FAIRY TAIL~元勇者の生きる道~   作:ヌラヌラ

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LV6〜新しい家族〜

 

 

「神父さん、リリカ、お世話になりました。礼は必ずしに来るから期待してくれ」

 

 昨日、マカロフとの調整を終えたソロはカルディア大聖堂へと戻り、自身の生い立ち全てを二人に話した。サイラス神父は黙って聞き入れ、リリカは目に涙を浮かべていた。聞き終えた二人の思い思いの言葉を正面から当てられ、自分の事を考えてくれる人が居るのだとソロの心は満たされた。

 そして一夜明けて、ソロは世話になった二人に感謝の言葉を述べて頭を下げた。

 

「気にしないでください、迷える人の手助けをする事が私達の喜びなんです。ただ、どうしてもと言うのなら、ここの清掃などを手伝ってくれるとありがたいですね」

 

「はい、必ず来させてもらいます」

 

「ねえねえソロ君、家決まったら遊びに行ってもいい?」

 

「もちろんだよリリカ、いつでも来てくれ」

 

 そう言うとソロは踵を返して妖精の尻尾へと向かった。

 街の人々の喧騒に耳を傾けながらソロはマグノリアの街を歩く。ある商店では今日はどの品が安い、ある商店では客引き、ある商店では商品の値引きの交渉。他にも市民の人達の井戸端会議も耳に入る。

 それらの内容がどれも平凡な事であり、この街は今は平和なのだということを改めて思いながら歩いていると、気が付いたらギルドの建物である酒場の前まで辿り着いていた。

 相変わらずの酒臭さと騒がしさで耳と鼻が変になりそうだが悪い気分ではない。建物を見上げた後、ソロは一つ呼吸をして気合を入れて扉を潜った。

 

「あっ、お前!昨日俺の怪我治してくれたみたいだな。ソロつったか、お前強くて良い奴なんだなーっ!」

 

 ソロに最初に声をかけたのは昨日手を合わせた桜髪の少年、ナツだった。その後ろに今は羽が生えていないが、二足歩行で歩く青いネコが着いて来ている。

 

「おはよう、ナツにハッピーでよかったかな?

お前も良い炎の技を持ってるね、危うくやられるところだったよ」

 

「あい!でもソロはどこで治癒魔法覚えたの?

回復の魔法は失われた魔法って言われてるのにさ、それに昨日の喧嘩で使ってたら余裕でナツに勝てたんじゃない?」

 

「昨日、マカロフのじいちゃんにも同じ事聞かれた。喧嘩にそんなもの持ち出したら卑怯だと思って使わなかったんだ。まあ、次相手する時は剣は使うとするよ」

 

 ただの喋るネコなだけでなくて知識もあり、なかなか的を得ているハッピーの発言にソロは感心を覚えていると、気に入らなかったのか先ほどまで笑っていたナツの顔が怒りに歪んだ。

 

「っんだとコラハッピーっ!誰が誰に余裕だってええぇ!!」

 

 口から火を噴いて威嚇するようにハッピーに詰め寄るナツ。それに対してハッピーは悪戯に笑いながら羽を生やして頭上を飛び回ってナツから逃げ出した。

 

「……炎を食えるって事は吐き出す事も出来るのか。そういや滅竜魔導士とか言っていたっけな、後で聞いてみるか」

 

 そんな事を呑気に考えながら騒ぐ一人と一匹の隣を歩いて抜けてカウンターへと向かう。そこには見慣れたものでミラが立ち仕事をしていて、ソロの存在に気が付いたようで安らぐような笑顔を向けて手を振って来たのでソロも手を上げて応えた。その近くでは行儀もへったくれも無くカウンターに座ってギルドの長であるマカロフは樽のジョッキで酒を飲んでいた。

 

「じいちゃん、おはようございます」

 

「おう、よう来たのうソロ。

皆静まれい!新しい家族が増えたぞ」

 

 マカロフはカウンターに立ち上がり、その小さな体躯からは想像できない様な大声を発する。騒がしかったギルドの面々は長の一括により静まり返り、視線はマカロフとソロの二人に集まった。

