新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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本当に大変お待たせしました。

今年終わるギリギリというね。

書き上がりましたので続きをどうぞ!!


天宮紗香の想い

 天宮紗香が新原紲に“特別な感情を抱いた”時がいつだったのかは明確に覚えている。

 きっと、天宮紗香の中では一生色褪せずに記憶に鮮明に映像として出てくる。

 

 新原紲は幼馴染みだ。

 生まれた時から隣同士であった事は話しただろう。

 “初めから紲と今程に仲が良かった訳じゃない。”

 

 紲が『基礎魔法』を扱えない事は知っていた。

 お隣に住むだけで、紗香にとっては紲は「落ちこぼれ」のレッテルを貼られるに相応しい『魔法使い』だと言えた。

 弟の健司も同様の気持ちかと思っていた。

 

「いやいや、オイラは紲は面白いと思うぜ」

 

 何でも健司は学校内で紲に助けてもらった恩があるとの事。

 それ以来、紲とは行動を共にしているようだ。

 

 その頃の紲はまだ師となる人物とは出会っていない。

 健司と仲良くなった理由も知らされていない。

 だが、その時に“2人にしか分からない何かはあった事は気付いていた。”

 健司に聞いても“今でさえ”教えてくれないので諦めてはいる。

 

 脱線し欠けたが、話の軌道を元のレールに戻す。

 隣同士、そして健司が家に誘っていた事から顔だけは合わせる事は多かった。

 

 そして、天宮紗香にとっての分岐点が訪れる。

 彼女の才覚が目覚め始めたのは小学生の中学年に上がる頃。

 教育課程で習った『基礎魔法』の威力が教師の想像を遥かに超える程に凄まじかった。

 それを羨ましがるクラスメイトが居たのはまだ良い、彼女の才覚の片鱗を見て嫉妬したクラスメイトからは無視をされる事になった。

 次第に紗香の才能の凄さを無意識に感じ取った同級生からは疎まれる。

 気付けば――彼女は1人だった。

 

 離れなかったのは家族、そして隣の家の――

 

「さや姉!! 今帰り?」

 

 さや姉と呼び慕う幼馴染みの新原紲くらいなものだ。

 丁度真逆と言って良いツーショットが並ぶ。

 片や才能に恵まれた少女、もう1人は才能の欠片も見当たらない少年。

 

 別段、紗香は紲を嫌ってる訳じゃない。

 隣同士で『魔法』に関しての評価は最低ではあるが、人間性としては花丸を付けて良い程に素直なのを知っていたからだ。

 こうして隣同士で歩く事は紗香にとっては不快ではない。

 

「どうかした? 何か元気ないみたいだけど……」

 

「ちょっと、ね」

 

 紲との付き合いも長いもので、彼は勘が鋭い。

 最近、紗香の『魔法』の評価が鰻登りなのと比例して同学年からの彼女への校内での扱いは割れ物を扱うかのように繊細だった。

 恐れられるような事はなにもしていないのにだ。

 弁解はしたものの、皆も事務的に頷いたようにしか見えなかった。

 これ以上、何を告げたところで無意味と考えた事から諦めた。

 クラス内、同学年のみならず他の学年からも紗香は話し掛けられる事はない。

 あったとして、教師からのお世辞やらだけだ。

 

「そういやさ、さや姉の噂があるんだ」

 

 やれ怒らせると殺されるだの、機嫌が悪い時には近寄らない方が良いだの、才能があるから他を馬鹿にしているだの――紗香も知っている噂の綯いようが次々と吐き出されてくる。

 内容も代わり映えなく、紗香もいい加減にうんざりとしてきたところだ。

 止めるよう言おうとするよりも早く、紲は次のような事を口にした。

 

 

 

 

 

「全く酷い話だと思う。本当のさや姉はこんなにも可愛くて優しい女の子なのにさ」

 

 

 

 

 

 我ながらなんと単純なのかとこの時は思った。

 不覚にも紲の発言にときめいたのだ。

 

 これまで天宮紗香の『魔法』としての資質の高さは見られてきた。

 だけども、その根本たる天宮紗香張本人を誰一人として見てはくれていなかった。

 

