東方暇潰記   作:黒と白の人

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第49記 酒と喧嘩は鬼の華

萃香と勇儀に連れてこられた場所は木、いや丸太で作られた高い柵で囲まれた闘技場のような場所で、どこで聞き付けたのか周囲には野次馬のように鬼が集まってきて闘技場を囲んでいた

 

歓声のように野次馬の声が耳を澄ますまでもなく聞こえてくる

 

「俺は伊吹の姐さんだ!」

「おい聞いたか?あの兄ちゃん門番のとこの赤鬼軽く倒したそうだぜ?」

「ほぅ!おもしれぇな!俺は兄ちゃんに賭ける!」

「ならアタシは星熊姐さんだ!」

「あっ!?てめえは伊吹の姐さんが負けるっていうのか!?」

「あの男の力がわからない以上こう言うのもいいだろ?それに門番のとこの赤い方倒したってアタシは聞いたよ!」

「あぁ!?やんのかゴラァ!!」

「ハッやってやんよ!!」

「挑戦者の兄ちゃんが大穴だぞ!ほらほら、賭けた!賭けた!」

「俺は手堅く伊吹の姐さんだ!」

「なら、俺は大穴狙って真っ黒の兄ちゃんだ!」

「アタイは星熊姐さんだねぇ!」

 

完全に見物客だ、俺達の勝敗に酒を賭けたり、中には勝負そっちのけで酒を飲み比べをしてる奴や喧嘩しだした奴もいる

 

「驚いたかい?」

 

萃香が笑いながらそう言った

 

「正直言えばそうだな」

「ここは島だし外から来る奴もいないからねぇ客人が来たら大体こうなるのさ」

 

萃香は瓢箪を勇儀に投げ預けて俺に対峙する

柵を越えるように高く投げられた瓢箪を勇儀は何事もなく掴み取った

 

「話し合いに来て移住の話をしてたら、喧嘩する話になっていたなにを言ってるかわからねぇと思うが……」

「なにぶつぶつ言ってるのさ、さてそれじゃ始めるよ」

「……あぁそうだな、腹は括った」

 

萃香はよく通るような大きな声で口上を唱える

 

「我が名は伊吹萃香!我は一人にして百鬼夜行!鬼の(あつ)まる所に人も妖怪も居られるものか!」

 

その口上に俺も乗るように唱えた

 

「俺は黄昏虚!化物に通用するモノは何一つ無し!」

「「いざ、尋常に!」」

「始め!」

 

勇儀が掛け声をだ出す

その掛け声と共に萃香が駆け出す

俺との距離を詰めて俺の腹を目掛けて殴る

その拳の軌道を逸らして受け流し萃香を蹴る

 

「おっと危ない、ね!」

 

萃香は俺の蹴りを受け流された腕で受け止め、その腕を凪ぎ払うように振り回し俺を吹き飛ばした

 

「危ないのはどっちだ!」

 

吹き飛ばされた俺は受け身をとり距離を取る

 

「逃げてばかりじゃ勝てないよ!」

 

また萃香は俺との距離を詰める

俺は萃香が来る場所に蹴りを繰り出す

 

「消えた?」

 

俺の蹴りが当たる瞬間萃香は霧のようになり消えた、いや消えたのは俺の蹴りの軌道上だけであり他の部分は萃香の形をとっていた

 

「いや、危なかったね」

 

霧が萃香の体に集まりそこには先程と変わらない萃香がいた

 

「能力持ちか?」

「能力について知っているってことはアンタも?」

「そうだな」

「ここからは能力の自重は無しでいくよ!」

 

今度の萃香は全身を霧に変えて消えた

 

「そこ!」

 

後ろに回り込んだ萃香が俺の後頭部目掛けて拳を振る

 

「甘いよっと」

 

俺は体を前に傾けて回避し

振り切った萃香の腕を掴み投げ飛ばす

萃香は受身を取り体勢を整える

 

「愉しくなってきた!」

 

萃香は何か溜める動作をしたあと再度殴りかかる

 

「なんどやって…!?」

 

受け流すために待ち構えるが萃香の拳にチラリと火の粉が見えた

受け流すのを止めそこから急いで立ち退く

萃香の拳が地面を突いた瞬間爆発が起きた

 

「危な!?」

「決まらなかったか!」

 

萃香は目を輝かせて笑う

 

「なんの能力だよ?!」

「アッハッハよくぞ聞いてくれました!私の能力は『密と疎を操る程度の能力』!」

「……そこらから熱を集めたのか?」

「大当たり!次はこれ!回避できるか?!」

 

萃香は腕を上げ火球を作り出す

大きさは萃香より少し大きく

熱が少し離れた俺にも届いている

 

「よっと!」

 

俺は防と描かれた術式を火球に合わせてその火球を防いだ

 

「残念、本命はこっち!!」

 

その声と共に俺の視界が暗くなり

体が何かに押し潰される圧迫感を感じ取った

 

 

 

 

 

 

伊吹萃香

 

砂埃が晴れる

 

「やった?!」

 

私は先程まで対戦していた相手を閉じ込めた大岩を見る、その大岩が動く気配はない

 

その男は珍しくこの鬼の集まる島に来た客人だった

幻想卿、その男は妖怪と人間が共存できる場所を作る

そのため、私達鬼の力を貸して欲しいとのことだった

私自身は別にこの島に思い入れはないため構わなかった

だから私は了承しようとした

その時酒を飲んでいた他の鬼達の話を聞いたら

門番の赤鬼を倒したと聞いた

四天王と言われ張り合う相手が居なくなっていた私には嬉しい話だったため私は喧嘩を吹っ掛け勝てば協力してやろうと言い、今に至る

 

「ハァ終わっちゃったか」

 

私は勇儀に預けていた伊吹瓢を返してもらいにいく

 

「勇儀、伊吹瓢…」

 

岩に背を向けた瞬間岩が弾け飛ぶ

 

「っ!?」

 

私は後ろを振り向き男、虚がいるはずであろう場所をを見る

 

「いない!?どこ!?」

「言っただろ?化物には何一つ通用しないんだ」

 

その言葉が聞こえたと同時に身体に激痛が走り私の意識は暗転した

 

油断したね、負けちゃったか、まぁ愉しかったからいいや……

 

伊吹萃香END

 


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