新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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さて、お待たせしました。

続きです。

今回も少し短いですかね。


尻拭いはしないと思った? 残念でした

「面目無い……」

 

場所は生徒会室。紲はと言えば、紗香と一緒にいた央佳に土下座していた。

 

紲が福富先生に捕まった際に追い掛けてきた生徒会長の口添えで助けられた次第だ。

やむを得ない事情で窓ガラスを割ったという事で見逃してくれた。しかも事情も聞かないでくれた福富先生も優しい。

まさかクラスメイトに「テロリストが居ます」だなんて正直に言えたものじゃない。

 

「大丈夫です。紲君のせいではないのです」

 

「ダメよ央佳。紲を甘やかしたら」

 

励ます央佳とは正反対に、紗香は釘を刺す。

紲も紗香に強く言われるのは目に見えていた。

彼女に任せられたとは言え、紲は請け負った。なのにメイアを捕まえられず、『エクリプス』の尻尾を掴めなかったのだ。

 

「でも話を聞く限りは仕方無いわね」

 

しかし、先程までの尖った釘をしまいこんで紲に告げた。

紲から事の顛末は聞いていたし、近くにいた生徒から央佳が事情調査も行っていたので分かっている。

 

「それに知りたい事もあったから結果的に紲の行動は成功したわ」

 

「それなら良いんだけど……」

 

自身の失態を無意味とネチネチつつかれるよりは、意味のあった行動だと知れるのが一番だ。

そこでようやく紲は土下座の態勢をやめはするが、正座の状態を続けていた。

 

「あの……聞きたいのですけど」

 

話に区切りが付いたのを見計らい、遠慮がちに央佳が手を挙げた。

 

「央佳、どうかしたか?」

 

「えっと……紲君は窓ガラスを割ったのですよね?」

 

「そうだけど?」

 

疑問形を疑問形で返し、紲は央佳とは問いたい事を理解していない。

紗香はクスクスと笑いながら、央佳は意外な顔をしていた。

 

「あのね紲。実はこの学園の窓ガラスは簡単には壊れない仕様になってるのよ」

 

「そりゃ、『魔法』で壊れたらたまらないからな」

 

紲だってそれくらいは分かる。

『魔法』で壊れないよう幾重にも防護系の『魔法』を掛けてあるのだ。

 

「聞いたのですけど……紲君はそれを“素手で壊したのですよね?”」

 

「ああ、そうだ」

 

ようやく紲も央佳の問いたい事柄を理解した。央佳が訝しむのは至極真っ当な事である。

 

「私も気になってたわ。さすがに紲だって簡単には壊せないでしょ? 少なくともパッと出した正拳突きで壊せないわよ。最低でも『魔力』を目一杯使って造った私の武器じゃないと」

 

それは紗香も同じ事だったらしい。

いくら紲の実力を知ってたとして、紗香も本気にならないと壊せないと言った窓ガラスを壊した経緯を知りたい。

 

「そう、だな。話しておくか」

 

特別、央佳に知られた所で紲には問題ない。別に秘密にしようとしていたわけでもないからだ。

紗香の方は、話してしまえばこちらの事情を知っているのでゲロった方が早い。

 

「窓ガラスが頑丈なのは俺だって知ってる。さすがに『魔力』で拳を強化するだけじゃ無理だけど」

 

『魔力』で強化しただけで壊せる訳じゃない窓ガラスというのは紲はきちんと把握していたようだ。

 

「じゃあ、どうやって?」

 

「ちょっと力業でな」

 

央佳の疑問に答えるべく、紲は曖昧に返した。

 

「まさかとは思うけど、“使ったの?”」

 

紲が一体、何を仕出かしたのかを紗香は察した。

 

「その、咄嗟の事だったんで……つい使っちまった」

 

「はあ、なら窓ガラスを割れたのも納得よ」

 

「ま、待って下さいなのです。わたしにはさっぱり分からないのです」

 

紲と紗香ばかりが納得し、央佳は「待った」を掛ける。

 

「う~ん、何て言えば良いのかね……」

 

今までは自分の『魔法』を知られる事に何の問題も抱いてなかったらしいので即答していたのに珍しい。

 

「この件は師匠に他言無用って注意を受けてるからな~」

 

紲が答えを渋る理由は一重にそこに集約される。

彼にとって、師というのはそれほどまでに大きな存在だと仄めかしている。

 

「言えるのは『魔法』といえば『魔法』だけど、それだけじゃない……って事位かな」

 

色々と考えてみた結果、出せたのはそれだ。

要領を得ない上に、ちんぷんかんぷん過ぎる。

 

「とんちなのです?」

 

「そんなもんかな。すまん。ちょっと“特定の状況下”以外で話さないよう言われてるからさ」

 

「実は紲が使ったのは師匠から授かった技なの。だから、おいそれと話す訳にはいかないのよ」

 

紲の煮え切らない言い方に紗香が補足した。

 

(実は違うんだどね)

 

真実を告げるなら、彼の師は「技術を盗まれたくない」なんて理由は皆無だ。

 

「受け継ぐのは良いけど、中身は教えるな!! 何故ならその方が格好いいからな!!」

 

というのが師匠の弁だった。

何とも子どもらしい一面が露になっているものだ。

 

「そうなのですか。なら仕方無いのです」

 

「すまんな」

 

紲は央佳に申し訳無い気持ちで一杯になる。別に央佳に隠し立てをしたくはないが、適当なタイミングで話したと知られれば紲に明日はない。

 

「ともかく、一番大事な事が分かったわ」

 

紗香は固い表情で次の事を言った。

 

「メイア以外にも学園に『エクリプス』のスパイ、そうでなくても協力者の存在があるわ」

 

タラリと流れ出る冷や汗を紲も央佳も拭う暇はなかった。

 

「どうして……そう思うのです?」

 

「俺の後方――言い換えるなら“校舎側から”『魔法』が飛んできたからだ」

 

校舎側に潜んでいたなんて事はあり得ない。

再三に渡り、外壁付近の監視カメラの映像はチェック済みだ。

外からの侵入は監視カメラにはなかった。

そこを央佳に付け加えた後に紲は言い放った。

 

「だとしたら“最初から懐に潜り込んでいた『魔法使い』が居たとしか言えないだろ?”」

 

紲の指摘に央佳はゴクリと唾を飲み込んだ。

そこまで調べて導き出した答えを央佳は否定できない。

 

「それもあるけれど……紲は何かを忘れてない?」

 

紗香が話を区切るように言ってきた。

はて? 紲は何かを忘れてしまっていただろうか?

 

「これよ。こ・れ」

 

紗香は言いながら紙を押し付けてきた。

何かと思い目を通す。

そこに「窓ガラスの弁償」文字が見えた事で血の気が引いていった。

ようやく思い出す。自分が学園の窓ガラスを気持ち良い位に割った事を。

さっきまで央佳に割った理由を説明していたのに何で忘却の彼方に送っていたのかをむしろ知りたい。

 

「お金は要らないわ……でもね、業者の人と一緒に直してきなさい」

 

「い、イエッサー!!」

 

紲は項垂れながら、他にある筈もない逃げ道を必死に探すのだった……。




如何でしたでしょうか?

尺の都合で短くなってしまいました。

はて、紲が行った技というのが如何なるものなのか……それはまた後程に。

次の更新日ですが来週の水曜日にできればと思ってます。

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