新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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お待たせしました。

続きです。


開幕戦

 基地への入口――紲達が目指しているのはテロリストの総本山とも呼べる。

 身一つで乗り込む訳だが……そこは『魔法使い』なので、『魔法』を頼りに戦うのみだ。

 

「ところで――」

 

 紲が先頭を走り、次いで健司、央佳、紗香の順だ。

 そんな折、紗香がこう切り出してきた。

 

「地下への入口が何処にあるのか分かってる?」

 

 瞬間、元気良く駆けていた紲が止まる。

 釣られる形で健司と央佳も足が止まった。

 

「何処にあるんだ?」

 

「知らんで走ってたのかい!!」

 

 健司が紲の頭を叩いた。

 勢い良く飛び出したものだから分かってるものだとばかり思っていた。

 

「だと思ったわ」

 

 紲の勢い任せな行動にため息を吐きながら紗香はスカートのポケットから紙を取り出した。

 

「鮎川さんが話していた人が持ってると思ってね。ポケットの中に入ってるのをくすねてきたわ」

 

 紗香が最後尾を走っていたのにはそんな理由があったのかと思い知らされる。

 

「入口は従業員用のエレベーターね」

 

 紗香の持ってきた紙には地図も載ってるようだ。

 今度は彼女が先導する。

 紲達はそれに付き従う形で駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 従業員用のエレベーターにはたどり着いた訳だ。

 

「ただ、あれだけの騒ぎは起こしたんだから」

 

 チラッと紲は紗香に目配せする。

 紗香の方も「了解」と頷いた。

 

「紗香の“準備もできた”みたいだし、乗り込みますか」

 

 紲の意味深な台詞に首を傾げながらも、深くは追求せずにエレベーターに央佳は乗った。

 健司が乗り込んだ後に紗香も乗り込み、地下1階のボタンから順に全てを押した後に閉口スイッチを押す。

 

 直後に ガコンッ!! とエレベーター全体が大きく揺れた。

 エレベーターのスイッチには地下はある……だが、1分と掛からない距離なのに“嫌に時間が懸かる。”

 この時間こそ、裏ルートがある事を示す証明に他ならなくなる。

 

 数秒の後に……エレベーターが停止した。

 

「団体さんのお出迎え……みたいだぜ」

 

「健司が言うのなら間違いないわね」

 

 『魔力』は『魔法使い』が持つ力だ。

 それを探知できる事は、その場に居合わせる『魔法使い』の数を捜索できる。

 『魔法使い』なら訓練すれば出来るようになる――いわば、生きるレーダーだ。

 

 そして健司は『魔力』を探知する力が強い。

 範囲は狭いが、ほぼ確実に『魔法使い』の数を探り当てられる。

 その事を見抜いたのは他でもない紲の師である――神坂幹太だ。

 せっかくなのでと、やり方だけは教わっていた。

 健司はその点において紗香よりも秀でている。

 数少ない弟が姉に勝っている事である。

 

「健司。数は?」

 

「30」

 

「思ってたより多いわね」

 

 紗香が最初に仕入れた情報だと『エクリプス』は20名程の組織だった。

 こんな序盤にそれだけの数を用意したとなると……他にも敵の数は多そうだ。

 

「仕方無いか。降りたら私が――」

 

「オイラにも見せ場をくれ」

 

 姉を押し留め、弟が前に出る。

 

「出た瞬間に出来るだけ倒してくれれば……オイラが何とかする」

 

 ここまで付いてきた健司にだって覚悟はある。

 これから起こる事は、少なくとも無事で済む事ではない。

 

「わたしも手伝うのです」

 

 央佳は手を挙げて言った。

 いつもの剣呑とした雰囲気はない。

 

「良いのか? メイアが居るのに……」

 

「正直、行きたい気持ちはあるのです。ですが、わたしでは実力不足なのです」

 

 自分の力に自信がないのではない――経験が圧倒的に不足してるのだ。

 

 紲達の戦いを直接見て気が付いた。

 彼らは“戦い慣れている。”

 鮎川に告げた「組織を潰す事に慣れている」とは言ったものだ。

 大言壮語だとしても、彼の言った事には嘘はない。

 少なくとも近しい事はしてきた。

 

「あとから追い付くのです。ですから、紲君と生徒会長さんには“わたしが倒せない敵をお願いしたいのです”」

 

 本当は行きたい――しかし、央佳はそれを押し殺して後を紲達に託そうとしている。

 

「ああ……任せておけ」

 

 自然と、紲の口からは確固たる決意が飛び出した。

 紗香は言わずもがな。当たり前だと言わんばかりに首肯で応えた。

 

「それじゃあ、着いた事だし……扉を開くわよ」

 

 そして、エレベーターの扉が開く。

 

 

 

 

 

 同時、紗香の『魔法』が解き放たれる。

 

 

 

 