 しかし、この幼馴染みは天宮紗香を見てくれている。

 

「さや姉も気にすんなよ。むしろさや姉の良さを見せ付けてやろうぜ!!」

 

 他人の事なのに我の事のように憤慨し、鼻息を荒くしながら勝手に計画を進める。

 でも、紗香はそんな紲の心を嬉しく思えた。

 そして、同時に「トクン」と聞こえてくる心音。

 そうだったのかと、紗香は瞬時に悟った。

 私は彼が――新原紲の事を特別に想うべき相手なのだと気付かされた。

 

 こんなのはただの間違いやもしれない。

 でも、それでも紗香は直感的に確信をしたのだ。

 

「ありがとう紲」

 

 これまでの人生で一番の「ありがとう」だったと思う。

 紲は屈託ない笑顔を向けてくれる。

 彼は知る由もない。

 天宮紗香の告げた「ありがとう」はただ励ましてくれただけではない事に――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧山剛毅は天宮紗香が抑えていた。

 はっきり言って、現在の紗香が剣を複数出せない事に圧山剛毅が気付いていたのにも関わらずにだ。

 ならば何故、天宮紗香は圧山剛毅と戦えているのか?

 理由はただ1つ――天宮紗香が“それを見越した上で防御に全てを回しているからだ。”

 攻め入る事は一切しない。

 “決定的な一撃を与える為の布石だ。”

 

 最初の頃、紗香は徹底的に防衛寄りの思考を選んでいた。

 それは紲を守りたい気持ちから生まれたものだ。

 

 《アーマー》という防御手段を用いていても、それを超える攻撃を受けたり、『魔力』が切れては意味がない事を“紲の師匠の友人から聞き及んだ。”

 その友人のご指摘は紗香に実に正しかった。

 仮に《アーマー》で肉体を強化したとして、引き起こされる衝撃で身動きが取れなくなる可能性があったからだ。

 だからこそ、硬直で動けなくなる事を警戒して回避や防御の手段を鍛えてきた。

 

「せいっ!!」

 

「速い!!」

 

 紗香の気合いと共に振るわれる剣。

 圧山は彼女には剣が作れないと知れている。

 彼女の手に握られた剣が重力を無効化させているのは分かっていた。

 ならば、重力を圧縮させた塊を弾丸として撃ち出す。

 これが圧山剛毅の導いた結論だ。

 

 一方の紗香は圧山剛毅の『魔法』は重力だと紲が自白させた事で動きは決まっていた。

 重力というのは不可視だ。

 地球に住む以上は避けようのない、大義的に見ると『自然界に干渉できる魔法』と言っても過言じゃない。

 ならば、その対策はどのように講じるのか?

 簡単だ。重力を制御する、もしくは克服すれば良い。

 今、紗香の手にある剣は重力を簡単ながら制御している。

 つまり、身体に負荷を掛けてくる重力は紗香には無意味となった。

 そうすれば自ずと圧山の取れる選択肢は狭まる。

 接近戦を挑むか、もしくは遠距離からの攻撃だ。

 紗香が剣を主体とした『魔法』を扱うのなら接近戦をする覚悟はないと思われる。

 ともすれば、遠距離攻撃に的を搾れる。

 

「このっ!!」

 

 圧山の『魔力』が一瞬高まるのを感じ取る。

 基本的に彼の『魔法』は放った本人側から飛んでくる。

 つまり、相手の視界から最低でも外れれば致命傷を避けやすくなる。

 それで何とか回避に徹しれたものの、不可視の『魔法』というのは実に神経を削る。

 感覚を研ぎ澄まし、流れる『魔力』をギリギリ感知して避けている。

 

(紲は――)

 

 チラリと紲の方を窺う。

 メイアとの和解は済んでいると見た。

 今彼はメイアに何事かを喋っていた。

 

(あとは私が紲に合わせるだけね)

 

 そうと決まれば話は早い。

 剣は1本しか作れない欠点を有してはいるのはこの時ばかりは怨めしい。

 しかし、その欠点を補う術を紗香が見付けてない筈は無かった。

 

