約2年ぶりの更新です。
お待たせしてしまって申し訳ありません。
言い訳は活動報告にて書かせて貰っています。
では、短いですが続きです。
栄華、メイア、央佳の3名は栄華の従者でもあった日下部と対峙している。
「では、参りましょう」
宣言したのは栄華であった。
彼女は手の平を前へ――――より正確には共に戦う為に立ち上がってくれているメイアと央佳へ向けられていた。
「《龍の鎧》」
栄華が『魔法』を唱えると同時、彼女を含めた3人の身体を金色の光が包む。
「これ、は?」
「一定時間ですが、頑丈になって身体能力が向上します。あとは先程のような状態異常の効果を打ち消せます」
それは頼もしい限りだ。
メイアも央佳も一度とは言え修羅場を潜ったからこそ分かる。
紲や紗香とは異なり、自分達には実戦経験が圧倒的に足りない。
経験値が低いのはメイア達には不利に働く。
状況に流され、悪手を打ってしまう危険性がある。
その際に仲間が危機的状況に陥るのは目に見える。
ならばこそ、その不安を取り除く手段に相手との素の実力差を埋める事も必須となる。
それだけで、心持ちも変わってくる。
頼みすぎるのは良くないだろうが、気の持ち方が変わるだけでも実に大きい。
しかし、栄華は「一定時間」と告げた。
明確な時間を提示しなかったのは、目の前の敵に悟られたくないからだと思っている。
しかし、わざわざ口にするのなら日下部も知っていよう。
何せ、栄華の従者をしていたのなら彼女の『魔法』を知っているのだから。
「鍵を握るのは、わたし達ですね」
「理解して頂けてるようで何よりです」
央佳は状況をきちんと把握していた。
なるべく小声で栄華へ問う。
それを彼女は肯定的な内容で返した。
情報を何も持っていない一生徒の『魔法』こそが突破の鍵なのだ。
知らず、期待が彼女等の双肩に掛かる。
「なら、アタイ達も気張らないとね」
メイアは自分を、そして央佳と栄華を奮い立たせる意味を込めて口を叩く。
結局のところ、メイア達の頑張りで状況が好転するかどうかが決まる。
こういう時、まずは自信を持つべきだと紲や紗香から教わった。
「こちらも準備が整いましたので、参ります」
日下部は律儀にも待ってくれていた。
更には「今から攻める」と宣言まで行う。
何とスポーツマンシップに溢れた精神か。
その精神は大いに助かる。
こちらも準備が整ったからだ。
「《サンダー》」
「《オーグ・サンダー》」
メイアと央佳――――両者の『魔法』が放たれる。
雷が日下部へと飛んでいく。
「っ!!」
《アーマー》は常時発動させているらしく、2人が放った雷へ自ら突撃する。
本来なら体内の水分が蒸発し、一瞬で死に至る。
それを物ともせず、日下部は走り抜けてきた。
「少しは怯みなさい!!」
敵相手に無茶な注文だとは思いながらも心の内をメイアは吐き出した。
彼女の気持ちは実に良く分かる。
メイアと央佳の2人の『魔法』を喰らいながらこちらへ接近してくる日下部が異常すぎる。
「今度は手加減をしませんので」
そう前置きを置くと、日下部は両方の五指をそれぞれメイアと央佳へ向けてくる。
「《龍の盾》」
「《龍の長爪》」
最初に唱えたのは栄華、遅れて日下部だ。
3人の前に半透明の龍の形状の頭部が出現する。
それを真正面から繰り出された伸びる爪を受け止める。
「次が来ます」
「「はい!!」」
ここは栄華の指示に従うべきだと2人も直感的に理解していた。
彼女の判断のおかげで助けられた。
つまり、この場で一番戦闘経験があるのが栄華だと判明した瞬間であった。
「素直に他人の話に耳を傾けられるのは長所ですね」
栄華の言葉に素直に頷く2人を日下部はそう評した。
まとめ役の命に逆らい、失敗するケースと言うのは存在する。
現に栄華の言うように日下部は次なる一手を繰り出そうとしていた。
「《龍の腕》」
直後、日下部の両肩から『魔力』で作られた半透明の腕が出来上がる。
それは、全て栄華へと向けられる。
「《龍の盾》」
しかし、栄華はそれを先程の盾で防御する。
ガッ!! 直撃と同時に放たれた腕は弾かれたボールのようにそれぞれ軌道を変えた。
その行く先は、メイアと央佳だ。
彼女等の首根っこを掴む。
「ぐ、ぅっ!?」
「あぅっ!?」
だが、栄華の《龍の鎧》が作用しているおかげで首を絞められて苦しくなる展開だけは避けられた。
それでも身動きが取れない事には違いない。
「今、助けます」
「そうはさせません」
