新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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結構時間ギリギリになっちゃいました。

続きです。

( ^ω^)_凵 どうぞ


朝の出来事

「さあ!! 学校に行きましょう!!」

 

 

紲が家の前でスタンバっていた天宮姉弟の姉が元気よく言い出した。

生徒会長である彼女は朝は早いものだとばかり思っていたが違うようだ。

 

 

「別に良いけど……紗香に変な噂が流れたりしないか?」

 

 

繰り返しになるが、紗香は学園に留まらずに世間でも注目を浴びる(正確には浴びさせようとマスコミがしている)。

そんな彼女には弟がいる事を知らない人は多い。

しかしながら、幼馴染みがいるだなんて情報は一切無いのだ。

ましてや男ともなると、良からぬ噂に指を指される。

 

 

「大丈夫大丈夫。むしろ私としては構わないと言わないでもないかも……」

 

 

言葉尻に語気が落ちていく。

最終的には聞き取れない程に少量になったので、紲は訊ねようとしたが――

 

 

「早く学校に行こうぜ。時間は無くはないけど余裕を持ちたいんだからさ」

 

 

黙っていた健司が切り出した。

弟の言葉に「そうね」と帳尻を合わせる。

紲も別に「気にしなくて良いか」と話は流した。

 

 

学校まではそう遠くはない。

歩いて15分は掛からない程度の距離である。

校門に着いた頃に生徒からジロジロと見られていた。

 

 

「まあ、やっぱりというか……注目は集めるよな。紲が」

 

 

紗香かと思いきや、実は意外や意外に紲の方なのだ。

彼女に付き従うように一緒にいる紲は注目の的だ。

健司に関しては紗香とセットで絵になるので口を挟まない。

まあ、彼が紗香の弟君なのを承知な生徒が大半なので矛先が集中するのも致し方無し。

 

 

「はあ……『魔法相談室』の件もあるしな。先が思いやられるよ」

 

 

紲は肩を竦めて、オーバーにリアクションしてみせた。

別に本意では無いのは分かっていたが、ついつい意地悪したくなる。

 

 

「うぅ……紲がそんな風に思っていただなんて」

 

 

ポケットからハンカチを取り出して泣き真似をする紗香。

いつもであれば「冗談」で笑い飛ばせた。

 

 

しかし、非常に残念な事に「冗談」で吹き飛ばせるシチュエーションではない。

場所は学校のグラウンド――そこには大量の生徒、そして天宮紗香に憧れる人は多数いる。

そんな中でフリとは言え、泣き真似をしている部分だけ抜粋すると“とんでもない事態だ。”

 

 

必然、全員を敵に回してしまう事になる。

「“あの”天宮紗香を泣かせた」だなんて箔が付いても他人からは袋叩きに遭いそうなだけだ。

いや、間違いなく起こるだろう。

エスパーに目覚めたのでは? と勘違いにも程がある未来予知だ。

残念な事に、その状況はまさに目の前で起こった。

 

 

「おい!! あいつが生徒会長を泣かせているぞ!!」

 

 

男子生徒のその一言がヒビの入ったダムを完全に決壊させた。

 

 

「なんですって!?」

「いったいどいつだ?」

「お姉さまに何をしている!!」

「泣かせる奴は許さん!!」

 

 

紲は突き刺さる視線に幻痛を覚えた。

そして、誰かがその産声を上げた。

 

 

「あいつを締め上げるぞ!!」

 

 

「「「おおおおおおおおーーーーっ!!」」」

 

 

1人の上げた鬨に軍隊のように何人もが呼応した。

 

 

「ははっ、逃げた方が良いな」

 

 

「お前!! 笑ってんじゃねえよイケメンが!!」

 

 

紲は悪態を付きながら周囲の視線が痛くなっていくのを肌でヒシヒシと感じ始めた。

ああ――何となくこの後の展開を察し始める。

 

 

「ほれ、鞄はオイラが預かっておくから」

 

 

「頼むわ」

 

 

少しでも逃げやすくする為に枷を健司に託す。

 

 

「ごめんなさい紲」

 

 

「いい加減に泣き真似を止めてくれませんかね? 基本的に飛び火が俺に降り掛かるんですが?」

 

 

今のセリフを泣き真似を継続したままでするものじゃない。

全く謝っている様子に見えない。

完全に楽しんでおられる。

 

 

「掛かれぇぇぇえええええーーーーっ!!」

 

 

紲へ生徒の波が押し寄せてくる。

 

 

「マジで勘弁してくれ!!」

 

 

紲の悲鳴など何のその。

被告人の叫びを受け流す暴力行為に走る裁判官達から逃れる為にダッシュする。

捕まればフルボッコは必至の鬼ごっこの開幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っで?  オイラに何か用があるの?」

 

 

紲が走り去っていくのを確認し、ほとんどの生徒が居なくなったのを見計らってから健司は姉に問い掛けた。

紗香は「ええ」と頷いた。

 

 

「全く、それにしたって紲にあんな事をしなくても良いんじゃないか?」

 

