FAIRY TAIL~元勇者の生きる道~   作:ヌラヌラ

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LV5〜元勇者の体の変化〜

「……つっ!!」

 

 ベッドに寝かされていたソロは目を覚まし、同時に全身に激痛が走る。その痛みで眠気を含んでいた頭は完全に覚醒して、ナツとの戦いが夢では無かったのだと実感する。

 自分の身体を見てみると包帯が巻かれていたので誰かが手当をしてくれた事が分かった。自分には必要無いのにと心の中で自嘲すると、枕元に自分のサークレットが置かれている事に気がついた。寝かせるのに邪魔だったであろう事は明白だったので手に取り、頭に冠る。ふと横に目をやると隣のベッドでは同じように包帯が巻かれたナツがイビキをかいて眠っていた。

 

「目が覚めたようじゃな。ナツと引き分けるとはお前さんなかなかやるのう。このナツはまだまだ未熟じゃが、それでもこの妖精の尻尾では上位の実力なんじゃぞ?」

 

 誰も居ないと思っていたソロは驚き、声のした方に目を向けるがそこには誰もいなかった。

 

「こっちじゃこっち」

 

 視線を下に向けると三頭身程しかないとても小柄な老人が立っていた。服装はとてもラフで妖精の尻尾のマークが入ったシャツを着用し、頭髪は少ない白髪で口元には同色の髭を蓄えていた。

 

「えっと……御老体、あなたは?」

 

「ワシの事はどうでもええわい。お前さん身体の具合はどうじゃ?

ナツを相手にアレだけ殴り合ってそれで済んでいるんだから頑丈じゃのう」

 

「……問題は無い、俺の傷はすぐに治せますから。

全回復呪文(ベホマ)

 

 呪文を唱えたソロの身体を薄い緑の光が包む。すると、一瞬にして顔の痣が消えて元の健康な状態になり、身体の方も同様骨も折れて全身に負われた火傷も癒えてしまった。

 

「ほう……お前さん炎と雷の魔法だけでなく治癒の魔法まで使いこなすのか」

 

「……そんなに珍しいですかね。回復の魔法なんて魔力と素養があれば比較的簡単に覚えられるじゃないですか?」

 

 失礼と付け足してソロは身体に巻かれた包帯を取り始めた。

 しかし、何気無い先ほどの言葉に老人の顔は訝しむ。

 

「回復魔法が簡単じゃと……お前さん何処から来た?

無理して話さんでも良いがなにやら訳ありそうな感じがするのう」

 

「……なぜ、そうに思われる?」

 

「伊達に歳は食ってないわい、人を見れば悩みを持っているかどうかくらいならわかる。

それに回復魔法は失われた魔法(ロストマジック)。おいそれと簡単に習得出来る魔法ではない事は魔導士ならば皆知っておる事じゃ、それを知らんという事はお前さん……どこか遠くから来たんじゃないか、少なくともこの大陸じゃないところからかのう?」

 

 戦闘後の疲れからか、寝起きであまり頭の回転が早く無かったからか、ソロは老人に指摘されて自分が迂闊な事を言ってしまった事を理解する。そして同時にこの老人の底知れなさに固唾を飲み込む。

 驚嘆の表情を隠し切れないソロをよそに老人は続けた。

 

「お前さん何故ナツと戦ってる時に回復魔法を使わなかったんじゃ、その回復量なら攻撃を受けながらでも十分お釣りがきたじゃろ?」

 

「……そいつが、喧嘩だと言ったからです。負けられない戦いや……殺し合いなら俺は当然回復はするし俺は魔法を防ぐ手段も持ってます。

殺し合いだったらそれらの限りを尽くすことになりますがなんて言うか……喧嘩でそんなもの持ち出したら卑怯だと思って、終わりがなけりゃあ喧嘩じゃないでしょう」

 

「ふむ、そうか……ミラとリリカから聞いたんじゃがお前さん、うちのギルドに入りたいそうじゃな?

