新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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お待たせしました

続きです


動き出すのは……

「では、あとは私が」

 

「お願いします日下部」

 

 紲達が捕まえた男2人の身柄は栄華の従者の男――日下部とやら――が引き受けた。

 彼等をどうするのか考えていた事もあり、大いに助かる。

 

 一先ずは落ち着いた場所で話を聞きたいので移動する事に。

 

「っで? ここな訳か」

 

 着いたのは紲が室長を務める『魔法相談室』だ。

 紲は自分の定位置とされている部屋の奥側にある窓際の付近に置かれた机と椅子へ。

 紗香と栄華はパイプ椅子を2つ取り出し、紲の机の前に並んで座る。

 

「仕方無いじゃない。今は昼休みなんだから」

 

「それもそうか」

 

 あの時は周りには誰も居なかったから良かったものの、現在の時間だと食堂は学生が溢れている。

 喧騒があれど、壁に目あり障子に耳ありだ。

 それに栄華の容姿で人目を惹かない理由がない。

 更にそこへ天宮紗香も加われば当たり前だとしか言えない。

 

「さて、聞かせてもらうわよ」

 

「はい。では、わたくしを狙う存在の話から」

 

 そこで一区切り。

 栄華は紲達が聞きたいであろう内容から入る。

 

「わたくしが狙われる理由は至極単純――一族の長の娘だからに他なりません」

 

「栄華さえ居なくなればその人が次の長になれるから狙われているのか?」

 

「はい。その通りです」

 

 念のために紲は内容を確認する。

 認識を違えて話がこじれてしまうのは避けたかった。

 

「政権争いって事ね」

 

「ですが、わたくしとて長になれるとは限りません。血縁に関係なく、実力を持つ者が選ばれます」

 

 龍人はかなりの実力主義社会のようだ。

 だとすれば、栄華とて次の長になれるかは不明である。

 

「じゃあ、栄華を付け狙うのは……次期族長を狙う存在ということなのか?」

 

「その通りです」

 

 何とも分かりやすい。

 しかし、政権を握りたがるのは世の常だ。

 その位置に近いのが栄華なのは間違いないので、彼女が狙われるのも必然と言えた。

 

「人数の程は今も調査中です。ですが、リーダー格については把握しております」

 

 栄華は言うと、1枚の写真を取り出す。

 紲と紗香に見えるように向ける。

 

 写真には青色の着物の小太りの男。

 スポーツ刈りで、鼻の近くにあるほくろ以外に特徴は見受けられない。

 写真なので確かな事は言えないが、身長も紲と対して変わらないように見える。

 

「彼は龍宮(たつみや)コウジです」

 

「彼が黒幕って訳?」

 

「はい」

 

「しかし、そこまで分かってるなら自分達でどうにかしたら良いじゃないか」

 

 敵の素性が割れているなら殴り込みは「あり」だ。

 長の娘という肩書きを使えば人は集まろう。

 最悪、親に頼んでしまえば良い。

 

「ごもっともでもあります。ですが、父は『これも試練だ』と仰有いまして……」

 

「自分の力で解決しろって言ってきた訳だな」

 

 自身の師も似たような事をしてきたので親近感が湧く。

 

「正確には、わたくしの身内以外の信頼できる人に協力を要請して対処して欲しいと言われました」

 

「何でまたそんな風にまどろっこしい事になってるの? 最初から身内と連携を取った方が早いと思うのだけれど……」

 

 紗香の言う通りだ。

 問題の対処なら分かり合っている面子で挑むのがベストだ。

 何故わざわざ外部へ協力を要請する必要が出てくるのか?

