新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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なかなか進まないと思いながらちょくちょく進んではいるのでご安心を。

今回もまた短いですが続きです。




意外なところに転がっている

「お待たせしました」

 

「わざわざ御越しいただいてすいません」

 

業者服に身を包んで工具セットを携えた若い男性を紲は校門で出迎えていた。

 

紗香――厳密には学園が呼んだ修理業者だ。

ただ、一口に「修理業者」と言っても3つの部類に分かれる。

「手作業による修理」、「『魔法』を用いた修理」、「『魔法』が施された道具の修理」の3つである。

 

1つ目の「手作業による修理」は従来の通り。機械など、“人の手によって造られた精密なもの”は同じ人の手で直すのが一番手っ取り早く、再び壊れる可能性も低くなる。

 

次の「『魔法』を用いた修理」も人それぞれが持つ『魔法』を使って“即席の修理を行う。”要は応急措置に特化した修理だ。

応急措置を施した後、前述の修理に出す事はよくある事である。

 

そして最後に「『魔法』が施された道具の修理」である。

これの例で述べるなら紗香達が説明していた学園の窓ガラスだろう。簡単には壊せないように防護能力を備えた『魔法』を窓ガラスに付属させていた。

このような特殊な『魔法』が掛けられている道具を直す業者だ。(物によっては『魔力』で動かす道具もあるのだが今回は割愛させてもらう)

 

長くなってしまったが、今回呼んだのは一番最後に記述した業者である。

来たのは1人。窓ガラスを割っただけなので、その人数でも大丈夫と言えば大丈夫だ。

 

「君が今回手伝ってくれる生徒さん?」

 

「はい。新原紲って言います」

 

「新原君か。よろしく」

 

随分と爽やかな印象を与えてくれる。

向こうには「お手伝い」との名目で紲が居る事には疑問を持っていないらしい。

紲の方は壊した張本人だから真逆で恐縮してしまう。

 

「今は授業中だろう? 出なくて良いのかい?」

 

「ええ、許可は貰ってますから」

 

課題もたんまりと渡された――とまでは言わないでおいた。

 

「それなら安心だね。じゃあ、現場を教えてくれないか?」

 

「こっちです」

 

ここからはそう遠くなく、業者の人も遠目から見えたようだ。

近付くなり「なるほど」と呟いた。見ただけで何が起きているのか理解したらしい。

 

「やっぱりこういうのは見れば分かるものなんですか?」

 

「散々に上司に絞られたからね」

 

業者の若手新人は遠い目をしていた。

紲はこれ以上の深入りは危険だと感じたので切り上げた。

 

「それにしても今回はここを直すとは……毎回何度も変わるものだな」

 

そうですね――紲が何の気なしに返そうとしたのが止まる。

 

「今回は? それってこの学校に何度か来られたんですか?」

 

「2年位前かな。直すというより作るのを目的で来たのはある」

 

“直す”ではなくて“作る”と来た。

心臓が早鐘みたく鳴り響く。

 

「あの……何を作りに来られたのですか?」

 

「実は妙なものでね。教室に穴を空けてくれとの依頼だったんだ」

 

瞬間、紲の血の気が引いていく。

 

「それって……どの辺りか分かります?」

 

「そうだな。1階の――」

 

業者の言葉を聞くや、紲はいよいよ確信を持ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

授業中だというのは分かってはいたものの、紗香はどうしても早急に央佳に話しておきたい事があった。

なので紗香は紲が生徒会室から出た後も央佳を残していた。

 

「生徒会長さん、お話って何なのです?」

 

「単刀直入に行かせてもらうわ。私と紲はメイアを救いたいと思ってるの」

 

話の流れ的にもつい先程までメイアの話題は上がっていたので何ら不自然な点はない。

だけども違うのは……“メイアを助ける事の難題さである。”

 

彼女は今やテロリストの一員と伝えても何ら疑問はない。

「救う」だなんて口に出すのはあまりにも簡単だ。しかし、それを達成するのはあまりにも困難過ぎる。

 

「でもそれは……」

 

「分かってるわ。私達が死んじゃうかもって事でしょ?」

 

央佳が言おうとした事を先回りした。

口調はもはや紲と健司に話すのと同じ、砕けたものとなっていたのだが気付けはしなかったようだ。

 

「分かってるなら何で危ない事をしようとするのです?」

 

「そうね。メイアが私と似てるからっていう理由じゃ駄目かしら?」

 

紗香の出した「理由」は斜め上の内容だった。

きっと「放っておけない」とかなどの漫画の主人公みたいな「理由」だとばかり思っていたから。

 

「メイアちゃんが生徒会長さんと似てるのですか?」

 

央佳からすれば目を見開いて聞き返す程の内容だった。

完全無欠にしか見えない生徒会長・天宮紗香とテロリストの一員となったメイア・アトリブト。

そんな2人は似ていると紗香は断言した。

 

「ええ、多分そっくりな筈よ。何せ私の勘って外れはしないから」

 

堂々と理屈を踏み潰した回答を示す。

央佳は苦笑を漏らすしかなかった。

 

「あと紲の方も大丈夫よ。正義感は人一倍強いし、何よりメイアを放ってはおけないと思うから」

 

「勝手に代弁して良いのです?」

 

「大丈夫大丈夫。紲は“こういった時にはそう言うから”」

 

長く彼と過ごしてきた紗香だからこそ言える事だ。

 

「それに望むと望まざると、紲は事件の渦中に突っ込むわ。何せ、“さっき伏線の回収は頼んだしね”」

 

「どういう意味なのです?」

 

紲に何らかの目的を持たせて行動させたらしいが、央佳にはさっぱりだ。

恐らく呼んだだろう修理業者の元へ向かわせた事に意味があろう。

 

「ふふ、窓ガラスの修理をさせたくて業者に付き合わせた訳じゃないわ。そもそも、仕事なのに学生を使わせる訳ないじゃない」

 

「じゃあ、何でなのです?」

 

「生徒会の予算が一時期、不自然な程に“減っていたの。”その直前に業者を呼んでいたらしくてね」

 

「その業者さんが今呼んでいるところなのです?」

 

「その通り」

 

パズルのピースが1つずつ填まっていく。

しばらくした後、紲から確信へと繋げる為の無くした欠片が届くのだった。

 




如何でしたでしょうか?

紗香とメイアが似ているとの事は以前に紲の前で話をしていたのと一緒ですね。

一見、正反対に見える彼女達ですが何処かシンパシー的なものを感じ取っているのでしょう。

さて、次回の更新予定日は再来週の水曜日ですかね。

すいません。ひょっとすると他の作品も含めて更新が遅れる可能性があります。
その時は活動報告に記載しておきます。

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