俺は机を挟んで正面に座る妖忌に問いかける
「なぜ幽々子を止めなかった?」
「主が悲しむのが見ていられなかったのだ……」
「どうい……」
紫が俺の言葉を遮る
「どう言うことなの?」
「……八雲殿、幽々子様の力を知っておいでか?」
ポツリポツリと妖忌は語りだす
「確か『死霊を操る程度の能力』だったかしら?」
紫は口許を扇子で隠して思案しそう言った
「さよう、しかし西行妖が育つにつれ能力が変質してしまったのです」
「変質?」
「その能力は『死を操る程度の能力』幽々子様はそう言っておられました、幽々子様は西行妖のように人を死に誘うだけの存在となってしまったのを深く悲しんでおられました、だから……せめての償いと幽々子様は西行妖の封印のために自分の体を、と」
「それで……」
紫は静かに泣いていた
「……妖忌、来い」
「はい」
俺は妖忌を呼び紫を残して居間を出た
そこでソレに気づいた、気を付けなければ気がつかない程小さな気配、場所は先程封印を施した西行妖の近く
そう言えば西行寺幽々子は……
そこまで考えた俺はこの気配が誰のものなのか半分確信した
もうほとんど忘れてしまっていた過去の記憶、合っているかすら怪しい原作知識と言われるこの世界の知識、しかしこれだけは合っていると言い切れる
「お帰り……かな?」
俺はクスリと笑ってそう呟いた
「虚殿お帰りとは?」
妖忌には俺の呟きが聞こえたようで意味を訊いてくる、俺は妖気の声を無視して先程まで閉めた居間の障子を開け放つ
「紫、少し来い!」
「えっ?!」
俺は紫の腕を取り無理矢理立たせ、混乱して動かない紫を横抱きにした
「ちょっ!虚なにするの!!」
「虚殿少し不謹慎ではないですか?!」
「妖忌も来い!」
俺は西行妖のある庭に早足で向かう
「いい加減放しなさい!」
「……やっぱりそうか」
俺は西行妖、正確にはその根元に立っている女を見て半分確信したことが合っていたと確認してそう呟いた
「やっぱりってどう言うことよ!」
「そんな……嘘で……あろう……?」
妖忌は呆然とした様子で呟いた
「一体何……を……え?」
西行寺幽々子は原作にキャラ絵まであって存在していた、つまり東方に置いてモブ等という立ち位置ではない、そして忘れかけていた原作知識の中には西行寺幽々子は人間と言う種族ではなく、亡霊と言われる種族、だからここで永久退場等と言うことはありえやしない
「幽……々子?」
立っていた女は紛れもなく西行寺幽々子その人だった、少し違う場所は頭に亡霊の白い三角頭巾を被っていることくらいだろうか
「幽々子様!」
俺は紫を下ろした
紫はまだ目の前の光景が信じられず呆然としているのか俺がこのまま離れれば倒れてしまいそうだ
「あらあら~たくさん人が来たわね~」
「幽々子?」
「どうして私の名前を知っているのかしら~」
幽々子はコロコロとした笑みを浮かべているが目にハイライトがないそして体が薄ぼんやりと透けている
「幽々子様まさか……」
そして幽々子は決定的なことを言った
「あなた達は一体どなた?」
「記憶がないのか?」
俺はそう訊くと幽々子は頷いて答えた
「えぇ、確かに私は記憶がないわ~気づいたらここに居たの~」
「……そうか」
俺は空を見上げる見えるのは花弁一つない枯れきった西行妖の姿
「記憶がないのならまた最初からやればいい、初めまして俺は黄昏虚と言う、虚で構わない」
俺は軽く笑い幽々子にそう自分を紹介した
「虚……なら私もね、初めまして八雲紫よ、私も虚と同じように紫でいいわ」
「お仕えさせて頂いております魂魄妖忌です、妖忌とお呼びください」
「ええ、初めまして私は西行寺幽々子、私も幽々子で良いわよ~」
俺達は幽々子を連れて居間に戻った
「不思議ね~ここは初めてなのに初めてじゃない感覚がするわ~」
「本当に記憶がないのよね……」
「幽々子様は時々悪戯のようなことをしますが手の込んだことは致しませんのでおそらくは……」
「幽々子何か思い出すことはないか?」
「……ごめんなさい何もないの」
幽々子は間延びした声を止めて申し訳なさそうに目を伏せた
「いや幽々子が謝ることじゃない、まぁなくなってしまったものはしょうがない、記憶ならまた作っていけばいいだろう?」
「そうね」
「そうですな」
俺の言葉に紫と妖忌は微笑んでそう同意した
「…………いい友人を持ったものね、私は…」
ポツリとそんな呟きが聞こえて、幽々子の目に雫が見えた気がした
人を死に誘う桜の話は これにて閉幕
次は九尾の狐の話