 

つい乗っかって紲をからかいはしたが、やはり姉の冗談を真に受けた生徒に追いかけられるのは悲惨に思える。

 

 

「後で何かフォローしときなよ。紲に嫌われても知らないからな」

 

 

「うっ、反省しております」

 

 

悪乗りし過ぎた事を弟にたしなめられ、紗香も反省の色を見せる。

 

 

「オイラに話があるなら今朝に言えば良かったのにさ」

 

 

「仕方無いじゃない。やる事があったのよ」

 

 

紗香はそっぽを向きながら返した。

健司の方はそれでピンときた。

 

 

「紲に頼まれてメイア・アトリブトさんの事を調べて貰っていたってところ?」

 

 

「まあ、ね。そうよ」

 

 

別段に隠すべき事柄でもないと紗香は踏んで肯定した。

 

 

「というか、健司も知ってたのね」

 

 

「オイラは昨日は紲と一緒に帰ったんだから知ってるよ」

 

 

至極全うな意見をありがとう。

紲の事をよく知る健司が肩を竦めながら言った。

 

 

「アトリブトさんの事はあとで紲に教えてやってくれ。それよりもオイラへの用事を済ませておくれ」

 

 

紲への注意は終了した。

彼ならば逃げ切れるだろうし、心配は要らない。

ひょっとすると紗香の意図に気付いたかもしれない。

あとで不肖な姉の為にフォローは入れておく。

それよりも紲を引き離してでも言いたかった内容が気になる。

 

 

「健司のクラスの紀藤央佳さんに放課後に生徒会まで来るように伝えて欲しいの」

 

 

「構わないけど……ひょっとして、生徒会に入れるのか?」

 

 

「その通りよ。よく分かったわね」

 

 

察しの良い健司に関心を抱く。

 

 

「だって昨日は姉ちゃんを含めても3人しか居なかったからね」

 

 

「察しが良くて助かるわ。最近に1人抜けたから人手不足なのよ」

 

 

健司の言う通り。

生徒会は人手不足なのだ。

1年だろうと、戦力になるのなら誰でも歓迎する。

ましてや紗香は優秀とは言っても2年。

形振り構ってる余裕はないのだ。

 

 

「OK。央佳さんは昨日生徒会室の場所は知ってるだろうから大丈夫でしょ」

 

 

「助かるわ。ついでに紲も呼んでおいて」

 

 

「はいはい。っで? 話はそれだけ?」

 

 

健司は確信を持ったように「まだ何かあるんじゃないのか?」と言いたげな視線だった。

紗香の方も「さすが弟」と身内の鋭さに感服する。

 

 

「その紲の様子は“どうだった?”」

 

 

「“変わらないよ。”いつも通り過ぎて、さ」

 

 

姉弟だからこそ通じる短いやり取り。

しかし、話題に上がっているのは幼馴染みの紲である。

2人しか分からないやり取りなので、他人が聞いても首を傾げるのみで終わろう。

 

 

「はあ……嬉しいと言って良いのか不安になるわ」

 

 

「神坂さんが『難しい問題』って言ってた位だから簡単には解決できないのは姉ちゃんがよく知ってるだろ」

 

 

「そうだけど……」

 

 

駄々っ子のような紗香に健司は呆れる。

まあ、分からなくもないので何も言わないでおく。

この事を知っている身からしては、何とかしたいと思いながらも紲当人が気にした風もない。

 

 

「どのみちオイラ達には何もできない。紲が自分で見付けるか……」

 

 

言葉を区切ると、姉へ向けてニヤつきながら……

 

 

「姉ちゃんが見つけ出させてあげるかになるね」

 

 

「にゃ、にゃにゃにゃんをいっちぇりゅりょ!!」

 

 

「落ち着いて姉ちゃん」

 

 

さすがに姉がこれ程の動揺を見せるとは思わなかった。

周囲に人は居ないので、こんな慌てた天宮紗香を見たのは既にこの姿を見慣れている健司だけだ。

 

 

「な、何を言ってるのよ」

 

 

落ち着きを取り戻した姉が言い直す。

 

 

「まあ、それはどうでも良いとして――」

 

 

「流すな!!」

 

 

完全に弟にペースを握られている。

彼女を知る人には実に珍しい光景に映ろう。

 

 

「そろそろ行かないとHRが始まるぜ」

 

 

時間を確認すれば始業間近だった。

 

 

「そうね。後でたっぷりとお話しましょうか?」

 

 

「げ……」

 

 

やり過ぎたと今更ながらに後悔しても後の祭り。

帰宅してから降り掛かるだろう紗香の数多くの説教が和らぐ事を祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、ふぅ――何とか……逃げ切れたな」

 

 

