東方暇潰記   作:黒と白の人

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第46記 狐との別れ

俺は身体を起こし伸びをする

頭がまだ寝惚けているのかボーッとし、うまく働かない

チラリと隣わ見ると藍は安らかな寝顔をさらしている、そこには何の警戒の色もなくとても心地よさそうだ

 

 

 

再度ボーッとしながら開いている障子から外を眺める

丁度日が登り始めた頃のようで、朝日がゆっくりと障子の隙間から差し込んで来る

 

「ん……ふぁー」

 

藍が起き上がり伸びをし、次に欠伸をして俺と同じく寝惚けた目でボーッとする

藍は俺を見ると俺の肩に寄り添う

 

「…虚、側に居てくれてありがとう」

「……きにするな」

 

藍は俺があげた櫛で髪をすき、続いて尻尾を一本自分の前に動かしてすき始める

俺は軽く音が鳴らないように拍手をして、もう一つ櫛を創造し藍の尻尾一本取り、藍の見よう見真似ですく

 

「……ありがとう」

「……きにするな」

 

一通りすき終わると俺は先程創造した櫛を消す

 

その頃には頭が動き始め、しっかりと受け答えができる程度になっていた

 

「よし終わった」

「ありがとう虚」

 

藍は再度大きく伸びをして俺に笑いかける

 

「毎日大変だろこれ」

「毎日続けていることだからもう慣れたよ、しかし愛する人との共同作業も良いものだな」

「……そうか」

 

下手なことを言えばそこから藪蛇になりそうだと感じた俺は短くそう返して立ち上がる

 

「どこに行くのだ?」

「軽く何か作る、ここでまだ少し寝てろ」

 

俺はそう言い残して勝手場に向かう

 

「……最後だしな、好物っぽいいなり寿司でも作るか」

 

手早く俺は米を炊いて冷ましながら酢と混ぜ合わせて酢飯を作りつつ、揚げに味を染み込ませ

最後に揚げに酢飯を包み、皿の上に置く

 

「よし、あとは数だ」

 

同じような工程を繰り返して二十近くの数を作った

そのいなり寿司を乗せた皿を俺は藍がいる寝床に持って行く

 

「藍できたぞ」

 

藍は暇そうに障子の外の景色を眺めていた

 

「……あぁ、ありがとう」

 

 

特に話等はなかったが、パクパクと次々口に放り込んで食べているの様を見れば藍は喜んでいるのが分かる

そんな夢中に幸せそうに食べる藍を俺は見ながら自分で作ったいなり寿司を食べる

 

 

いなり寿司はすぐに無くなり食べ終えた皿を片付けた後、俺は藍に声をかける

 

「なぁ藍」

「なんだ虚?」

「藍はさ、妖怪と人間が共存できる場所があったらどうする?」

「……そもそも無理だろう」

 

藍は俺と同じ様に不可能だと断定した

 

「なら、もしもあったら?」

「もしも……か、そうだなそんな場所があったのなら私はやはりそこに住んでみたい……勿論だが虚と一緒にな?しかしどうして急にそんなことを?」

「藍の主になる奴は、そんな夢物語を実現しようとするやつなんだよ」

 

藍は手を口元に当て笑う

 

「フフフ、そんな奴が居るのだな」

「あぁ居たんだよ、そして話によれば大分実現しているらしいぞ?」

「それは本当か?」

 

藍は信じられないといった表情を浮かべた

 

「あぁ本当だ」

「それはなんとも……」

「凄いよな」

 

藍は俺の肩にもたれ掛かる

 

「……虚、もしの話だ」

「何の?」

「まぁ聞いてくれ、もし……」

 

藍は一泊おいて次の言葉を言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もし、虚の言う伴侶と会うよりも先に私と出会っていたら、どうだ?」

 

藍は俺に問う

暫く俺は黙り込んで、やがて口を開く

 

「……たぶん、藍に惚れてたんじゃないかな」

 

俺はその場合を想像し正直に答える

 

「フフフ……そうか……全く罪な男だなお前は」

 

藍は嬉しそうに何度も頷く

 

「それを言われたら、妻帯者口説く女はどうなんだ」

「あぁ私は罪な女だ、それでも私は虚を愛している」

 

開き直ったよこの人……

 

「開き直って何が悪い?それに私が罪な女と言うのは今更だろう?」

「心読まないでくださいますかね?」

 

口に出した覚えはないのに藍は俺の思った言葉にそう返した

 

「お前は分かりやすいのだ」

「俺ってそんなに分かりやすいか?」

「あぁ分かりやすいよ」

 

藍は優しげに微笑んだ

 

「……藍、ごめんな」

 

俺は藍の頭を撫でて意識を改変し眠らす

 

「えっ……なん……で眠……く…」

「別れが悲しくなってくるからさ…眠っててくれ、ごめんな」

 

俺はそっと藍の額にキスをする

 

「…またな藍……」

 

俺は紫との連絡手段の札に妖力をこめて紫を呼び

藍を式にと勧め紫に預けた

 

 




これにて傾国の狐との話は閉幕

お次は鬼との話

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