「さや姉!! 頼む!!」

 

「了解!!」

 

 紲からの叫びに紗香は力強く応える。

 一度距離を取り、“フェザーライトを一旦消した。”

 

「っ!?」

 

 瞬間、紗香には重力の枷を解いていた圧山。

 有利となる剣を消した直後、彼は再び重力を掛けてくる。

 

「《グラビティート》」

 

 今度は『魔法』を唱えながらだ。

 やはり口に出すのと出さないのとでは掛け方に差異は発生する。

 

「ぐっ、くっ!!」

 

 何とか歯を食い縛り、紗香は床に手を当てた。

 彼女から放出される鋭利な『魔力』。

 

(仕掛けてくる!!)

 

 彼女の『魔力』も剣を纏っているかのような錯覚、それを感じ取るとほぼ同時に紗香の『魔法』は発動した。

 

「《ソード・フロア》」

 

 紗香が『魔力』を流す先は固い床だ。

 瞬間、直感で圧山は足元に警戒をする。

 

「《グラビティート・アンチ》」

 

 自身の重力を軽くした。

 この『魔法』を使う上で、他の重力を何倍にも仕掛ける《グラビティート》との併用は不可能だ。

 それを差し引いてでも圧山は彼女の『魔法』から逃れるべきだと判断を降した。

 

 彼の周囲は無重力同然となり、真上へ跳躍した。

 『魔法』による反則技さえ無ければ、オリンピック選手も真っ青な程の跳躍力だ。

 少なくとも、このホームセンターの天井に届く。

 直後、彼が立っていた場所から剣山よろしく刃が床から飛び出した。

 

 あのままでは圧山剛毅の身体は剣の串刺しとなっていた。

 それを回避した圧山の洞察力を褒めるべきか。

 

「いえ、“賭けに勝ったわ”」

 

 紗香はほくそ笑んでいた。

 そう、彼が《グラビティート・アンチ》という新たな『魔法』を用いた結果、その前に仕掛けていた『魔法』が解けてしまった。

 

 紗香は狙っていた訳じゃない。

 何かしらの防御手段を使わせられればラッキー程度にしか考えていなかった。

 まさに棚から牡丹餅。期せずして、最高のプレゼントを頂いた。

 

「何を――」

 

 圧山は言葉を失った。

 喋れなくなったとかではない。

 こちらの『魔法』を解除してしまった事で、重力の枷から解放された紲が“自身をまさしく弾丸として跳んできたからだ。”

 

 飛んできた方法は、共に居るメイアだ。

 彼女が紲を運べる程の突風を瞬間的ながら『魔法』で起こしたのだ。

 自然界のものを『魔力』を消費して呼び起こせる事は本人から聞いてはいた。

 しかし、よもやこのような使い方もあるのは圧山も寝耳に水だ。

 

「うおおおおっ!!」

 

 突風に乗っかった紲がこちらへ突進を試みていた。

 圧山としても紲の接近を阻みたい。

 

「はっ!!」

 

 しかし、それを許さないのは紗香だった。

 彼女の『魔法』で頭上に剣が出現する。

 今回は何の変哲さもない剣だからなのか……目に見える範囲で十数本の剣が浮遊していた。

 

「《ソード・レイン》」

 

 名前の通りの剣の雨が降り注ぐ。

 前門の虎、頭上の狼――どちらを防ぐかは即断していた。

 

「《グラビティート・アンチ》」

 

 頭上の剣が重力に逆らい、天井へと向かっていく。

 突っ込んでくる紲は既に右に拳を作っていた。

 それを受けるのは致し方無し――彼の拳が圧山めがけて吸い込まれる。

 

 拳という弾丸が放り込まれる。

 突進による勢いと空中という事から拳を突き出す姿勢を保つ。

 勢いは十二分、圧山は紲の一撃を受けようと腕を胸の前で交差させる。

 

「おら!!」

 

 そして、彼のガードと紲の拳が交わる。

 圧山剛毅は結局は勢いに押し負けてしまう結果に。

 あとは落下するだけだった圧山の身体は真正面からの衝撃を受けて斜め下へ吹き飛んでいく。

 

