新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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年明けギリギリで久々の投稿。
しかもめっさ短いですが…………続きです。


天宮紗香VSキリヤ

「せっ!!」

 

 掛け声と共に紗香は己の手に造り出した剣を振るう。

 『魔力』を身体へ巡らせる事で筋力を上げた状態で行う。

 紗香の気合いによる一閃――――それを危なげなく、軽くステップを踏んで後ろへ回避される。

 

「っ!!」

 

 回避される事など百も承知だとばかりに紗香は更に一歩だけ前進する。

 間合いに入り込むや、剣を真横へ一閃する。

 

「よっ!!」

 

 バックステップを踏んで紙一重で回避される。

 まるで躍り出そうかという程の気安さで。

 

「埒が空かない」

 

 紗香からしても周囲の機材を壊すまいと動きにキレが無いのも事実だ。

 それだけに留まらず、そもそも狭い空間で剣を振り回す事そのものが困難である。

 その事をキリヤは承知した上で紙一重で回避している。

 

 大振りになってしまった場合、壁や天井を打ち付ければ紗香の動きに支障が出るのは明白だ。

 相手はそれを知った上で“わざと紙一重で避けている。”

 紗香に大きな隙を作らせる為にだ。

 

(何が過剰戦力よ。随分と強いじゃないの)

 

 キリヤの強さは『魔法』の部分ではなくて、身体能力の高さと戦略性にある。

 

(けれど、このまま黙ってなんかいられない!!)

 

 

 紗香も黙って避けられている程にお人好しな性格はしていない。

 

「こうなったら、後で先生に平謝りするしか無さそうね」

 

 そう呟くと周囲に浮かばせるように剣を数本産み出す。

 

「しっ!!」

 

 短い気合いの発声と共に剣の集中砲火がキリヤに向かう。

 

「んなっ!?」

 

 痺れを切らしたのか、問答無用の攻撃に打って変わったのはさすがのキリヤも驚きであった。

 確かに学校の備品の機材さえ気にしなければ紗香の行動は大幅に制限して戦いやすくなる。

 言い方を変えるなら、行動を制限出来なくなった時点でキリヤに分のある戦いでは無くなってしまう。

 

「ちょっ!!」

 

 咄嗟にキリヤは横へ大きくスライドさせながら飛び退く。

 一瞬の後、彼が立っていた場所に数本の剣が突き刺さる。

 危うく串刺しにされる所であった。

 

 しかし、安堵に弛緩している暇は与えられない。

 紗香は休む間もなく新たに剣を造り出していた。

 

「ちょっと、タイム!! そんなんじゃ学校の備品を壊してしまう事になるッスよ?」

 

「それも仕方無しよ」

 

 つい先程に彼女の呟いた内容からも本気具合が伝わってくる。

 さもあらん。緊急時にそういった物に気を配っている暇がないのは確かな話だ。

 

 彼女の決意が嘘ではないと証明するかのように更に剣が造られる。

 紗香の周囲に浮かび上がり、直後にキリヤめがけて投擲される。

 強力な盾を失った以上、回避に専念しなくてはキリヤは串刺しにされる。

 

「それは勘弁ッス!!」

 

 テーブルを1つ投げ付ける。

 キリヤに直撃するよりも前に剣が突き刺さり、阻害される。

 だが、全てを遮れる訳ではない。

 残り全てがキリヤへ向かって来る。

 しかし、それは届かなかった。

 

 窓が独りでに開いたかと思えば先程に栄華が何処かへ飛ばされてしまったのと同様の現象が発生した。

 今度の対象は紗香ではなくて“キリヤ自身に起きた。”

 彼の身体が吸い込まれるように窓の外へと放り投げられる。

 しかし、彼自身は“実際に外へ放り出された訳ではない。”

 窓を出た瞬間に姿が全く見えなくなったからだ。

 

 結果、紗香の放った剣は全て床に突き刺さって空振りに終わる。

 

「またっ!!」

 

