FAIRY TAIL~元勇者の生きる道~   作:ヌラヌラ

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LV7〜ウィンドベアーを退治せよ〜

 

「うおおお!この列車ってのは良い乗り物だなエルフマン!」

 

 ソロは初めて乗る列車に目を輝かせて興奮していた。自分の居た世界には存在しない乗り物で馬車よりも速く走り、何よりも陸地を走る乗り物で襲撃される心配が無いことに感動を覚えている。その姿は宛ら物珍しい虫を捕まえた無邪気な子供のようだった。

 

「やめろ恥ずかしい!あと窓から身を乗り出すな危ねえだろ!

……ったく、列車に乗った事どころか見た事も無いなんてお前どんな田舎出身なんだよ。そもそもどうやってマグノリアまで来たんだ?」

 

「あー……山奥の村からと言ったところか……まあその事はおいおい話すとしてギルドの事とかをもっと教えてくれないか?」

 

 エルフマンの忠告を聞き入れたソロは体を車内へと戻して窓を閉めて、風圧で乱れてしまった髪を手櫛で整えた。

 

「構わないけどよ、とりあえず帰りの列車の料金が発生はお前が持てよ。乗る前にも言ったがギルドのルールで金の貸し借りは禁止されてるからな」

 

「分かってるよ、俺も金銭で仲間に借りは作りたくない。それに帰りはアテがあるから任せてくれよ!」

 

 含んだような笑みを浮かべるソロに対して、エルフマンは少し怪訝な表情を見せた。

 

「アテ?……まあいいか。ギルドの事か、じゃあまず仕事についてだな。依頼板を見たんなら分かると思うが、仕事には色んな種類がある。だけどギルドに来てる依頼はあれで全部じゃねぇんだ。

あの酒場には二階があってそこにある難易度が高い依頼、S級クエストってのがあるんだ!

でもその仕事は年に一回の試験を勝ち抜いてマスターに認められたS級魔導士しか行く事ができねぇけどよ」

 

「へぇ、エルフマンやナツとかグレイもそのS級魔導士ってやつなのか?」

 

 何気無いソロの一言でエルフマンは閉口して難色を示す。そして暫しの間を置いてエルフマンは言葉を発した。

 

「いや……俺もそいつらも漢だけどS級じゃねえ。

今の妖精の尻尾にS級魔導士は4人、エルザ、ミストガン、ラクサス、ギルダーツだ」

 

「4人か、少ないんだな。少数精鋭って奴か、そいつらも相当腕が立つんだろ?」

 

 その後も二人の会話と列車は止まる事は無く動き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良くいらして下さいました。儂がマツバ村の村長ですじゃ」

 

 列車に乗ってから数時間、そこから1時間程度歩いた所に村は在り、ソロとエルフマンは依頼主であるマツバ村の村長の家へとたどり着き、客間へと通されて椅子に座らせられて歓迎の持て成しとしてハーブティーと茶菓子が今しがた差し出された。

 

「悪いな、今回の依頼を請け負う事になった妖精の尻尾のエルフマンだ。内容はウィンドベアーの退治で良かったな?」

 

「はい……毎年この村は毎年冬に高名な魔導士様に村の周囲に術式を書いて貰っているのですが、どうやら今年は時期が悪い方にズレてしまったようで術式を張る前に範囲内にウィンドベアーが紛れ込んでしまったんですじゃ。そして前日、幸いケガ人は出ませんでしたがこの村の名産であるハーブ園の一つが荒らされてしまったんですじゃ」

 

「確かに良い香りと味のお茶ですね。申し遅れました、俺は妖精の尻尾の新入りのソロです。

……もちろん人に被害が出なかったのは良かったのですが熊のモンスターは何故ハーブの方を狙われたんでしょう?」

 

「そんなの簡単だ、ウィンドベアーってのは草食だ。飯の邪魔や自分を襲ってくる存在に対しては容赦は無いがな」

 

 出されたハーブティーに口を付けてエルフマンは答えた。彼の魔法接収(テイクオーバー)の基本は相手を知る事にあるため獣型モンスターの知識も広いのである。

 

「その通りですじゃ。しかしこの村のハーブは名産品、ハーブ無くしてこの村は存在出来ないのですじゃ。どうか、どうか御二方、ウィンドベアーの退治をお願いしますのですじゃ」

 

「任せて下さい村長さん。俺は知識はあまり無いがモンスター討伐の専門家だ!エルフマンそれ飲んだら行くぞ!」

 

 ハーブティーを飲み干すとソロはおもむろに立ち上がり、部屋の隅に置いてある壺の方へと歩き出し手に持ったかと思うと床へと叩きつけた。当然壺は良い音を立てて割れてしまい残骸が足元に散らばる。

 突然の奇行にエルフマンと村長は目を丸くし、壺を割った本人は中に何も無かった事に不服そうな表情で首を傾げた。

 

「残念、空かぁ。そんじゃあ次々っと」

 

「アホかぁっ!!」

 

 ソロが割った壺の隣の壺に手をかけたところでエルフマンがソロの頭に拳骨を振り下ろした。思わぬ痛恨の一撃を喰らったソロはその場で蹲り悶絶する。

 