栄華の行動を阻害せんと、日下部は動き出していた。
否、既に彼女の前に立ちはだかっていたのだ。
「せっ!!」
「っ!?」
支えていた相手とは言えども容赦のないブローが脇へ吸い込まれる形で叩き付けられた。
これも《龍の鎧》による効果で大したダメージはない。
しかし、行使した『魔法』の上から来る衝撃そのものは殺せなかった。
事実、栄華の身体は浮き上がり、真横へと放り投げられた。
正確には殴り飛ばされたに過ぎないのだが、栄華の視点からしてみれば「投げられた」の表現の方が正しく感じられる。
直後、本棚に激突するや、そのまま倒してしまい本を散乱させてしまう。
本棚を敷き、本を布団代わりに掛けられた状態で倒れていた。
「司令塔は先に潰しておくのもセオリーですので」
「栄華!!」
このまま黙って見過ごせないとメイアは動く。
幸い『魔法』を唱える事は出来る。
央佳も『魔法』を発動させようと口を動かしていた。
幼馴染み同士、互いにやろうとする事は気が合うらしい。
《龍の鎧》の効果が切れる前にこのまま2人で同時に『魔法』を放ち、牽制させてやれば――――
「狙いが分かりやすすぎますね」
日下部には2人の行動はお見通しであった。
彼女等を背中から地面へ叩き付ける。
「先程のお二方の『魔法』から狙いを定める必要がある事は分かっています。なので、視界に入れないようさせて頂きました」
向こうから説明される――――否、2人の弱点は一瞬で見抜かれていた。
日下部の指摘の通りなのだ。
2人の『魔法』は遠距離主体のものであるが故に照準を定める必要がある。
つまり、こんな古典的な手法であろうとも“相手が見えなければ成功率はさがる。”
「『魔法』は使えませんよね? 大切なお友達に当たってしまいますから」
「「っ!!」」
2人の考えはお見通しだ――――日下部は暗に告げていた。
狙いが定まらないともなれば、味方への誤射が有り得る。
《龍の鎧》で護られているメイア、央佳、栄華はまだ良い。
だが、先程に日下部に眠らされた面々は違う。
今、彼等彼女等は何の防護手段も無いのだから。
「お分かり頂けましたか? 今がどれだけ絶望的な状況なのか?」
日下部の言うようにメイア達には圧倒的に不利な状況。
数の有利も作れず、栄華の足を引っ張る結果となる。
「《龍の尾》」
横合いから『魔法』が唱えられた。
龍の尻尾をイメージした半透明のものが鞭打つように放たれる。
「ほう」
感心しながら危なげ無しに大きく後ろへ跳躍した。
空を切るが、押さえ付けられた2人を解放する事には成功した。
「ご、ごめん」
「助かりました~」
「気にしないで。こちらも相手の出方を分かっていながら油断していました」
反省会は後回しだ。
互いが互いのミスを帳消しにし合う。
「あなた方が牽制してくれたからこそ、助ける事が出来ましたし、何より今さっきの攻撃で倒される事はありませんでした」
日下部と言う男の強さを嫌と言う程に知るのはこの場では栄華ただ1人。
その彼女が此処まで言うのだ。
メイアと央佳は目に見えない功績を作ってくれていたと考えるべきだ。
本人達の実感が如何に沸かないとは言え、だ。
「頑張ります…………が、残念です。この場に近接戦闘に慣れ親しんだ者が入れば話は変わりましたでしょうに」
日下部の評価はある意味で正しい。
栄華は支援系のサポートがメインなのか、攻撃的な『魔法』は使っていない。
メイアも遠距離を主体とした『魔法』を得意とする。
央佳の種族の『鬼』は近接戦闘も行う者も居る。
しかしながら高校生になったばかりの彼女に「真似をしろ」と言うのは酷な話だ。
「いくら『魔法』が使えても、発動させず、当たらなければ意味がありませ――――」
直後であった。
日下部の身体がメイア達の方へ――――前へと弾かれるように跳んできたのだ。
何事なのかと、一同は騒然とする。
「言い替えるなら近接戦闘の面子が増えるだけで勝てるって事だろ?」
そう言葉を紡いだ乱入者へ視線を向ける。
その者は拳を鳴らしながらズカズカと本来なら静かにすべき図書室へ入ってくる。
あまつさえ、こう宣言してきた。
「なら、オイラが入ってきたら勝ちの目が出てくるって事だよな?」
乱入者の名前は天宮健司。
この学園の生徒会長にして実力者の天宮紗香の弟が、堂々たる発言をして乱入してきた。
如何でしたでしょうか?
何処で区切ろうか迷った挙げ句、こんな中途半端なところで区切らせて頂きました。
では、また次回に。