 自分を対象としても発動可能な『魔法』だとは予想していたので驚きは少ない。

 むしろ、そういった判断を瞬時に行えるだけの経験を積んできたと考えられるだけに紗香にとっては恐ろしさを抱く。

 

(落ち着け)

 

 この状況は確かに紗香にとっても面倒な事には変わらない。

 けれど、キリヤの『魔法』の種も割れてくる。

 

(あの『魔法』そのものには直接的な攻撃手段が皆無の筈よ)

 

 彼の扱う『魔法』から推測は可能である。

 あくまで可能性の一端でしかないので、確定させるにはまだ証拠が不十分だ。

 

(けど、少し分かった事がある)

 

 キリヤの行動は『魔法』を介した移動法だ。

 『魔法』が使われている以上、発動に必要な『魔力』というものは必ず捻出される。

 

(早い話、キリヤの『魔力』さえ見付けてしまえば補足は可能ってこと!!)

 

 彼の『魔力』は真正面で向かい合う事で見せて貰った。

 あとは補足するだけで良い。

 

(言うは簡単なんだけど――――)

 

 これはキリヤの『魔法』の特性か、はたまた彼の経験値の高さ故か、全く以て『魔力』を感知する事が出来ない。

 そうなると、こちらから攻め込むのは困難である。

 相手から攻め込まれるのを待つしかない状況になってしまう。

 

「仕方無いわね」

 

 自分に出来ない事は出来ない。

 そう言い聞かせ、紗香は目を閉じる。

 『魔力』に頼れないなら人間の五感に頼る他に道はない。

 

 耳を済ませ、神経を尖らせろ、空気の乱れさえ読み取れ――――。

 

「そこっ!!」

 

 開けられた窓へ向けて剣を投擲する。

 

「わわっ!!」

 

 慌てたようにキリヤが窓から顔を出したかと思えば引っ込んでしまった。

 そこから何のアクションも起こる事はなく、剣が窓に“吸い込まれていった。”

 

 窓の外へ放り出された訳ではない。

 紗香が産み出した剣は自分の意思で解除するか壊されない限りは現存し続ける。

 『魔力』を流したという事もあり、剣からの『魔力』も感じ取れる。

 紗香の創った剣はまだ生きている。

 

(何処に――――)

 

 紗香の抱いた疑念はすぐに晴れた。

 入り口の扉が独りでに開いたかと思えば、そこから先程の剣が勢いよく飛び出してきた。

 

「まず……っ!?」

 

 紗香が投擲したのと同等の速度で迫り来る。

 しかし、紗香の『魔法』であるが故に解除する事で当たる寸前に霧散して消えた。

 判断が遅れていれば、串刺しにされていた。

 

「これは、骨が折れそうね」

 

「そうッスよ。この『魔法』はちょっとやそっとじゃ破れないッスから」

 

 姿が見えないが、窓の向こうから自信満々に告げてくるキリヤの声がする。

 紗香もこのままではじり貧なのは明白である。

 何らかの手を講じない限りは、いたちごっこを続けるだけとなろう。

 

「けど、いつまでも尻尾を追い掛けてるつもりもないから――――――一気に片付けさせて貰うわよ」

 

「え?」

 

 紗香の宣言にキリヤは面喰らう。

 確かに位置は把握されてしまうのは致し方ない。

 だが、キリヤの『魔法』を掛けた状態の窓へと放り込めばどうなるのかは分かっていよう。

 

「対処法ならいくらでも思い付くわ」

 

 確かにキリヤの『魔法』は素晴らしい。

 紗香の『魔法』を別の入り口から別の入り口へと繋げた。

 その結果、自分で自分の『魔法』を喰らいそうになってしまった。

 

 しかしながら、それがキリヤの空間を操る『魔法』の応用だというのは即座に理解できる。

 何せ、窓から吸収して別の扉から出す――――こんなにも分かりやすい方法を教えてくれたのだ。

 紗香はこれでも修羅場を潜り抜けた経験もある。

 どうすれば良いか、思い付くのも早い。

 

