体調不良で更新が遅れてしまいました。
もうほとんど治りかけなので続きを書きます。
紲と紗香の昼休みで生徒会での公務を終え、放課後になった。
「どうしたんだ紲? 生徒会に行かなくて良いのか?」
「紲君、どうかしたのですか?」
「あー、いや……」
紗香からは既に話をして貰っている。内容は全て聞いており、本人からは来なくても大丈夫だと言われていて、それどころか――
「悪い。今日は用があるから。紗香からも許可は貰ってある」
「それなら良いがよ……じゃあ、オイラ達は行くから」
「紲君、また後でなのです」
「おう。すまんな」
健司と央佳に謝罪して、紲は教室を後にした。
さて、健司達と別れた紲が何をしているのかと言えば――
「とりあえず、買えました……っと」
紲は紗香にメールを送る。本日、予約していたラノベがあるから紗香に買ってくるように頼まれた。紲自身も欲しいものもあったので買いに来た次第である。
「さて、と……あとは向かうとするか」
紗香が先に紲を呼び出した理由は他にある。
さっさと情報を紲に渡し、放課後に今日の体育の時間に訪れた今は使われていないホームセンターに向かうとする。
「場所はさや姉に聞いたばっかだが……」
スマフォを弄くりながら送って貰った地図を頼りに目的地に向かう。
場所はそこまで遠くない。
「行きますか」
荷物を鞄に放り込み、このままの足で向かうと決めた。
位置からすると、学校の隣をずっと真っ直ぐ行けば辿り着けるものだと推測はできていた。それを元に紗香が調べた場所に……目当てのものがある事を突き止めた。
「おう。テナント状態だな」
横に広いホームセンターだった。入口全部にシャッターが降りていて「侵入禁止!!」と暗に言われている。
「あまり無いな」
無いと言うのはこの近辺に住宅やら他の店舗が並んでいないという意味でだ。
周囲には「売り地」や「売家」と立て札の置かれたものばかり。
「確かこの辺に関してもさや姉が調べてたよな」
紲はスマフォを取り出して紗香からの“もう一通のメール”を開いた。そこには近辺の情報も載ってある。
ホームセンターが出来る3年前にその責任者が退去をしてくれるよう大金を配っていたようだ。
―――“退かしたって事だよな?”
紲の持つ情報と少しずつ噛み合っていく。
ここでジッとしていたって何も得られやしないなら突入しかない。周りに誰も居ないのを確認――OK。
紲は忍者よろしく抜き足差し足でもはや使われた形跡の無さそうなホームセンターへと近付いていく。
「こういうのは裏手に出入り口があるもんだ」
紲の予想通り「関係者以外立入禁止」と赤く、しかしながら時間の経過で剥がれかけ、色も褪せ始めている張り紙があるだけ。
気にする事なく、来る途中で買ってきたビニール袋を右手に被せて『魔力』で筋力を強化してドアノブを回す。万が一、ドアノブの指紋を調べて紲に辿り着かないように注意を払っておく。力付くで次のステージへの扉を開いた。
「暗いな」
入口を締める前に電気を付ける。
もし先に入っている人物がいるなら、紲にはコソコソしている理由など皆無なのだ。
―――見付かったら一対一なら問い詰める。複数なら逃げる。
紲はゆっくりと歩みを進めていく。
警戒心が皆無という訳じゃないのだ。もし、ここでヘマをして逆に向こうに捕まるだなんて阿呆なオチにしたくはない。
「にしても、どうしてホームセンターみたいな隠れ蓑を用意した?」
思う限りの最大の疑問を口にしてみる。
もう使われなくなった場所を隠れ家に使うのは利に叶っていると思いはする。だけど、だとしても時間が掛かりすぎる事をやる気になるのか? だが、結果として誰にも怪しまれずに済んでいる。
「メイアと剛毅が居たのも気になるな……」
ひょっとして、ホームセンターを作る事で何かを隠していた――そんな風に考え始めた。
学校で地下通路を使ってホームセンターに辿り着いた位だ。そういう古典的な方法で隠しものをしていると考えてしまう。テロリストが隠そうとするもの――紲には考えるだけ無駄だ。何たって、テロリストの気持ちなど分かりたくもないのだから。
