目を開くと守矢神社の鳥居の下に俺は立っていた
俺は歩みを進め守矢神社の中に入っていく
寝室に入ると諏訪子と神奈子はまだ寝ていた
「……よく寝てるな」
俺は苦笑いしながら神奈子と諏訪子の頭をそっと撫でた
二人とも気持ちの良さそうな顔で眠っている
起こそうと思ったが辞めようか、まだ寝かしといてやろう……
俺は音を立てないように立ち上がり寝室を出ていく
「んー何しようか」
俺は下駄を履きカランコロンと音を鳴らしながら歩く
境内を見回すとある程度掃除をしていると思われるが木の葉ちらほらと落ちているのが見える
「掃除でもしますか」
パンと拍手を一回打つ
手を離せばそこには元から持っていたが如く俺の手の中に竹箒が収まってた
竹箒で落ち葉を掃き集めていく
それなりの落ち葉が集まった頃
誰かが石階段を上る音が聞こえる
時間的には早苗ではなさそうだ
「貴方は何方?」
「ん?」
神社に来たのは齢70程の柔和そうな笑みを浮かべている老婆だった
眼鏡を掛けて薄紫色の和服を着て、右手には杖を持っている
「私は黄昏虚、貴女は?」
「私は
どこか輝夜のときの嫗を思い出すようなほのぼのとした声の老婆だ
あっちの老婆は不老か何かなのだろうが……
東風谷、と言うことは早苗ちゃんの親族だろうか?
「先日早苗ちゃんに拾われて居候というやつです、東風谷と言うとやはり……」
「はい、私が早苗の祖母になります、あの子はどうですか?三人暮らしでいますし大丈夫だと思っているのですけど……」
東風谷優美子と名乗った老婆は心配そうな声でそう言った
「えぇ、私が来る前の話を少し聞きましたがとても楽しそうにしていますよ」
待て、何かが引っ掛かった、三人?今この老婆は三人と言ったか?
「そうですか、それは良かった」
老婆は嬉しそうに頷く
「今三人と仰いましたか?」
「えぇ、洩矢様と八坂様にお任せしていますが……」
驚いたこの老婆、神奈子と諏訪子が見えるらしい
「中へどうですか?二人ともいますよ」
俺は老婆を中へと勧める
しかし老婆は少し悲しそうな顔をして首を横に振った
「いえ、私にはもう…お二人は見えませんから……」
「見えない?」
「はい、私は先代の風祝です、風祝を早苗に譲り私はただの人となってしまいました」
「早苗の先代と言うことは早苗のご両親は?」
俺が早苗の両親について聞くと老婆は少し機嫌が悪そうに言う
「あの者達は俗物過ぎる、やれ遺産がどうした、土地がどうした、利権がどうしたと騒いでおりまして、分家の者達も金のことばかり、ただ唯一あの者達の良いことは早苗を産んだことでしょう」
「そこまで言いますか……」
「ええ、あの者達と早苗を近づかせるのは危険過ぎる、だから私は早苗に次代の風祝とし、ここに住まわせました……貴方の話でやっと安心できました、早苗が八坂様と守矢様と上手くいっているかどうかが一番の心残りでしたので……黄昏虚さん」
老婆は改めて言うように俺の名前を呼ぶ
「なんですか?」
「早苗をよろしくお願いします」
「……それは神奈子と諏訪子に言ってやってください、私もここに長くいられる訳ではありません」
「やはり貴方のような方には住みづらいですか?」
先代風祝ならば諏訪子と神奈子から俺のことは聞いているのだろう
「妖怪は迷信となってしまいましたからね」
「そうですか……」
老婆は賽銭箱の前に立ち杖を柱に立て掛け硬貨を入れる二回礼、二回拍手、老婆は先代風祝というのもあってかその動きはとても洗練されていた、そして最後に一礼
「ふふふ、まだ寝ていらっしゃいますね」
「分かるので?」
「感覚的なものですけどね、何時もは起きていらっしゃるのに今日のようなことは初めてです」
老婆は杖を取る
「私は帰りますね、黄昏虚さん早苗をよろしくお願いします」
俺は頭をかく
「私が居なくなるまでなら」
「それで構いません……よろしくお願いします」
老婆はそう言って去っていく