 そのまま――彼はコンクリートに背中から着地をした。

 衝撃も、痛みも並ではない。

 それでも痛みを奥歯を噛み締める事で押さえ付ける。

 

 一方の紲が今度は落下してくる番だ。

 そこを狙い撃ちするのが理想的なのだが、残念な事にそれを阻む大きな壁が建てられていた。

 

「させる訳ないでしょ」

 

 落ち着いた声音と共に先程からマークを外さずにおいた紗香からの『魔力』が圧山の肌を叩く。

 『魔法』と違わない質のものが向けられており、喉元を叩き斬って来る錯覚を抱かされた。

 

 それよりも、気になったのはメイアの助力だ。

 まさか彼女が紲達に手を貸す等とは夢にも思わなかった。

 紗香や紲からゴチャゴチャと言われていたのは気付いてはいたものの、それで寝返るなんて事は一切思わない。

 何が彼女をここまで後押しさせたのか?

 

「どいつもこいつも……」

 

 ギリッ!! と、圧山は怒りの形相を隠そうともしない。

 彼の『魔力』が高まるのはこの場の全員が分かりきっていた。

 既に攻撃のスタンバイをしていた紗香はそれを感じ取るや、『魔法』の発動を早めた。

 

(やるしか、ない!!)

 

 紲は今しがたに着地をしたばかり、メイアは『魔法』の準備はしてない。

 ここは紗香がやるしかない。

 

「潰れろ」

 

 圧山剛毅は紗香――紲、メイアへ向けて両の手のひらを向けてきた。

 

「《グラビティート・リベンジ》」

 

 何が起きたのか全く分からない。

 圧山の『魔法』は不可視そのものであった。

 だが、ともなれば“重力に関する何かだと”考えるまでもない。

 

(不完全だけど、やるしかない)

 

 『魔力』は溜まりきっていない。

 でも、やらねば“こちらがやられてしまう。”

 

「《ファン――》」

 

「待ちなさい!!」

 

 紗香を守るようにメイアがいつの間にか立っていた。

 これでは巻き込んでしまうと、紗香は『魔法』の発動を中断した。

 

「ぐっ!?」

 

 直後、紗香の身に重力が横から押し寄せてきた。

 これが圧山剛毅が行った『魔法』。

 いくらメイアが立っていたところで重力という存在は紗香を押し潰しに掛かってくる。

 

(あれ?)

 

 だが、だとしたら“前置き無しに後ろへと飛んでいかないのは何故だ?”

 フェザーライトは作っていない、確実に吹き飛んでおかしくない。

 だというのに紗香の身には“何も起きなかった。”

 

「《ダーク・ウインド・ムーン》」

 

 疑問を覚えると同時、メイアが『魔法』を叫んでいた。

 彼女が虚空へ上下に手刀をする。

 すると、三日月の形をした黒い風が放たれた。

 それは真っ直ぐに圧山剛毅へ向かっていく。

 

「ちいっ!!」

 

 圧山は両手を右から左へ振るった。

 ゴオッ!! という衝撃音と共に三日月型の黒い風は消滅した。

 横合いから圧山剛毅が重力の塊を生み出し、衝突させあったのだと紗香は見抜いた。

 『魔法』の呼び動作も無しにこれだけの事を成せる圧山の実力は一筋縄ではいかない事を伝えてきた。

 

 紗香も学園で生徒会長、実力もあると世間では言われている。

 しかし、学生の身なのは変わらない。

 それ故に経験は圧山の半分ほどもないだろう。

 無詠唱で『魔法』を繰り出すのは難しい。

 

「メイア、あなた凄いじゃない」

 

 圧山剛毅の実力は目を見張るものがある。

 だが、メイアも負けていない。

 彼女は不可視の重力の中を突き進む『魔法』を放ったのだから。

 

「そう……言ってくれると、嬉しいね」

 

 辿々しい声音、メイアがゆっくりと紗香の方を向いた。

 

「メイア!?」

 