「うーん。一回りして隠し通路でもあるか分かれば良いんだけどな」
「そんなの、探そうとするだけ無駄だよ」
まさしく不意打ち――紲の横合いから女性の声がした。
「お前……メイア」
唐突に事件の当事者にバッタリ遭遇するだなんて驚かない筈がなかった。
「どうしてこんな所に?」
「それはこっちの台詞。アンタこそ、さっきあんな目にあったのにノコノコ普通にやって来る?」
「ん? まあ、何か手掛かりが残ってないか寄ってみた。メイアが捕まったから良いや」
ガシッ!! とメイアの肩を掴む。
「ちょっと付き合え」
「アタイを何処に連れていくのさ!?」
紲の強引な手口にメイアは連行されていくのだった。
紲はメイアを引き連れて、街中に繰り出した。
さっきのホームセンター側とは違って、こちら側には生活の活気がある。車道を挟んで両側に歩道、そして様々な店舗がある。
そこへ出る頃まで彼女を引き摺っていたが、メイアが放すよう言ったので紲と横に並んで歩いている。
「ちょっと待ちな!! アンタはあのホームセンターに用があるんじゃなかったのかい!?」
「何かないかと思っていたんだがな……簡単に見付かりそうにないし、良いかなって」
さっきもそんな事言ってたのを思い出す。この少年はそんな軽い気持ちであんなにも危険な地へ足を踏み入れたのか?
「それにしたって無警戒過ぎる!! あの場に圧山さんが居なかったから良かったものの……居たら殺されるよ!!」
メイアが子供を叱る親の雰囲気を纏いながら紲に言った。
「………………ぷっ」
しかし、次に紲は口を尖らせながら失笑を漏らす。一瞬、彼が何をしているのかさっぱり分からなかった。
「ぷははははははははっ!!」
やがて、堪えきれなくなったとばかりに紲は盛大に笑う。
メイアはと言えば、彼の見せた反応が意味不明過ぎて呆然としていた。ややあって、彼女は我に返ると紲に突っ掛かる。
「急に笑い出して……アタイの事をそんなに笑い者にしたいわけ?」
「ぷっ、くく……いや、悪い悪い。そうじゃないんだ」
何とか笑いを堪えながら、紲はメイアに向き直る。
「じゃあ、何のつもり?」
「嬉しくってさ」
「嬉しい……? 何がよ?」
仕方無いな――まるで紲とメイアの立場が逆転したかのようだ。そんな状況をおかしく思いながら、紲は言葉として吐き出した。
「だって、メイアが優しい奴だって確信を持てたからさ」
「は、えっ!? えっ!?」
メイアは目を白黒とさせて、反応にも困惑したものを見せる。しばらくした後に紲の言葉の意味を理解したメイアは顔を真っ赤にさせた。
「な、何を言ってるんだよ!! アタイが……や、優しいとか、そんなわけないよ!!」
彼女にとっては、普通の事柄なのだ。面と向かって言ってくるのは幼馴染みの央佳や親くらいなもの。近寄りがたい雰囲気を発し続けるメイアが近くもない他人……ましてや異性から「優しい」などと評される事には慣れてない訳だ。恥ずかしさも合間って、顔を赤く染めていってしまう。
当然ながら紲はそんな事は知らない訳だし、全て心の底から沸き上がった想いを声に出した訳である。
「いや、顔を真っ赤にさせながら言っても説得力は残念ながら無いぞ」
そして、押せ押せフィーバータイムに突入できた紲が完全に押している形だ。
「お前は否定するけど、めっちゃ良い奴なんだ。そこは反論させねえよ」
「勝手にしな」
メイアは乱暴な口調に更なる磨きをかけて明後日の方向に顔を反らせながら言った。頬に若干の赤みがあるように窺える。
照れているのだろう――紲はそのような印象を受けた。だけど、こんなにも他人想いな一面を見た以上……新原紲は放っておけない。
「そんじゃ、遊びに行こうぜ」
メイアの手を取り、紲は駆ける。
「ちょ、ちょっと」
「時間は有限!! 今は2人とも学生服着てるから何でも学割が効くはずだ!! 急ぐぞ!!」
メイアの慌てた声もなんのその。紲は強引に彼女を引っ張っていく。
如何でしたでしょうか?
熱が下がった時を見計らってちょくちょく書いてはいたんですけど、後半からダウンしていて遅れてしまいました。
次回は来週の月曜です。