東方暇潰記   作:黒と白の人

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第72記 賭け

太陽が真上を通りすぎて少し経った頃

二人の重みを感じながら暖かい日差しで俺も眠気を誘われウトウトしていると膝の上の少女が少し動く感触がした

 

「ん……むぅ……う…つろ?」

「起きたか、諏訪子」

 

諏訪子は俺の膝の上からむくりと起き上がる

 

「…今、どのくらい?」

「……だいたい3時位かな?」

 

俺は空を見上げて太陽の位置からおおよその今の時間を答える

 

「そっか……神奈子?」

 

諏訪子は眠そうに目を擦りながら俺の肩に寄りかかっている神奈子に気づいた

 

「神奈子も一緒に眠ってたよ」

「……本当に虚は罪な男だね、純情な神奈子までたぶらかしてさ」

「そんでもって本人に自覚症状がないのがまた……な?」

 

俺は顔を俯かせ諏訪子から目を逸らす

 

「なんだ、たぶかしてるって自覚はあるんだ」

「いやないよ、気がついたら惚れられてた」

「うん有罪だね」

 

諏訪子が俺の頭を叩く

 

「痛い、そして不可抗力だと言いたい」

 

俺は叩かれた所を擦りながらため息をつく

 

「諦めな、それに不可抗力で女たぶらかすなんてふざけてるの?」

「諦めたらそこで試合終了ですよって先生が言ってた」

 

確か早苗ちゃんの持ってたバスケット漫画に載っていた言葉を引用した

 

「なにと試合してるのさ、それに嫁がいるのに私含めて5人に手を出してんだから既にゲームは終わってるんだよ」

 

俺はため息を吐いて神奈子が落ちないように注意しながら項垂れた

 

「どうしてこうなった」

「いい加減開き直って、諏訪子だけ愛してるって言えばいいんじゃないかな?」

 

寄り添うように諏訪子は俺にもたれ掛かる

 

「なんでだよ、それはお前の願望だろうが」

「やっぱり愛されるなら、私だけって思うのが普通だと思うよ、それとも私のことは嫌い?」

「……嫌いではないとだけ答える」

「そっか……」

 

諏訪子はそれだけ返した

少し嬉しそうだが同時に悲しそうだとも感じる声だった

 

「……暇だね」

「俺はこんなほのぼのとした日常が好きだがなぁ」

「あっそうだ、あれやろう!」

 

諏訪子はそう言ってどこかへと走り去っていく

少しして諏訪子は大きな木の台……碁盤と二つの箱を持ってきた

俺は諏訪子から片方の箱を受け取り箱を開ける、中には歩、角、飛車、金将、銀将などの駒が入っていた

 

「将棋か」

「そうだよ、よく神奈子としててね勝率は四分くらいかな、どうだい虚は?」

「出来ないわけではない、その程度だな」

「ならやろうか」

 

諏訪子は駒を並べ始める

俺も同じく箱から駒を取りだし並べる

 

「先行は?」

「虚が決めていいよ」

「なら俺が貰おうか」

「わかった」

 

お互いに駒を取り取られ中盤頃、戦局を見る限り俺が有利……のはず、諏訪子の手番に移る

 

「ねぇ虚」

 

諏訪子は盤を見ながら言う

 

「なんだ?」

「何か賭けない?」

「賭け?」

「うん」

 

諏訪子はそう言いながらコクリと頷いた

 

「何を賭ける気だ?」

「んー……」

 

諏訪子は目をつむり考え、そして口を開く

 

「……ここは定番で負けた方が勝った方の言うことを聞くでいいんじゃない?」

 

この手のゲームには定番のような要求をしてきたな、何を賭ける気だ?

