文体の方もこれから徐々に変えていきます
見易い、見にくいの感想も是非ともお願いします
では、続きをどうぞ。
「勝負ありね」
仰向けに倒れる蒲倉を見て紗香は判断した。
「最近は勉強ばかりで鈍ってるとばかり思ってたわ」
「俺の武器は常に鍛えないとすぐに鈍るからな」
グーパーしながら自身の“
攻撃的な『魔法』の使用ができない紲が戦うに当たって主戦力となるのは己の身である。
手入れを欠かす事をすれば、それだけで鈍ってしまう。
「凄いのです!! 凄いのです!! 紲君はとっても凄いのです!!」
2人の会話に感極まったらしい央佳が「凄い」を連呼しながら紲にタックルし、腹筋へのダイレクトアタックで大ダメージを喰らう。
「ゴド、バァッ!?」
意味不明な悲鳴が紲の口から飛び出し、そのまま仰向けに倒れ込んだ。しかも後頭部までぶつける始末だ。
「い、いってぇ〜」
「ご、ごめんなのです」
「謝るなら退いてくれ」
紲の上に乗っかる形になっている央佳にそう催促した。央佳は自身の仕出かした事に羞恥を覚えたのか、顔を赤くしながら慌てて退いた。
「随分と良い御身分じゃない。女の子に上に乗って貰うなんてね……」
紗香が倒れる紲に追い討ちを掛ける。膝立ちになりながら紲の頬を思いっきりつねる。
「い、痛い痛い痛い!!」
紲は暴れながら紗香の追い討ちを振り切って立ち上がった。
「何をするんだ!! 痛いじゃんか!!」
「知らないわよ」
紲の反論にそっぽを向いて返答する紗香。
「第一に今のは事故でしょ事故」
「女の子に恥をかかせた罰よ罰」
性別を盾にして、紲の反論を真っ向から捩じ伏せる。これ以上の口論で勝てる気が起こらないので話題を逸らす。
「ところでこれで俺が『魔法相談室』とかいうやつの室長になった訳だな?」
「その通りです」
紗香に聞いたつもりだったが、近くにいた千鶴が応答してくれた。
「では、明日から業務を行って貰います」
「ちょっと待ってくれ。俺はまだ具体的な内容を聞いてないのにいきなり業務って言われても……」
「そこは大丈夫です。抜かりはありませんから」
秘書然とした千鶴の態度に感動を覚えてしまう。こういう人がキャリアウーマンと呼ばれるようになるのだろうと感じた。
「だからといって俺は『基礎魔法』が使えないのを覚えといてくれよ」
「はい。分かっています」
千鶴の眼鏡がキラリと光った――気がした。
「それじゃあ、今日は帰って良いわ」
「そうさせてもらおうかな」
紲は生徒会長の御言葉に甘える事にする。健司はさっさと帰り支度を済ませ、央佳も「一緒に帰るのです」と人懐っこい笑顔で言ってきた。
「でも蒲倉先輩に挨拶はしとかないと……」
「それは要らない気遣いだ」
倒れ伏していた蒲倉がいつの間にか目を覚ましていた。
「だが、挨拶するのは構わない。これで『謝る』とか言ったら殴ってる所だった」
「模擬戦とは言ったって、真剣に戦ったんだ。それにお互いに合意の上なのに謝るなんて後味悪いだろ」
さも当たり前のように紲は告げた。嘘偽り無いようで蒲倉としても安心していた。
「それじゃ、お先に失礼します」
紲が最初に言った後に健司と央佳も挨拶をして帰った。
後輩達が帰宅した後、残った生徒会の面々は話をしていた。
「さて、“目論見通りに事は進みましたね”」
千鶴の視線の先には紗香が。
「手加減したつもりなんてないのにな……彼は何者なんだ?」
ついで、直接に相対した蒲倉から見ても紲は「異質」に映った。「異常」ではなくてあくまで「異質」の欄に該当する。
「先程に生徒会長と弟さんが言っていた事を纏めると“この学園の設立者である”神坂幹太さんに教えを受けたのではないですか?」
目聡い千鶴は告げる。
確かに模擬戦前に紗香は紲へ対して「神坂」の名前を出し、央佳へ対して健司も回答を示していた。
バレるのは自明の理か。
「さっすが千鶴。正解よ」
紗香の肯定を受けて蒲倉も「それなら」と納得の意思を見せた。
と言うのも、神坂幹太は教師でもごく一部、生徒会のメンバーで秘密を守れると判断した者にしか伝えらない。
その理由としては「その方がカッコイイから」という子供っぽい理屈だ。
そして、神坂幹太の武勇伝はひっそりと学園で伝えられている。
やれ龍を倒しただの、地球を真っ二つにしただの……いくら『魔法』が栄えても信じづらいものばかりだ。
「っで? 教えてもらった本人や弟さんは知らないのか?」
「健司は知ってるけど、紲にはそれを知る暇はないわ。知ったら神坂さんの手で埋められるか、大海原に放り出されそうだもの」
「あいつがどんな修行をしてたのか聞くのが怖くなって来たぞ」
これが冗談ではないのを紗香は重々に承知している。
付けたすなら、紗香と健司は本人に「普段は何をしてるの?」と聞いたらあっさりと教えてくれた。
結構な目立ちたがりでもあるし、紲の方も無頓着だったのがある。
