東方暇潰記   作:黒と白の人

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更新遅くなったので多めに書こうとして3000文字にした結果グダッて微妙になりました……
たぶん何時か修正を入れると思います、それではどうぞ


第85記 八雲の屋敷

スキマを抜け俺は周囲を見渡すとそこは開けた森の中で目の前に一件の屋敷があった

 

「ここは?」

「私の家よ、帰ったわ」

 

紫は引き戸を開けて中に呼び掛ける

 

「お帰りなさいませ紫様」

 

一礼して出迎えたのは九本の狐の尻尾を生やした美女、藍だった

 

「えぇただいま、藍客人よ」

「はい……虚なのか……久しいな」

 

藍は少し驚いた顔をし、次に嬉しそうな笑みを浮かべた

 

「そうでもないんじゃないか?」

 

俺がそう言うと藍は大きくため息をついていう

 

「全く女心が分かっておらんなお前は……好きな相手と離れるのというのは辛いことなのだぞ?」

「あー、悪い」

 

俺は頭を掻きながらそういった

 

こうも堂々と言われると聞かされる方も恥ずかしいんだがな……

 

「玄関で話しをするのも何でしょう、上がりなさいな」

 

紫はそう言って手招きをして俺を呼ぶ

 

「お言葉に甘えさせてもらうか」

「……」

 

俺が下駄を脱いで上がると、藍が俺の隣で俺をチラチラと見る、俺は藍の腕を取り自分に引き寄せる

 

「……これでいいか」

「ふふ、あぁ」

 

藍は笑って頷く

 

「……時と場所を考えなさい」

 

障子を開けた紫はジトリとした目を俺達に向ける

 

「何か悪いな……」

「まぁいいわ、お座りなさいな、藍はお茶を持ってきて」

 

俺は紫の対面にある座布団に座る

 

「は、はい!」

 

紫に命令されると藍は逃げるように俺から離れて出ていく

 

「全くあの子は……」

「でもちゃんと仕事はしているのだろう?」

「えぇ何時もはしっかりしているのだけれど、(ちぇん)と貴方が居るときは崩れるみたいね、全く貴方は一体藍に何をしたのかしらね?」

 

そこで紫はため息をつく

 

「ははは、そこまで特別な事をしたつもりはないのだがな……俺がしたことと言えば傷だらけの藍を治しただけだよ」

「貴方に恩を感じて……それだけ貴方を魅力的に感じたのかしら?」

「分からないよ、俺は女心というものを理解してないからね」

 

俺がそう言い終わったあと藍が顔を出して盆の上に茶と羊羮を乗せて運んで来た

 

「紫様お茶をお持ちしました」

「えぇありがとう」

 

藍は手早く紫と俺の前に茶と羊羮の乗った皿を置く

 

「……藍、座る場所は紫側じゃないのか?」

 

藍はその茶と羊羮を置き終わった後俺の隣に座った

 

「ダメか?」

 

藍は俺を上目使いで見る、俺はそれから目をそらして紫を見る、紫は扇子で顔を隠して我関せずとなっている

 

「さて虚、これからどうする?」

「……これから、とは?」

「そのままの意味よ、この幻想郷で何をしていきたい?」

 

紫はこてんと首を傾げる

 

「……特に何もないな、嫁さんと会ってそこで暮らしていきたい、それくらいだ」

「そう、今から会いに行くの?」

「いや、流石に心の準備がな……」

「ヘタレ」

 

ジトリとした目を向けた紫はすぐさまその言葉を出し、その言葉が俺の胸に針のように突き刺さるのを幻視した

 

「グフ……いやもう少しオブラートにお願いしたいのですが……」

「なら根性なしとでも言い換えましょうか?」

 

心なしか紫の顔がとてもイイ笑顔をしている気がする

 

「いやまぁ、確かに嫁さん居るのに他の女性に手を出して、嫁さんを怖がっている辺りヘタレだけどさ……」

「複数の女に手を出したのだ責任くらい持つべきとは思わんか?」

 

藍は俺の肩に寄り添うように持たれて上目使いをしてからの追撃

 

「い、いや分かってはいるつもりなのだがな」

「ならしっかりしなさいな」

「……はい」

 

俺はそこで項垂れた

 

「話が脱線したわね、戻しましょう」

「誰のせいなんですかねぇ?」

「何処かのヘタレのせいに決まってますわ」

「……」

「さて虚、貴方にはここで暮らしてもらうつもりよ」

 

紫は広げていた扇子を閉じる

 

「拒否権はなしか」

「あら、いやなの?」

 

紫は目線で藍を指す、目線だけ動かして藍を見ると少し悲しげで心配そうな表情をした藍が目に入る

 

「……厄介になります」

「えぇそれでいいわ」

 

紫はにこりとした笑みを浮かべる

 

「紫様私は夕飯の準備をしてきます」

 

どこか嬉しいという気持ちを隠しきれていないような弾んだ声で藍は言い、部屋を出ていく

 

「自分を好いてくれている女の前で他の女のもとに行きそこで暮らすつもり……全く、酷い男も居たものね?」

「……」

「何か言ったらどうなのかしらヘタレさん?」

「そろそろ攻撃の手を……」

 

緩めてくれませんかね?と言う前に被せられた

 

「嫌ですわ」

「そろそろ泣いてもいいか?」

「その時は私が優しく慰めてあげるわ」

 