「どんな方法で来るのか、楽しみにしてるッスよ」

 

「楽しみにしてる余裕はあるかしらね?」

 

 言うと紗香は細長い剣を1本手元に創造した。

 声のする方――――窓へと剣を放り投げる。

 しかしながら、分かりきってはいたが剣が窓の中へと吸い込まれていき…………

 

 

 

 

 

「《エクスプロージョン》」

 

 

 

 

 

 吸い込まれている剣が突如として爆発を引き起こした。

 

「がっ、あ…………づぅっ!?」

 

 窓からキリヤが這うように出てきた。

 爆発を受けた筈だが、外傷は殆んどない。

 恐らく、《アーマー》を使用することでダメージを軽減したのだと考えられる。

 それでも爆発によるダメージは生半可なものではない。

 

「これでも意識があるなんて、存外にタフね」

 

 無論、紗香の放った『魔法』もかなり鍛え上げている。

 大抵の相手は《アーマー》を使用しても爆破の衝撃で意識を昏倒させられる威力もある。

 それを耐えるのだからそれだけ《アーマー》も高性能なのであろう。

 けれども、目論見通りに引きずり出す事に成功した。

 ダメージも大きいようで、身体も上手く動いてはいない。

 

「まさか、こんな…………方法を」

 

 恐らくだが、この手段はキリヤが“今の『魔法』を知らなかったからこそ食らったものである。”

 偶然ではあるがキリヤに手の内を見せていなかった紗香の勝ちだ。

 とは言え、もう同じ手は通用しないと思われる。

 だから、紗香は決して油断をしない。

 

「悪いけれど、手加減できる相手じゃないみたいだから」

 

 紗香は最大限の警戒をしていると暗に告げ、次の『魔法』を行使した。

 身動きの取れないキリヤを拘束する必要があった。

 

「《ソード・フロア》」

 

 床に手を付けて『魔法』を発動させる。

 この前、圧山剛毅へ使用したような剣山を出現させるのではない。

 手首、腕、足、腰回り――――それらの箇所を地面から小さな剣でアーチを描いて覆うように出現した。

 剣による手錠とでも言わせて貰おうか。

 地面とベッタリさせた状態なので手錠とは正確には言えないが、それでもキリヤが身動きを取るのは難しい話だ。

 

「拘束するつもりッスか? 無駄ッスよ。こんなもの脱け出して…………」

 

「まさか、そんな“生温い選択をする訳がないじゃない”」

 

 キリヤの言葉をぶった斬り、紗香は告げる。

 紗香は決してキリヤを過小評価していないのは先程も説明した通りだ。

 何なら、この拘束をしているのが逆に過大評価をしている証拠だろう。

 

「正直、あんたの『魔法』は厄介以外の何物でないわ。これだけ学校を我が物顔で使われても困るもの」

 

 キリヤの『魔法』は印象自体は地味だが、こと建物等があるこの場においては実に強力。

 捕らえるのも苦労した位なのだから。

 だから、ここでキリヤを捕らえられたのは一番大きい。

 そして、彼を無力化できるのも――――。

 

「じゃあ、これで終わりにさせて貰うわ」

 

 手を上へ翳す。

 天井に届く程の大剣を紗香は『魔法』で作り出した。

 

「安心して、刃は潰してあるわ。それでも――――怪我はするでしょうけどね」

 

「まっ…………」

 

 キリヤは恐らく「待った」と言おうとしたのだろう。

 しかしながら、紗香は聞く耳持たずで大剣を振り下ろす。

 

 ゴォッ!! 教室に響く鈍い音。

 無防備なキリヤの背後に叩き付けた。

 口を大きく開け、キリヤは白目を剥いて気絶した。

 




如何でしたでしょうか?
これでも合間合間に何とか執筆していってこれだけしか進めなかった。
それでもきりの良いところまでで、何とか今年中には載せたかった、載せたかったんですよ。

そして、本編は紗香が危なげもなく勝利――――という内容でございます。
改めて彼女の強さを再認識して頂けたと思っています。

これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします。

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