東方暇潰記   作:黒と白の人

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第38記 桜の下で

さて封印の日だ

えっ?昨夜の料理はどうなったかって?

美味しいって言って食べてくれたよ……

 

三回ほど追加で作ったがな!

 

いや量が少なかったとかはないぞそれこそ十人位で宴会するような量を作ったからな!

あれだよ幽々子の腹はブラックホールに繋がってんだよじゃないと説明ができん

妖忌に聞いたら普段はアレの半分程らしい

いや半分ってそれでも結構な量……なんで太らないんだ?とか思っていたら幽々子から笑みを浮かべて見られたが目が笑ってなかった、何百年ぶりだったのだろうか命の危険を感じたのは……

 

「虚、準備はいい?」

 

先日の事を思い出していた俺は紫の呼び掛けで正気に戻る

 

「ああ」

 

俺と紫は西行妖のある庭に出る

 

「さて紫内容の確認だ、俺はおそらく来るであろう西行妖の攻撃から紫を守るでいいな?」

「ええそれで間違いないわ」

「幽々子様、満開の西行妖もこれで見納めですかな」

「そうね」

 

後ろを振り向くと幽々子と妖忌はどこか物寂しそうな目で西行妖を眺めている

 

「見納めときな、もう満開にはならないんだから」

「えぇ、そうさせてもらうわ……」

 

俺は西行妖に向き直る

怪しげな妖気を垂れ流す巨大な桜の木

その桜の花弁は桃色に淡く光っている、その色はとても綺麗で見る者の目を奪う、だがその桜の木の正体を知っているのなら、同時に妖しく、そして禍々しくも感じるだろう

 

「それじゃ始めるわよ」

 

紫の声で俺は我に返る

どうやら俺もこの桜に目を奪われていたようだ

紫に視線を移すと紫は両手を桜へと向けて術式を展開させた

 

「っ!?来たか」

 

風もないのに西行妖の桜が散る、しかしその桜の花弁一枚一枚に濃密な死の気配を感じる

その花びらに【防壁】とかいた術式を操り当てていく

金属が軋むような音と共に術式が弾かれる

 

「数が多い!」

 

現在術式が300を越えた

しかしそれを優に越える量の花弁がこちらを襲う

 

「紫まだか!」

「まだ掛かるわ!」

 

術式が1000を越えた

術式を展開するには問題ないが操作がキツイ

 

「多重展開は出来るが操作がキツイぞ!」

「持ちこたえて!」

 

俺が術式を操作して桜の花弁を防いでいるとチラリと桃色の髪が揺れるのが見えた

 

「っ!なにをしている幽々子!」

 

いつの間にかに幽々子が西行妖の下にいる

幽々子は此方を向いて儚く笑う

その手に持った物でこれから彼女が何をするかは想像できてしまう

幽々子はその手に持った脇差のようなもので……

 

 

自分の胸を……

 

「やめろ幽々子!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刺した

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あ、あ、いやあああああ!!」

「落ち着け紫!」

 

俺は即座に幽々子を術式で囲む

 

幽々子が自分の胸を刺したその瞬間

西行妖が満開となる

先程まではまだ桃色の花弁が見え隠れしていたが、それが赤黒く変色していく、まるで幽々子の血を吸っていくように

何百人の生気を吸い尽くした妖怪桜

その膨大な妖力の量

しかし

 

「その程度で何を粋がっている?」

 

俺は妖力を開放する

 

俺と比べたらその妖力量は圧倒的に少ない

俺は術式の数を1000から10000へと増やす

数を抑えていたのは紫が術式の具合を確かめるだろうと思ってだが今は紫が術式の手を止めている

それにまだ紫は何か思考を巡らせているのか、それとも幽々子の事でショックを受けているのか動かない

 

「虚、私は今から最低なことを言うわ、軽蔑してくれたって構わない」

「言ってみろ」

「幽々子の体を封印のための鍵にする」

「今からできるのか?」

「……軽蔑しないの?」

 

チラリと紫は振り返り俺を見る

 

「しないよ、コイツを破壊するのなら俺でもできる、しかし封印となると話は別だ。コイツは幽々子の大切なものらしいからな、壊すことはできん」

 

壊して良いなら俺はすぐさま【切断】の概念を込めた太刀で目の前の大木を伐採する、だが紫はそれを望まない、封印はできないことはないが紫と比べれば俺の力任せな封印は児戯に等しい

 

「虚……」

「それに残してやることが幽々子も喜ぶんじゃないか?」

「そうね、それじゃ守りは任せたわ」

「任された」

 

紫は立ち上がり術式を展開する、先程よりもスムーズに術式は完成していった

 

 

 

ほどなくして西行妖の封印は終わった

今も花をつけているが満開となることはもう決してないだろう

 

幽々子の体は西行妖の下に埋葬して厳重に結界を施した


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