FAIRY TAIL~元勇者の生きる道~   作:ヌラヌラ

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LV4〜対決!竜の魔導士と勇者〜

 蝋燭に灯った灯りがカルディア大聖堂の一室を照らす。下を向いたまま椅子に座るソロ。テーブルを挟んで反対側の椅子にサイラス神父とリリカ。

 ソロは魔族との戦いを上手く隠しつつ、世界を渡り歩いた冒険者として自分はこの世界の人間ではない事と昼間の出来事を説明する。終わった所で、少しの間の沈黙を最初に破ったのはサイラス神父だった。

 

「リリカ、良くソロ君を思いとどまらせてくれましたね。ソロ君、私は自分が情け無いです。貴方に会った時に死への決意を察せる事ができませんでした。本当に申し訳ありません」

 

 そう言うとサイラス神父はソロに向かって頭を下げる。

 

「神父さんやめて下さい、俺も悟られまいとしていたんです……貴方が俺に謝る事は何1つ無い。

むしろ俺は感謝しています。貴方がリリカを案内に着けてくれたおかげで俺は今ここにいる。礼を言わせてくれリリカ、神父さん。

……俺はこれからどうすれば良いんだろうな、馬鹿みたいに暗くなって大事な物を捨てて来ちまった」

 

「あのさ、あたしソロ君の言ってた違う世界とかって良くわからないんだけど……ソロ君が生きてさえいればまたその大事な人達に会えると思うんだ。だって世界?を越えて来れたなら戻る方法も0じゃないはずでしょ!?」

 

 リリカはテーブルから身を乗り出してソロに顔を近づける。

 

「リリカの言う通りですよソロ君。俄かには信じられない話ですが、貴方が違う世界から来たというのが本当なら文化や教養などの違いも多いでしょうが、私達も協力します。私の仕事を手伝って頂けるのならずっとここに居てもらっても構いません。せめて貴方が元の世界とやらに戻れるまで頑張りましょう」

 

 サイラス神父は立ち上がりソロの肩に手を置き、進める道は多く存在する事を語った。

 

「神父さん……リリカ……ありがとう。

だけど、……俺はもう神を信じる事なんか出来ないんだ。明日にはここを出発させてもらうよ、手に付いた職は無いけど今まで旅をして来たからなんとかなるだろう。幸い腕っ節には自信があるんだ、狩りでもすれば食うには困らないと思うしな」

 

 僅かな希望を見つけたソロは力無く、しかし生きるという意志をしっかりと持った笑顔を向けた。

 そんなソロの表情を見たサイラス神父は先程の言葉から1つアイデアが浮かぶ。

 

「腕に覚えがあるのが本当なら、1つ紹介したい所があります。そこは依頼人から様々な用件を受けてそれを達成し、報酬を得る組織。そしてこの国一番とされる実力者の揃うギルド、貴方も今日訪れた場所ですよ。明日もう一度行ってみたらどうでしょう?

大丈夫、私は今まで様々な人を見て来ました。貴方はきっと受け入れてもらえますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……着いたか」

 

 妖精を模した旗が飾られた大きな酒場の前でソロは1つため息をつく。昨日の一件で迷惑をかけたミラジェーンに対して負い目を感じていたからだ。

 

「あー、ソロ君昨日の事気にしてるの?

大丈夫だよ。きっとミラちゃんも分かってくれるしみんな歓迎してくれるよ!だってソロ君は神父様のおすみつきなんだよ!」

 

「いや、少し緊張してるだけだ。というかリリカ、態々着いて来てくれなくてもよかったんだけどな、もう道も知ってるし」

 

 リリカの言葉の端々にサイラス神父に対する全幅の信頼と敬意をどこか微笑ましく思い、ソロはリリカの頭に手を置いて撫でた。リリカは嫌がる素振りを見せなかったが、目線はソロから外れて真横を向く。

 

「えーっと、デスね……実は昨日壺を割っちゃって……それが神父様に見つかっちゃって怒らないからソロ君の手助けをしなさいって言われましテ……」

 

「ふむ……そんな事があったのか。まあいい中に入ろう」

 

 壺を割ってなぜ怒られるのか分からないが、恐らくこの世界ではそれが普通なんだろうと一人で思考する。

 

「おっと、来る前にも言ったが俺が違う世界の人間だって事は黙っててくれよ」

 

