新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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大変お待たせしました。

続きです。



紲と紗香②

紲達は授業を抜け出した事への説教を喰らった。いくらメイアの為とは言え、無断で抜けたのは痛かった。紗香がフォローを回してくれた事で、ペナルティーなく終わった。

だが、彼らにはお気楽に過ごすだけの暇はない。この学校の生徒がテロリストと関わっているだなんて一大事に気付いてしまったのだから。

 

「教師には“まだ”話せないな」

 

紲は巨大な溜め息と共に誰にともなく呟いた。

今は授業中。教鞭を大いに振るう先生の話が右から左へ抜けていく。

紲が考えている事柄は単純明快――メイアの事だ。

紗香から剛毅と名乗った男がテロリストである事は伝えられた。彼の顔写真はテレビや雑誌でも取り上げられていて、知らなかった紲の為に改めて教えられたようなものだ。

 

―――まあ、その事を差し引いても驚くよな。

 

学校のクラスメイト……特に央佳はメイアとは幼馴染みだ。そんな間柄がいつの間にやらテロリストと裏で画策していた事実の方に意識を持っていかれた。

詳しい事情や今後の対策は放課後に行う事になっている。

 

―――はあ、どうすりゃ良い?

 

剛毅が流行りの薬売に関わっているなら話は超特急で解決する。

だが、事はそう簡単ではない。クラスメイト(メイア)が関わっているとなると学校側が隠蔽か、責任をメイアに押し付けるか、もしくは別の判断を下すのかは知らない。

 

―――いや、それ以前にメイアが悪企みに関与しているとは言い切れないしな。

 

まだ紲達の胸の内に秘めておく。それに……紲は紗香と央佳から「メイアを何とかして欲しい」と依頼を受けた。

 

「何とかしなくっちゃ……」

 

そう頭を回らせていた紲のポケットが震えた。スマフォにメールが届いたのだ。

『魔法』がある今でも携帯などの通信機器は使われている。無論、『魔法』でお互いに連絡し合う術はあるが『魔力』を消費するので機械に頼る事が多い。

そして、今スマフォのメールの主は紗香と判明した。

 

「さや姉……どうしたんだ?」

 

机を陰にしてスマフォを弄くる。授業中にスマフォを触るなんて教師から拳骨が飛んでくる。体罰も拳骨一発は許可されるようになった。

 

「昼休みに生徒会室に来てくれ……とな?」

 

きっと何かあるのだと踏んで、彼は「了解」とのメールを送った。

 

「新原……授業中にスマフォを弄くるとは良い度胸だな?」

 

恐々と紲は顔を上げた。教師がピクピクと額に青筋を立てているではないか。

 

「覚悟は良いな?」

 

素晴らしい笑顔と共に拳骨が飛んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。教師からの拳骨に痛めた頭を摩り、昼食の為に買った焼そばパン(税込138円)とおにぎり(税込108円)とお茶(自宅の冷蔵庫から引っ張り出した)を袋に詰めて引っ提げて紲は生徒会室を目指す。

 

「ん? 誰だ?」

 

生徒会室の扉の前に立ち尽くす眼鏡の男子生徒が居た。目付きは鋭利さがあった。

怖いな――そういった感想を持ったものの、生徒会の前に居られては入室は出来ない。

 

「あの~。生徒会に何か用ですか?」

 

思いきって声を掛けた。もし生徒会に用と言うなら幸いにも生徒会と関わりを持つ紲が橋渡しの役目を買って出るつもりだ。

 

「いや……ただちょっとこの辺りに落とし物をしていてね。見付かったから問題ないよ」

 

「そうですか。なら良かったです」

 

「ありがとう。君は優しいんだね」

 

眼鏡の男子生徒をよく見てみると、女性受けしそうな整った顔立ちではないか。髪型も首を隠すか隠さないかの絶妙な長さだが、彼には実にマッチしていた。

紲の中ではイケメン枠は健司なのだが、これは思わぬダークホースが居たものだ。

 

「君は……生徒会なのかい?」

 

「あっ、いやそういう訳ではないんですがね……ちょっと友人に呼び出されていまして」

 

これから何事かを聞かれるのかと内心でビクビクしてるのは内緒の方向で。

 

「なるほど……紗香さんに呼ばれていたのか」

 

「はい……そうなんですよ」

 

あからさまに肩を落とす演技をすると、眼鏡の男子生徒は苦笑した。その姿すら絵になっていて、いつぞやのマンガの表記なら女子は目をハートマークにしていそうだ。

 

「なら、きっと何かあるだろうが頑張ってくれ」

 

「どうも。ありがとうございます」

 

紲はペコリと頭を下げて眼鏡の男子生徒が去っていくまで見送った。

 

「さて、気を取り直して……生徒会室に入りますか」

 

まさか学校に入学して数日で生徒会室に何度も出入りするようになるとは思わなかった。

 