 紗香の驚きは仕方無い。

 振り返ったメイアの腹部の部分の服が丸い穴が空いていた。

 よく見れば彼女の髪は所々乱れ、他の服の部分も切れている部分があった。

 

 メイアは学園の制服を着ている。

 学園の制服はこういったものの耐久性が高い。

 なのに、その防御を上回る『魔法』を圧山剛毅は行ったと言える。

 

「メイア、その傷は……?」

 

「まっ、オレの『魔法』だよ」

 

 問いに答えたのは言うまでもなく圧山剛毅。

 自分で自分を攻撃するなんて真似はしない。

 こちらも仕出かすつもりなどない。

 なので第三者による介入がないなら犯人は圧山剛毅以外に居ない。

 

「でもあんたの『魔法』は重力じゃない。なら、何でメイアにこんな傷があるのよ?」

 

「知りたいなら自分で見付けるんだな」

 

「全く、ね!!」

 

 紗香は容赦なく『魔法』で作った剣を圧山剛毅の頭上に出現させた。

 

「《グラビティート・リベンジ》」

 

 ついさっき、メイアに怪我をさせただろう件の『魔法』を発動させた。

 対象は両手が上に向いている事から剣なのは間違いない。

 

「紲、任せたわ」

 

「分かってる!!」

 

 向こうが頭上に気を取られている隙に紲がダッシュしていた。

 グングンと縮まっていく圧山との距離。

 未だにこちらを向かない圧山は油断なのか否か。

 

 

 

 

 

 圧山の行動が油断ではなかった事が、直後に紗香に襲い掛かった無数の傷に刻み込まれる事で判明した。

 

 

 

 

 

「な、が……いっ!?」

 

 突然、制服の上から切り刻まれた感覚が紗香を襲撃した。

 気のせいでも何でもなく、実際の出来事だと知るのに時間は要した。

 メイア同様、耐久性の高い素材だ。

 なのに何故自分の制服も切り刻まれ、あまつさえ切り傷が生まれたのか?

 

「さや姉!?」

 

 さしもの紲もこれには困惑を隠せない。

「ほら、気を取られていると足下を掬われるぞ」

 

 一瞬でも紗香に注意が向いたのを突いて、圧山は『魔法』を発動させる。

 紲に上から重力がのし掛かる。

 

「ぐっ、お……」

 

 紲は堪らずひざまずく。

 

「紲……!!」

 

 紗香は紲のピンチに立ち上がる。

 紗香にとって、かけがえのない存在となっている紲を放っておける訳はない。

 彼女にも重力が掛かっている。

 それでも理屈を超えた思いが彼女を立ち上がらせてきた。

 

「本当、おまえらの非常識さには脱帽だよ」

 

「そんな強い『魔法』を使えるお前には言われたくねえな」

 

「全くね」

 

 怪我は紗香の方が大きい。

 有利なのは圧山に違いなかった……だというのに、紗香から感じるこの重圧は何だ?

 

「あなたの今しがたの『魔法』はよ~く分かったわ。身を以て体験した事でね」

 

 言い換えれば、今のやり取りだけで紗香は圧山剛毅の『魔法』を見破った。

 まだ正解を聞いては居ないが、自信満々に言う。

 

「試してみる? 多分、もうあなたの『魔法』は私には聞かないわ」

 

「なら、やってみな!! 《グラビティート・リベンジ》」

 

「存外、あなたって『バカの一つ覚え』が似合うわ」

 

 圧山が紗香へ両手を向けて『魔法』を仕掛けてきた。

 その手にフェザーライトを携え、紗香は“駆けた。”

 

「《ソード・スキル》」

 

 そして、自身とは違う引き出しを開ける。

 これまで想像してきた動きを再現してみせる。

 

「《エルフーン》」

 

 圧山がこちらに向けているだろう『魔法』を避けるものかと思った。

 だけども、逆に紗香は“突っ込んで行った。”

 

「っ!?」

 

 それに顔色を悪くしたのは仕掛けた圧山自身だ。

 彼は両手を向けるのを止めた。

 今度は片手だけを紗香に向ける。

 

「《グラビティート・カノン》」

 