紲が逃げ込んだのは体育館の裏手である。

木にある葉っぱが多いものを選択し、その木に登ってカメレオンを真似して風景に同化してやり過ごした。

気配が無くなるのを見計らって息を整え終えて、紲は警戒を解いた。

こういった手合いに追われる事には紲も慣れたものだ。

中学時代、紗香の親衛隊に散々に追い掛け回された経験が今もなお活かされている。

ポジティブに捉えれば、緊張感を持って足腰を鍛えられる。

あまりにも強引に捉えているが、そうでも思わないとやってなど要られない。

紗香の人気は知っているし、紲1人に独占される事への嫉妬なのだと割り切るしかない……のだが、度々紗香も悪乗りが過ぎるので割りきれない時もある。

 

 

「まあ、健司に用でもあったんだろうな」

 

 

このような状況に陥ったのは紗香の冗談の仕業だが、それでも健司に用があると見た。

でなければ増長するような真似はしまい――多分。

 

 

「まあ、さや姉には世話になってるからからかわれる位で済むなら安いもんだよな」

 

 

今回もメイアの件で苦労をさせる予定なのだ。

これくらいのストレス発散には付き合おう。

しょっちゅうされては紲の身が保てないが。

 

 

 

 

 

「ねえ、そこで何をやってるの?」

 

 

 

 

 

隠れていた筈だったが、下から声が掛かった。

そこには央佳の幼馴染みのメイアが訝しい目付きをしながら立っていた。

まあ、人気のない木に登っている時点で怪しさ満点な訳だが。

 

 

「エージェントに追われてたんだ」

 

 

冗談を織り混ぜながら紲は木から飛び降りる。

さすがに登ったままで会話を続けるのは失礼だ。

 

 

「何よ? アンタはどっかの国のスパイな訳?」

 

 

「はは、ノリが良いな」

 

 

取っ付きにくいかと思いきや、紲の冗談に付き合ってくれる辺りは優しい。

そこのところは紗香に近しい。

 

 

「ところでこんなところまで来てどうしたんだ?」

 

 

体育館裏なんて告白のイベント以外に使い道のないスポットだ。

そんなところに好き好んで足は運ぶまい。

 

 

「アンタに聞きたい事があっから探していた」

 

 

これもまた意外だった。

あんなに友好的な態度を一切見せようとしなかったメイアがましてや紲に訊ねたい事があるなどとは初耳だ。

 

 

「よくこの場所だって分かったな」

 

 

「『魔力』を探知したのよ。アンタのは覚えやすかったからたどえたわ」

 

 

さすがは『魔法』に関してのセンスがずば抜けているエルフだ。

紲が関心を示す間にメイアは質問を切り出す。

 

 

「その……央佳とは、どういう関係なの?」

 

 

「央佳と?」

 

 

質問事項がメイア本人ではなくて、彼女の幼馴染みに関する内容なのに少し面喰らった。

邪見にしていたのはやはりポーズだったか。

 

 

「別に、昨日入学式で知り合ったクラスメイトだが?」

 

 

「本当でしょうね?」

 

 

疑いの眼差しを紲に向けてくる。

 

 

「というか、やっぱり央佳が心配なんだな?」

 

 

「な、何を言ってる。アタイは別に純粋すぎる央佳が変な男に絡まれてやしないかだなんてこれっぽっちも心配してないよ!!」

 

 

頬を赤くしながらメイアは捲し立てる。

 

 

「その言い方だと『気にしてます』って風にしか聞こえないんだけど?」

 

 

紲が指摘すると、石化したように微動だにしなくなった。

何やら図星をつついたらしい。

 

 

「ふん!! あ、アタイは央佳の心配なんてしてないよ!!」

 

 

そっぽを向きながら銀色の髪を靡かせてこの場から立ち去る。

 

 

「あっ、おい……」

 

 

呼び止める間もなく、メイアは体育館裏を去った。

 

 

「聞きたい事があったのは俺もなんだが……」

 

 

元々、メイアには央佳の事をどう考えているのか聞きたかった。

どうやら紲が思う以上に彼女は央佳を大事にしているのが分かった。

しかし、それだけだ。

“もっと先の”踏み込んだ場所までは聞けずに終わった。

 

 

今さっきまでの反応から「照れ隠し」で央佳に取っ付きにくい反応を見せていたのかと思っていた。

 

 

しかしながら、紲は“そうは思えなかった。”

ひょっとすると、何か根の深い問題が潜んでいるのでは?

 

 

もっと言うなら――“央佳本人に関係はあるが、事情があって聞けない程の闇を抱えているとか。”

 

 

「はあ、毎度毎度色んな案件が来るもんだ」

 

 

言いながらも彼も見捨てるつもりはない。

例え自身の『魔法』による作用だとしても――紲が彼女を心配に思う気持ちは本物だと確信できるから。

 

 

「って、やべ。HRが始まるじゃんか!!」

 

 

携帯で時刻を確認すると始業1分前だった。

間に合わずに担任の福富にお叱りを受けるのだった。

 




如何でしたでしょうか?

同時で書いているRewriteの二次創作もいよいよ終盤戦へ差し掛かって来ているので少し投稿が遅れ気味かも

次回は来週の木曜の予定ですが、ひょっとすると日曜日に延びるかも

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