1つだけ、条件がある。眠っているナツにも回復の魔法をかけてやってくれ」

 

「うちのギルド……って事は貴方は……!?」

 

 ソロは飄々とした小柄な好々爺から時々発せられる圧倒的な威圧感を感じ取っていた。そして先の老人の発言で全て合点がいく。

 

「いかにも、ワシが妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター、マカロフじゃ」

 

「マっ……マカロフ老、数々のご無礼お許し下さい!貴方の組織の者と勝手に戦い傷付けてしまって申し訳ありません!」

 

 ソロは必死にマカロフに向かって頭を下げる。今までの旅の経験で数々の目上の人々と接する機会が多々あり、今日もその経験を生かしてギルドの長に対して無礼の無いようにしようと心がけていたのだが、ナツの誘いに乗ってしまいやり過ぎた事を今になってマズイと居た堪れなくなった。

 

「よいよい、大方ナツがお主に吹っかけたんじゃろうて。子供(ガキ)同士の喧嘩に口を出す親が何処におる」

 

「……そう言っていただけるなら。全回復呪文(ベホマ)!」

 

 ソロはナツに掌を向けて呪文を唱えて手を下げた。するとナツの身体をソロの傷を治したのと同じ光に一瞬包まれるが、すぐに霧散してしまった。

 

「あっあれ?もう一回、全回復呪文(ベホマ)!」

 

 もう一度ソロは掌をナツに向けて回復の呪文を唱えた。今度は手を下げずに魔力を集中させながらだ。すると光がナツを癒しみるみるうちに傷が癒え、時間にして約5秒程でナツの傷は完治した。

 

「ほう、自分の傷は瞬時に治せるが他人のものとなると些かかかるようじゃな」

 

「以前はそんな事無かったのですが……良く分かりません」

 

「うーむ、魔力のコントロールが上手くいってないのかも知れないのう。お前さんこの後時間はあるか?

少しワシが見てやるとしよう」

 

 お願いします。と再度ソロが頭を下げたと同時に、この部屋に向かって来る足音が耳に入り少しの間が空いてドアが開いた。

 

「あぁ良かった、目が覚めたのね!」

 

「ソロくーん!」

 

 最初にミラが入って来たが、押しのけるようにリリカが入って来てソロの居るベッドへと近付いた。

 

「ソロ君、怪我は大丈夫?もう痛くない?ソロ君自分で強いって言ってたけどナツ君と同じくらいだとは思わなかったよ!でも、あんなにポロポロになるまでやる必要無かったでしょ!」

 

 捲したてるような褒めてるのか怒ってるのかよく分からないリリカの言葉にソロは少し狼狽える。それを見てやれやれといった感じでマカロフが助け船を出した。

 

「これこれリリカ、心配だったのは分かるが、その辺にしてやりなさい。ソロは失われた魔法(ロストマジック)である治癒魔法を会得していたからあそこまで無茶が出来たんじゃ」

 

「貴方はあんな凄い雷の魔法だけじゃなくて回復魔法まで使えるの!?」

 

「ああ……まあな。だけどミラさんとリリカが手当をしてくれたから俺は早く目を覚ます事ができた。本当にありがとう、2人とも」

 

 どういたしまして、とミラは返すがリリカはどこかまだ不満そうな顔でソロを見ている。

 

「……悪かったよリリカ、お前の言う事を俺はガン無視してたんだからな。お詫びに俺が出来る事なら1つ何でもしてやるから勘弁してくれ」

 

「うー……ソロ君がそこまで言うならあたしも許してあげる!

でも、なんかちょっと安心したんだ。ナツ君と戦ってた時のソロ君少し楽しそうだったし、頼りない人だって思ってたけど、あんなに強いんだって分かったから」

 

 言い終えたリリカの頭にソロが優しく手を置くと、満更でもない顔でリリカは笑った。

 何とも微笑ましい雰囲気になったところで、マカロフは1つ咳払いをして話題を変える。

 

「ミラ、スタンプを持っていたらソロに押してやってくれんか」

 

「持ってきてますよマスター。ソロ、これからギルドの紋章を貴方の体か衣服に入れたいんだけどどこがいいかしら?」

 

 ミラは羽のような飾りが施されているスタンプを取り出した。

 

「体に紋章か……それじゃあここに頼む」

 

 少しの間考えたソロは自分のズボンの裾を捲って右足の脹脛を差し出した。

 