「分かってるよ!変な人だって思われたくないんだよね!」

 

 リリカの真っ直ぐだが理由をキチンと理解してる物言いにソロは笑みを向けた。そしてスイングドアを開き建物の中へと足を進め、その後ろを歩いてリリカも続く。

 酒場の中は昨日と打って変わって賑わっていた。外にまで聞こえる喧騒は耳が少し痛くなりそうだが、人々の賑わいというものにソロは悪い印象を持たなかった。

 カウンターの方に足を進めると、何人もの人間がソロとリリカの来訪に気がつき様々な声をかけるがソロは聞き流し、リリカは手を振るなどして応える。

 

「あら、いらっしゃい。憑き物が取れたみたいにいい顔になったわね」

 

 昨日と全く同じ綺麗な優しい笑みを浮かべてミラはソロとリリカに挨拶をする。

 

「……すまなかった。

君とリリカのおかげで俺は今ここにいれる、ありがとう」

 

 ソロは周りの人達の声を無視していたのには理由がある。まずこのギルドに来てすべきなのはミラへの謝罪と礼だと決めていたからだ。

 

「ああ良かったね。で済ませない事だけど……もうあんなバカな事はしないって約束してくれるなら、私はもういいわ」

 

「ああ、約束するよ。俺が生きるてる意味ってやつは分からないけど、それでももう無意味にあんな真似はしない」

 

 一転して厳しい表情でソロを見つめていたミラはその言葉を聞いて眉間に寄っていた皺が無くなり、また笑顔に戻り今日は何用で来たのかを問う。

 

「……昨日啖呵を切っといて恥かしい話なんだけど、昨日嘘だって言った無一物で身寄りも無いって話は本当なんだ……仕事が欲しくて……その……」

 

「おっ、なんだソイツは!ミラとリリカの知り合いか!?」

 

 言い淀んでいるソロの背後から声が聞こえる。振り返るとそこには桜色の髪の毛と白に鱗のような模様の

黒い細線の入ったマフラーが目を引く同年代程の青年が立ち、隣には青いネコが白い翼を生やして宙に浮いている。

 

「あっ、ナツくんとハッピー。こんにちは!」

 

「いらっしゃい二人とも。ええ、と言っても昨日知り合ったばかりなのよ。それで行く所もお金も無くてギルドに入りたいみたいなのよ」

 

「ふーん、って事は新しい仲間なんだな!魔導師なんだろ、強ぇーのか!?」

 

 ナツと呼ばれた青年はソロに近づくや否や首に腕を回して顔を近づける。

 仲間、という言葉でソロの胸中は剣で刺されたような感触を覚えてすぐに言葉を返す事が出来なかった。

 

「ナツーなんかこの人ノリ悪いよー」

 

 無愛想、そう取れる反応をしたソロに対して率直なイメージを口に出したのは空を飛ぶ青いネコの方であった。本来なら空を飛び、人語を話すネコに対して驚くところなんだろうが、ソロは喋る動物のいる村を知っているし喋るドラゴンも知っているためさして物珍しく感じなかった。

 

「喋るネコか……いや悪い、少し考え事をしていた。質問の答えだが、1つ目は仕事が欲しいからそういう形になる。2つ目は、魔法を使える者の事を魔導師と呼ぶのならそうだ。そして戦闘に関しては人並み以上には戦えるはずだ。

遅くなったけど名乗らせてもらう、俺の名前はソロだ」

 

「俺はナツでこっちはハッピーだ。そんじゃあソロ、俺と勝負しようぜ!」

 

 ナツは右手で拳を作って左手に当てると乾いた良い音が響き渡り、好戦的な笑みを浮かべた。

 

「ちょ、ちょっとナツ君イキナリ何言ってんの?」

 

「腕が立つんだろ?だったらどれくらい強いのか気になるじゃねーか!」

 

 物騒な事を言い出したリリカに対してナツはただの好奇心からくるものであると伝える。そして俺の方が強いがと付け足した。

 

「……俺の強さを見てくれる試練って事で良いんだよな?」

 

「へっ、そんな堅苦しいもんでもねぇ喧嘩だ喧嘩!」

 

「フッ……良いぞ。ただの喧嘩だったら相手をしよう。外に出るぞ、机やら椅子やらを壊すわけにはいかないだろ」

 