 エレベーターが止まった直後だった。

 紗香は容赦なく、剣という弾丸のマシンガンをぶっ放した。

 扉を壊し、剣の散弾がエレベーター前に待機していた『魔法使い』を吹き飛ばした。

 結果的に、その行動は正解だった。

 待ち伏せしていた『魔法使い』が攻撃的な『魔法』をエレベーター側に飛ばしてきていた。

 それらを剣が全てを吹き飛ばしたのだ。

 

 紗香の『魔法』は「刃物」をメインとしたものである。

 より正確には「『魔力』を使って想像した刃物の創造」である。

 刃物であれば“何でも創造はできる。”

 しかし、その為に必要なのは「イメージ力」だ。

 

 見た事のあるものはイメージしやすい。

 包丁やノコギリなど、メジャーなものは想像しやすい。それは実際に資料があって、目撃しているから。

 

 だが、例えば“神話上の武器は実質的に不可能だ。”

 アロンダイト、カリバーンといった誰でも聞いた事のある名前の武器はある。

 知名度であれば断トツだが“形状を知っている者が現代に存在するのか?”

 答えは「限り無くNOに近い」だ。

 

 しかしながら、そこを「イメージ力」でカバーする。

 だからこそ、天宮紗香は“マンガやラノベを読んでイメージ力を強くする。”

 

「さて……と」

 

 そして、紗香はエレベーターを出て自身の『魔法』を振るう。

 その手には、金色に光る剣――その名を。

 

「エクスカリバー」

 

 それは誰もが聞き耳した事のある伝説の剣の名前。

 無論、本物ではなくて紗香が想像した剣である。

 大きさは紗香が持ちやすいように彼女の身長の半分程の長さ。

 しかし、片手でも振るえる重量で造った。

 

 剣全体が金色なのは、彼女の読んだ作品のイメージが強い。

 大体で主人公レベルのキャラクターが用いており、イメージカラーは「金色」が多かった。

 

「はっ!!」

 

 短い掛け声と共に、黄金に輝く剣を一薙ぎする形で真横に振るう。

 直後、黄金の光の津波が発生した。

 

 光の正体は『魔力』だ。

 単純に『魔力』の塊を視認できる濃度で放出しただけの事。

 『魔力』と言うのは視認できる程の濃度で放出する事で、肉体へのダメージを与える事ができる。

 紗香がそれを行動に起こした結果……エレベーターの傍に居た『魔法使い』の大半を蹴散らした。

 

「す、凄いのです……」

 

 エレベーターから出ながら、初めて天王寺学園生徒会長・天宮紗香の実力を目の当たりにした央佳は唖然とした。

 

 しかしながら、紲はこんな彼女に勝ち越しているのだ。

 央佳には紲の方が唖然とするに相応しいと思えた。

 

「さて、あとはお願いして良いかしら?」

 

「はは、上等だよ姉ちゃん」

 

 健司は苦笑いしながら、エレベーターから飛び出した。

 

「わ、わたしも――」

 

「あっ、ちょっと待ってくれ央佳」

 

 央佳も飛び出そうとした矢先に最後にエレベーターから出た紲が引き留める。

 何事かと疑問を抱きながら、央佳は紲の方を見た。

 

「お前……無理をしてるだろ?」

 

 紲は央佳の手を取りながら言った。

 彼の言はまさしく的を射ていた。

 

 紲、紗香、健司の3人は慣れてしまったが故に感覚が完全に麻痺していた。

 その事に今更気が付き、紲は自分を殴り飛ばしたくなった。

 なんせ、紲自身も経験した事柄だから。

 だとして、央佳はきっと紲達が「帰れ」と言っても聞きはしない。

 彼女が此処に居るのは自分の意志を貫く為――何より、“大切な幼馴染みの親友を取り戻す為だから。”

 その為に恐怖を押し殺して、彼女はここまでやって来た。

 

「大丈夫だ。央佳は思ってる以上に強い。そして、勇気がある」

 

 紲と共に廃墟のホームセンターにて圧山剛毅と一戦 交えた時だ。

 彼女とは予め打ち合わせはしていた。

 そして、紲の指示通りに実行し、成功させて見せた。

 更に打ち合わせにはない、圧山の前に身体を差し出して動揺を誘っての『魔法』による攻撃。

 友を助けたいから出来た行動だろうと、彼女は「勇気」を振り絞って行動できた。

 

 そんな彼女をだれが何と言おうが紲は「強い」と断言できた。

 だから、しっかりと言葉にして伝えてやる。

 央佳が強いのを知っていると――不安に押し潰されない為に。

 

「でも怯えるなって言うのは無理な話だ。だから、1つアドバイス」

 

「アドバイスですか?」

 

「そうだ。エレベーターを出る前にな――」

 

 央佳の『魔法』を紲は聞いている。

 それを踏まえた上で、彼女なりの良い闘い方を組み上げてやる。

 

「上手くいくのですか?」

 

「上手くいく……って言ってやりたいけど、あくまで俺なりに央佳の動きを見て考慮しただけだからな」

 

