東方暇潰記   作:黒と白の人

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人を死に誘う桜の話の開幕でございます



第35記 半人半霊の剣士

時間的には夜が開けて直ぐの頃、妹紅は布団の中でまだ眠っている

 

俺が居なくなった後の妹紅は大丈夫だろうか、やはり連れていくべきか等と沸き上がる考えを俺は頭を振って打ち消した

それでは意味がない、俺が妹紅から離れなければ俺があの子に依存してしまう……

 

俺はまだかまだかと庭先で紫を待つ

 

「来たわよ、準備は良いのかしら?」

「あぁ良いぞ紫」

 

空間が裂けて中から紫が現れた

紫はその空間の中に俺を誘うように空間を拡げた

 

「その中に入るのか?……」

「ええ、私はスキマって呼んでるわ」

 

これは、すごく……気持ち悪いです……

とか言ってみるが紫がスキマと呼ぶその空間は実際すごく気持ち悪い

スキマの中は紫と黒が入り交じったような色をした場所で、その空間の至るところに目がありその全てがこちらを凝視している

 

「……了解」

 

俺は意を決して見ているだけで気が狂いそうな空間の中に飛び込んだ

足場のような感覚はなく俺は落下していく

スキマの目は俺を追うように視線を移している

紫と黒が入り交じり至るところに目があるこの空間はループしているのではないかと思い始めた辺りで俺は目を閉じて視界の情報をシャットアウトした

 

浮遊感がなくなり足が地を掴むのに余り時間は掛からなかった

 

「やっと着いたか……」

 

俺はゆっくり目を開ける

 

「ほぅ」

 

思わずそんな声が出てしまった

俺の目の前には石の階段がありその階段の両側には綺麗な桜が咲き誇りそれが階段の頂上まで続いている

 

「あっ、紫!」

 

見惚れていた俺は何故ここに来たのかを思い出し、連れてきた人物、紫の名前を呼んだ

しかし返事は返ってこない

 

アヤツは……最後まで案内しろよ……

 

俺はため息を吐いて階段の頂上を見る

階段を上りきった所に門がかろうじてが見える、あそこが目的地であり中に紫が居るのだろう

 

化物やってる俺の視力でもかろうじてしか見えない、気が遠くなりそうだ……

 

最後の一段を上りきった俺は後ろを振り返った

 

「かなり登ったな、何段あるんだこの階段……」

 

後ろの景色もまた見事に桜が咲き誇っておりそこに霧が掛かって幻想的ですら思える

 

「さて紫を探すか」

 

俺は大きな門をくぐり紫を探す

中は綺麗に整備された庭園になっており奥に屋敷が見える

 

それにしても広いな……

 

「ここに何用か侵入者よ」

 

俺はその場しゃがむ

ちょうど俺の胸の位置に刀が振られた

 

「……聞くのは良いが殺せば返答など出来んだろう?」

 

後ろを振り向けば一人の老人が刀を振り抜き俺を見下ろしていた

 

長い白髪を纏め白の和服と緑の羽織姿の老人だ

顔の皺からかなり老齢していると分かるが片目にある一本の刀傷と鋭い眼光からはまだまだ衰えのようなものは見えない

 

「お主が勝手に入ってきたのであろう?」

「門の前に誰も居なかったからな」

 

俺は立ち上がり老人を正面から見る

武人それもかなりの腕、だが勝てない程ではない

 

「今回は見逃してやる、帰るがよい」

「八雲紫と言う妖怪がここに来ているはずだが?」

「そのような者は来ていない」

 

来ていないのか?

 

「訊きたいことは終わりか?ならば帰るがよい」

 

少し質問を変えるか

 

「ここに西行妖と言う物がないか?」

 

再度刀が振られる

俺は身を引いてその刀を躱した

 

「おっと」

「気が変わった、貴様はここで斬る」

 

時折混ぜられる気当たりのフェイントを読みながら俺は老人の刀を躱し、老人から距離を取った

 

「ふっ!」

 

老人は俺に近付きもせずに刀を振った

俺は大きく横に跳んだ、瞬間俺の立っていた場所が真っ二つに斬れた

 

「驚いた……まさか斬撃飛ばしてくるなんてな」

 

斬れている場所は老人の足元から俺が立っていた少し後ろの範囲

 

「ふん、何事も無かったように躱しよって」

「なぁここに西行妖が有るなら八雲紫と言う妖怪が来ているはずだ」

「知らん」

 

俺の言葉は即座に切り捨てられる

 

「ならここの主に会わせてくれ」

「ならん!貴様のような得たいの知れない奴に我が主を会わせるわけにはいかん!」

 

先程より強い口調で拒否される

これ以上問答をするつもりはないとばかりに老人は口をつぐんだ

 

「仕方がないか……」

 

俺は老人にゆっくり一歩ずつ近付く

そこから一気に急加速して老人の顔を蹴り飛ばした

 

「っ!?」

「回避するか……」

 

老人は後ろに飛んで俺の蹴りを回避した

俺は追撃のために老人に近付く

老人は刀を降り下ろす俺はそれを紙一重で躱してカウンターの拳を老人へと叩き込んだ

しかし俺の拳が老人に当たる前に白く丸い何かが割り込み老人を庇った

無傷の老人はスキの出来た俺を斬る

 

「貰ったぞ!」

「甘いよ!」

 

俺は袖から短刀を取り出し老人の刀を弾く

 

「チッ」

「危ないね」

 

俺と老人はほぼ同時に距離を取った

先程の丸く白い何かが戻ってきて老人の近くを浮遊し始めた

 

「それ何だ?」

「私の半霊だ」

「人間じゃないだろうなとは思ってたけど半人半霊ってことね」

「だからどうした」

「……止めよう、これ以上はアンタを殺しかねない」

 

俺は近くに落ちていた取り出した時に飛んでいってしまった短刀の鞘を拾い短刀を鞘に納めその短刀を袖にしまう

 

「何のつもりだ?」

 

老人は俺を睨み続けている

 

「アンタを殺したら不味いからね」

「ふん、ここは絶対に通さんぞ」

「アンタの主に危害を加えるつもりは毛頭ないんだが」

「信じられるか」

「だよな……悪いな」

 

俺は指を弾いた

老人との距離を(無かったこと)とした

一瞬なんて生温い刹那の瞬間で老人と俺の距離はゼロとなった

 

「なっ!?」

「悪いね少し眠っててくれ」

 

まず鳩尾を殴り続いて首を叩き意識を刈り取る

 

「息はある、気絶させたな」

 

俺は老人を担ぎ老人が気絶した瞬間動かなくなった半霊を掴む

 

「よいしょっと……紫はどこだ?」

 

ここの主と紫を探すべく俺は歩く

 


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