 ソロ自身、戦いというものは好きなものではない。しかし、目の前のナツが言うには喧嘩である。自らの歩んだ半生の血で血を洗う殺し合いではないため快諾をした。加えて言えばこの世界で自分の強さがどの程度かを知りたくもあった。

 

「お前暗いかと思ったけど、なかなかノリが良いじゃねーか!」

 

 ナツはソロの返答が気に入ったのか腕を首に回してそのまま外へと連れ出した。

 

「ナツくーん!ソロくーん!……もう、なんで男の人ってすぐに喧嘩しようとするの!」

 

「あい!1人はナツだから仕方ないと思うよー」

 

「うーん、でも意外かな。ソロがナツの喧嘩の誘いに乗るなんて」

 

 中に居たギルドの面々もナツとソロの戦いに興味があるのか外へと移動する。その波に続くようにミラ、リリカ、ハッピーも外へと出て行った。

 

 

 

「おい、ナツと依頼人だかよく分からない男どっちが勝つと思う?」

 

「ナツが負けるとは思えねえな、相手がS級魔導士って訳じゃねえしよ」

 

「俺は今日来た男に賭けるぜ、なんかあいつは只者じゃない感じがする」

 

「勝った方が漢だぁー!」

 

 体を慣らすように準備運動をしているナツとソロを余所にギャラリーの面々はそれぞれの予想を、果てには賭け事まで発展していた。

 そんな中、リリカは心配そうな面持ちでソロへと近づいた。

 

「ソロ君、今日なんで此処に来たのか分かってるの!?それに、ナツ君ってスっごく強いんだよ!!」

 

「大丈夫だ分かってる。それにこれ入団試験みたいなもんだろ?

そうでなくても、売られた喧嘩は買わない訳にはいかないんだ。俺はそれなりに強いから安心してくれ、さあリリカは下がっててくれないか」

 

 笑顔で諭すように言うソロに対してリリカは何も言えなくなり、無理はしないでと呟くとギャラリーの方へと下がって行った。

 喧嘩をするのにそれは無理だと内心思いながら、ソロはリリカへと手を振った。

 

「待たせたな、この喧嘩何かルールはあるのか?武器を使ってはいけないとかさ」

 

 首を回し、手首をブラブラと揺らしてソロはナツに聞く。

 

「んなもんねぇよ!どっちが強ぇーか決めるだけだ!」

 

 拳を握り指を鳴らしながらナツは返した。

 

「そうか……なら始めようか」

 

「おう!行くぞぉぉぉ!」

 

 先に仕掛けたのはナツだった。助走を付けて勢いを乗せた拳をソロに向けて放つ。対してソロは至って冷静に右腕で拳を防ぎ、カウンターで左の拳をナツの顔面に打ち込んだ。

 ナツは拳を貰う結果になるが、とっさに受ける場所を額に変えて堪え切り、反撃の右の拳をソロの腹部に叩き込んだ。腹筋に力を込めて防ぎきれるとソロは思ったが、ナツの拳は予想よりもずっと重くそのまま後方へと飛ばされた。好機とみたナツは追撃に向かうがすぐさま体勢を立て直したソロの攻撃と交差し、2人は一度距離をとった。

 

「お前……なかなかいいパンチ打つじゃねえか!」

 

「当たり前だ!……共に旅をした奴から教わった武術だからな。そういうお前の攻撃も悪くないよ」

 

「まだまだこれからだぁ!」

 

 再度繰り返される素手での攻防、ソロが攻めては守り、またナツも同じように攻めては守る。高いレベルでの戦闘にギャラリーも初めは騒いで見ていたが、いつしか息をのんで見ていた。

 

「格闘に関しては互角ってところか?」

 

 切れた口の中に溜まった血を吐き出して服には汚れが付き、肌には青あざや傷が目立つようになったソロは言う。

 

「互角?俺はまだまだ余裕だっつの!」

 

 口では言うものの風貌はソロと同じようにボロボロのナツは強気で返す。

 

「火竜の鉄拳!」

 

 繰り出されるナツの攻撃、しかし先ほど迄とは違い拳には燃え上がる炎が纏われていた。これは喰らう訳には行かないとソロは防御ではなく避けに徹し、紙一重で躱す事ができた。

 

「手が燃えただと……お前は炎が得意なようだな?」

 

「ああ!俺は炎の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だからな。喋ってる暇なんか無いぜ!」

 

