FAIRY TAIL~元勇者の生きる道~   作:ヌラヌラ

8 / 10
LV8〜ただいまとおかえりなさい〜

 

 

「村長も話の分かる人で良かったなあ。殺さずとも脅威は去ったからって報酬はそのまま貰えたしお土産に村の名産のハーブまでくれるなんてな」

 

 マツバ村から少し離れた森の中でソロは大きく伸びをしてエルフマンに話しかける。今しがた二人は報酬を分け終えて、さらに来た時の汽車代を渡して清算したところである。

 

「俺達が無傷で標的の爪を持ち帰ったのがデカかったんだろうよ。

まあ、俺は結局何もしてねぇけどな。お前の強さ、なかなかの漢だっ!そのうち俺とも勝負してくれよ!」

 

「ああ、もちろんだ!それから何もしてないなんて言わないでくれよ。君は俺が戦ってる時常に気を使ってくれていた、だから俺は思い切り戦う事が出来たんだ」

 

 二人は顔を合わせて片側だけ口角を吊り上げて拳を合わせる。二人の漢の友情が生まれた瞬間である。

 

「さて早いとこ行こうぜ。もう夕方だ、さっさと帰らねぇと真夜中になっちまう。そういえば来る時に言ってたアテってなんなんだ?」

 

「ふふふ、良くぞ聞いてくれた!まあ聞くよりも体験してもらった方が早いな!

行くぞ……高速飛行呪文(ルーラ)!」

 

 ソロが集中して呪文を唱えると二人の体は風に巻き上げられた木の葉や人の手を離れた風船のように空中へと浮かび上がる。

 

「うおっ!なんなんだ一体!」

 

「大丈夫だ、建物の中じゃないんだから痛い事は無い!」

 

 狼狽えるエルフマンにどこか間違った宥め方をするソロ、しかし次の瞬間には緩やかな上昇は一度止まり、弾丸のような超高速で二人は空へと昇って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあねミラ~また明日~!明日は新入りの奢りで飲むよ~!」

 

「バイバイカナ!気を付けてねー!」

 

 夕暮れ時となり、ギルドの酒場も人が疎らで家へと帰るカナをミラは手を振って見送る。そして、誰かに聞こえる訳でもないような溜息を一つこぼして視線を下げた。

 

「どうしたミラ、エルフマンとソロが心配か?」

 

 背後から声をかけられたミラは一瞬体をビクつかせるが、振り返り声の主に笑顔を向ける。

 

「いいえマスター、そんなんじゃないんです。マツバ村までは距離がありますからすぐに仕事が終わっても帰りが夜になる事は承知ですけど、いつも連絡を入れてくれるエルフマンにしては何も無いから少しおかしいかなって」

 

 妖精の尻尾のマスター、マカロフはそうかと言うと自身の顎に指を当ててミラ経由で渡された依頼書の事を思い出した。

 

「確か依頼はウィンドベアーの討伐だったかのう……今頃森の中駆け回って探しておるんじゃないか?

まあエルフマンがついておるんじゃ心配はないじゃろう。ミラ、送られて来た始末書読んでたら頭痛くなったから酒をくれんか?」

 

「はーい……ってあれ、なにかしら?」

 

 マカロフとミラが酒場に入ろうとした時、不意に外を見たら景色に不自然な黒い点が視界に入った。普段ならば目の錯覚だと気にも止めないのだが、それはいつまでも無くならない事に違和感を感じる。

 

「ううん、なんじゃ……ありゃあコッチに飛んで来とらんか?」

 

 ミラの言葉を聞いたマカロフも外を見る。

 黒い点は徐々にハッキリとして二つの影である事まで分かった。

 

「ぬうおあああああ!」

 

 酒場まであと数十mといったところで、二人には聞き覚えのある叫び声が聞こえてくる。ミラの弟のエルフマンの声そのものである。

 

「アレは……エルフマンとソロじゃ!あいつら何であんな所におるんじゃ!このままじゃぶつかるぞ!」

 

「そんな……なにかクッションになるような物は!?」

 

 高速で迫る二つの影の正体がエルフマンとソロだと分かり狼狽える二人だが、そうしている間にもグングンと近付いて来て衝突寸前であった。

 しかし、そこでエルフマンとソロの体は急停止、木の葉が舞い降りるような緩やかな速度で落下して二人の前の地面に降り立った。

 ソロは一息ついて何事も無かったかのように首を回し、叫んでいたためゼェゼェと息を切らしているエルフマンは少しの間を空けてから膝をついた。

 

「どうしたエルフマン……もしかして高い所がダメだったのか?

