新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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ちょっと短くなってしまいました。

続きです。


人には苦手な事は沢山あるもんだ

「ふぁぁぁ~」

 

紲は大あくびをしながら登校していた。

 

「何をそんなくたびれたサラリーマンみたいに猫背になってないの」

 

紲の背中を思いっきり叩きながら活を入れてきたのは紗香だった。隣には健司も一緒に居る。

 

「遅くまであの資料を読んでからだよ……大体、紗香は眠くないのか?」

 

夜遅くまで、紲と隣り合わせで資料を読み耽っていた筈だ。なのに、紗香は普段の凛とした姿を崩さない。

 

「それは察してやってくれよ紲」

 

答えたのは紗香ではなく健司だった。

姉弟というだけあって、紗香の言いたい事が分かってるから割り込んで来たのか。それにしては悪戯を企む子供のような意地の悪そうな表情を浮かべていた。

紗香の方は健司の言わんとする事を理解しているようで、額に青筋を立てているように見受けられた。

 

「そ、そういえば何か分かったのか?」

 

「まあ、な。推測の段階だけど」

 

健司は紗香の立てた青筋に気付くと、話題を無理矢理に転換した。

その事に気付かずに紲が律儀に教えてくれる。

 

「それで良いから教えてくれよ」

 

「残念だけど、それは出来ない相談だわ」

 

しかし、紗香が健司の話を蹴飛ばした。話せないと存外に告げられているのだと分かると、憤りよりもむしろ「珍しい」という心情になった。

普段、こういった事柄には戦力になる健司にも伝えてくる。だけども、話を通さないのにはそれだけの理由があるのだと長い付き合いの彼には理解できた。

 

「悪いな健司。今回ばかりは話せないんだ」

 

「分かったよ。オイラはお呼びが掛かるまでせいぜい傍観を決め込むとするさ」

 

紲が申し訳なさそうにすると、健司はおどけた様子を見せた。

 

「って事は央佳さんにも内緒なのか?」

 

「そうしてくれると助かるわ」

 

意図は汲み取れないまでも、状況的に必要な事だけは拾えたので「了解」と短く答えた。

 

「さて、私は生徒会で片付けなくちゃいけない事があるから先に行くわね」

 

「そうだったのか? なら、俺達に構わずに先に行ってても良かったのに……」

 

朝に生徒会の用事があるだなんて初耳だ。

それなのに話に付き合わせてしまった事に申し訳無さを覚える。

 

「むぅ……そういう事を言うんだ」

 

しかし、紲の反応は間違いだったらしくて紗香に鋭利な視線を送られた。

当の本人には訳が分からず、頭上にクエスチョンマークが飛び交った。

 

「今回は紲のデリカシーがないのが悪いな」

 

「俺のせいなのか?」

 

健司の中では紲が既に犯人のようだ。納得がいかないと訴えるものの、残念な事に耳を傾けてくれる人はこの場には居ない。

味方の居ない世界はなんて寂しいのかと紲は泣きたくなってきた。

 

「まあ、気にしなくて良いわ。そうね……今週の日曜日にでも一緒に出掛けてくれれば」

 

「OKOK。承諾した」

 

紲も紗香に不躾な事を言ったのではないかと思ったのもあるが、純粋に彼女と出掛ける事に喜びは持っていた。まあ、ファンからの妬みはセットでやって来るが。

 

「約束だから。それじゃあ先にね」

 

端から見ても分かる通りの上機嫌さを全面に出しながら紗香は先に学校へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

紲と健司は遅刻しない程度の速さでのんびりと歩いて登校を果たした。

途中、健司に女子の大群が襲い掛かってきて紲は登校しただけで生傷が増えた。

 

「痛い……」

 

身体の節々……そして何よりも知人がモテるが故に本来なら健司に降り掛かる不幸が紲へ密集しているように思えてならない。

 

「大丈夫ですか?」

 

紲の身を案じてくれるオアシスとなってくれる央佳に感謝の気持ちは忘れない。

 

「全員が全員、俺を無視した上に踏んづけていったんだぞ」

 

目から血の涙を流す紲。

その様子に戸惑うのは央佳だ。紲が恨みがましく見ていた健司にまで無視された。

このモテ男をどうしてやろうかと思ったが、そんな気分も起こらない。いや、その前に紲のスマフォが震えた。

 

「紗香から?」

 

しかも電話であるのが珍しい。紲は首を傾げながら出た。

 

「もしもし? どうしたんだ?」

 

『実は頼みたい事があるのよ』

 

頼みたい事?――紲は首を傾げながら紗香の次の言葉を待った。

 

『ちょっと3年生の「円山財賀(まるやまざいか)」を生徒会まで連れてきて欲しいのよ』

 

「えっと……誰だ?」

 

『健司に聞けば分かる筈よ。お願い出来る?』

 

「連れてくるだけなら俺じゃなくても自分でやれば良いのに」

 

『私だと無理なのよ。他の皆も手が離せないの』

 

生徒会だけあって、きっと紲には分からない仕事の量があるのだろう。

 

「了解」

 

『ありがとう。名前を言えば健司なら分かるから』

 

それだけ言い残すと、そそくさと電話を切ってしまった。

紲は頬を掻きながら今の話を健司にしてやる。

 

「あー、なるほど。それは仕方無いな」

 

「何か聞いてるのか?」

 

紲の問い掛けに健司は気まずそうな口調で答えた。

 

「まあ、端的に言うと……姉ちゃんとしても会いたくない人物って所だな」

 

それなのに「会わなくてはならない」とは円山財賀は何者なのか気になるのだった。




続きは来週の水曜日を予定しています。

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