 

「証拠が無いので立証が出来ないのです」

 

「という事は、その龍宮って人も高い権力がある訳ね?」

 

 確認するように栄華に問う。

 

「何でそう思うんだ? 龍宮って奴が高い権力を持ってるって?」

 

 紲は素直に出てきた疑問を投げる。

 

「だって、栄華が消えただけで次期長の座に付ける可能性が無ければ、そもそも彼女を付け狙うリスクを負う意味はないわ」

 

 栄華が長の座に一番近い。

 その彼女の次点に位置する者が龍宮だとしたら、その1つ上に居る栄華を消せば目的の座に着ける可能性が飛躍的にアップする。

 トップの娘の命を狙う理由ならば十分と言える。

 

「龍宮コウジを捕まえる事に協力して下さい」

 

 栄華は頭を下げる。

 その姿を見て頭を掻きながら紲は呆れたように切り返す。

 

「頭を上げてくれよ。別に断るつもりなんてない」

 

 出会った時から栄華は紲に信頼的だった。

 それが虚偽だとは思えず、彼女の事は自然と受け入れていた。

 信頼を寄せてくれている理由は分からない――だけど、それでも“嘘偽りのない”信頼を紲は蹴飛ばせない。

 

「俺にも手伝わせてくれ。お前が繋げたい絆がそこにあるってんなら」

 

「ったく、本当に御人好しなんだから……」

 

 紲が手を貸す理由が実に単純なんだろうなと紗香は予想した。

 それが大当り過ぎて、紲も苦笑をしてしまう。

 

「まあ、あんたが信じるなら私も信じるわ」

 

「紗香様も随分とお人が良いです」

 

 人の事は言えないぞ――とでも言いたげな栄華の発言。

 紗香は「まあね」と当たり前のように返した。

 

 知らぬ間に芽生えた友情。

 それは新原紲と言う少年を通じてできたもの。

 互いに妙な縁だと笑い合う。

 知らぬは、本人ばかり。

 紲と言えば、頭に巨大なハテナを作るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと見付けたッスよ、コウジさん」

 

 オレンジという派手な色の着物に身を包んだ眼鏡を掛けた青年の声がする。

 

「うるせーぞキリヤ 」

 

 名前を呼ばれたのは龍宮コウジ。

 彼はまんが喫茶のリクライニングルームにてくつろいでいた。

 

 キリヤと呼ばれた青年へ龍宮コウジは注意を促す。

 

「って、思いっきりくつろいでるッスね……」

 

 龍宮コウジの様相を見て、キリヤは呆れた。

 紲達が写真で見た服装とはうって代わっていた。

 藍色のジーパン、上は黒のトレーナーに銀色のベストを羽織っている。

 

「栄華お嬢の命を狙ってるんだ。これくらいの用心は当然だろ」

 

 ただ淡々と、それを当然と言わんばかりに龍宮は告げる。

 

「にしてもよくここに来るの遅かったじゃねえか。連絡しただろ」

 

「まんが喫茶にいるってメールは来たッスけど、何処に居るのかまでは聞いてなかったッスよ!! 連絡返しても全然返信は来ないッスし」

 

「ん? あー悪い。寝てた」

 

 キリヤに言われてスマフォを取り出して確認する。

 確かにメールが来ていた。

 

「もう良いッス。コウジさんがそうなのは知ってましたから」

 

 大きく肩を動かして落胆してみせる。

 龍宮コウジの性格は何だかんだで把握している。

 それを覚悟で彼に付き従っているのだから。

 

「っで? どうした訳? 寝たいんだけど?」

 

 言うだけ言うと欠伸を噛み殺しながらキリヤに応対する。

 

「龍崎栄華の居場所が判明しました」

 

「へえ」

 

 眠気の吹っ飛ぶ内容だ。

 ようやく興味を示した事にコウジは安堵する。

 

「それが……あの天王寺学園でして」

 

「あん? そこって確か神坂幹太の奴が造った学校じゃねえか」

 

 学園名を聞くなり、龍宮は途端にめんどくさそうな顔になる。

 

「まあ、本人がでしゃばるとは思えねえが……仕方ねえ」

 

 気だるそうに立ち上がる……が、すぐに獰猛な笑みに変わる。

 面白い獲物を発見した――とばかりだ。

 

「んじゃ一丁行ってみるかな」

 

「あの~、行くって何処へ?」

 

 タラーンという効果音と共に冷や汗が流れる。

 キリヤが不安そうに龍宮に訊ねると、返ってきた答えは案の定だった。

 

「天王寺学園だよ」




いかがでしたでしょうか?

次回は来月に更新予定です

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