東方暇潰記   作:黒と白の人

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第77記 東風谷の家

まだ少し頭がボーッとする

隣には諏訪子と神奈子が互いに寝息をたてて眠っている

俺は二人を起こさないように起き上がり障子を開けて外に出る、まだ空が少し暗い

 

先に少し水浴びしてくるか

 

俺はそう思い風呂場へと足を運ぶ

 

 

軽くお湯を浴びて風呂から上がり朝食の準備をする

起きた早苗と朝食を食べて準備をする

 

「さて早苗ちゃん、行くかい?」

 

俺は後ろにいる早苗に声を掛ける

 

「はい!」

 

早苗は何時もの巫女服を着て返事をする

 

「早苗ちゃん、俺は基本姿を消して君についていくよ」

「そうですよね……私の家からしたら虚さんは部外者ですもんね……」

「認識出来ないようにするだけ、俺はちゃんと早苗ちゃんの近くにいるよ」

 

俺は笑って返す

 

「ありがとうございます!」

 

早苗も笑い返す

暫く歩き早苗につれられ東風谷の家の門の前に到着する

 

これはまた大きな……

 

家と言うよりはそこは武家屋敷のような場所だった

少し屋敷を観察していると早苗が先に入って行くのを見て俺は後を追う

 

おっと……やっぱり結界張られてるか……

 

丁度門を真ん中で分けた場所に結界が張られている

妖怪が入ってきても滅せられる自信があるのかこの結界は妖力に反応して術者に報せる効果があるのがわかる

俺は結界の一部に穴を開けてそこを通り結界を直す

 

……特に誰か来る気配もなし、気づかれなかったみたいだな

 

早苗がもう屋敷の中に入りかけていたので俺も急いで後を追う

 

長い廊下、隣を見れば大きな庭園が見える

庭園は大きな池の中には綺麗な模様の鯉が放されており悠々と泳いでいるその池を中心として灯篭や木などが配置され心安らぐ雰囲気がある

暫くその庭園を眺めながら歩くと大きな障子を開けて中に入る

 

「東風谷早苗、ただいま戻りました」

 

早苗が中に入ると十数人の人間が早苗を見る、一番奥の先代風祝以外好意的な視線はない

 

「お帰り、早苗」

「ただいまお祖母ちゃん」

 

早苗は空いていた座布団の上に腰を下ろす

 

「さて、全員揃ったみたいだね次の当主は誰なのか決めるよ」

「お義母さん、結局どうします?ずっと貴女が当主をしていますがもう余命を宣告されましたよ」

「わかってるよ、だから顔もみたくないアンタ等を呼んだんじゃないか」

 

話し掛けたスーツ姿の男を侮蔑に満ちた目で見て先代風祝は言う

 

「これは手厳しい」

「祖母ちゃん、東風谷の長男は俺だ、だから俺が当主になるべきなんじゃないか?」

 

スポーツ青年のような男が言う

 

「何いってんのよ、私に決まってるでしょお祖母ちゃん!」

 

今度は少し化粧の濃い女が言う

 

「黙りな!アンタ等に継がせる?笑わせるんじゃないよ」

 

先代風祝は鼻で笑う

 

「お母さん、まさか早苗に後を継がせるなんて言わないでよ?」

 

先程の女との血縁だろうか、化粧の濃い齢40程の女が言う

 

「おや?何が悪いんだい?私は少なくとも早苗が一番当主として適任だと思っているがねぇ?」

「ふざけないで!早苗はまだ中学生よ!当主として適任なんてふざているとしか思えないわ!!」

 

その女に便乗するように周りからヤジが飛ぶ

 

「お、お祖母ちゃん!」

 

先程までの言い争いが嘘のように止まり全員の視線が早苗に集まる

 

「う、あ……」

 

俺は早苗の頭を撫でる

早苗はちらりと俺がいる後ろを見て一つ深呼吸をする

 

「わ、私は東風谷の家を継ぐ気はありません!」

「……」

 

先代風祝は沈黙で次の言葉を諭す

 

「そして私はこの東風谷の家から出ていきます!けど私が今住んでいる守矢神社、あそこを私に下さい!」

「お母さん聞いたわね?早苗が継ぐ気はないって言っている以上早苗に継承権はないはずよね?」

「あぁそうだねぇ」

「それじゃ誰に継がせるのよ?」

 

