東方暇潰記   作:黒と白の人

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第67記 夜の守矢神社

守矢諏訪子

 

早苗を自室に返して神奈子と話す

 

「虚遅いね」

 

虚が片付けをしに台所に行って約一時間が経った

 

「そうだねぇ、神社の中は少し変わったとは言えこんなに遅くなるのは考えずらいねぇ」

 

私は立ち上がり障子を開ける

 

「虚のとこ行くのかい?」

「うん、神奈子もくる?」

「そうかい、なら私もついて行こうかね」

 

少し考えた後に神奈子はついて来ることを選んだ

私達は長い廊下を歩いて行く

 

「あっ居た……」

 

私は庭で刀を振っている虚を見つけた

 

「何やってんだい?」

 

私と神奈子は小声で話す

 

「鍛練?」

「あんな刀どっから出したんだい?」

 

そうだ、私が虚を連れてきた時虚は刀なんか帯刀していなかった、それよりも今の時代に刀なんて帯刀していたら面倒事しか起こらない

 

「ん?諏訪子と神奈子か?」

 

隠れていた私達に気付き虚は私達の方へと向き直り私達の名を呼んだ

 

「遅かったから何してるのかなってね」

「一日やらないと一気に腕が鈍るからな、休めないんだよ」

 

笑いながらそう言って虚は刀を鞘に戻す

 

「それよりそれは、どっから出したんだい?」

「あー……」

 

虚は目を逸らした

 

「まぁ言いたくないなら構わないんだけどね」

「いやうん、もう隠すことじゃないか……」

 

そう言って虚は手を叩く

 

「よっと」

 

いつの間にか虚の手にあのときの短刀が握られていた

 

「どこからだしたのさ?!」

 

あり得ない虚はただ手を叩いただけ、なにかを取り出すような仕草はしなかった

 

「俺の能力は『嘘と真実を操る程度の能力』これだけじゃないんだよ」

「能力を二つ持っているってことかい?」

「あぁ初期の能力は二つだ」

 

神奈子の質問に虚は頷きながら答える

 

「待ちな、初期の能力だって?」

 

二つという場所ではなく初期という言葉に神奈子は反応する

 

「あぁ俺の本来の能力は『概念を付与する程度の能力』そしてさっきの『知っている物を創造する能力』」

「待ってよ虚、なら私に話してくれた『嘘と真実を操る程度の能力』はいったい何?」

 

虚が嘘を吐いた感じはしない、つまり力を複数持っている事は事実……

 

「俺は能力をこう解釈した、能力はその個人が持つ概念でないかと」

「だから能力と概念がイコールで結ばれていたら能力を自分に付与できる、と言うわけかい?」

「その通り」

「本当、アンタはなんかおかしいよ」

 

神奈子は少し呆れたような声をだす

 

「あはは……自覚してる」

 

虚は少し困ったような顔をして笑う

 

「鍛練は終わったの?」

「ん?あぁ」

 

虚はコクリと頷いてそう言った

 

「そう、なら戻ろう?」

「いや、俺はここを出るよ」

 

私が差し出した手を虚は顔を逸らして取らずにそう言った

 

「……何でさ?」

「俺が妖怪だから」

「それについては神奈子が言ったよね?アンタを見抜く能力持ちなんていないってさ」

 

私は冷静にそう答えた

 

「…陰陽師がいるだろ?」

「理由になってないねぇ虚、妖力を隠す事に関しちゃアンタはとても巧い、人間が見抜けるとは思えないほどにねぇ」

 

すかさず神奈子がそう反論した

 

「……」

「ねぇ虚何を隠してるのさ?」

「……早苗がいじめを受けているのは知っているか?」

「何処のどいつだい」

 

神奈子が低い声で言う

 

「わからない、ただ陰陽師を育成している所がありそこの門下生であるということだけだな」

「それと虚、何が関係してるのさ?」

「諏訪子……っ!?」

 

神奈子は辺りから白い蛇が顔を出し始めているのに気がついたようだ

 

「黙ってな神奈子、私だってソレらを祟り殺したいんだよ?」

 

そこらから顔を出し始めたミシャクジを抑える

 

「その現場に遭遇してな、その場で妖力を使ってしまったんだ」

「それで?」

「その時そいつらを見逃した、俺の顔は割れているだろう」

「だからこっちに被害が来ないようにここを放れると、つまりそう言うわけだね?」

「…そうだ」

 

私は虚の目の前まで歩き虚の袖を掴み、足をかけて投げる

 

「っ!?」

 

虚は受身をとる

私は倒れた虚の上に乗り胸ぐらを掴む

 

「ふざけんじゃないよ!私は虚のそう言うところが嫌いだよ!なんでもかんでも自分独りで背負い込もうとするところがね!なんで頼ってくれないんだい!私は虚に頼られるほどの信用すらないのか!」

「じゃあどうするんだ!妖怪と一緒にいる神に信仰などないだろうが!」

「ハァ……虚、アンタは思い違いをしてるよ」

 

神奈子はため息を吐きユックリと言う

 

「……俺がどんな思い違いをしているんだ?」

「じゃあ聞くよ、アンタはどうやって自分が妖怪だって証明するんだい?」

 

神奈子は虚に指を指して言う

 

「あ?そんなもの陰陽師が広めてし…ま…えば……待てよ」

 

虚は少し思案する顔になる

 

「気づいたかい?」

「妖怪なんてもう迷信に成りきっている、だから…」

「そう、たとえ陰陽師が広めようとも陰陽師が奇人変人扱いされる今はそう言う時代なんだよ」

 

先程までの熱は冷めてしまい虚は冷静になったようだった

 

「……しかし早苗が陰陽師の標的にされるのは間違いないだろう、やはり……」

「やめてよ虚、また繰り返すの?」

 

私は虚にそう言って続ける

 

「そもそも虚はね、早苗を甘く見すぎなんだよ、早苗は私達が認めた風祝で半神なんだよ?それに術だって神奈子が仕込んだし、ミシャクジだって早苗を気に入ってる」

「それにねぇ早苗には神が二柱ついているんだよ?」

 

虚は頭を掻いた

 

「すまなかった」

「うん、わかればよし」

 

私はひとつ頷いて神奈子を見ると神奈子も同じく頷き返した

 

「さて社に戻ろうかねぇ?」

「そうだね」

「早苗をいじめてた奴はどうするかねぇ」

「ミシャクジを付けることにするよやったら祟ってやる」

 

私は少し笑いながらそう言った

 

「フフフ久しぶりに虚と寝れるね」

 

虚の腕に抱きつきながら言う

 

「……」

 

神奈子は無言で私とは反対側の虚の腕を掴む

 

私達は社のなかに入っていく

 

 

 

 

 

守矢諏訪子END

 


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