 先の攻撃を避けたソロの判断は正しかった。ソロは知らない事であるが、ナツの習得している滅竜魔法は自身の体質をその属性の竜の物へと変換する。そのため身体能力が格段に向上し、炎を纏った先ほどのパンチの威力は計り知れない物となっている。

 

 次々と繰り出される燃える拳に対してソロは避ける事しかできない。こちらから攻撃をしようにも燃える手で受けられては攻撃を仕掛けてもダメージを負うのは自分になってしまう。魔法には魔法で対抗しようにも、ソロの使える攻撃魔法は火球呪文(メラ)爆破呪文(イオラ)のため恐らく相性が悪いであろう事を今までの経験から理解している。最も得意である呪文もまだあるが、それにナツが耐えうる存在であるかはまだ図りかねていた。

 ソロは思考を重ねながらの回避を続けるが、腹部に燃える拳を一発叩き込まれ、威力を殺しきれずに後方に飛ばされてしまう。その拳は初手の一撃よりも遥かに重い一撃であった。

 

「ぐっ……さすがに今のは……良いのを貰ったな」

 

 されど膝を付くことはなかったソロは少々フラつきながら拳を構える。

 

「お前、なんで魔法使わねぇんだよ?」

 

「あいにくだが……俺の魔法もお前と同系統だ……効き目があるとは……思えなくてな」

 

 荒れる息を必死で整えてソロは返答する。そして心の中に1つの願望が一瞬だけ遮る、せめて剣があればと。

 

 

 

 その時ソロの握られた手が光輝き、その光は1つの形を形成する。(ドラゴン)の意匠が凝らしてある塚と鍔、刀身も特徴的で剣先は一度左右に広がり、その先はまた鋭くなっているといった物だ。別れた先の鋭くなっている刀身には空に昇る竜のような紋様が施されていて中心に赤い宝玉が埋め込まれている。

 光輝き見る者全てを魅了するかの如き宝剣とも呼べる剣がソロの手には握られていた。

 

「なんでコイツが……ここに?」

 

 ソロの脳裏に自分をこの世界に送り込んだマスタードラゴンの言葉が浮かぶ、装備は授ける。確かにそう奴は言っていた。

 

「それがお前の魔法か、エルザと同じ換装使いか!」

 

「……エルザってのが誰だか、カンソウってのがなんだか俺は知らん。ただこの剣は魔法じゃない、俺の装備……天空の剣……安心しろ、コイツは使わねぇよ」

 

 そう言うとソロは手に持った剣を自分の背後の地に突き刺した。

 

「あぁん、最初になんでも有りだっつっただろ!

武器を持ったらフェアじゃあねぇってか?」

 

「そうじゃない……拳で初めた喧嘩の途中で剣を使うって事は……俺に武術を教えてくれた奴に失礼だと思えてな……行くぞっ!」

 

 呼吸の整ったソロは駆け出し、渾身ともいえる拳をナツに向かって放ち、ナツはそれを両腕で受け止める。ナツが滅竜魔法を使い始めてギャラリーの誰もがもうソロの攻撃は通用しないと思っていた。

 しかし次の瞬間、ナツの体は大きく後方へと吹き飛ばされた。地面を転がったナツはすぐに体勢を立て直すが、何が起きたか分からないといった表情だが、徐々に眉間に皺がより鋭くソロを睨みつけた。

 

「てめぇ……手加減してやがったのか!?」

 

 叫ぶナツ。せっかく出した剣を使わずに結局素手での戦闘を選んだソロ。何も状況は変わらないがソロの攻撃の威力は確実に上がっていた。そうなると答えは1つしかなくなる。手を抜かれていたと感じたのだからナツ怒り狂うのも無理は無い。

 

「……そんな訳あるか!お前みたいな奴との拳骨勝負で手加減なんかできるかよ!俺だってよく分からねぇ!」

 

 ソロの言葉に嘘は無い。序盤から手加減をする余裕なんか無くてナツが滅竜魔法を使ってからは尚更そんな事出来なかった。

 

「もしかして……天空の剣か……?