いや、木には昇っていたからてっきり大丈夫なものかと思っていたがすまなかった」

 

 先ほど生まれたばかりの友情にヒビが入った瞬間だった。

 

「ゼェ……ハァ……テメェ……急になにすんだ!いきなり吹っ飛ばしやがって!」

 

 エルフマンは息を整えると立ち上がり今にも殴らんとソロの襟首に掴み掛かった。その様子を見たミラは慌てて二人の間に入り込む。

 

「ちょっとエルフマン落ち着いて!それよりも二人とも何ともないの!?」

 

「姉ちゃん止めねぇでくれ!俺はコイツを一発殴らなきゃ……姉ちゃん!?なんでだ!?ココは……ギルドだと!?」

 

 つい先程までマツバ村の前に居たのに、ソロの魔法で宙に浮かされたかと思えば僅かな間にギルドの酒場の前に移動していた事実をエルフマンは受け入れられないで酷く混乱している。そしてソロの襟首から手を離し頭を抱えた。

 

「よっ、じいちゃんにミラさん。ただいま!

仕事、終わらせて来たよ。コレお土産ね、村長がくれたハーブ」

 

 何度も建物とミラとマカロフの顔を見比べているエルフマンを余所に、ソロは手に持っていたハーブの入った籠をミラへと渡した。建物の中へと入ろうとしたところでマカロフはソロを止め、エルフマンもミラが諭してようやく落ち着きを取り戻す。

 

「待たんかソロ!エルフマンも落ち着いたようじゃし聞きたいんだが、お主空を飛ぶ魔法も使えるのか?」

 

「俺達……空を飛んでたのか……でも、吹っ飛んでから少ししか時間が経ってねえぞ!」

 

「うーん、半分そうって言ったところかな。俺が使ったのは高速飛行呪文(ルーラ)って呪文で俺が行った事のある町や村までひとっ飛びで移動する魔法なんだ。自在に空を飛べるわけじゃないけど、どんなに距離が有っても時間はあまりかからない」

 

 ふとソロは、元の世界で使った時は地上から闇の世界へと世界を越える事もできた事から、昨日この世界から元の世界へ戻れるか試したがルーラが発動しなかった事を思い出した。

 

「へえ、そんな魔法が使えるなんてとても便利じゃない!今度少し遠くまでお使いに行ってもらおうかしら!」

 

「そうしてあげたいのは山々だけど、思いの外消費魔力が大きいらしいから多用は避けたいな……つーか連続の使用は無理そうだ。

……これも元の世界との違いの一つか感覚も少し違う……だけどもしかしたら出力の調整をすれば自由に空を飛ぶことも……?」

 

「アン?最後なんつったんだ?

つーかそれよりもそんな便利な魔法あるんなら使う前に言えよ!」

 

 ソロが最後に呟くように言った事は誰にも聞こえなかったようだ。その証拠にエルフマンは尤もな意見を不満気にソロへと返す。

 

「それは……まあ……黙ってた方が面白そうだったからな!」

 

 悪怯れる様子が全く無く、ソロは人差し指を立てて堂々と言い放つ。

 

「立ち話もなんだし中に入りましょう。

おかえりなさい!エルフマン、ソロ!

さっそく頂いたハーブでハーブティーを淹れるわ!」

 

「そういえば言っとらんかったのう、二人ともご苦労じゃった、無事によう帰ってきた。

ミラ、ワシは酒じゃぞ!」

 

 ふと手に持たされたハーブの事を思い出してミラは手をパンと叩いて酒場の中へと入って行き、後を追うようにマカロフも自分は酒を所望する事を強調して後に続いた。

 元の世界でも、この世界でも変わらないただ何気ないやり取りなのかもしれない。

 帰って来た時に掛けられるおかえりなさいの言葉。

 その言葉を掛けられたのはソロにとって遥か昔の様に感じられた。目的を果たし長き旅を終えて同じ言葉は何度か耳にした、しかしそれらは一つも自分に向けられる事は無く、全て共に旅をしていた仲間へ向けられていた。思えば自分には何も無いと、思い込んで生まれた小さい疎外感が募った結果がこの世界に来るきっかけだったのだろう。

