東方暇潰記   作:黒と白の人

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第14記 私の俺の大事な人

あの夜から早数年、まだ何かにつけては諏訪子は俺の部屋に入ってきて俺は襲われる

ほぼ毎朝隣には諏訪子が添い寝して俺に抱きついている、寝顔は無邪気で笑顔も無邪気なのだが笑顔はどこか計算されたように出されるので最近人、いや神が信じられなくなっている

 

「……虚」

「……なんだ諏訪子?」

 

俺の名前を呼ぶ諏訪子に俺は低い声で応える

 

「なんか不機嫌だね?昨日が激しかったからかな?」

 

俺は突然そう言われて噎せた

俺は咳を込んで諏訪子を睨んで言う

 

「ごふっ!……いきなり何てこと言い出すんだ!?」

「いつもこんな感じじゃないか」

 

諏訪子はケラケラ笑う

 

「ねぇ虚……」

「なんだ」

 

先程のような明るい声ではなく少し湿っぽいような暗い声で諏訪子は俺の名前を呼んだ

 

「私は今凄く幸せだよ」

 

諏訪子は俺の体を抱き締めてそう言った

 

「……そうかよ」

 

俺は諏訪子を抱き抱えて目を会わせようとしたが諏訪子は顔を上げようとはせずに俺を抱き締めたままだ

 

「諏訪子、何があった?」

 

俺は顔を会わすことは諦めて諏訪子の頭を撫でながら聞く

 

「なんでもないよ」

「いや……」

 

そんなことはないだろ?

と続けようとしたら諏訪子が被せるように俺の言葉を遮る

 

「まぁそんなことは置いといてだ虚、休暇をやる」

「休暇?」

「そう休暇」

 

オウム返しに俺が聞き返すと諏訪子は頷く

 

「またなんで?」

「ゆっくり温泉にでも行ってきなよ、はい」

 

答えにならないような返答を返した諏訪子は簡易の地図らしき物と酒を取り出す

 

「これは地図と……酒?」

「そ、地図のほうはわかるね?酒は温泉に浸かりながら飲みなよ、結構昔に行ったことがある所でね浸かりながら酒を飲むって良かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺は諏訪子の地図通りに温泉へと向かった

 

「…ここか?」

 

そこは岩場に隠れた秘湯のようで道からもかなり逸れて林の中ということからも誰も来なさそうな場所だった

 

「それでは早速入りますか」

 

俺は服を脱いで畳み少し高く視界に入りやすい岩の上に置いた

温泉は乳白色に濁っていて温度的にも丁度良い温度になっていた

 

「ふぅ、気持ちいいねぇ」

 

諏訪子から貰った酒を飲み景色を眺める

 

「今度、諏訪子とも来てみるかな…ふぁ」

 

俺は大きな欠伸をする

 

「そんなに隙だらけだと人喰い妖怪に喰われちまうぞ」

 

嗄れた老人のような声がする

俺は声の主の方へと目を向けた

 

「よう」

「アンタは?」

 

片手を上げて老人のような嗄れた声で俺に声をかけた人物、いや妖怪、それは大型の猿だった

 

たしか狒狒(ひひ)という妖怪だっただろうか?

 

そう俺は頭の中でこの嗄れた老人のような声を発する猿の妖怪に当たりを付ける

 

「儂は狒狒の猿弐(えんじ)というアンタは?」

「俺は黄昏虚という、お前は俺を喰わないのか?」

 

俺は猿弐と名乗った狒狒にそう聞いた

 

「ヒヒヒ冗談、そんなことしようものなら儂が八つ裂きにされちまう」

「クククそうかい」

 

俺は含むように笑ってそう返した

この猿弐と言う狒狒の妖力はそれほどまでに高くはなく俺がその気になれば狒狒自身が言ったように八つ裂きにすることができそうだ

 

「その酒、儂にも恵んでくりゃあせんかい?」

「ん?いいぞ器はあるか?」

 

狒狒は俺が飲んでいた酒に目を着け指差しながらそう言った、俺一人で飲むのも少し味気ない、なので俺は狒狒の言葉に頷いた

 

「ありがてぇ、コイツにいいか?」

 

猿弐は石で出来た器を差し出す

 

「了解」

 

その石で出来た器に酒を注いだ

猿弐はその酒を一息に煽って飲み干した

 

「あぁ……酒は良いねぇ」

「そうだなぁ、そう言えば猿弐は何故ここに?」

 

風呂で俺の対岸にで石の酒器を片手に酒を飲む猿弐に俺も同調してそう言い、何となくそう訊いた

 