 マカロフはソロの背中をポンと叩いてニヤリと笑みを浮かべる。

 

「……昨日からこのギルドに入れて貰ったソロだ、皆さんへの挨拶が遅くなってしまい申し訳ない。今後よろしくお願いします」

 

 ソロは敬意を込めて頭を下げて新入りとしての誠意を見せる。すると少し遅れてドッと笑い声が上がった。

 

「昨日ナツと殴り合いした奴とは思えねえな!」

 

「なかなか行儀は良いがそんなんで仕事は出来んのかよぉ!」

 

「ちょっとみんな、笑っちゃダメだよ!」

 

 それぞれが反応を示すが、その大半はソロを見て笑っている物だった。しかしその笑いも嘲笑という訳ではない、ただ珍しく面白い物を見た時のそれに近かった。そして各々よろしく、よく来たな、等の歓迎の言葉が出た後、再び酒場は騒がしさを取り戻した。

 

「昨日も言ったがお主は堅すぎる、もっと気楽にならんか。気兼ね無く語り、笑い合い、主張が異なったら喧嘩だってすれば良い。此処にいる皆細かい事は気にせん自由な奴らなんじゃ」

 

 この世界の初対面の人達に対する対応が間違っていたのかと内心不安になっていたソロをマカロフは諭すと、トイレトイレと言って歩いて行った。

 

「気を付けてみますよ……そういえば仕事ってどうすれば良いんだろうか」

 

「オイ!お前昨日あのクソ炎をボコしたらしいな。俺は仕事で見る事が出来なかったが話しを聞いてスカッとしたぜ!

俺はグレイってんだ、よろしくなソロ」

 

 ソロの言葉を遮って黒いズボンに上半身裸、首に剣を模した十字架の首飾りを身に付けたグレイと名乗る青年が話しかけて来た。

 上半身裸というスタイルだが、引き締まっているものの身体はゴツい大男という訳ではなく覆面を被っていない事に違和感を覚えるがこの世界では変わった事ではないのだろうとソロは勝手に補完する。

 どこかクールな印象だが新参者の自分に話しかけて来たグレイにソロは好印象を持つ。

 

「よろしくグレイ、敬語じゃなくても良いかな?

見るからに年上の人とかにしか使わない様にしてるんだけど」

 

「はっはっは、お前そんな事気にする必要ねーよ、俺もお前に敬語なんか使ってねぇしな!硬い事は抜きで行こうぜ仲間だろ?」

 

「ふっ、そうかありがとう。

だけど誰から聞いたかは知らないけどさっき言ってた事には間違いがある。クソ炎ってのがナツの事なら俺はボコしてないってか寧ろボコられた方だ。なんとか引き分けには持ち込んだけどな」

 

 ソロは照れ隠しに指で頬を掻きながら説明していると、言い終えた瞬間横からナツがやって来てグレイを殴り飛ばした。椅子やテーブル、樽といった物を吹っ飛ばしながらやがてグレイは止まるが、その光景からナツのパンチの威力を改めてソロは知る。

 

「俺は負けてねぇ!勝手な事言ってんな変態野郎!」

 

 テーブルの上に立ち上がりナツは叫ぶ。

 

「いきなり何しゃがんだクソ炎っ!聞いた話じゃテメエはアイツの雷魔法一発で気絶したんだろ!ボコられたってのは間違いじゃねぇだろうが!」

 

 テーブルや椅子だった木の破片を退けてグレイは立ち上がりナツへと掴み掛かる。

 そこでようやくこの二人が仲が悪い事と、この喧嘩の原因は自分である事にソロは気が付いた。そしてグレイがナツに食って掛かるという事は同程度の戦闘能力の持ち主であり酒場の中で暴れられると被害が大きと思案した結果、ソロは二人を止めなければいけないと結論付けた。

 

「やめろって二人とも、建物の中で喧嘩なんかすんなよ!」

 

「「うるせぇ引っ込んでろっ!」」

 