先代風祝はため息をついて言う

 

「早苗、アンタを東風谷家から勘当する、そして明日正式に当主を告げる解散しな、早苗は私の部屋に来な、手切れ金位はやる」

「は、はい!」

 

早苗は先代風祝の後を追う

 

長い廊下を渡りもう一つの家とを繋ぐ渡り廊下を渡り一つの障子の前で止まりその障子を開けて先代風祝は奥の座椅子に座る

 

「まぁ、お座り」

「はい」

 

早苗が正座をすると「くっふふ…あっはっは!」と急に先代風祝は笑いだす

 

「お、お祖母ちゃん?」

「やったじゃないか早苗!まさかアンタが拒否の言葉が出てさらに出ていくなんて言葉がでるなんて思いもよらなかったよ!」

「えっ……と?」

 

早苗は困惑するように目を白黒させている

 

「なんだい?怒られるとでも思ったのかい?」

「えっとまぁ……」

「早苗は昔っから消極的な子だったからねぇ、勘当の件はすまなかったね、この家とアンタの縁を切らせるにはこのくらいしないといけなかったんだよ」

 

先代風祝は顔に影を落とす

 

「いえ、私には諏訪子様と神奈子様がいますし……気にしてません」

「アンタの親も親だね、勘当するって言っても全く止める気も無ければ実の娘に投げ掛ける言葉もないのかい」

 

先代風祝は忌々しそうに言いため息をつく

そのあと後ろの背の低い机の上にある一枚の紙と小さな冊子……通帳と一緒に差し出す

 

「……ほら、これが守矢神社の所有書だ、あの馬鹿共はたった一つの神社なんて見向きもしないから邪魔はないはずだよ、そんなことより土地や株ばかりに目がいっているはずだからね、そしてこっちが通帳、私が貯めた物だ中に数億入ってる、学費や生活費にでも充てなさい」

「は、はい……」

 

早苗は差し出された通帳と紙を受け取る

 

「黄昏虚さんそこにいるのでしょう?」

 

早苗は驚愕し目を見開く

俺は認識を改変し見えなくしていたことを解除する

 

「気づかれてましたか」

「こんな老いぼれでも先代風祝なものでね、結界は私が張っていますしねぇ」

 

先代風祝は微笑む

 

「だいぶ早くに気づかれてましたか、俺もまだまだですね」

「確信したのは早苗がちらりと後ろを見たときかねぇ」

「御免なさいお祖母ちゃん、けど虚さんは悪い妖怪じゃないんです!」

「わかってるよ諏訪子様と神奈子様の夫らしいじゃないかそんな人が邪気なんて持って貰っちゃ困るよ……それにしても……」

 

先代風祝は「くっふふ」と何か含むように笑い、続ける

 

「だいぶ気に入られてるようじゃないか黄昏虚さん?」

「……何か邪推をしていないか東風谷優美子殿?」

 

俺は目を細めて見据える

 

「こんないたいけな老婆を睨むんじゃないよ」

 

空を手で叩く動作をしながらにやにやと笑う

 

「お祖母ちゃんまで!私は別にそんなつもりはありません!」

「なんだ諏訪子様と神奈子様にも言われてたのかい、黄昏虚さん早苗をよろしくお願いしますよ」

 

先代風祝はころころと笑いながら言う

 

「だからお祖母ちゃんそんなつもりはないですよ!」

 

 

早苗と先代風祝は恐らく最後となるであろう談笑をする

 

 

「久しぶりに孫ともこんなに話せたし悔いはもうないかね……」

「こんなに元気だったら死にはしないですよ!」

 

先代風祝は首を横に振る

 

「いんや、私の身体は私自身がよくわかってるよ」

「ねぇ虚さんどうにかならないんですか……?」

 

俺も首を横に振る

 

「外傷や傷なんかで死にそうなら話は別だが寿命となると俺にはどうしようもない、いや一つ方法があるが東風谷優美子さん、貴女はそれを望まないでしょう?」

「娘や孫より後に死ぬなんて御免だね」

「……」

 

早苗は俯き何も言わない

 

「さてそれじゃそろそろお帰り」

「バイバイお祖母ちゃん!」

 

早苗は少し目に涙を溜めて大きく手を振る

 

「あぁそれじゃあね早苗」

 

先代風祝はそれに答えるように手を振る

そして俺と早苗は帰路につく


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