「~っ!何すんだエルフマン!?痛いだろ!」

 

「お前が人ん家の壺勝手に割るからだろうがっ!」

 

「壺割ったくらいなんだってんだよ!そんなもん時間が経てば勝手に元に戻……らないのか?」

 

 慌てるエルフマンと口を開けて唖然としている村長を見てソロは事情を察した。恐らくこの世界では割った壺や樽は元に戻らないようだ。すると咳払いを一つすると掌の上に一つの砂が入った瓶が現れる。この世界の換装と呼ばれる魔法と同じくだがソロはその空間の事をふくろと名付けた。

 この砂は時の砂と呼ばれるアイテムで時間を少し戻す事が出来るが、この世界では同じ効果ではない事をソロは昨日天空の装備を装着した事で理解している。ソロの体だけでなくアイテムの効果も変化している物もあるのだ。

 

「しかし問題は無い、この中の砂をかけると割る前に戻るはずだ」

 

 そう言って瓶の蓋を開けて足元に撒くと、瞬時に壺は元の形へと戻り、いつの間にか足元に散らばったはずの砂も瓶の中に収まっている。時の砂はこの世界では物のみを少し前の状態に戻せる効果へと変化していた。

 

「ほっ……ほほ……随分と不思議な魔法をお持ちのようですじゃの」

 

「まったく……それじゃあ行くぞソロ」

 

 エルフマンは残りのハーブティーを飲み干してソロの首根っこを掴んで二人は家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、お前自分で討伐の専門家なんて言ってたけど、今回の目標のウィンドベアーの事知らないでそんな事言ってたみたいだが大丈夫なのか?」

 

「その辺に関しては大丈夫だ、詳しいからではなくて必ず勝つからそう名乗らせてもらったんだ。さて、さっそく誘き出すとしようか」

 

 村からしばし離れた森の中でソロはふくろから小さい小袋を手の上に出現させた。

 

「あぁ、なんだそりゃあ?」

 

「匂い袋だ、モンスターが好む匂いを出す粉が入っている。ここに置いて木の上にでも登って標的が来るのを待とう」

 

 そう言ってソロは大きくジャンプして太い木の上に飛び乗る。身軽な奴だと呟いてエルフマンも近くの木に登り枝へと腰をかける。

 

 時間にして30分ほど経過しただろうか、エルフマンが欠伸をした時、低い唸り声が二人の耳に入ってきた。そして2メートル程の大白い体毛の巨体を揺らしながら標的のウィンドベアーがゆっくりと匂い袋に近付いて来た。

 

「……攻撃倍化呪文(バイキルト)

来たな……手を出すなよエルフマン、君の目から見て危ないって思うまではな。なあに、俺は回復魔法が使えるんだ君が手を貸してくれる前に死ぬ事はないさ」

 

 突如手に天空の剣を出現させたソロは自身を強化する呪文を唱えると枝から飛び降りる。その音にウィンドベアーも反応し、両者は相対した。

 

「タイマンとは漢だな……だけどウィンドベアーはその巨体なのに風のように速く動く事からその名前が付いてんだ。少しでも気を抜いたら殺られるぞ!」

 

 エルフマンの忠告を耳に入れるもソロは動く事はない。

 そしてその忠告通りにウィンドベアーは素早く動きソロへと詰め寄り鋭い爪を振り下ろした。だが、ソロはそれを難なく片手で持った剣で受け止めた。ウィンドベアーは力を込めるがソロは微動だにする事は無かった。

 

「……30%の状態でも攻撃倍化呪文(バイキルト)を使うまでも無かったか。

ハァァッ!!」

 

 ソロは力を込めてウィンドベアーの腕を上に弾いて腹部に一閃。

 少しの間を置いてウィンドベアーは糸の切れた人形のように力無く地面へと倒れこんだ。

 

「おおっ!やったじゃねぇかソロ!」

 

「まだだ!氷結呪文(ヒャド)!」

 

 叫んだソロは後方へと振り返り森の奥の方へと向き直り空いている手を翳す。ソロの掌には青い光が収束されそれが冷気の圧縮された物である事にエルフマンは気が付き、次の瞬間、冷気の塊は前方へと向かって射出されたが、同時に相対する方向から突風が吹き荒れ霧散してしまう。

 やがて突風が止み、森の奥から一つの影が高速で飛び出した鋭い爪がソロを襲った。

 

「……もう一頭居やがったのか!」

 

 迫り来る爪を刹那で見切り身体を翻して躱したソロは速い勢いのまま前方の木に爪を突き立てる影を見ていた。

 それの持ち主は先ほどの標的の倍はあろうかという体躯を持つウィンドベアーだった。その大きさから放たれる威圧感は並の物では無い。

 木に突きささった爪を力任せに引き抜き、木が倒れるのをみたウィンドベアーは鋭き眼光をソロに向けて振り返る。

 両者は睨み合ったまま動かない。ソロが余りの強敵に身が竦んだのだと思ったエルフマンは枝から飛び下りようとしたところでソロの怒声が響いた。

 