「失礼します」

 

「いらっしゃい紲」

 

出迎えてくれたのは「ロ」の形で置かれた長テーブルの入って真正面の席に座る紗香のみ。他のメンバーはこの場には居ない。

 

「さあ、座って座って」

 

紗香に促された席は入って真正面側にある机……つまり、彼女の隣席だ。

 

「おう」

 

紲は遠慮も、恥ずかしさの1つも無しに彼女の隣に用意された椅子に座る。

 

「お昼はどうしたの?」

 

「ここにあるだろ」

 

買ってきた物を袋に入れたまま見せ付けて言う。

 

「お弁当じゃなかった?」

 

「残念な事に俺の家は弁当を用意してはくれない。俺も料理は作れない……OK?」

 

これくらいは知ってるだろ?――紲はそんな意味を込めた目付きでツッコミを入れていた。

紗香も分かっていて言ったものである。彼女は「ごめんごめん」と軽く謝る。これが10年以上の付き合いのある幼馴染み同士だからできるやり取りみたいなものだ。

 

「それで? 呼んだのは俺だけなんだろ?」

 

「ええ、相変わらず察しが良いわね」

 

紲の問い掛けに紗香は肯定の意志を込めて答えた。

 

「メイア……いや、剛毅とか言う男の事だな?」

 

「その通りよ」

 

目下の問題――紲はテロリストの剛毅についての知識が乏しい点も合わさっている。この昼休みにそこら辺の問題も解決しよう。

 

「まずは圧山剛毅について話しておかないとね」

 

その切り出し方で紲は姿勢を正す。これから教えられる事柄の一言一句を決して聞き漏らしてはならない。

 

「彼は『エクリプス』という組織を1年程前に立ち上げたの」

 

『エクリプス』――英語で「日食」や「蝕」の意味を持ち、ギリシア語で「力を失う」という意味だったかを確認していた。

 

「旗印として『世界から『魔法』を奪い取る』って名目で造られた組織らしいよ」

 

「『力を失う』……違うか、『力を失わせる』って目的で動いてる訳だ」

 

『エクリプス』の名に恥じない行動目標を掲げている。いやはや、ヤル気に満ちているテロリストではないか。

 

「テロリストって言うからには……何か迷惑になる目的でやってる訳か?」

 

仮にも「テロリスト」と言うのだから「迷惑」なんて単語を越えそうな事柄を仕出かしていそうなのだが……紗香はさして気にした風もなく続けた。

 

「紲も知ってる筈よ。最近学校周りで配ろうとしているものよ」

 

「……まさか、薬か?」

 

ここ最近であった事柄と言えば“それ”だから。

 

「そう。奴は薬を使って『魔法使い』から『魔法』を奪い取ろうとしているのよ」

 

「奪い取る? そうじゃないんだろ?」

 

紲は確信を込めた口調で、紗香を見た。彼女も「私もそう思う」と前置きしてから言った。

 

「薬で『魔法使い』として……いえ、“人として”私達を無力化させようとしているみたいよ」

 

要は薬で判断能力、思考能力といったものを奪い取り……堕落をさせようとしている訳だ。

自分は手を汚さず、手軽に『魔法使い』を無力化できる。

 

「まあ、警察なんかは簡単には薬を飲ませるなんて出来ないだろ」

 

「これは推測だけど……メイアみたいに内部に敵を潜伏させる」

 

紗香は厳しい顔付きで告げる。

紲が“わざと考えないようにしていた内容だ。” 

 

「おい、メイアがまだ“そう”だって決まってないだろ?」

 

「分かってる……でも最悪の事態は想定しておかないと痛い目を見るのは紲だけじゃないのよ」

 

紗香の指摘に遇の音も出ない。もしもメイアが圧山剛毅と裏表無しに協力関係にあると言うなら……紲以外の身内に危険が及ぶやもしれない。

 

「ああ、俺だって重々に承知してる……」

 

口ばかりと思われてしまいそうだが、紲の言葉には嘘偽りはない。

確かに頭でそこまでの考えに至っているのだが……分かっていても感情が許さない。

 

「分かってる。私の知ってる新原紲は誰にでも手を差し伸べるって事はさ」

 

紗香は紲を真っ直ぐに捉える。

 

「今一度確認するわよ。あんたはメイアを助けるつもりなのよね?」

 

「そいつはおかしな話じゃねえか紗香」

 

紲は紗香の弁に対しての矛盾を指摘してやる。

 

「お前が俺に依頼したんだ。『メイアを更正させてくれ』ってさ」

 

『魔法相談室』の室長・新原紲に彼女はそう依頼した。最も彼に近しい存在であり、一番の理解者の紗香が紲の性格を分かってないだなんて言わせない。

 

「可能性があると俺は踏んでるんだ……絶対に諦めないぞ」

 

力強く、紲は紗香を真正面に見据えて告げた。

 