 喧嘩をしている筈なのに二人の息はピタリと合っていてナツは左手で、グレイは右手でソロの顔面に向かって拳を放つ。不意を突かれた攻撃だが瞬時に反応してしゃがみ込む事で回避が出来た。これも元の世界でお転婆姫と真剣な組手をして何回も傷だらけにされた成果かと思うと同時に突然の暴力に怒りが込み上げる。しかしここで自分が逆上して暴れたら被害が広がるだけだと理解して喉元まで上がって来ていた怒りを沈め込める。

 

「……少し眠れ。睡眠誘発呪文(ラリホー)!」

 

「あがっ……」

 

「んがっ……」

 

 数秒前までいがみ合っていたナツとグレイが同時に床へ倒れ込んだと思ったらイビキをかいて眠り始める。

 本来自分が使えない魔法を使えるようになっていた事を改めて再確認し、魔法が効いて眠っている二人を見て内心ほくそ笑みソロの溜飲は下がった。

 

「へぇ、アンタそんな魔法まで使えるんだね。礼を言うよ、そいつらがあんまりにも騒がしいと酒が不味くてさ」

 

 声のした方に視線を向けると、下はズボンを着用しているが上はビキニのみという一般的には刺激的な格好の長いウェーブが掛かった茶髪の女性がテーブルに座り酒樽抱えていた。その頬は紅く染まり酔っている事が伺える。

 格好といい、おそらくだが酒好きである事といいソロは少しかつての仲間の踊り子(マーニャ)の事を思い出した。

 

「効きの良し悪しはあるが本来は敵を眠らせてその間に殺る魔法だから良いもんじゃ無いさ」

 

「随分物騒な物言いじゃない、要は使い方だろ?

現にアンタは殺すつもりでその魔法を使ったわけじゃないじゃん。昔から言うだろ、バカとハサミは使い用だって。私はカナ、よろしく」

 

 カラカラと笑いながら言ったカナと名乗った女性は抱えていた酒樽を持ち上げて文字通り浴びるように中身を腹へと流し込んだ。

 

「それ中身入ってたんだな……ところでカナ、仕事に行きたいんだがどうすればいいんだ?」

 

「ぷはぁっ!あぁ仕事ぉ?そんな事よりお前も飲め飲め!」

 

「いや……飲みたくても金が無くてね、というか俺はまだ酒は飲める年齢じゃないしな」

 

「何言ってんのこの国じゃあ15から酒飲めるじゃない。細かい事気にしない気にしない、それとも私の酒が飲めないっての?」

 

 

 後にソロは知る事になるのだがこの世界の今いる国、フィオーレ王国の法律では飲酒は15歳から認められている(目の前のカナは13の時から飲んでいたが)ため何の問題も無い。

 絡み酒という事も相成ってさらに元の世界の事を思い出し苦笑を浮かべる。

 

「ああ……すまない、また今度で頼む。金が入ったら必ず奢るから勘弁してくれ」

 

 そう言うと逃げるようにカナから離れたソロは依頼板(リクエストボード)と呼ばれる多くの依頼書が貼られた板の前まで来た。

 

「おっ、なんだ仕事に行くのか?」

 

 依頼板の前に立っていた腰蓑にベストを身につけて顔には長方形のペイントを入れた男がソロに話しかけた。

 

「先立つ物が無いからな、あんたもか?」

 

「いいや、俺は吟味しているところだ、俺にしか出来ない仕事をする為にな。俺はナブだ」

 

 よろしく、と言ってナブと握手をしたソロは隣に立って貼られた依頼書達に目を通した。

 探し物から料理、古文書の解読といった物からモンスターの討伐、素材の調達といった様々な種類があるがこの世界に馴染みの無いソロに出来るものは討伐系一択である。加えてその対象がどんな物かも知らないし通貨や依頼主のいる場所も知らないが、幸い分からない単語は有るものの使われている言葉は元の世界と同じだし、報酬額は書いてある数字が大きい物を選び、場所は地図を借りれば良いと考えていた。

 

「ナブ、一つ聞きたいんだけどこの街の宿屋は幾らあった泊まることができるか分かるか?」

 

「宿?何件かあるが確か5,000から10,000J(ジュエル)もあれば泊まれると思ったぞ」

 

「なっ……そんなにするのか!?」

 