「来るなっ!俺は大丈夫、助太刀の条件は変更だ俺がアイツから一撃でも食らったらだ!」

 

 ソロが言い終えるのを待っていたかのようなタイミングでウィンドベアーは動き出す。疾風の如きスピードで爪を一振り、二振りと連続で爪を突き立てる。それに対しソロは最低限の動きで躱し続け、大きな一撃から身を翻し躱して再度大きく距離を取る。

 

「防戦一方じゃねぇか!」

 

「問題ない動きは見切った。おっと、デカイ攻撃が来そうだ!」

 

 ソロとの距離を保ったままウィンドベアーは両腕を高く天に掲げ、勢い良く地に向かって振り下ろす。

 同時にソロが高く跳ぶと後方にあった木が数本倒れた。ウィンドベアーの振り下ろされた爪の軌道をなぞるように真空の刃が飛んでいたのである。先ほどの氷結呪文を相殺した突風の正体も同じであった。

 しかし如何に強力な攻撃手段を持っていても相手に把握されていれば意味はない。元の世界での旅で似たような攻撃を受けた事のあるソロにとってウィンドベアーの真空波はすでに体験済みであり、攻略は容易いものである。

 

「なかなか楽しめたが、もう終わりにしよう」

 

 宙に浮いているソロは体を反転させて近くの木の枝を思い切り蹴って加速してウィンドベアーへと接近する。そしてその勢いで、大技を放った後で防御の出来ないウィンドベアーの脳天に天空の剣の腹を叩きつけた。

 辺りに鈍い音が響き、暫くの間を空けてウィンドベアーは再び腕を振り上げた。

 

「おい後ろっ!」

 

「問題ない、もう終わってるよ」

 

 エルフマンの言葉を無視するようにソロはウィンドベアーに背を向けて天空の剣をしまった。すると標的は呻き声を上げてそのまま地面へと倒れ込んだ。

 

「……お前、本当に強いんだな。なんの苦もなくあっと言う間に二頭も倒すなんてよ。でもなんで仕留めねえんだ?依頼は討伐だって事を忘れたのか?」

 

「いや、ちゃんと覚えているが……なあエルフマン、術式ってやつは結界みたいなやつでその範囲内にコイツ等モンスターが入れなくなるバリアが張られるって事で良いのか?」

 

「あん?だいたいそんな感じだが、なんでんな事を」

 

「出てこいよ、安心しろ。もうコイツ等にもお前にも何かをするつもりはない」

 

 聞きたい事だけを聞いたソロはエルフマンの言葉を遮って顔を奥の茂みに向けて言い放った。

 

「無視すんな!だいたい誰に向かって言っ……て……コイツは!?」

 

 茂みが揺れる音がしたのでエルフマンもそちらに視線を向けると、先の二頭に比べるととても小振りで大きさは最初の標的の半分にも満たない程度のウィンドベアーの子供が威嚇するように鋭い視線を2人に向けていた。

 

「知らんが恐らくあの二頭の子供か兄弟かだろうな。人的な被害が無くてあんな小さいのがいるって分かったらこの二頭を殺す気になれなくなった。術式とやらの範囲外まで二頭を運ぶ、手伝ってくれ」

 

 ソロはそう言うと小さいウィンドベアーに目線を合わせると先ほど倒した大きい方を抱えて歩き出す。

 

「オイ!依頼はコイツらの退治だって……まったく仕方ねえな!」

 

 エルフマンは溜息をついて呆れながらも残ったウィンドベアーを軽々と抱えてソロの後を追う。

 暫く歩き術式の範囲外まで辿り着くと2人はウィンドベアーを木を背もたれにして寄りかかる様に置いてソロは両手をそれぞれに向けて回復の魔法を施した。

 

「傷は治しておいてやる、お前らこのチビを守らないといけないからな。もし、術式が切れた時にまた村を襲ってみろ今度は殺す」

 

 厳しく言い放つと同時に治療が終わった。すると二頭は目を覚ましてソロ達を威嚇する。

 

「何も傷まで治してやる事は無かったんじゃねえか?

当たり前だけどあいつらやる気だぜ」

 

 エルフマンが今度は俺が倒すと言わんばかりに腕を回して準備をすると、小さいウィンドベアーは両者の間に立ち、少しの間を空けて親の元へと寄り体を登って頰を舐める。

 その行為にエルフマンは毒気を抜かれ、二頭は事情を察したように唸り声を止めて威嚇をやめる。そして二人をジッと見据えると一番大きいウィンドベアーは爪を一本折ると地面に置き、二頭と共に森の奥へと去って行った。

 

「コレは一体なんのつもりなんだろうな?」

 

「ウィンドベアーは自分よりも強者だと認めた生き物に爪を渡す習性があるって聞いた事がある。しっかし、この場合依頼はどうなるんだろうな」

 

「何も殺す事が退治って事もないだろう、起きた事を全て話す」

 

 ウィンドベアーの爪を拾いあげてソロは少し満足気な笑みを浮かべてエルフマンの肩を叩いて村へと戻ろうと誘い、二人は歩き出した。


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