「ふふ。分かってるわ」

 

これまでの刃のような鋭利さを含んだ瞳は成りを潜め、安心を前面に押し出した笑顔を見せてくれる。

 

「“その言葉”を紲から聞けたなら安心ね」

 

「俺の言葉ってそこまで凄いものなのか?」

 

「そうよ。神様の言葉並みに凄いのよ」

 

どうやら紲の断言は紗香にとって随分と神聖なものであるようだ。

 

「じゃあ、神託が絶対ならメイアを助けるのに文句はねえよな?」

 

「最初からそのつもりよ」

 

紗香は「当然」とばかりに紲に微笑んだ。

それを見届けた後に「ところで」と紲は話題を転換する。

 

「今回の件で色々と質問があるが……良いよな?」

 

「学校から通じる地下通路、あのホームセンターみたいな場所、剛毅についてよね?」

 

紲が一番に聞きたがる事柄を紗香が勝手にピックアップした。実際、その通りなので紲は小さく頷いた。

 

「まず学校の地下通路だけど、あれは誰がやったのかはまだ分からないわ」

 

容疑者を絞ろうとしたところで、学校全体にプラスして卒業生だって容疑が掛かる。とても調べるには時間が足りない。

 

「次にあのホームセンターだけど……調べてみたら、2年程前に潰れたホームセンターだったわ」

 

「圧山剛毅が行動を開始した時期の1年前か……」

 

偶然とも言えるし、ひょっとすると剛毅の手によりとも言えなくはない。

関連付けをしてしまうのも頷けよう。

 

「とりあえず現状で分かってるのはこれだけだけど、多分叩けば埃が出そうだわ」

 

「下手すると毒蛇が生まれそうだけどな」

 

あくまで慎重に――そんな意味で以て例えた。紗香は「そうね」と紲の意見に同調した後に最後の質問に答える。

 

「圧山剛毅の『魔法』については分からないわ」

 

「そっちもか」

 

紲としては“確証が欲しかったのだが”どうにも世の中は甘くないらしい。

 

「そもそも圧山剛毅と直接に相対した『魔法使い』が居ない……いえ、この表現は正しくないわね」

 

紗香は「言い間違えた」と存外に告げていた。

 

「彼は表舞台にこそ立つけど、その戦闘の大半は部下に任せてばかりなの」

 

「マジか……」

 

つまり、彼の戦闘能力を測る事は難しいようだ。皆無ならば良いが、もしも途方も無い程の強さだと考えてしまうと迂闊に手を出せない。

 

「なるほど……って事は俺はラッキーな訳だ」

 

しかし、紲はほくそ笑む。圧山剛毅の『魔法』を間近で見る事ができた上に、その身に直接体験済みなのだから。

不可視の『魔法』、紲は物理的なダメージも負っている。そこから導き出される『魔法』は多くないからこそ絞り込める。この事を知らないなら圧山剛毅の『魔法』は確かに初見で見破れそうにないし、そもそも彼の『魔法』だと見抜きづらい。それにプラスして圧山剛毅の『魔法』の発動までのモーションが見受けられない。故に彼が『魔法』を使用したとして、ほぼノーモーションの圧山剛毅が『魔法』を扱ったとは思ってくれない。混戦中だとすれば部下をスケープゴートにして自分の『魔法』を隠しているに違いない。

 

―――だとしたら、“当たりは付けられる。”

 

希望が少し見えてきたところで更なる疑問点が浮かび上がった。圧山剛毅とメイアにばかり目を向けていたが、敵は『エクリプス』と名乗るテロリストだ。

 

「『エクリプス』ってのは何人で構成されているんだ?」

 

「詳細は不明だけど、確か20人。それ以外に圧山剛毅、そして1人の協力者も居た筈よ」

 

合計22人。それが今回敵対する勢力の大きさだ。

 

「にしても、よく具体的な人数とか分かったな」

 

「最初の頃に圧山剛毅が言ってたのよ。まあ、1年前の話だから鵜呑みにはしないで」

 

でも、最低人数としては分かる。

紲は改めて気を引き締める。

 

「さて……それじゃ、これを紲には早速手伝って貰おうかしら」

 

言いながら紗香は机の下から「ドサッ!!」と音を起てる程の多量のプリントを机の上に乗っける。

瞬間、紲の防衛本能が働いた。これはまずい。背中にベットリと付きまとう嫌な汗が流れるのを実感しながら紗香は次なる言葉を解き放つ。

 

「人手が足りないの。手伝ってくれるわよね? き・ず・な?」

 

語尾にハートマークが付属されていそうだった。

結局のところ、紲は断り切れずに紗香の依頼に首を縦にした。

終わる頃、紲は昼食を食べてない事に気付いたのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2週間ほとんど触ってなかったんでちょっと心配です。

Rewriteの方はもう少しお待ち下さい。

次回更新予定は来週の土曜日です。


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