東方暇潰記   作:黒と白の人

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第51記 喧嘩の終わり

萃香と勇儀との喧嘩を終えた

今は洞窟、ではなくその奥にある豪華な屋敷の中で宴会をしていた、ここは鬼達の本当の居住場所であり、あの洞窟は客人を見定めそして少しもてなすための場所であるらしい、ここに鬼以外を通したのはアンタが初だと萃香は言っていた

 

少し後ろを振り返ると何畳と数えるのも億劫になるほどの広く豪勢な部屋、そこでは人間とほぼ同じ姿であり違いは様々な色の角が生えている位の鬼達が飲み比べをしたり花札などの遊戯をやっていたり、取っ組み合っていたりと楽しそうに騒いでいる

 

それを見て縁側に座る俺は空を眺める

 

「よう!」

「ん?」

 

俺に声を片手を挙げて話掛けたのは頭に一本の角を生やした青い髪の男だった

 

「あれ?俺のことわからない?」

「いや誰だよ?」

「赤いやつ止めた青い鬼だよ」

 

ケハハと軽そうに笑って男は自身をあの時の門番を止めた青鬼だと言った

 

「あぁ」

「所謂幻術ってやつだよ、たまに人間が俺たちを退治するとか言ってここに乗り込んでくることがあんだよ、だからあんな見た目をしておいて脅かすのさ、人間の方で伝わってる俺等の姿はそれだよ、納得したか?」

 

その説明に対して俺は首を縦に振った

青鬼の男は目線を俺の膝に移し俺の膝元で寝ている勇儀が目に入ったのか驚く

 

「ちょっ?!おま何してる?!」

 

青鬼の男は急に小声になった

 

「看病的なものだよ」

「そ、そうか、姐さん起こしちゃ悪いな、お、俺は向こうに行ってるぜ、じゃあな」

 

青鬼と言った鬼はそそくさと酒をのんでいる集団の中に戻って行った

 

「主役がこんなところで何やってんのさ?」

 

俺に声を掛けたのは片手に瓢箪を持ちもう片方の手には盃を持つ茶色の髪の幼女、萃香だった

 

「あぁ勇儀が気になってな防御も取れないし空中でやったからヤバいかなとか思って看病してる」

「大丈夫だよそのくらいでへこたれる程勇儀は柔じゃないよ……虚も一杯どうだい?」

 

萃香は盃を俺に渡し、それにおそらく酒が入っている瓢箪の中身をトクトクと注いだ

 

「……それじゃ少し貰うか」

 

俺は萃香から盃を受け取りそれを飲み干した

 

「キツ!?」

 

まず辛い、後味もかなり尾を引いて辛い

しかし旨い、舌触りなども悪くなく、軽く雑味も感じるがさして気にはならなかった

 

流石鬼だな、酒と道楽と喧嘩には絶対手を抜かない種族

 

「そりゃ私でもキツい酒持ってきたもん」

「……萃香怒ってる?」

「別にー喧嘩で手加減されたことなんか怒ってないよ」

 

萃香は拗ねたようにそっぽを向いて言った

 

「悪かったって実際術式解禁するとは思ってなかったし、勇儀に至っては能力まで使うとは思ってなかった」

 

俺は萃香に盃を返した

萃香は盃を受け取って瓢箪の中身を並々と注いで一気に飲み干した、この程度では酔いは酷くならないらしく平然と話を続ける

 

「へぇ能力使ったんだ、どんな能力なの?」

「『嘘と真実を操る程度の能力』それが使った能力の名前だよ」

 

萃香は目を瞑って小首を傾げる

 

「勇儀との喧嘩で言うなら俺が勇儀を伸す前に勇儀の拳片手で受け止めてたろ?」

「あぁ、あの時か」

「俺はその時、能力で勇儀の拳に乗った衝撃と力を(無かったこと)にしたんだよ」

「……ズルいねその能力、後勇儀いい加減起きたら?」

 

そう言って萃香はジロリと勇儀に目線を移した

 

「……なんだい、気づいてたのかい?」

「何年アンタと一緒に居ると思ってるのさ」

 

勇儀は目を開け頭を起こす

 