 ソロは元の世界との価格の違いに驚愕する。当たり前だが通貨はG(ゴールド)とJで違うが、元の世界では高くても1人数百Gもあれば宿屋に泊まれて同じ数字の5000Gもあれば破邪の剣さえも買えてしまう高額であったからだ。

 

「いや……そんなに高い方じゃないと思うがな」

 

「そうか、ありがとうナブ」

 

 元の世界とは違う事を再認識すると依頼書との睨めっこを再開する。

 数字で探していくと、10万、20万……60万Jというものがあるではないか。内容は、突如発生したウィンドベアーなる大型の凶暴な熊のモンスターを退治してくれとの内容だ。

 ミラかマカロフに依頼書を出せば受け付けてくれるという説明をナブから受けると、ソロは依頼書を手に取ってカウンターの向こう側にいるミラに話しかける。

 

「じいちゃん戻って来てないみたいだからミラさんこれ頼む。それから厚かましいんだけど何処に行けばいいか地図を借りれるとありがたいんだが」

 

「はーい……ってコレなかなか難易度の高い依頼じゃない!初めての仕事でコレはちょっと……」

 

「熊のモンスターを倒すだけだろ?

問題無い、俺はモンスター討伐の専門家だからな」

 

 そうは言っても、とミラは首を傾げてしまう。しかし少しの間を空けると何かを思い付いたように手を叩いた。

 

「エルフマン、ちょっと来てくれるかしら?」

 

「どうした姉ちゃんと……昨日ナツとやり合った新入りか、何か用か?」

 

 ミラの声に反応したのは黒い服を着た逆立った銀髪が特徴的な厳つい色黒の大男だった。さらにはミラの事を姉と呼んでいたため髪の色以外は似ても似つかないがおそらく姉弟なのであろう。

 

「あなた、今朝仕事に行こうかななんて話してたわよね。良ければソロと一緒にこの仕事に行ってもらえないかしら?」

 

「どれどれ……別に構わないぜ、俺は漢エルフマンだ。昨日の喧嘩見てたけどなかなか漢じゃねぇか」

 

 エルフ、その単語はソロの心に深くのしかかる言葉だった。元の世界で自分が勇者として旅をする起因となったのが魔族の長が愛したエルフの少女であったからだ。また、なんど聞いてもはぐらかされてしまったが故郷の村で愛した女性、シンシアもおそらくその容姿からエルフであったのだろう事を思い出して、ソロの表情は暗く沈む。

 

「おいどうした、これから仕事に行くなんて言い出したくせして怖気付いて気分でも悪くなったか?」

 

 エルフマンの言葉で我に返り、ソロは首を横に振った。よくよく考えれば目の前にいるのは大男だ、自分の知っているエルフの娘とは全く違う存在だと、ソロは心の中で自分に何度も言い聞かせた。

 

「いいや、変わっているがいい名前だと思ってな。俺はソロだ、よろしくエルフマン!」

 

 半ば無理をして口角を上げてソロは手を差し出し、エルフマンはそれに応えて握手をする。

 

「おう!そんじゃあ早速行くとするか、ココなら列車に乗って行けば数時間で着くな。仕事がどれくらいかかるか分からないが、夜までには戻って来れるんじゃねぇか?」

 

「ふうん、夜くらいか。ところで報酬なんだけど俺が20万で君が40万でどうかな?

悪いけどこういう時の相場が分からなくてね」

 

「何言ってんだ、そんなもの半々でいいだろうよ!俺は漢だ、そんな巻き上げるようなカッコ悪い真似できるかよ。くだらねえ事を言ってないでさっさと行こうぜ。

姉ちゃん、行ってくる!」

 

 そう言うとエルフマンはミラに手を振った後ソロの首を抱える様にして外へと歩を進めたため当然ソロもそれに追従するを得なくなる。

 

「待て自分で歩ける!ミラさん……その……行ってきます!じいちゃんにも行っておいてくれ!」

 

「ふふっ、エルフマン、ソロ、行ってらっしゃい!」

 

 妖精の尻尾の看板娘に見送られて2人の男は酒場を出た。


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