ」
「本当に夢ないなそれ」
少ししんみりした話がくるかと身構えてたいたら、俗っぽいことを言われ、思わず笑ってしまう
「ふふ、あぁやっぱりお前はそんな風に笑っているのが似合う」
「そうか?」
「あぁ、それにそうやって笑っている方が私も嬉しい、そして何よりも好きだ」
「……何でもないようなことを言うようにアンタは照れさせてくれるな」
「お前にはこれが一番効くからな」
藍はまたクスリと笑いながら言う
「虚好きだ、大好きだ、お前を愛してる」
突然のドストレートな告白に俺は硬直した
何度か瞬きして先程の言葉を反芻、続いて理解
一、二秒の間を挟み、その告白に対してあーうんと返事にならないような返事を返して俺は項垂れる
「余り前に倒れるでない、私がずり落ちてしまうではないか」
「うん?うん、ごめん」
恥ずかしい、何故告白した側の藍は涼しい顔なのに、告白された側の俺はこんなに気恥ずかしく感じ、藍の顔を直視できないのだろうか
「ふふ、良い顔をしているなぁ、非常にそそる……全く、襲いたくなってしまうではないか」
藍はそう言いながら俺の体を抱き締める腕に力を込めた
「……冗談だよな?」
「残念ながら本気だ……虚よ、私のものになれとは言わぬ、紫様もお前に気があるのだしな、だが私を愛してほしい、お前から愛を囁かれ抱き締められ甘えられたいし甘えたいのだ」
俺は体を起こし藍の腕を解いて藍に向き直る
「……俺には嫁さんが居るよ」
「あぁ知っているとも」
俺が目線を逸らしながら言うと
藍は頷きながらそう返す
「俺は……俺には藍と紫それに嫁さんを入れて計八人も女性が居るよ」
「私は一番にはなれないのかもしれない、私を馬鹿な女だと笑ってくれても構わない、しかしそれでも八雲藍と言う女は黄昏虚と言う男を愛してしまったのだよ」
クスリと自傷するように藍は笑って返した
俺は無言で藍の腕を引いて前のめりに倒れる藍を抱き締める
「……藍はずるいと思う」
「ふふ、ずるくなくてはお前を振り向かすことなどできんよ、愛してる」
「……俺って女難の相でもあるのかね?」
俺がそう呟くと藍は俺の耳を噛む
「
「藍痛いって」
「そこまで邪見にされると私も怒るぞ」
「いや、まだ嫁さんにも会ってないのに…」
藍は噛むのを止め俺と目を会わせ遮るように言う
「いやもだってもしかしもないだろう、今お前の目の前に居るのはその嫁さんとやらではなくこの私だ、だから!今だけ……今だけは私だけを見て、私だけを想え」
だからという言葉から語調が強くなり段々と弱くなっていき最後は囁くように藍は言った
「藍はずるい、と言うより卑怯だ」
俺はそう返してまた俺は藍を抱き締めた
あまり今の顔は見せたくない、絶対だらしない顔をしてるだろうから……
俺は藍が顔を上げれないように頭に手を当てて強く抱き締める
「虚少し苦しい」
「すまん」
俺は抱き締めている腕の力を少し緩める
でも顔は上げられないくらいの力は込めておく
「……頑なに顔を見られたくないと見えるな」
「うん、たぶん絶対だらしない顔してる」
「そうか、ならば見なければならぬな」
そう言って藍は俺の腕を外そうとするが俺は外さない
「藍、お前絶対性格悪いだろ」
「悪くなければ国など傾けられんよ」
「……意図的ではなかったのだろう?」
「確かに意図はしていなかったが、私があの男に近づいたのが原因だ」
顔は見えないが少し暗くなったと言うことがわかった
「……あんまり、そんな話はするな……その、なんだ、あまり良い気分はしない」
俺がそう言うと藍はピタリと止まり、肩を震わせそして笑い出した
「ふっくく……あぁ、わかったその手の話はもうしない、くく」
藍は腕に力を込めて俺から離れようとするのではなく俺を抱き締める
「嬉しそうだな」
俺は藍を抱き締めていた腕を外す
「あぁ、嬉しいよ!嬉しいとも!嬉しいに決まっているではないか!お前のその感情は紛れもなく嫉妬だろう、お前はな私を他の男に渡したくないと思ったのだ、つまりお前は私を欲したと言うことだ!これが嬉しくないはずがないであろう!」
ガバリと俺の肩を掴んで起き上がり、酷く興奮した藍はそう言って俺を押し倒す
俺と藍の鼻が触れ合う程の近さ
自分の息づかいと藍の荒い息づかいが聞こえる
あっ何か嫌な予感がする
そんなことを考えた束の間に藍は俺の口を自身の口で塞いだ
最初は触れるように柔らかく
そして段々と舌を忍ばせてくる
「あまり緊張するでない、すぐに慣れる」
「あんまり慣れたくないんだが?」
固くなっているのを隠す為に平静を装って返す
「ふふふ、だが周囲はそうさせてくれんぞ?八人だったか?そんなにお前を好いた女がいるのだ口づけなど嫌でも慣れてしまうさ」
そこで藍はまた軽くキスをする
「……あぁ、我慢できそうもないな、もう一度言わせてくれ虚、好きだ!愛してる!」
藍は腕を俺の首に回して抱き締める
これは不味いなぁ、どうしようもなく不味い
「お盛んねぇ?」
「「っ?!」」
少し気怠そうな声が頭上から響く
「紫様?!」
抱きついていた藍が離れて視界が開けた
「……貴方は愛されていますよ黄昏様、私が嫉妬してしまう程度には、です」
「……だそうよ藍」
橙と虚の話が聞こえ、最後の言葉で少し目頭が熱くなり私は目頭を押さえる
……ふふ、どうやら私は式に恵まれていたらしい
「藍、泣いてるの?」
「いえ、泣いてなどありませんよ……紫様席を外してもよろしいでしょうか?」
「良いわよ、行ってらっしゃい」
居間の前にいる橙に足音を立てぬように近づき私は風呂の番を頼む
橙は私と同じように足音を立てぬよう風呂場に向かうのを確認し私は夜空を心ここに有らずと見ている男の背に立つ
さてと、このボンクラの旦那に自分は愛されていると言うことを教えてやらねばな……
そう思いながら虚に私は抱きついた