 自分に向けられたおかえりなさいに戸惑いの混じった喜びを覚えるとソロは思わず立ち尽くしてしまう。

 

「俺らも行くぞ、少し休みてえ。戦ったわけでもねぇのにお前の相手をしてたらなんか疲れた」

 

 ソロを正気に戻したのは今回の仕事の相棒、エルフマンだった。エルフマンは大きく伸びをするとそのまま先に酒場へと入って行った。ソロは少し足元を見た後に建物を見上げてから正面の仲間の居る内部へと視線を移す。

 

「……なんだか懐かしいな……ただいま……妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 喜びとも悲しみとも取れない表情を浮かべたソロはギルドの建物へ向かって一礼し、中へと足を進めた。

 

「それでソロよ、初めての仕事はどうじゃった?」

 

 中では早速テーブルに座ってジョッキを片手に酒が入ったせいか些かご機嫌な様子でマカロフが話しかけて来た。

 

「討伐目標は大した事なかった。殺しはしないで村から追い払ったけど依頼主は納得してくれたから報酬はしっかり貰えたよ」

 

「そうかそうか、これからも精進するがよい。

おーいミラ!ソロの初仕事達成祝いじゃ、もっと酒を持って来てくれい!」

 

 マカロフはニカッと笑うと手に持っていたジョッキの中の酒を一気に飲み干して歓喜のため息を吐き出した。その様子を見てソロは自分の事を認めてくれたのだと思い照れ臭そうな笑みを浮かべる。

 

「はい、ソロもお疲れ様」

 

 手際良くマカロフにおかわりの酒を渡すと、トレイに乗せたカップと茶菓子のクッキーをテーブルに乗せてミラはソロに椅子に座るように促す。ソロは礼を言って先に座っていたエルフマンと対面する形で反対の椅子へと腰をかけた。

 

「いただきます…………美味いな。先日のコーヒーもこのハーブティーもクッキーも」

 

「当たり前だ、姉ちゃんの料理は天下一品だからな!」

 

「あら、エルフマンの作る料理だって美味しいじゃない」

 

 見た目がゴツいエルフマンが料理をしている所を想像してソロは口の中の紅茶吹き出しかけるが、なんとか留めて飲み込んだ。

 

「ソロよ、今回の仕事の事を詳しく聞かせんかい!」

 

「ああわかったよじいちゃん」

 

 コホンと一つ咳払いをするとソロは今回の仕事の事を汽車に乗っての移動からウィンドベアーを倒してここに帰還するまでの事を、村長の家のツボを割った事を除いて事細かに話した。

 

「なるほどのぅ、確かにお主の戦う力は凄まじい物があるようじゃな。しかしソロ、依頼は討伐系だけではないぞ。それこそ家の掃除の手伝いと言った物からお主が行ったモンスターの討伐、頭を使うものでは古文書の解読なんて物もあるんじゃ。

全て一人でこなせとは言わん、仲間の力を借りて色んな仕事に行ってみろ。きっとその体験はお主の糧になる筈じゃ」

 

 そう言うとマカロフは酒を口の中へと流し込む。

 単純な戦闘能力で言えば全ての力を解放したソロの方が勝るであろう。しかしその他の全てはマカロフの足元にも及ばない。そう思わせる重みが彼の言葉にはあった。

 改めてソロは自分の入ったギルドの長の偉大さと敬意を自身の心へと刻み込んだ。

 

「でも今回の任務エルフマンは道案内くらいしかしてないのに本当に報酬は半分でいいの?」

 

「構わない。彼には言ったがエルフマンが気を張って俺の戦いを見ていてくれたから俺は思い切り戦えた。

それに元々がそう言う約束だからな、一度交わした約束とか契約は必ず守れ……世界一の商人が俺にそう教えてくれたからな」

 

 ソロは目を閉じて思い出した。元の世界の仲間の一人、見た目は冴えない太った中年の男だがその風貌と飄々とした態度からは想像出来ない程の話術と武器や防具、道具の知識を持った世界一の商人(トルネコ)の事を。