 

「ふむ……まぁいいだろう」

「よし決まりだね!あ、私の要求は虚からのキスね」

「……それはお前がよくしてくるだろうが」

 

諏訪子はこう返されるのを予想していたかのように、首を横に振り答える

 

「違う違う、私からじゃなくて虚から私にキスをするってことだよ」

「……わかった」

 

ニシシと諏訪子は子供っぽく笑う

 

「よし成立だね」

 

諏訪子は次の一手を指す

 

 

 

 

 

「これで詰みだ諏訪子」

 

俺は角を動かし王手を掛ける

 

「……うん、私の負けだね、要求はなに?」

 

諏訪子は口許に手を当てて考えるように盤面を眺め一つ頷いた

 

要求か……特に決めてはいないのだがな……

 

俺がそう考えていると諏訪子は口を開く

 

「…………例えばさ……例えば……私と、別れる、とかでもいいん……だよ?」

 

諏訪子は声を震わせ涙を目にためながらながらそう言った

 

「は?」

「だから、さ!私と別れるって……言う選択肢も、あるんだ…よ?」

 

俺はクスリと笑う

確かに何でも言うことを聞くという性質上そんな選択肢も取れる、だがそんなことは考えもしなかった

 

「……諏訪子、要求が決まったよ」

「な、何?」

 

俺は将棋盤を横に退けて諏訪子の手を引き抱きすくめる

 

「わわ!ってえ?え?」

 

諏訪子は自分が抱きすくめられているのに気がついたようで困惑している、そして俺はその困惑したままの諏訪子の唇を奪う

 

「ん?!」

 

諏訪子は目を白黒させて驚いている

しばらくして唇を離す

 

「な、な、な何するんだよ!」

「嫁さんに聞かれたら殺されかねないが、俺は諏訪子、お前が好きだ」

 

俺は諏訪子の耳元に口を寄せて囁くように言う

諏訪子は顔を赤く染める

 

「……が、じゃなくて、も、じゃない?」

 

諏訪子は俺をジト目で見る

 

「……否定はしない」

「そこは否定してよ、格好つかないなぁもう」

 

諏訪子は涙を脱ぐって笑う

 

「あははスマン……」

「いいや、私は虚の正直なとこ結構好きだよ……あのときも虚私を抱き締めてたよね」

「あのとき?」

「……私との初夜のときだよ」

 

諏訪子は頬を赤く染めて言う

 

「あぁー、あのときか……」

「……虚もう少し強く」

 

諏訪子は帽子を脱ぎ顔の前に抱いて言う

 

「何が?」

「腕、もう少し強く締めて」

 

俺は言われるままに諏訪子を抱き締めている腕に力を込める

 

「こうか?」

「うん」

 

そう言いながら諏訪子はうなずく

俺は諏訪子の耳元に口を寄せ諏訪子以外誰も聞こえない程の小さな声で呟くように言う

 

「愛してる」

「っ!!」

 

帽子の隙間から覗ける諏訪子の顔は驚愕の表情をしている

そこにまるでタイミングを見計らったかのように早苗からの呼び出しがかかる

俺は神奈子を隣の柱にもたれさせて逃げるようにその場から立ち去る




虚が行ったの見計らい私はもたれ掛かっていた木の柱から体を起こして目を開ける

「……あーうー……」

私の友人はずっと唸り続けている
私は友人の頭を叩くことで正気に戻す

「痛?!って神奈子……」
「戻ってきたかい?」
「うん……うん」

まだ少し夢見心地のようだ

「そんなに嬉しかったのかい?」
「そりゃね、愛してるだよ、虚が今まで絶対に言ってくれなかった愛を囁いてくれたんだよ、嬉しくないはずがないじゃないかぁ……」

友人は思い出したかのように帽子の中に顔をうずめる

「あんなわざとらしい負けかたしといてさ」
「……やっぱり起きてたか」

中盤辺りに私は既に起きていた
友人の指し手を見ていたが最善手を外している打ち方をしていた、これが一手や二手ならばただのミスと言えるが五手、六手となると疑うしかないだろう

「まぁね」
「あの時は別れた方が虚にもいいと思ってたのに……あんな風にされたらもう絶対私戻れそうにないよ……」

何故だろうか?

「そうかい、私はまだ少し寝るかね」
「寝過ぎじゃない?」
「うるさいよ」

私はもう一度この友人の頭を叩く、不自然に先程よりも力が籠ってしまった

何故こんなに胸が痛い?
別に何か攻撃を受けたわけじゃない、なのに何故?
虚が友人を抱き締めてからだ、この痛みは……
もし私が虚を愛しているのなら……







やっぱりこれは嫉妬という感情なのだろうか?

これは……アイツに責任でも取ってもらわないと割に合いそうにないね
私は自室に戻ってまた布団を被る

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