少し小分けにしていきます。
学校で何事もなく過ごせる――筈はなかった。
放課後が訪れるまで紲は質問攻めにあった。
内容は専ら栄華との関係である。
健司も初耳のようで聞きたそうにしていたが、何分紲に群がる人の数は凄まじい。
アイドルが転校してきて群がられている錯覚さえ感じる。
悲しい事は紲に向けられる視線が好意や興味ではなく、嫉妬が大部分を占めていた事か。
一応、彼女は紲が担当している『魔法相談室』の関係者だという事で落ち着かせはしている。
だが、それだけとは考えにくい栄華の態度を皆は忘れてはおるまい。
その内に大爆発を起こしそうで、今から紲は戦々恐々とさせられる。
とにもかくにも、そんな居心地の悪い学校生活を何とかやり過ごす。
明日には鎮静化している事を神様に祈りながら紲は朝に紗香と栄華と話した場所を目指す。
この近辺の漫画喫茶を1人でローラー作戦する。
当初は栄華と紗香も同行する予定ではあったが、栄華は龍宮コウジに顔を知られている。
紗香も雑誌の取材などで顔を広く知られている。
栄華の部下達も動けば龍宮コウジの包囲網に引っ掛かる可能性があり得た。
残る紲に関しては向こうも知るまい。
なので紲1人だけでこの付近の漫画喫茶を回る事となった。
「まずは此処だな」
既に帰宅して私服に着替えてはいる。
制服のままでは目立つからだ。
紲は紺のズボンにフードの付いたチャック式、袖は白くて他の部分は黒の上着を着ている。
チャックは首元まで上げている。
「何時間のご利用ですか?」
「2時間で」
フロントで多目に時間を取る。
料金は全て栄華が出してくれる事になっているが、できるだけ使わせないようにしたい。
自身に宛てられた部屋へは行かずに一番上の階からしらみ潰しに部屋を見ていく作戦だ。
万が一、店から出た事を考えて栄華の部下が分からないように近くのファミレスなどで待機している。
紲も安心して龍宮コウジとやらを捜索できる。
「いきなり当たってくれれば楽なんだけどな」
ぼやきながらエレベーターで一番上の階へ。
顔は栄華から渡された写真があるので大丈夫だ。
今日は平日という事もあり、利用者が少ないのは幸いである。
ただ、一番の問題は――
―――完全な個室だと分からないんだよな。
上から覗けるエリアなら良いが、もしもそれが不可能な場合は本当に困る。
ほぼ確定で発見が不可能となるからだ。
そこの辺りを栄華や紗香と相談しておくべきだったと今更に後悔している。
―――メールだけでもしておこう。
もしも話し声で気付かれたとしたら間抜けにも程がある。
うっかり龍宮コウジの名前を出そうものなら余計にだ。
なのでメールで彼女達へ連絡を取る事にした次第である。
ややあって、栄華の方から返信が来た。
内容は「そちらに関しては問題ない」との事だ。
紲には分からないだけで彼女なりの考えがあるのかもしれないと考察した。
そう思い、深くは考えずに捜索を再開する。
1時間で部屋だけでなく、可能な限りに見て回ったが目当ての人物は見付からなかった。
まだ時間があるので出来る限りは探すが時間は惜しい。
一先ずは栄華にメールを送った。
すぐに彼女から返信が来た。
内容は「自分に宛てられた部屋へ行ってくれ」とのものであった。
何の事やらさっぱりなのだが、他に宛もないし言う通りに。
念のために周りからは見えない一室を選択していたのは正解だったらしい。
せっかくなので漫画を数冊とスープを手に部屋へ行く。
着いた旨を伝えると、今度はURLの添付されたメールが届く。
ここへアクセスをしてくれとの事のようだ。
何はともあれ時間が惜しい紲は即座にキーボードに飛び掛かる。
「これは……」
そんな声が出てしまう。
栄華から教えられたURLは彼女が独自に作り上げたサイトへと繋がるようだ。
しかもそこにはいくつかのモニター映像が映し出されている。
その中には紲自身の顔も含まれていた。
「はは、そういう事か」
察するに容易かった。
つまりは漫画喫茶の監視カメラの映像だ。
何処にあるのかは分からないが、少なからず顔が映せる位置にあると分かる。
なるほど、これで彼女が完全な個室を無視しても良いと言った理由が判明した。
―――龍宮コウジは……
栄華から託された写真とにらめっこする。
そうまで運の良い事があるかと思ったが……まさかの一発目でOKが出た。
映像の1つ、そこに龍宮コウジは映っていたのだ。
あっさり――現状で表現ふるには的確と言えるか不安だが、何にしても早期発見は紲も望むところだ。
栄華に一報を送ると、彼女から戻ってくるように命を受ける。
こんな場所で騒ぎを起こしたくない。
それに協力者の可能性を考えると、下手な動きはしたくない。
スープを飲み干し、漫画をそのままにして紲はフロントへ戻る。
「時間はまだ残っていますがよろしいでしょうか?」
「はい」
これ以上の長居は無用だ。
「あの、申し訳無いッス」
オレンジという派手な色の着物に身を包んだ眼鏡を掛けた青年に声を掛けられる。
この場には紲とフロントの人以外には居ない。
最初はフロントかとも思ったが、向こうは紲の方を見ていた。
「えっと……何か?」
「この辺りにコンビニってないッスか?」
この辺りの事に疎いのだろう。
紲は「ある」と返す。
「良ければ教えようか? どうせ俺も外に出るし」
「助かるッス!!」
向こうの口調が砕けて――というか、砕け過ぎていたので紲もついつい友人に接するような態度になる。
如何でしたでしょうか?
今回はエンカウントと言う事で、とある人物とのエンカウント。
少し長くなりそうなので冒頭でも書いたように小分けにしていきます。
ではでは、続きはまた来月末の予定です。