 

「世界一の商人って……お前どんな人間と知り合いなんだよ?」

 

「……おっと、もうこんな時間だ。宿の手配もしなければいけないから俺は行かせてもらうよ。その人の話はまた今度って事で。

ご馳走様また明日!」

 

 ソロはそう言うと立ち上がりそそくさと建物を出て行った。ミラは手を振り、マカロフは手を挙げてエルフマンは相変わらずのソロのマイペースにため息をついて見送った。

 

「どうしたのエルフマン、疲れたような顔して?」

 

「疲れたようなっつーか……疲れたんだよ」

 

 ふぅ、と今日何度目かもわからないため息をついてエルフマンは頭を手で押さえた。

 

「……それだけじゃないでしょ。なにかあったの、帰ってきてからなんだか浮かない顔してるけど?」

 

「……やっぱり姉ちゃんには隠せないか……俺の気のせいだったら良いんだけどよ……ウィンドベアーに最初に一撃入れた瞬間……なんつーか歪んだ笑みを浮かべてたんだ」

 

「歪んだ笑み……じゃと、なんだか穏やかではないのう?」

 

 ソロの話を肴に酒を飲んで気分が高揚していたマカロフの目が真剣になり、ジョッキをテーブルに置いてエルフマンを見据える。

 

「やっぱり見間違いだと思うぜ、その後の行動を見ててもいたって普通だったし不気味な笑いなんか無かった……ただ、だからこそ見間違えたあの顔が気になってな」

 

 3人の間に沈黙が流れる。

 だが唯一ソロの過去を聞いているマカロフだけは一つの推測を立てた。答えは単純、モンスターへの憎悪だ。故郷をモンスターに滅ぼされているのだからその闇は途轍もなく深いのだろう。

 

「まあ、気のせいかもしれんしそうじゃないかもしれんの、ワシらはその笑みを見たわけじゃないからのぅ」

 

 マカロフは事情を知らないであろう二人にはこの推測を伏せる事にした。

 

「……そうですね。エルフマン、今後もソロと一緒に仕事に行って同じ違和感を感じたらまた言ってね?」

 

「おう!……って俺はまたあいつと仕事に行かなきゃいけないのか」

 

 エルフマンの嘆きとも言える発言に2人は苦笑して、談笑を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿の手続きを終えたソロは日が暮れたばかりの薄暗い夜の街を歩いていた。昼間の喧騒はなりを潜めて、騒がしいのは街の酒場の前を通る時くらいであった。

 しばらく歩き続けてある場所へと辿り着く、自身がこの世界に送り込まれて最初に目を覚ました場所カルディア大聖堂。

 ソロは扉を開けて中へと足を踏み入れる。

 

「こんな遅くにどなた……おや、ソロ君じゃないですか?」

 

「日が暮れてしまったのに訪れてすいません。おいのりをしたいのですがよろしいですか?」

 

 ソロを出迎えたのはサイラス神父であったが、その発言に怪訝な表情を見せる。

 

「いえ、構いませんが……君は昨日神を信じられないと言っていましたが?」

 

「訂正する、全知全能の神を騙る(トカゲ)野郎が気にくわないんだ。それと、元の世界で旅をした癖でおいのりはしないと不安」

 

「あー!ソロくん!どうしたの?お仕事失敗しちゃったの!?」

 

 ソロの言葉を遮るように、奥から長いブロンドの髪を揺らしながらリリカが走って出てくる。そして大きな声を出した事と走って来た事をサイラス神父に注意されて悪戯な反省の見えない笑みを浮かべて謝った。

 

「いいや、仕事を終わらせて宿を取ってから日課のおいのりに来たんだ。

あー……その……リリカ、サイラス神父、ただいま……」

 

 定期的なおいのりはソロの習性ではある。しかし今カルディア大聖堂に来た目的はこの二人に感謝の意を込めてこの言葉を言うためだった。

 だが、少し照れくさくて言い淀んでしまう。

 そんなソロの帰還の言葉を聞いた二人は顔を見合わせた後、笑顔でソロに向かい合う。

 

「「おかえりなさい、ソロ君(くん)」

 

 ソロは今日思い出した。

 ただいまと言ったらおかえりなさいと返してくれる尊い存在と喜びを。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。