新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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お待たせ(?)しました。

無駄に新シリーズ突入です!!


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一方的に知っている関係というのはよくある……のか?


 畳と障子、実に日本風な一室で正座している少女が居た。

 オレンジ色の花柄の振袖を着た腰まである金髪の少女だ。

 目付きは鋭さを持っていながら、凛とした佇まいをしている。

 凛として格好良い――きっと少女の事をそう評する人は多そうだ。

 

「栄華お嬢様。準備が整いました」

 

 その部屋に1人の30代程だろう男が姿を見せた。

 彼女とは対称的にスーツで身を固めていた。

 

「分かりました。では、行きましょう」

 

 栄華と呼ばれた少女は男の到着を待っていたようだ。

 立ち上がると、部屋を出る。

 

「ようやく、会えるのですね」

 

 いつもよりも心なしか歩きが速くなる。

 着物の内側にポケットがあるようで、そこから1枚の小さな紙を取り出した。

 

 多少の汚れはあるが、名前が書かれているので名刺のようだ。

 その名刺を眺めた栄華は、人物の名前を呟く。

 

「新原紲様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 背中に掛けられる謝礼の言葉。

 別に助けた礼を言われたのではなく、買い物を済ませた者が店員から頂くお礼の言葉だった。

 

「何が悲しくてこんなのを買ってるのかね……」

 

 学校帰りに寄った店を出た新原紲は手元にある今しがた購入した商品の入った袋を眺めて1人で呆れていた。

 

 この中には名刺が入っている。

 紲の幼馴染みで現生徒会長の天宮紗香が設立してくれた『魔法相談室』の室長である紲の名刺だ。(メンバーは紲しかいないが)

 

 こんなのを作るのも、彼が行う『魔法相談室』は圧倒的に知名度が足りない。

 テロリスト組織を壊滅させたなんて話を言い触らしたところで信じてくれる人がどれだけ居るのかも分からない。

 

 それを打破すべく、紗香は名刺を業者に依頼して作ってくれた。(生徒会の予算を使って)

 今、紲は出来上がった名刺を受け取りに来た訳だ。

 

「まあ、仕方無いか」

 

 とにもかくにも、紲を思っての行動だ。

 それを嬉しく思わない筈がない。

 

「うし。さっさと帰るか」

 

 帰宅後の楽しみにとっておいてある特撮のDVDを観たいが為に歩く足も心無し速くなる。

 さて――と、彼が一歩を踏み出した矢先だった。

 

「申し訳ありません」

 

 その言葉が紲に向けられたものだとすぐに分かった。

 彼の目の前にオレンジ色の花柄の振袖を着た目付きは鋭さを持っていながら、凛とした佇まいをしている金髪の少女。

 彼女の真っ直ぐな視線が紲を見ていたからだ。

 

「えと……俺?」

 

「はい」

 

 呆然とする紲は周囲を見回しながらも訊ねてみた。

 ひょっとしたら自分ではない他の人物へ向けられているのやもしれないと思って。

 しかしながら、彼女は紲しか見ていなかった。

 少しむず痒さを感じながらも紲は次の言葉を待った。

 

「実はわたくしはこの街に来るのが初めてでして、道が分からないのです。道案内をお願い出来ないでしょうか?」

 

「俺がですか?」

 

「はい」

 

 見たところ良いところのお嬢様にしか見えない彼女が1人で出歩くとも思えない。

 この街で着物は目立たない訳ではないが、様々な種族が存在する今では別に奇異の眼で見られる事もない。

 それとは別に彼女の「凛々しくも美しい」と付けたくなる容姿が目を引くだろうが。

 

「俺で良いんですか? 誰か一緒に来た人とかは?」

 

「確かに居ますが、その者には別の用事がありましたので。わたくしは1人で散策に来た訳です」

 

「随分とアグレッシブだな」

 

 頼まれたからには引き受けるのは紲の信条だ。

 だが、どうしても腑に落ちない点はある。

 

「俺があんたをどっかに連れ込むとか考えないのか? どっか良いところのお嬢様に見えるから誘拐だって有り得るぞ」

 

 引っ掛かったのは紲に迷わずに全幅の信頼を寄せているように見える事だ。

 上から目線や態度で紲に命令してる訳じゃない。

 対等な立場で協力を求めている。

 

「いえ、あなたはそんな事をする人ではありません。それに、仮にそうだとしてもわたくしは喜んで受け入れましょう。それと無理に敬語を使わないでも大丈夫です。普段通りで構いません」

 

「……」

 

 こいつ本当に女か?――と思う程に彼女の思考回路はぶっ飛んでいた。

 逆にそう思わない理由が見付からない位だ。

 

 おまけに紲に何か性的な事をされても構わないと言い出した。

 これが「優秀な護衛が居るから」と理由付けてくれるならまだ分かる。

 だが、彼女は“紲が何をしようと受け入れている腹積もりだ。”

 出会って5分程度の相手にそこまで言い切る根拠を教えて欲しい位だ。

 

「戸惑うのも無理はありません。ですが、わたくしの『魔法』がそういったものであれば納得がいくのではないでしょうか?」

 

 彼女の言葉でその結論に紲は至った。

 人の心を覗き見るとか、悪意を感じ取れるとか――そういった感情面を見破る『魔法』も存在する。

 彼女はそういう種類の『魔法』を使役できる事になる。

 

 ならば、紲もようやくに納得ができる。

 

 

「了解。そしたらリクエストはあるか? ご飯を食べたいとか本屋に行きたいとか」

 

