新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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今回は少し短めです。


幼馴染みだとお互いの部屋に行き来するものだよね

夜――紲の部屋に紗香が来訪していた。

『魔法相談室』の担当に推薦した理由を聞きたいと言ったところ、紗香が「紲の部屋に来たい」と言ったのだ。

 

 

「相変わらず特撮に力を入れてる部屋ね」

 

 

紲の部屋は机、本棚、押し入れ位しかない。

だが、本棚や机の上には光の巨人やら仮面を付けたヒーローの人形やポスターなど、他にはDVDBOXが置いてある。

紲は見ての通りに特撮ファンである。

蛇足だが、紲は寝相が悪いのでベッドではなくて布団派である。

 

 

「さや姉だって似たようなものだろ」

 

 

そう反論をした。

紗香の方はラノベ好きで、部屋には6段の本棚が6つあるが足りない位だ。

 

 

「こら!! さや姉は止めなさいっての」

 

 

「ご、ごめん」

 

 

紗香本人に「さや姉」の呼称をするのを止めるよう言われていたのに、つい反射的に言ってしまった。

凄まれて注意されたので、条件反射に謝罪をしてしまう。

 

 

「でも昔は『さや姉と呼びなさい』って言ってたのにどんな心境の変化?」

 

 

「べ、べべちゅににゃんぢぇもいいれひょ!!」

 

 

紗香のあわてふためく姿を見るのはこれで初めてという訳ではない。

何度か目撃しているが、何を基準にそんな反応を示すのかを紲は分かっていない。

ちなみに今のは「別に何でも良いでしょ」と無理矢理に誤魔化した。

幼馴染みという長年の付き合いの賜物で理解に及ぶ。

 

 

「それより、私に聞きたい事があるんでしょ?」

 

 

「そうだった。そうだった」

 

 

ポンッと掌を叩いて相槌を打つ。

呼び出した紲の方が用件を忘れるとはこれ如何に。

紗香が呆れるのも仕方無い。

 

 

「紲を『魔法相談室』の担当に推薦した理由……分からない訳がないでしょ?」

 

 

「まあ、分からなくはないな」

 

 

これは“紗香の気遣いだ。”

紲をアゴで濃き使いたい訳ではなく、“紲の体質を考えて最高の立場を与えてくれた。”

 

 

放課後、央佳に伝えたように紲は他人の友情等が崩壊しそうになるのを見過ごせない。

 

 

放置しておきたいと思った事が一度もないのが“問題なのだ。”

 

 

「他人の問題に勝手に土足で入っていく訳にもいかないからね。『魔法相談室』の肩書きがあれば突っ込んで聞けるでしょ?」

 

 

「その通りだな」

 

 

改めて本人の口から言い渡されると頭が上がらない。

 

 

他人の事情に口を挟まれたくないと思うのが普通だ。

知った仲ならともかく、何も知らない他人が首を突っ込むのはお門違い。

 

 

しかしながら、これが“何かしらの肩書きを持っていたら?”

話は確実に変わってくる。

 

 

紲には『魔法相談室の担当』の肩書きがある。

生徒に及ばず、校外の問題にも立ち会えると来たものだ。

と言うことは、紲の体質に関する問題が起きた際に“一緒に関わって解決するのに不自然さは一切ない。”

 

 

「さや姉……本当にありがとう」

 

 

禁忌の単語だと分かりつつ、あえて“その呼称を”用いて礼を述べる。

 

 

生徒会長の「天宮紗香」ではない。

紲の幼馴染み「天宮紗香」へ対しての感謝の弁だから。

 

 

そうだと分かると紗香も悪い気は起こらず、頬を赤くさせながら微笑んだ。

 

 

「っで、実は早速なんだけど巻き込まれちまったんだよね」

 

 

「“またなの?”」

 

 

また――紗香がそう言ったように、紲はそういったトラブルに巻き込まれやすい。

彼の『魔法』が原因の一端があるとは言え、やはり他人を放っておけない彼の心根も要因だと言えよう。

 

 

「さや姉も会った紀藤央佳と彼女の幼馴染みの子の友情に“亀裂を感じたんだ”」

 

 

抽象的な表現だと思われよう。

だが、“これは正しいと言えた。”

意味はそのまま。

メイアと央佳の間に生じている溝が見える。

 

 

「友情にヒビが入ってるのね」

 

 

「ああ、俺の感覚だとそうなるかな」

 

 

あくまで直感で感じてるようなもの。

雰囲気、空気……“どうしても見逃せない”と思ったものに反応をしてしまう。

 

 

細かいものにまで一々反応されては紲の身体が保てないので助かる。

まあ、基本的に大きなものに巻き込まれるので結局は大変な目に遭う。

 

 

「それで? どう対処するの?」

 

 

「まだ思い付いてない。とりあえずは央佳に聞くのが手っ取り早い」

 

 

手掛かりを持つ者がいるなら、その人に当たる。

この手の問題には何度となく巻き込まれてきたから慣れたものだ。

 

 

「はあ……紲だけだと心配だから私も協力するわ」

 

 

「すまねえ。助かる」

 

 

紲だけでは限界がある。

紗香にも健司にも何度か助けられてきた。

 

 

自分は結局は身体を鍛え、『魔法』を磨いた。

だが、それだけ。

何かすごい考えができる訳でも、一発逆転の『魔法』が使える訳でもない。

ボーダーラインは分かっている。

だから頼る――彼の持てる最大の武器は「絆」だから。

 

 

「じゃあ、今度は何を奢って貰おうかな〜」

 

 

「うっ、お手柔らかに頼む」

 

 

毎回ではないが健司……特に紗香にはお世話になってばかりだ。

その度に貸しを付けたり、事件の厄介さに合わせて何かを奢ったりしている。

 

 

高校に入ればバイトもできるようになる。

今後は奢る物がグレードアップしそうだ。

これから紲に命令できる内容(主に奢る方向)に思いを馳せる。

注意深く観察していれば心なしか頬が赤くなっているのが分かっていただろう。

 

 

一方の紲はこれからお財布に振り掛かる大打撃に合掌していたので、紗香の表情を観察している余裕はなかった。

 

 

こうして夜は更けていく。

 




次回更新予定は来週の木曜日です。

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