「ふくらはぎ……なんか変じゃない?」

 

「人間辛い時も立ち上がらなくちゃ行けないから足にしてみたんだが、やっぱり変かな?」

 

「そんな事は無いと思うぞ、立派な理由じゃないか」

 

 マカロフの肯定にミラも頷いてソロの望む場所へとスタンプが押され、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章が刻まれた。

 

「おめでとう、ソロ君!」

 

「おめでとうソロ、これで貴方も正式な妖精の尻尾のメンバーよ!」

 

 ソロは押された紋章を指でなぞった。ただ仕事が欲しいからギルドに入りたかっただけなのに、歓迎されている今の状況が悪くない、むしろ心地よく感じていた。

 

「お前さんも今日からギルドの一員、家族じゃ!」

 

「家族……まあ、その、よろしくお願いします」

 

 少しだけ歯切れの悪い返事を返すとソロは深々と頭を下げる。

 

「さて、それじゃあ皆に紹介といきたいところじゃが、ソロの魔法を見てやらんといかんでな。自分の実力が分からんでは危なくて仕事に行かせてやれんわい。

ミラ、ナツの面倒を頼めるか。それからギルドのメンバー(ガキ共)にはソロがうちに入った事を伝えてくれ、紹介は明日になってしまう事もな」

 

「はーい、気を付けて行って来て下さいね」

 

「ねぇねぇおじいちゃん!あたしも行っていい!?」

 

「よいよい、着いて来たいならリリカも来なさい」

 

 やったー。と喜ぶリリカを見てソロはふとリリカが道案内をさせられた経緯を思い出した。

 

「いや、リリカは帰らないとダメだ、後ろめたい事があったなら神父さんの手伝いをしないとだろ?

それから1つ頼み事で神父さんに伝えてくれないか、お礼は後でするからもう1日世話になるって」

 

「うっ、ソロ君……変な事思い出させないでよ……。

ごめんなさい……おじいちゃん、ミラちゃん。あたし神父様のお手伝いしなくちゃだから帰るね。

ソロ君、神父様に言っておくから気を付けて帰って来てね……」

 

 天国から地獄とはこの事か、肩をガックリと落としたリリカはのそのそと部屋を出て行った。天真爛漫な少女から発せられる真反対の負のオーラにミラはリリカも気を付けてと返し、マカロフは引き気味にうむ、としか言えなかった。

 

「一体リリカは何をやらかしたんじゃ?」

 

「さあ、なんでもツボを割ったのが神父さんにバレたって言ってましたが……?」

 

 マカロフとミラはああ、と納得した様子だが、ソロにはやはりその感覚は理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあまず何からしようかのう」

 

 ソロはマカロフに連れられてマグノリアの街から少し離れた岩場までやって来た。そして、魔法を見てやると言っていたがマカロフ自身どうするかはあまり考えてなかった事が分かった。

 

「マカロフ老、少し試してみたい事があるんですがいいですか?」

 

「ほう、なんじゃ。やってみなさい」

 

「ええっと……こんな感じかな……はあっ!」

 

 ソロが強く念じると全身が眩い光に包まれた。

 やがて光が収まると、そこには右手にナツと戦った時に現れた剣を、左手には竜が翼を広げた様な形の白銀と緑の色の盾を、そして体には白銀で所々に金の宝玉が埋め込まれていて両肩にはそれぞれ竜の装飾が施されており翼を思わせる鎧を装備したソロが佇んでいた。

 完全武装されたソロが放つ威圧感、そして自身を軽く凌ぐであろう魔力の大きさと強さにマカロフは驚愕し同時に背筋が凍った。

 

「ソロ……それがお主の本当の力なのか?」

 

「俺の力、というか万全の状態って言った所だと思います。この剣、盾、鎧、兜は天空の装備と言って凄い強力な物なんですが……そんなに何か変わってますか?」

 

「気付いとらんのか……変わってるもなにも偉い違いじゃぞ!」

 

「偉い違いって、俺は何も変わった感じはしない……っ!」

 

 その時ソロの頭に何かが流れ込んで来て、それが情報だと分かるのは一瞬だった。マスタードラゴンが仕組んだのか、天空の装備が主人の力になるために与えた物なのかは分からない。頭に流れる情報の多さにソロは苦悶の表情を浮かべて膝をつき、やがて装備は解除されて光となり霧散した。

