新原紲の魔法相談室   作:ゼガちゃん

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日付変わる前に投稿できた……

続きだっちゃ


依頼が来ました

「ぐわぁぁぁ……」

 

 

紲は机につっぷくにしていた。

福富にこっぴどく使われまくった結果だ。

 

 

「お疲れ様なのです」

 

 

央佳が労いの言葉とスポーツドリンクのペットボトルをくれる。

 

 

「うう、ありがたやありがたや」

 

 

央佳という神様を敬いながら紲はペットボトルをラッパ飲みする。

 

 

「同情の必要なんてないよ央佳さん。紲が遅れたのが悪いんだから」

 

 

「遅刻の原因がお前の姉ちゃんとフォローしなかったお前にもある事だけは忘れんなよ健司」

 

 

フォローしてくれれば良いのに、見捨てた友人をここぞとばかりに責める。

 

 

「悪かった悪かった。あとで色々と手伝ってやるから勘弁してくれ。姉ちゃんも手を貸してくれるしさ」

 

 

「本当、頼むぞ」

 

 

健司から言質を取る。

これから行おう事柄に危険が皆無とは言い切れない。

本当は断りたい所だが、残念な事に紲は学生の身な上に普通の『魔法』が使えない致命的な弱点もある。

戦いともなれば、一切の攻撃札を持たない紲に不利の旗が上がる。

それを補う為の訓練を師から授かっているが。

 

 

「そういえば紲君に聞きたい事があったのです」

 

 

「聞きたい事? 何だ?」

 

 

「紲君から感じる『魔力』の量が“昨日とは違うように感じるのです”」

 

 

央佳の指摘はズバリ的中していた。

健司が「そういえば」と続いた。

 

 

「まだ話してないだろ?」

 

 

「あっ、そういや……」

 

 

紲の事をざっと軽く話しただけ。

まだ央佳には紲の扱う『魔法』の真髄を教えていない。

真髄と言うには分かっている事の少ない事が多いけれど。

 

 

「ひょっとして……まだ紲君の『魔法』には秘密があるのです?」

 

 

周りが聞いていない事を確認しながら声を潜めつつ言った。

別に隠す事でもないのに――と、苦笑を交えながら紲も彼女に習う。

 

 

「言うほど俺も自分の『魔法』が分かってないのがネックなんだけどさ」

 

 

特撮で3番目の仮面のヒーローさんには26位の秘密が隠されていると最初から明言されていた。

紲の方はと言えば、最初から自分の使う『魔法』の秘密は理解には及んでいない。

 

 

「紲君の『魔法』は面白そうなのです」

 

 

「使ってる本人は大変だけどな」

 

 

自身の力の研究に余念はない。

それでも自分の事は自分が一番分からない。

 

 

「そうなのです。紲君に依頼したい事があるのです」

 

 

央佳が両手を叩いて、思い付いたように紲に顔を近付けた。

 

 

「依頼したい事って……何で?」

 

 

「だって紲君は『魔法相談室』の人だからです」

 

 

そういやそうだった――昨日はあれだけの事があったのに忘れていた。

 

 

「と言うか、俺の『魔法』について聞くんじゃなかったのか?」

 

 

「それは後ででも大丈夫なのです。わたしには今すぐに解決したい事があるのです!!」

 

 

彼女が向けてくる瞳は真剣そのものだった。

紲もそれを読み取り、彼女に真摯に返した。

 

 

「何だ?」

 

 

「メイアちゃんの事なのです」

 

 

メイア――央佳の幼馴染みのエルフだ。

今回は彼女に関する依頼なようで。

 

 

「メイアちゃんを授業に参加させたいのです」

 

 

確かメイアはクラスメイトだと央佳は言っていた。

幼馴染みとしては彼女を授業に参加させたいのだろう。

 

 

「でも何だか避けられているみたいで困っているのです」

 

 

項垂れる央佳だが紲の見解は正反対だ。

今朝会った感じから央佳を避けている風には取れなかった。

いや、正確に言うなら“央佳とは関われない事情があると見た。”

 

 

―――だからって、央佳は知らない訳なんだよな。

 

 

結局は紲の直感による推測が多く、確証を得る為には情報は不足している。

不確かなものを確かなものへと変える――口にするだけなら簡単な事だが、これはかなり難しい。

とは言え……だ。

 

 

「メイアの事は何とかしないとって思ってたしな。良いぞ」

 

 

クラスメイトの彼女も今朝は見掛けたのに、別れた後に教室に戻ってはいなかった。

少しとは言え、彼女の人となりは見えてきたので放っておきたくない。

悪人ではなく、ただ不器用な女の子なのだと分かったから。

 

 