お互いに師弟関係なのを隠していないし、紲も聞かれれば答えるようにしている。
紗香や健司も「聞かれたら答えちゃえ」と当人達からのお墨付きもあるので今もこうして伝えている。
「それにしても良かった。蒲倉先輩も認めてくれたみただから」
蒲倉の紲への評価が高いと分かると、自然と紗香の方も嬉しく思えてくる
「新原紲でしたか? 余程彼の事を気に掛けているのですね」
「当たり前よ。10年以上の付き合いだもの」
「なるほど、同級生に乗っかられただけで嫉妬してしまう程に彼の事が好きなのですね」
千鶴の返球に紗香はしばし反応できずにいた。そして、内容を頭の中で反芻させて理解に及ぶと――
「にゃ、にゃにゃにゃんでしょんにゃひゃにゃしになりにょろ!!」
(噛んだ)
(噛みまくりだ)
顔を真っ赤っかにさせ、動揺から喋り方も噛んでばっかりだ。
そんな慌てふためいた生徒会長の姿は珍しくて普段の凛とした姿とは対称的で実に可愛らしい。知られざる一面を目の当たりにできたのは得をした気分だ。
ちなみに紗香の言葉は訳すと「な、ななな何でそういう話になるのよ!!」となる。
1年の付き合いはあるので、噛んだところで会話が伝わらなくなる事はない。
「珍しいな。いつもなら『私は好きではありません(キリッ)』ってな感じで言ってそうなんだけどな」
「――――っ!?」
最早赤面という言葉すら適切とは思えない程に、紗香の顔色が七変化する。基本的に赤一色で、濃いのか薄いのかの差分でしかない。
まさしく恋する女の子の初々しさを垣間見せる紗香を千鶴も蒲倉は物珍しげに見ていた。
「しょ、しょんにゃこりょよりみょ!!」
訳すと「そんな事よりも!!」と話題を変えようとしていた。
どうやら紗香は色恋沙汰の話で図星を突かれると動揺を引き起こして噛みまくるようだ。
先程の紗香の幼馴染み――新原紲は学園や巷でもアイドルの扱いを受ける紗香にこうも好かれているのを知っているのだろうか?
「ま、『魔法相談室』の件はこれでOKよね?」
「文句はない。元々がそういう約束だったからな」
ようやくに冷静さを取り戻した紗香に茶々を入れずに、蒲倉は「お手上げ」のポーズで返した。
「それよか、オレはあいつに疑問を感じたぞ」
話題の急転換。そして出だしを聞いて“紗香は内容が読めた。”
「“ちぐはぐ”に感じたでしょ?」
「はい」
ずれていた眼鏡の位置を整え直しながら千鶴も応じた。
「新原紲君の『魔力』の量と扱える『魔法』の質に差がありすぎます」
『魔力』と言うのは等しく人の身にある力――だけども、持っている『魔力』の総量には個人差がある。
当然『魔力』が多ければ『魔法』を使える回数は増える。また『魔力』は訓練次第では増やす事もできるが、劇的な変化は起こらない。
100メートル走でタイムが思うように向上しないのと同じで、『魔力』が増えたとしてもほんの少しだけだ。歳を重ねると自然と増えていくので、大半の人は自然に身を任せる。
さて、ここで問題に上がっているのは紲の『魔力』の総量の件である。
彼の『魔力』の総量は他人とは比較にならない程に“多すぎる。”なのに彼の扱える『魔法』は全くの派手さがない。
エンジンと機体が全く釣り合わない車みたいなものだ。いくらエンジンが世界的に最高峰だとしても、機体がすぐに壊れてしまうような脆さを持つなら意味がない。
紲は『魔力』の総量が多い代わりに放たれる『魔法』が微妙すぎる欠点がある。まさに歪、宝の持ち腐れも良いところだ。
しかし、これだけならば別に疑問点を出す意味もあるまい。
偶然にも紲がそういう目に遭っているのかとも受け取れるものの、千鶴と蒲倉には違和感を覚えるだけの材料があった。
ちなみに会話からも分かるように『魔力』を感じ取る事ができる。
感じ取れるのは『魔力』の量、そして質である。
親しい間柄になれば感じ取った『魔力』で誰なのかを判別する事までできる。
「『魔法』は『魔力』の総量に合ったものを覚えるのが常なのに不思議すぎるだろ」
真っ先に疑惑を抱いた理由は蒲倉の説明の通りだ。『魔法』を自然と覚える際には“今言った内容”のものが彷徨いている。
「そう、ね……」
紗香は何らかの思案をした後に誰かに電話をした。
「もしもし? あんたの事を生徒会のメンバーに話しても大丈夫?」
それから二か三度ほど頷いてから「分かった」と最後に告げて通話を切った。
「新原紲君ですか?」
これまでの話の内容から容易に察せられる。紗香は黙って頷いて返した。
「これから話す事は他言無用で頼むわよ」
紗香の真剣味を帯びた声音に2人は頷く。それを確認してからゆっくりと紗香は告げた。
「紲の使える『魔法』はもっと根本から違うものなのよ」
前回の後書きで放置した部分を回収するとかほざいてたのにしなくてすいません(土下座)
長くなってしまったので今度こそ本当に次回に繰り越します
次の木曜日までに更新の予定です