「そりゃあ温泉浸かりに来たに決まってるだろ?」

「それもそうか」

 

何を当たり前の事を訊くと言いたげに猿弐はそう言って当然のような答えが帰ってきて俺は頷いた

 

「それにここの温泉もそろそろ無くなっちまうしなぁ」

「どういうことだ?」

 

帰れば諏訪子とここに来ても良いかなと思っていたのに無くなってしまうと聞いて反射的に俺はそう尋ねていた

 

「おや?知らないのかい?今ヤマトの国がいろんな国に対して戦争吹っ掛けてるんだ、もう少なくない国が飲み込まれてる」

「今どのあたりなんだ?」

「どこだったかな、地理的に……そうだ確か」

 

続けられた言葉は聞き慣れた国の名前だった

 

 

 

「……守矢の国だったはずだ」

 

 

 

 

 

今猿弐は何をいった?守矢の国とヤマトが戦争?

 

俺は頭の中で事態を整理していく

 

……突然諏訪子が休暇をやると言い出して何かあるとは思っていたがこう言うことか、全くあの馬鹿神は、俺は頼られるほど信用されてないのか?

 

「……い……うつ………おい虚」

「んあ?」

 

俯いていた俺を猿弐は下から覗きこむように見る

 

「大丈夫か?なんか上の空だったけどよ」

「あぁ大丈夫だ」

 

俺は猿弐にそう返しす

それから猿弐と軽く情報交換をして別れた

 

少し温泉から離れて俺は

『嘘と真実を操る程度の能力』を使い道中を(無かった)事にして守矢の国まで転移した

 

 

 

 

 

 

 

洩矢諏訪子

 

愛した男の背中を小さくなるまで見送り私は振っていた手を下ろした

 

「行ったね……」

 

私は今虚を見送ったところだ

 

「さてと……戦争の準備をしないとね」

 

今日はヤマトの国との戦争だ、内容は一対一って事になっている

 

「ま、私は私で精一杯やるだけだね」

 

私はそう呟いて戦争場所まで行くことにした

 

 

 

 

 

「これはどう言うことだい?」

「決まっているだろう?貴様など八坂様の手を煩わすまでもない」

 

私の前にはヤマトの神であろう男達がいる嵌められたと思ったがコイツらの独断であるようだ

 

そこらにいる下級神と中級神だはっきり言ってしまえば雑魚だがなにぶん数が多い、目に見えるだけで数百はいる

 

あまり力は浪費したくない、話に来た神はかなり力を持った奴だった少なくともそれ以上の奴が相手なのは間違いない、ならば力の消費は出来る限り抑えなければならない

 

「おとなしく全面降伏するなら見逃してやってもいいぞ?」

 

尊大に言うこの阿呆は何を行っているのだろう、確かに疲れるがこの程度の数では祟り神を止めるには少なすぎると言うことに気がつかないのだろうか?

 

「……くふっ!?」

「なんだ?!」

 

突如一柱の神の首がコロリと転がり()()()

その後ろに居た男を見て私は目を疑った

 

いや……ありえないあいつは彼処に送った彼処は1日で道が変わる不思議な場所だ日帰りできるわけない

 

「ったく諏訪子……」

「貴様何者だ?!」

「うるせぇよ雑魚」

 

その男、黄昏虚は私が今までで一度も聞いたことのない程低い声でそう言った瞬間チンッと甲高い音が鳴った

虚は何事もないように私の方へと歩いていく

 

「嘗めるな!」

「アンタの神としての力は一刀両断されても話す事が出来る権能なのか?」

 

吠えていた一柱は首が横にずり落ち、力を失った体は膝を突き倒れた

 

「なんで……」

「なんで俺がここにいるか不思議か?」

 

虚はニヤリとした笑みを浮かべてそう言った

 

「彼処は……入ったらなかなか出てこれない迷い道なんだけど?」

「……そんなところに俺を送り出したのかお前は…出てこれたのは俺の能力だよ」

 

虚は呆れたようにため息を吐いて、能力についてはなんだそんな事かとでも言うように虚は軽く言った

 

「能力?」

 

確かコイツの能力は『嘘と真実を操る程度の能力』どうやって……?

 

「単純だよ俺が諏訪子の側にいることを真実とし温泉にいた俺を嘘にしたただそれだけだよ……それにな」

 

虚は場違いな場所で少し赤く染まった頬を掻きながらバツが悪そうに笑って言う

 

俺の大事な人が戦地に赴くのに俺だけ悠々とするわけにはいかんだろう?

 

 

そう私の大事な人は言ったのだった

 

 

 

洩矢諏訪子END

 


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