「本当なのですか!? ありがとうなのです!!」

 

 

「その代わり協力は仰ぐけどな」

 

 

この依頼の対象となるメイアの事を紲は知らない。

しかしながら、彼女の事をよく知る人物は目の前の紀藤央佳だ。

必然、彼女をベースとした策が組み立てられる。

 

 

「まずはメイアについて聞きたいけど……」

 

 

紲が言い欠けたところで次の授業の教師が入ってきた。

仕方無いと諦めて、紲達は席に戻る。

 

 

 

 

 

 

入学して2日目にして授業は開始された。

ただ、今回は午前いっぱいで終わる。

メイアについて相談をし合うならこの時間がベストと言えた……が、

 

 

「そうだ紲。それに央佳さんも。今朝姉ちゃんが生徒会に顔を出して欲しいって言ってたぞ」

 

 

「生徒会にです?」

 

 

「何なんだか……」

 

 

これが紲1人であれば、ある程度の想像はつく。

9割が紲が濃き使われるビジョンだが。

央佳も一緒となると、紗香も無理難題を押し付けはしまい。

 

 

「行ってみれば分かるだろ」

 

 

「ごもっともな意見をありがとよ」

 

 

ともかく、この後の予定は決まってしまった。

 

 

 

 

 

 

紲と央佳は2人で生徒会室前に来ていた。

 

 

「うう……何で呼ばれたのか気になるのです」

 

 

「まあ、取って食う訳じゃないから大丈夫だろ」

 

 

央佳は呼び出しの理由が不鮮明すぎて不安になっていた。

一方の紲は飄々としていた。

紗香が生徒会長として呼び出したのなら、学園に関する事柄が9割方と考える。

公私混同は考えづらい……が、まあ1%位なら有り得そうだ。

央佳を絡めてくる辺りなので、きっと学園に関する問題だと当たりを付ける。

 

 

「まっ、さっさと行くぞ」

 

 

止まっていては先に進めない。

いざ、生徒会室の扉を開いて中に突撃する。

入ってみると、紗香が1人扉の前で仁王立ちしていた。

他の生徒会メンバーはまだ来てないらしい。

 

 

「ふふ……来たわね」

 

 

不適な笑みを見せながら紗香は言う。

そんな彼女に対して……

 

 

「何のアニメの真似?」

 

 

極めて冷静にツッコミを入れたのは紲だった。

紗香は「ははは」とフレンドリーな笑みを溢しながらまずは央佳に向き合う。

 

 

「紀藤央佳さん」

 

 

「はいなのです!!」

 

 

生徒会長に名前を呼ばれ、背筋を正して気をつけをする。

外見だけ見れば小学生が焦って先輩から紡がれる次の言葉に心臓を「バクバク」と言わせているようでもあった。

 

 

「あなたに……生徒会に入って欲しいの」

 

 

「え……わたしがですか?」

 

 

丸い目玉を更に真ん丸にして央佳は瞬きを何回もしながら訊ねた。

央佳の確認に「ええ」と返したのは生徒会長たる紗香本人。

彼女は大事な局面では嘘をつかない。

その事を身に染みている紲は「へえ〜」と感心さえしていた。

 

 

「紀藤さん……ううん、央佳の成績は見せてもらったわ」

 

 

生徒会長と素の「天宮紗香」を入り混ぜた状態。

公私混同しつつ、それが程よいバランスで保たれている。

そんな紗香が央佳を生徒会に誘う根拠を挙げる。

 

 

「まずはこの成績を考え、さらにテストの結果も見させて貰ったわ。その中であなたは群を抜いていた」

 

 

「でもでも、わたし以外にも凄い人は居ると思うのです」

 

 

「そうね……確かに数字だけ見ればそうなるわ」

 

 

けれど――紗香は“紲を”一度見てから央佳の方を真っ直ぐに見て答える。

 

 

「紲が一緒に居たからよ」

 

 

「紲君が……なのですか?」

 

 

央佳は「さっぱり分からない」の表情をあからさまに作っていた。

まあ、当たり前の反応だなと紲は思う。

どっちにしろ、紲だって分かっていないのが本当のところだ。

 

 

「紲は人を見る目がある。そうでなくたって、関わった人を変える影響力を持つ位なんだから」

 

 

紗香がまるで我が事のように胸を張って自慢する。

そこまで言われる事に恥ずかしさはあるものの、嬉しくもあった。

何というか、むず痒い。

 

 

「それよか、央佳はどうするんだ?」

 

 

気恥ずかしくなってきたので、紲は本来の話題へと軌道修正を測る。

 

 

「わたしで良いなら……入らせて欲しいのです!!」

 

 

「決まりね」

 

 