ふふふと紫は笑う

話に花が咲いて忘れていた羊羮と茶を見る

羊羮は所謂錦玉羮(きんぎょくかん)というもので透き通った寒天の中にある練り物の鯉が本当に生きているかのように作られ美しい

 

「……藍ってかなり高性能なんだな」

「今更気づいたの?自分が落とした女がどれ程のものなのか」

 

俺と紫はそっとその錦玉羮を口に運び茶をすする

 

「うん、旨い」

「美味しいわね、流石私の式ね」

 

食べ終わり最後にお茶をすする

 

「ご馳走さま」

「美味しかったわ、藍に感謝ね」

「そうだな」

「ただいまでしゅ藍様!紫様!」

 

紫とそんなふうに駄弁っていると少し舌足らずで幼げな声が聞こえる

 

「さっきの声は?」

「橙よ、藍の式」

「式が式を持つのか……」

「それが藍の能力だからおかしくはないわ」

 

紫はそこで茶を飲む

 

「ふふ虚」

「どうした紫?」

 

紫はスキマで移動して俺の隣に座る

 

「本当に貴方は行ってしまう気なのかしら?」

「そのつもり、と言うかまだ蒸し返すのか……」

「貴方に行ってほしくない、それは藍だけではなく私もなのよ」

 

紫は俺にもたれかかる

 

「……何故?」

「貴方は人を、いえ妖怪を惹き付ける何かを持っているのかもしれないわね」

「……話がミエテコナイナー」

 

俺は紫から目をそらす

 

「声に抑揚がないわよ?」

 

紫は俺を押し倒すようにのしかかる

 

「……誘ってるのか?」

「……かもしれないわね?」

 

そう言う紫の頬は赤く染められている

恥ずかしいのなら何故にやる?

とそんな疑問を浮かべながら少し口許がつり上がるのを自分でも感じた俺は、紫の腕を払って倒れる紫を抱き止める

 

「キャ?!こら止めなさい!」

「先に誘ったのは君だろう?」

「えぇそうね、そのとおり……けど貴方は甘いわね」

 

その言葉で少し嫌な予感がして周囲をの気配を感じ取ると、丁度障子の辺りから気配がし、次に幼げな声が聞こえる

 

「あわわ、ら、藍しゃまー!」

 

おそらく先程帰りの声を告げた少女だと思われる者がトタトタと走る音が遠ざかっていく

 

「……嵌められたか」

「ふふ、まだまだ甘いわね」

「そこまでして俺を修羅場に持ち込みたいのか?」

「人目を憚らずいちゃつくのに対しての苛立ちが一割、私の式を無下に扱ってることに対しての苛立ちが二割、私が少し大胆にしても動揺がないないことに対しての苛立ちが七割よ」

 

紫は指を一つ二つと立てていう

 

「ほとんど自分のことなのですがそれは……」

「当たり前よ、私だって女だもの身体にだって自信はあるわ」

 

その言葉で意識から外していた紫の柔らかい身体を意識し始め、紫を抱き止めていた腕を離す

 

「紫離れろ」

「少し名残惜しいわね」

 

そう言って紫は離れる素振りを見せて、顔を俺に近づけ俺の口を塞ぐ、紫は目をつむり俺の後頭部を掴んで自分に固定する

 

「……むぐ?!」

 

状況を理解した俺は紫を離そうとするが離れない

時間はそこまで経っていないと思うが俺としては数十分程の時間が経過したと感じた

紫は顔を更に赤くして言う

 

「……私の最初の接吻、お味は如何かしら?」

「……初めて、にしては手慣れすぎではありま、せんかね?」

 

紫は俺から離れたあとに指を俺に突きつける

 

「私と藍で貴方を落とす、覚悟しなさい」

「……俺はアンタが想う程の男ではないぞ?」

「そんなのは私が決めることよ、今は私が貴方を落とすと言う宣言が大事なのよ」

 

そう言って紫は笑いスキマを開いて逃げるようにスキマの中に隠れた




私はスキマを閉じたのを確認して勢いよく愛用の紫色のソファに飛び込み「あぁー!」と叫んで顔を隠す

流石にいきなり接吻は大胆過ぎたかしら、でもあれは虚も悪いわよね、近くにこんな女がいても反応無しで関係のある藍がいても、嫁さん嫁さんと私達のことは全く眼中にない様子で……

そこで私は大きくため息をつく

「全くなんであんな奴を気にしちゃったのかしらねぇ」

最初はそこまで気になっていた訳でも無かったはず、幻想郷を作るにために仕事の補佐をする式が欲しかった、だから虚と接触した、けど結果は失敗……いえ協力を取り付けれたのだから成功なのかもしれないわね、それから虚に幻想郷のことを話して……
そうか、そうだ彼は私を胡散臭いなんて思わなかったのよ、だから私は彼が気になった
妖怪とは基本自分以外の妖怪は下に見る、だから私は自分の雰囲気を胡散臭くして、警戒を抱かすようにした下に見られないようにするために
結局のところ私が彼を気にしてしまったのは

「嬉しかったのでしょうね、胡散臭い私の言う幻想郷を他の妖怪は全く取り合わなかった、けど彼は真剣に考えて、協力すると言ってくれた」

我ながらなんと軽い女なのだろう、自分の夢を協力すると言われて気になってしまった……

「……全部虚が悪いわ、そうしましょう、その気にさせたあの人が悪いってことにしましょう」

私はそう呟いてスキマを開いて勝手場に繋げて藍の作った晩ごはんの唐揚げを摘まむ

「美味ひ♪」


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