 だけど――と、紲は続ける。

 自信満々に、紲は央佳を真正面に据えて言った。

 

「俺は央佳ならそれが出来ると確信してる」

 

 紲の言葉の真偽などわからない。

 付き合いが浅いのもある……だけど、不思議と信じられた。

 

「任せて欲しいのです」

 

 そして、央佳は立ち上がる。

 友を助ける為に。

 

 紲からのアドバイスを受けた央佳は意気揚々と前に出た。

 健司が敵の集団に突っ込んで、殴る蹴るの肉弾戦を申し込んでいた。

 

「健司!! 下がりなさい!!」

 

 こちらのやり取りを確認していた紗香が弟に指示を飛ばす。

 姉の命に従い、健司はすぐさまに央佳達の方まで後退した。

 敵の力量は分からないが、少なくとも簡単に後退できる相手ではない。

 いとも容易く行った健司に央佳は驚いていたが、今はそれどころじゃない。

 自分のやるべき事を見失わないよう、真っ直ぐに前を見る。

 

「《オーグ・サンダー》」

 

 開幕、央佳の手のひらから雷が迸る。

 敵は複数いる。だけども、彼女の『魔法』は決められた形のない「雷」だ。

 

 央佳の扱う『魔法』は主に「雷」と「鉄」である。

 忘れがちだが、彼女は『鬼』という種族の人物だ。

 鬼の特性として、共通して「鉄」に関連した『魔法』を扱う。

 鬼と言えば「金棒を持っている」のイメージが強い。

 金棒の素材は「鉄」だ。その例から、鬼の一族は『魔力』を用いて「鉄」に関連した某かの『魔法』を覚えていく。

 そして、鬼は自然界に存在するものの何かしらを主体とした『魔法』を覚える。

 『魔力』を消費して炎や風、水などを生み出す。央佳が扱えるのは「雷」だ。

 人――否、鬼によっては複数のものを扱えるらしい。

 

 それを踏まえた上で今回、紲が央佳に渡したアドバイスは“そこ”を利用する。

 まずは開幕に雷を放出させる。

 雷と言うのは「光」を放つ。光の度合いを強くして目眩ましとしても使える。

 敵は他にも居るのだ。目の前の敵以外を止めるにはどうすれば良いか?

 考えるのは行動を阻害させる事。効果的なのは目眩ましなどで動きを封じてしまえば良い。

 だから、“目眩ましをする為に四方八方に雷を放ったのだ。”

 

「今だ央佳!!」

 

「うん!!」

 

 続いて紲がチャンスなのだと大声を叫ぶ。

 央佳も力強く応え、地面に手を当てる。

 

「《オーグ・ロッダ》」

 

 直後、床からピラミッド型の鉄が出現した。

 大きさとしては人間大のもの。それが誰かを攻撃する為に出したのではなくて――

 

「《オーグ・ストラック・ライト》」

 

 雨雲など何もない天井から――落雷が起きた。

 落ちたのは今しがたに央佳が造り出したピラミッド型の鉄である。

 

 

 

 

 

 そして、ピラミッド型の鉄は粉々に砕け散り、四方八方に飛び散った。

 

 

 

 

 

 敵の方も察していた敵は無事ではあるが、大半は紲が立案して央佳の実行した計画で戦闘不能となった。

 それでも、半数は残ってしまっている。

 

「あとは頼んだ」

 

「央佳さんも無茶はしないでね。いざとなったら健司を盾にして良いから」

 

「さらりと酷い事を言わないでくれよ姉ちゃん!?」

 

 この3人にはいつも通りのやり取りなのだ。

 こんな場でも変わらない空気を作れるのは純粋に凄いの一言だ。

 自然、央佳の雰囲気もいつものものと同じになる。

 

「大丈夫なのです。わたしは頑張れます……だから」

 

 言葉を区切り、2人へ向けて央佳は強く願った。

 

「メイアちゃんを助けて欲しいのです」

 

 それは聞いた中でも一番に気持ちの入った言葉だった。

 だからこそ、適当な言葉でなんて返せない。

 

「任せろ。その依頼の為にここまで来たんだからな」

 

 央佳の勇気に応えてやりたい。

 紲、そして紗香も気持ちを新たにする。

 

 この場は健司、それに勇気を出して立つ央佳なら大丈夫だ。

 

 自分達は成すべき事を成す。

 メイアの真意を央佳に代わって確かめに向かうのだった。




如何でしたでしょうか?

今回は主に説明をしていなかった主要人物達の『魔法』も一緒に説明させて貰いました。
もちろん、これ以外にもあるのですがここではあえて省かせて貰っています。

ちなみに紗香が剣を生み出す上でイメージ力を高める為にマンガを読んだりしているのは最初から決めていた事だったりします。

色々と試行錯誤をしていた結果に遅くなってしまって申し訳ないです。

次回は再来週の水曜日の予定です。

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