 だが、天空の装備が消えたと同時にソロは自分の力を、天空の装備が与える力を、そしてマスタードラゴンが自分の体に何を施したのかを理解した。

 

「ソロ!しっかりせんかい!どうしたんじゃ!」

 

 マカロフは物言わぬソロに近寄り肩を何度も叩いた。気を失っていたわけではないが、まるで夢を見ていた様な感覚でいたソロは正気に戻る。

 

「……マカロフ老すいません。せっかく時間を割いて頂いたのに不調の原因が分かりました。

正確には不調なんかじゃなかった……何故かは分かりませんが天空の装備を身につけた時に、この世界に来て俺の体に起きた変化を知ることができたんです」

 

「この世界じゃと……ソロ、お主はまさか!?」

 

「……ギルドに入れてもらう前に、身の上話をするべきでした。もし俺の話を聞いて危険と判断したなら、その時は俺はもう貴方達の前には現れません」

 

「……話してみなさい。ワシはお主がウチのギルドに入りたかったという事しか聞いておらんからの」

 

 ソロはまず昨晩カルディア大聖堂でサイラス神父とリリカに話した事と同じ事を話した。

 自分が元の世界で仲間と旅をしていたがある事に絶望して自殺をすると目が覚めた時にはカルディア大聖堂に倒れていた事。

 記憶喪失を装い、1人になった時に再度自殺を図ったがリリカとミラに止められて事無きを得た事。

 2人に大事な事を思い出させて貰って今はもうそんなつもりは無いが、同時に大事であった人達を裏切ってしまった事に気付きその罪も抱えて生きていく事を決めた事。

 無一物で仕事が欲しい自分にサイラス神父が妖精の尻尾を紹介されてギルドに行ってナツと戦った事。

 

「そして今に至るのですが……ココからはサイラス神父もリリカも知らない事です。言わなくちゃいけないんでしょうけど……昨日は言い出せなかった。

 俺は……元の世界では復讐の為に……大切な人を殺した……故郷を滅ぼした奴を殺す為に旅をしていたっ!」

 

 そしてソロは続けて語る。

 自分は普通の人間ではなくて全知全能を語る(ドラゴン)の治める空に浮かぶ城の住人だった母と地上のきこりの父の間に生まれた存在である事。

 そしてその特殊な血は勇者の素質を持っていて地上の山奥の村で血筋の事は隠されて義理の両親に育てられた事。

 勇者の素質を持っていた自分が、人類滅亡を目論む魔族に狙われて住んでいた村を滅ぼされた事。

 魔族を率いていた長を一度倒したが、進化の秘法という秘法を使って不死身の化物になっていたため殺し切れなかった事。

 

 完全に殺す為に旅を続けると千年に一度咲く人を生き返らせる花が咲いたと言う話を聞いてその花を手に入れた事。

 魔族の長が人類滅亡を目論んだのは元々人間が嫌いではあったが、愛する恋人のエルフが何度も人間に虐待されるのを見て人間の醜い部分を深く知り、挙句その恋人は人間に襲われて無惨な最期を遂げた事が進化の秘法を使って暴走する引き金となった事。

 人を生き返らせる花を使ってエルフの娘を生き返らせて魔族の長の元に連れて行くと娘の持つ特殊な能力で心も理性も破壊されて、身も心も怪物と成り果てた魔族の長が元の人型の姿に戻り心が戻った事。

 

 エルフの娘を殺したのは人間だったが魔族の上級神官がそう仕向けた事であり、未完成だった進化の秘法を長に促して暗躍していた事。

 魔族の長がパーティに加わり力を合わせて黒幕であった魔族の上級神官を倒し、魔族の長はそれまでの経緯で人間には善悪どちら側もいる事を知り、心の内が定まるまでエルフの娘と静かに共に暮らすと言って当面の間世界は平和になった事。

 

「俺達の旅は終わりました。気球という乗り物で仲間をそれぞれの帰る場所へと送り届けて……俺は……今は無いっ……自分の故郷だった所へと……辿り着いて……俺には何も無いって思い込んで死んだんだ!」