央佳が承諾してくれた事への嬉しさを抱きつつ、紗香は小さくガッツポーズ。

紲の方は「山車に使いやがって……」と唇を尖らせる。

 

 

「んで? 俺の方の用件は? 他のメンバーが居ないのと関係でもあるのか?」

 

 

「そんなにないかな。別件で動いてるだけだから」

 

 

紗香は「さて」と言って切り出し始める。

 

 

「『魔法相談室』の新原紲に依頼したい事があるのよ」

 

 

紗香の切った口火で意図が分かった。

つまり、生徒会からの依頼で実績を残して他の生徒からの信頼を厚くする。

 

 

「わり、今央佳から依頼を受けててさ……」

 

 

魂胆は分かったものの、紲はばつが悪い表情と声音で返信した。

今は央佳からメイアについての依頼を承っている。

2つ位ならこなせなくもないが、ここは念のために大事を取りたい。

それにメイアの件は紗香にも話してある。

言えば分かってくれると思う。

 

 

「そんな気はしてたわ」

 

 

クスリと微笑を浮かべながら紗香は紲と向き合う。

 

 

「メイアさんの事でしょ?」

 

 

ズバリ的中――と言うか、よくよく考えると紗香に依頼していた内容だ。

つまり、メイアの事を掴んだのだろう。

 

 

「私からの依頼は『メイア・アトリブトを更生させる事』よ」

 

 

「更、生……させる?」

 

 

意外な依頼内容に紲は顰めっ面になった。

央佳からの依頼とかする所はある。

大幅に外れる訳でもなく、むしろ紗香側の方が依頼要求の範囲としては広大だ。

 

 

「そうよ紲。メイア・アトリブトさんは授業に参加してないでしょ?」

 

 

「よく知ってるな」

 

 

「うーん、知っているとは“違うわ”」

 

 

「違う? 何だ? 推理でもしたのか?」

 

 

「それが正しいわね。メイアさんの行動から予測したわ」

 

 

あっけらかんと言ってくれる。

だが、メイアの事を調査していて何か分かったのではないか?

紲は続きを促す。

央佳の方も押し黙る。

 

 

「メイアさんが学校には来ているのに校内で見掛けた事はないのに気付いてる?」

 

 

「まあ、今朝には会ったけどな」

 

 

朝来ていただけで、その後に出会ってはいないので紗香の弁に間違いはない。

 

 

「央佳。最近のメイアさんについて何か聞いてる?」

 

 

「メイアちゃんのお母さんとは昨日話したのです。でも、きちんと学校に行って、18時位には帰ってきたのです」

 

 

「なるほど、となると私の得た情報はあながち間違いでもないわね」

 

 

「確かにそうだけどさ……そもそも学校から脱け出している可能性は?  会えないって事は校内にはいないとも考えられるだろ?」

 

 

紗香の推理の穴を紲は突いた。

登校はしている。

しかしながら、学校の敷地外へ逃げ出したとは言いづらい。

 

 

「そこは大丈夫。学校に仕掛けてある防犯カメラの映像を千鶴に確認して貰ったから」

 

 

「は? 防犯カメラなんてあるのか?」

 

 

紗香の言葉に紲は心底驚きの声音を上げた。

そんなものあるようには見えなかった。

 

 

「そりゃあ、バレないように配置してあるからね」

 

 

いや、まあバレる位置に置いておくのも見える場所で抑止力に繋がっている。

まあ、そんな事をしても『魔法』で対処されてしまう。

犯人が訪れると言うならバレない位置に隠しておくのは最善手と言えた。

 

 

「まあ、防犯カメラは敷地に沿って配置してあるから校内までは映せないわ。

 分かってると思うけど他言無用よ。知ってるのは他には生徒会のメンバーだけ」

 

 

紲と央佳も言われるまでもない。

外に漏れるのは大変だ。

 

 

「防犯カメラの話は後にしよう。っで、そのカメラには映って無かったんだな?」

 

 

「そうよ」

 

 

そうなれば紗香の発言は正しい事が立証される。

 

 

「おい、まさかとは思うが……メイアが見当たらなくて悪事を働いているかもしれないから俺が止めろって話なのか?」

 

 

「そういう事よ」

 

 

長々と話していたが、要は「メイアに学校生活を送らせる」のがお題目だ。

 

 

「まあ、それなら央佳の依頼と合わせて何とかなるかもな」

 

 

「それじゃ決まりね」

 

 

どうやら方針はこれで決まりのようだ。

紲も異論はない。

はてさて、これからどのような事が起こるのか……不安要素しか出てこない紲であった。

 




さて、物語は徐々に動いていきますよ~

まだまだ拙い部分もあるかと思います。

次回は来週の金曜日を予定しております。

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