博麗神社の裏手の森を少し抜けた所に建っている小ぢんまりとした家に俺は連れられた
「まぁ入れ」
「お邪魔しますっと」
中は一人で住むのなら充分な広さの家だった
中心には囲炉裏があり奥の角に箪笥がありと生活感が感じられる
「あまりじろじろと見るな」
「悪かったね」
俺は下駄を脱ぎ中心にあった囲炉裏の前に座る
先代も草履を脱いで俺と反対側に座る
「さて虚……」
先代はそこで一呼吸置いた
「一発ぶん殴らせろ」
「……はい?」
完全に虚をつかれた俺は反応できず先代は俺の隣に瞬間移動するように移動する
「よし了承の言質は取った」
先代は俺の胸ぐらを掴み上げ
逆の手を固めている、このままでは俺の鳩尾辺りに甚大なダメージを負うことは確実だろう
「待て待て待てぇぇい!?いやあの本気で少しお待ちください靈夢さん?!」
「なんだ?」
簡素にそして平坦な声で靈夢は言う
「いや、なんだ?じゃありません?!なんでいきなり俺は殴られにゃならんのだ?!」
胸ぐらを掴み上げている腕を握りしめ力を込めるがいっこうに外れる気配がない
「……霊夢と楽しそうに話してたからだ」
すげぇ理不尽な理由を耳にした気がする
「え?いやアンタ仮にも母親だろ?自分の娘と話すくらいいくらでも……」
「長く生きていたらこの口調になってしまっていてな、あの子は私を少し近づきづらい母親だと思っている節があるんだ……」
靈夢は落ち込んだ様子で言う
「いやそんな理不尽な嫉妬で殴られる俺の身にもなれ?!」
「ならば私はどうすればいい!?」
「知るか?!俺に逆ギレすな!?」
なんとか靈夢の拘束を解いた俺は息を整える
「ぜーはー……靈夢……現博麗の巫女はアンタを嫌っちゃいないぞ?」
「そんなことはわかっている……わかっているんだ……」
「アンタと話していたとき、博麗の巫女確かに喜色がにじんでいたぞ?」
俺は先程の事を思い出しながら言う
「あぁそれはわかっているのだ、だがなどこか距離感のようなものを感じるのだ」
「距離感?」
靈夢は頷く
「あぁ、まぁ私自身もわからなくはないんだ、霊夢には母親らしいことはあまりしてやれなかったしな……」
思い詰めるような顔をする靈夢に俺はため息をつく
「ハァ……アンタってなんか不器用なんだな、あの子もたぶんそうなんだろうが……」
「ははは私が不器用か……間違いではないな」
靈夢は自嘲するように笑った
「別にそう思い悩むことでもないだろ、たまにあの子のところに帰って軽く話でもしてればいいだろう?何度も言うがあの子はアンタを嫌っちゃいないんだからな」
「……そう……だな、ありがとう久しぶりにこう話せたから少し楽になった」
「それは良かったな……今から博麗神社に行くか?」
俺がそう言うと靈夢は目線をそらす
「いやそれはまだ少し……」
「まぁまだ準備が出来てないならそれで良いけどよ、近いうちに博麗神社に行くこと、いいな?」
こくりと靈夢は頷く
俺は頭を掻いて続ける
「しっかりしてくれ、アンタの弱々しい姿見せられるとこっちも調子が悪くなる」
「すまないな……」
「今から博麗神社連れてって博麗の巫女の前に置いていくぞ?」
「止め……」
そこで靈夢は言葉を切って口許に指を当てて悩む
「……行くか?」
俺がそう聞くと靈夢は頷きながら言う
「うむ、ここでうだうだしてると絶対私は行かない気がしてしまう」
俺は下駄を靈夢は草履を履いて外に出る
「それじゃ行きますか」
「うむ」
だいたい靈夢の家から博麗神社までは徒歩で一時間程度掛かる
「あぁすまない虚、忘れ物をしたから取りに帰って……」
「待てい」
俺は振り返らず踵を返して家に帰ろうとする靈夢の腕を掴む
「な、なんだ?」
「忘れ物をするほど身につける物ないだろう?」
「陰陽針とか陰陽玉とかをだな……」
「なぜ娘に会いに行くだけなのに武器がいる、それにお前は道具なぞなくても自衛できるし、俺がいるから問題ない」
俺はそう反論して続ける
「いい加減腹をくくれ、ヘタレ」
「……自分の嫁を怖がり、会いに行かないお前には言われたくない」
俺は口から血を吐き出す光景を幻視する
「ぐふ……だ、だがアンタも俺と同じ穴の狢のはずだ」
「あぁそうだな、だが私は今その娘のもとへと向かっているそれが私とお前との違いだ!」
靈夢は自分の顔の斜め前に手を持ってきて人差し指を鼻筋に合わせて顔を隠し俺に指を向けるようなポーズを取った
「どこでそのポーズ覚えたお前は……」
「む?前に
「あれ幻想入りしてたのか……いや紫が適当な所から持ってきたって考えるのが正解なのか……」
そうこう話しているうちに博麗神社が見えてくる
先程よりキレのある踵の返し方で反対方向へと方向転換する靈夢の腕を掴む
「待て待てどこに行く」
「は、離してくれ!」
女にしてはかなり強い力でその場から立ち去ろうとするがやはり人間なのか俺は一歩たりともそこから動かない
「行くって決めたんだろうが」
「霊夢に嫌われたらどうしよう、お母さんなんて嫌い!とか言われたら私は死ねる……」
「大丈夫だから博麗の巫女はたぶんそんなこと言わないから」
頭を抱えて闇落ちしそうな靈夢をなだめる
「お前に霊夢の何がわかる?!はっ!さてはお前私の霊夢に何かしたのか!?」
「この親バカめんどくさいぞ?!まぁ捕まえたからいい、ほら行くぞ」
俺に詰め寄ってきた靈夢の腕を掴み博麗神社裏手にたどり着く