「全くアンタは強いね、アタシが負けるなんて思いもよらなかったよ」

「話を逸らさない……で?虚独り占めしての膝枕は気持ちよかった?」

「ななな、何をいってるんだい?!」

「動揺隠しきれてないし、惚の字があってもおかしくはないよ…私もそうだし」

「なんか、惚の字とか聞こえるんですけど俺お前らに勝っただけなんだが…」

「そこだよ、私達に勝ったからだよ」

 

萃香は俺を指差して言った

 

「勝った…から?」

「鬼ってのはね元々惚れっぽい性格が多いんだよ」

 

萃香はそう言って盃の酒を仰ぐように飲む

 

「惚れっぽいなら、俺じゃなくても……」

 

萃香は盃に酒を注ぎながら言う

 

「そこでさっきの勝負が関係する、私達も誰彼構わずに惚れる訳じゃない、最低でも自分より強いこと、これが条件、後は内面だったり外見だったりさ」

「何度も言うが、俺じゃなくてもいいんじゃないか?」

「私達はね、鬼の四天王って言われてるそして四天王の選出方法は強いことなんだよ、あとは分かるね?」

「自分達より強い奴等がいない……と」

「そう言うことだね、さて虚?」

 

萃香が俺にしなだれかかる

 

「勇儀が嫌なら私でもいいんだよ?」

「待ちなよ萃香、虚返事を聞かせて欲しい」

 

俺は頭を下げて言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊吹萃香

 

「すまない」

 

虚はそう言った

 

「理由を聞かせてもらえるかい?」

 

勇儀は少し言葉を震えさせながら言った

 

「俺は妻帯者だ」

「そう、かい……」

 

気落ちしたように勇儀はそう言ってフラフラと立ち上がって外に出ていった

断った理由はとても単純明快な答え

自分にはもう愛した人がいたと言うものだった

 

「悪いね虚私は勇儀のとこ行ってくる」

「……すまないな」

 

虚はバツが悪そうに目を逸らして謝った

 

 

 

私は虚を残して勇儀の後を追う

 

 

 

私は月を眺めながめている勇儀を見つけた

 

「フラれちゃったね」

 

私は勇儀の隣に腰を下ろしてそう言った

 

「……そうだねぇ」

「ねぇ勇儀、虚のこと好き?」

 

私は月を眺めている勇儀の横顔を見る

 

「あぁ、じゃないとあんなこと言わないよ萃香もなんだろ?」

「うん、そうだね私は虚のことが好きだよ、たとえ既に妻帯してても……ね」

「萃香……未練がましいねぇ、アタシも」

 

勇儀はクスクスと笑って

私は勇儀の笑いに釣られてケラケラと笑う

 

「虚が特別なんだよ、きっとね……ねぇ勇儀」

「なんだい?」

「虚のことまだ好き?」

「簡単に諦められると思ってたんだけどねぇ」

「はっきり言いなよ」

 

勇儀は頭を掻きながら投げ遣りに言う

 

「あぁそうだよ、私は黄昏虚に恋してるよ!断られても諦められないくらいにはね!これでいいかい!」

「それが聞けたら良いよ、勇儀はそうでなくっちゃ」

「……ありがとね萃香」

「何年一緒だと思ってんのさ」

「そうだね、アンタとはガキの頃からの付き合いだったね」

「そうさ」

 

私は何時も持ち歩いている伊吹瓢の蓋を開けて仰ぐように飲む

 

「アタシも一杯もらえるかい?」

「いいよ」

 

私は伊吹瓢を勇儀に渡す

勇儀は一滴残さず飲み干したようだった

 

「……ぷは、ったくつくづくアタシは異端だねぇ」

「またなんでさ?」

「アタシの中にそんなこと構わずに押し倒せって言ってる奴が居るんだよ」

 

なんだアンタも同じなんだね

 

「アハハ、それは確かに異端かもしれない、けどそれなら私も異端だよ」

「ねぇ萃香、酒ってさ怖い飲み物だよねぇ?」

 

このとき私は勇儀が何を言おうとしているのか察した

 

「そうだね、お酒って怖いよね」

 

私と勇儀は立ち上がり虚が待つ家に帰ることにした

 

伊吹萃香END


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