 

 ソロの顔が次第に険しい物へと変化する。息を荒くして歯を食い縛って手を握りしめて口と掌から血が垂れてきていた。

 

「ソロよ、無理して話さんでもええわい。人間、思い出したくもない記憶なんてあるじゃろ」

 

「……ありがとうございます。これで俺がカルディア大聖堂で倒れた所に繋がります。

信じてくれなんて言いません、俺の頭を疑ってくれても構いません。ただ、俺は強い力と危うい精神を持っている事だけは知ってください」

 

 ソロは口元を服の袖で拭い、深呼吸をして息を整えた。

 

「……ソロよ、お主の言った事をワシは信じよう。確かにお前さんが話した事は突拍子も無い事かもしれん、しかし竜はこの世界にもかつて存在しておったらしく、ナツも言葉や魔法を竜に教わったと言っておったわい。

勇者で世界に平和をもたらしたと言うのもさっきのお前さんの魔力を感じたら不可能では無いと思えてしまったしのう。ただ一点、人が生き返るという話だけは俄かには信じられんが……世界が違えばそういった術もあるのだろうな」

 

 全てを聞き終えてマカロフの出した結論はソロの言葉を一部を除き信じる事だった。思わぬ回答にソロは目を丸くして下げていた頭を上げる。

 

「マカロフ老……」

 

「それから、好きに呼んで良いがその堅っ苦しい呼び方は止めい。

お主の過去に何があろうとこれからはワシらギルドの全員が家族になるんじゃ、お主の帰る場所()じゃ、もっと気楽にならんかい!」

 

「あっ……では……その……じいちゃん?」

 

 ソロはミラがマカロフの事をマスターと呼んでいた事を思い出したが、その呼び方は自分が嫌っている竜の名でもあるのであえてそう呼ばなかった。幾ら何でも馴れ馴れしいと思ったが、マカロフはニコリと笑っている。

 

「うむ、その方が良い。

話は戻るがソロ、お主は自分の力がキチンと把握できたのか?」

 

 

「あっ……はい。

実感は無いんですが俺の力や魔法の威力は押さえつけられてる……封印って言えば良いんでしょうか。さっきの天空の装備を全て身につける事で力は全て解放されるみたいです。1つで10%程、2つで30%程、3つで60%といった具合になるようですが、兜だけは常に装備しているので常に10%といった具合です」

 

 ソロは身につけている兜を指差した。

 さらに補足を続ける。二つまでは魔力の消費は殆ど無いが、三つ以上からは常に体内の魔力が減っていき、全てを装備した時は更に消費が激しく最長で一分半程度しか装備していられない上に1日に二回しか出来ない事。それでもこの世界は魔力が豊富で元の世界ならゆっくりと体を一晩休めなければ体力も魔力も全快しなかったが、ここでは数時間で魔力だけなら回復できる事。

 

「なんとも窮屈な体なんじゃのう。本来の力が一分半しか出せないとはな」

 

「そうでもないです。元の世界で俺が旅で手に入れていた道具も持ってこれていたみたいです、念じれば手に現れるんですが……カンソウっていうらしいですね。

他にも例えばこの兜のおかげで全力の威力は無いにしても、俺は元の世界の一部を除いたあらゆる魔法が使えるみたいです……大半が戦う事に関する物ですが」

 

「戦うための魔法でも嘆く事なぞあるまい、どんな魔法でもお前さんの歩いて来た道の1つじゃ。

さて、この辺りは生き物も人も滅多に来ん。せっかくじゃから色々お前さん試してみたらどうじゃ?

あんまり危険なようだったらワシも止めに入ってやるわい」

 

 マカロフは少し厳しめの顔から好々爺を思わせる優しい笑みを浮かべてソロを見据えた。その笑みにソロは温かさを覚える。

 自分はこの世界に来て恵まれている。色んな人間がいるだろうが、少なくとも良い人に出会っている。犯した過ちを取り戻す事は出来ないが、それを背負って生きていく事を、そうさせてくれる人たちに出会えたのだから。

 

「はい、お願いします。じいちゃん!」

 

 ソロは手に天空の剣を手に出現させて巨大な岩に向かって構えた。


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