 ならば何も言うまいと、紲は訊ねる。

 彼女はしばし考えた後に「では」と1つ言葉を挟んでから伝えてきた。

 

「ファーストフードなるものが食べたいです」

 

「ファーストフードか……」

 

 それくらいなら紲にも奢れるし、近場にはいくらでもある。

 

「それじゃあ、行くか」

 

「はい。お願い致します」

 

 近くにあるファーストフード店が何処なのかを思い出しながら、紲は目的地を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処がそうなのですか……」

 

 紲が案内したのは全国でチェーン店を出しているハンバーガー屋である。

 彼女にとっては未知なる領域なのか、目を輝かせてばかりだ。

 

「お~い。注文するぞ」

 

 店内を見ていた少女に紲は声を掛ける。

 カウンターで買う際にメニューを決める必要がある。

 何を食べるのかはさすがに紲には分からないので、彼女に選ばせるしかない。

 

「このメニューの中から食べたいのを選んでくれ……1つだけな」

 

 紲のお財布事情を考えると、最大で500円位が限界だ。

 会って間もない彼女にそこまでしてやる義理はないのだが……『魔法』とは言え、自分を信じてくれている彼女の気持ちを無下に出来ない。

 500円位で済むなら安いものだ。

 

「それでしたら、これを食べてみたいです」

 

 選んだのは100円で買えるハンバーガーだ。

 チーズが入っていたり、フィッシュなどではない普通のハンバーガー。

 

 財布に原爆を投下されるよりはマシだが、こんなので良いのか?

 

―――まあ、本人が良いって言うなら良いか。

 

 とりあえず自分の分も込みで、ポテトとドリンクもセットのものを2つ注文した。

 2人分を用意して貰った後、空いているテーブルに座る。

 

「ほれ」

 

「ありがとうございます」

 

 真正面には着物の金髪少女が座っている。

 金持ち然とした彼女は場違いな気もするが、別段気にした風もない。

 

「では、頂きます」

 

 覚束無い手付きではあるが、ハンバーガーの包装紙を外してかぶりついていた。

 

「ファーストフードが初めてみたいな事を言ってた割りには……食べ方を知ってるんだな?」

 

「今時はテレビやインターネットもありますから。食べ方位は分かりますよ」

 

 少しムッとした表情を作られる。

 それもそうだ。

 マンガやアニメなんかだと、金持ちキャラは包装紙を外す事を知らないなんて事がある。

 

「悪い悪い」

 

「アニメやマンガとは違いますから」

 

 心を見透かしたような発言――それも彼女の『魔法』によるものか。

 案外顔に出てたのやもしれない。

 

「それよりも……」

 

 ハンバーガーを食べるのを一旦止めていた。

 何を言い出すのかと紲は疑問に思ったが、すぐに解消された。

 

「ありがとうございます。支払ってくれたのですよね?」

 

「まあ、大した額じゃないしな」

 

 本当はキツいものがあるが……女子に支払わせるのは何となく気が引ける。

 信用してくれた礼みたいなものと解釈してくれるのが一番丸い。

 

「お優しいのですね」

 

「優しいだけじゃ世間は渡れないけどな」

 

 随分と皮肉めいた事を言ってしまうが、その言葉は紲にとってブーメランでしかない。

 

 彼は師匠や紗香の助けが無ければ人に良いように利用されて潰されていたかもしれない。

 でも、その生き方を突然変えられる筈もない。

 新原紲は人との繋がりが無ければ生きて行けぬ人間なのだから――。

 

「確かに……優しいだけでは利用されてしまいます」

 

 唐突に、少女は紲の弁を肯定した。

 ですが――と、言葉を続けながら。

 

「こうやって打算も何もなく、手を差し伸べてくれる人がわたくしは好きです」

 

「ありがとな」

 

 面と向かって紲の在り方を、初対面で肯定してくれ貰ったのは初めてかもしれない。

 嬉しさもある反面、むず痒い気持ちになる。

 

「いえ。あなたには返しきれない恩を頂いていますから」

 

「そんなオーバーな……」

 

 ハンバーガーを奢った位で「返しきれない恩」などと言われるとは思わなかった。

 

「あら……」

 

 不意に少女は何かに気付いたようで、着物の懐に手をやった。

 そこからスマフォを取り出した。

 マッチしなさそうな組み合わせではあるが、現代でスマフォもしくは携帯を持たない人が少ない位だ。

 こんなのは当然の事の筈だ。

 

「すみません。用事が出来てしまいました」

 

 残っていたハンバーガーを食べ切り、飲み掛けのドリンクも飲み干す。

 ポテトは食べきれなかったからか、残りは紲に渡した。

 

「気にしなくて良いよ」

 

「ありがとうございます。近い内に恩を返しに参りますので、またお会いしましょう紲様」

 

 口早に言うと、少女は立ち上がってこちらに一礼してから去っていく。

 

「やれやれ……」

 

 紲は少女の残したポテトを次々に口に運ぶ。

 その際に、ふと気付いた。

 

「何で俺の名前を知ってたんだ?」

 

 お互いに自己紹介は済ませていない。

 こちらも向こうの名は知らぬと言うのに……何故向こうは知っていた?

 『魔法』だからと言われては、紲は口ごもるのだが……。

 

 生憎と、訪れた疑問に答えてくれる人物は既に居なくなっていた。

 

 

 




如何でしたでしょうか?

新キャラ登場!! いったい何者なんだ……?

そして紲を知っている理由は?

ではでは、この辺で!!

次回も3週間後位にできれば。


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