「手の動きでバレバレよ!!」

 

 圧山剛毅の見えない『魔法』は重力を塊として打ち出したものだ。

 手の位置で、砲撃の先は見え見え。更に『魔法』によるものなので『魔力』が感知できる。

 『魔力』で位置を感知しながらドンピシャのタイミングでフェザーライトを横薙ぎに振るった。

 

 音はない。

 だけども、何かを裂いた“感覚事態はあった。”

 

「やっぱり、ね」

 

 紗香は圧山との距離を一気に詰める。

 手を伸ばせば届く。

 

「あなたの『魔法』は“相手の『魔法』によって起きる攻撃を使用者へ反射していた”」

 

 紗香の見解では感じ取れる『魔力』は人によって種類が違う。

 例えば紗香なら「剣」をモチーフにしているから鋭さを感じる。色で言うなら銀色。

 央佳なんかは「雷」をモチーフにしているから痺れてしまいそうな感覚があった。色で例えるなら黄色だ。

 

 重力で触った『魔法』の『魔力』を読み取り、周囲に居る同質の『魔力』の持ち主へダメージを返す。

 紗香の推測ではあるけれど、圧山の反応から大体は間違ってないと確信は持てた。

 

 そして今、紗香は圧山の攻勢を掻い潜り……至上の一手を打てる。

 

「これで、終わりよ」

 

 決着を付ける為の一手を振るう。

 フェザーライトを消し、メイアの介入で“使わずに済んだ”この『魔法』で決着を付けよう。

 

 

 

 

 

「《ファンタズムソード・ガトリング》」

 

 

 

 

 

 それはまさしく剣による連続射撃(ガトリング)だった。

 懐に飛び込まれたゼロ距離射撃の回避は難しすぎる。

 紗香が『魔法』を唱えると同時に圧山の腹部を貫く無数の(つるぎ)

 

 痛覚など当に麻痺している。

 痛みに耐えきれずに膝を地面に着いた。

 圧山の身体のあちこちを貫いた剣だが、不思議な事に“血は一滴も流れていない。”

 

 理解した。痛みや衝撃、剣そのものは本物だ。

 だけれども、この「突き刺さっている」現象こそがまさしく幻想(ファンタズム)なのだ。

 

(そうと分かれば……)

 

 幻覚の一種なのだと理解すれば破る事など雑作もなくて――

 

「気付いたみたいだけど“無駄な努力よ”」

 

 紗香は既に動いていなかった。

 彼女の言葉の真の意味を理解できずにいたが、直後に思い知らされる。

 

 痛みが偽物ではない事を圧山の脳が“勝手に思い込んでいた。”

 

「あなたも洞察力が凄まじいからネタバラししてあげる」

 

 紗香はゆったりと、圧山へ近付いていく。

 もはや隠していても圧山ならば自力で辿り着きそうだ。

 さっさと種を明かそう。

 

「剣先は全部幻覚よ。だけどね、不思議な事に刺さったと錯覚して痛みを脳が勝手に解釈するのよ」

 

 まあ、痛みは拳で殴られた程度のものの半分しかないらしいけどね――というつけたしがあるのだが黙っておく。

 そこまで懇切丁寧に教えてはやらない。

 

「さて、まだ意識があるなんてタフね」

 

 彼女の手には刃が潰された刀がある。

 叩く事を目的とした武器だ。

 それを振り上げる。

 

 

 

 

 

「あなたの人を人とも思わない信念を――切り裂く!!」

 

 

 

 

 

 振り上げられた刃のない刀は圧山の頭部を打ち、彼を気絶させるに至る。

 

 天宮紗香の勝利を確信へと到らしめると同時、圧山剛毅の撃破を物語るのだった。




書いていたら結構な量になってしまい、遅れてしまいました。

待ってくださっていた読者には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

さて、いよいよこの物語も佳境です。
こんな完成の遅い作者ですが、できるなら最後までお付き合い下さい。


次回は再来週の日曜日になるかと思います。
今度は、今度こそは……時間内を目標にします!!

では次回もよろしくお願いします。
皆様、良いお年を~。

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