フッ……考えるのは後だ!ココは分かんねえ事だらけだが、今分かってんのは目の前には強い奴がいてそいつと戦ってる。そんで俺はそいつと殴り合いが出来る状態になった、ならとりあえずケリを付けるか!」

 

 吹っ切れたようにナツと向かい合うソロ。何かを感じ取ったのか、自然と怒りが消えてナツの口角は上がっていた。

 

「やっぱお前面白ぇな!よぉぉし燃えてきた!」

 

 ナツは両の拳に炎を纏いソロへと駆ける。対称的にソロは構えを崩す事無くナツを待ち受ける。

 2人の拳が、脚が相手を捉え、時には空を切り一進一退の攻防が繰り広げられる。

 

「良いぞー!そこだ、ナツ!」

 

「ソロ君ー!ガンバッテー!」

 

 鎮まり返っていたギャラリーも戦い振りに心が揺さぶられいつしか歓声を上げて2人の戦いを見ていた。その声は2人を鼓舞し、見えない力を与えているかのように更に2人の戦いは激しさを増した。

 されどダメージは少なく無く息を切らしながら必死に相手を倒す為に2人は拳を振るい続けた。

 

「右手と左手の炎を合わせて……火竜の煌炎!」

 

 天に掲げたナツの両手の間に大きな炎の塊が作り上げられ、ソロに叩きつけられると巨大な爆発が発生し、爆風と砂塵でこの場にいる全員の視界が遮られる。

 

「へへっ……んなっ!?」

 

 大技を放った事で勝利を掴んだと思い込んだナツの目に飛び込んで来たのは、ボロボロになりながらも砂塵を越えて自分へと向かって来るソロの姿だった。

 大技を放った事でナツに生まれた隙をソロは見逃さない。隙を生む為に負った大ダメージの代償を返さんばかりにソロは攻撃を仕掛ける。顔面に拳を一発、腹部に膝を一発。流石のナツも腹を抑えてよろめき、数歩後ろに下がる。

 

「はぁ……はぁ……さっきの……お返しだ……火炎呪文(ギラ)!」

 

 ソロの掌から帯状の超高温の炎がナツへと放たれる。

 効き目は薄いと思われる魔法をソロは敢えて選択した。ナツも人の身であるから耐性を完全に持っている訳では無いだろうし、アレだけのダメージを負っていればダメージは有ると踏んだからだ。

 

「ソロ君、ダメーっ!」

 

 リリカの声が響いたその時、ソロの放った炎は直撃し、ナツの身体は炎に包まれた。燃え上がるナツの身体だがナツは苦しんでいる様子はなく、むしろ笑っていた。

 そしてソロは自分の目を疑った。ナツを包んでいた自分の放った魔法の炎は収束されてナツの口へと移っていったからだ。そう、人間が炎を食べていたのだ。

 

「ふぅー、ごちそうさん!食ったら力が湧いて来た!

 

……美味え炎だったぜ、お礼に奥義をお見舞いしてやるよ。滅竜奥義!紅蓮火竜拳!」

 

 ナツがまた両の拳に炎を纏う。しかし今までのそれと違って最も荒々しく、すべてを燃やし尽くさんと言わんばかりの業火が揺らめいていた。

 そしてソロに接近し、業火の拳を叩きつける、一発、二発、三発、何度も何度も連続でいつしか回数など分からなくなり、最後に大きく振りかぶった渾身の一発を叩き込んだ。

 

「ぐはっ……!」

 

 口から血を吐き出しながらソロは後方へと吹っ飛ばされて壁に激突する。虫の息でありながら、壁に体重を預けてフラフラと立ち上がりナツに向き合い、拳を握り腕を上げようとするも力なく下へと下がってしまう。

 

「ナツの勝ちだ!」

 

「クッソー!でもアイツもやるな、ナツの滅竜魔法食らって倒れないんだぜ!」

 

「うおー!2人とも漢だぁー!」

 

「「ソロ(君)!」」

 

 完全にナツの勝利の雰囲気が漂い、今にも倒れこみそうなソロを見たリリカとミラは駆け寄る。リリカに至っては顔面蒼白でよっぽどソロの事が心配なのが伺える。

 

「はははっ……俺の……勝ち……っ!?」

 

 ソロに背を向けて自らの勝利を宣言しようとしたその瞬間、ナツの背筋に悪寒が走る。何事と思い、周囲を見回すとその正体はすぐに分かった。背後にいる自らが下した相手、ソロ本人である。身体はボロボロ、立っているのもやっとの状態で人差し指をナツに向けていた。何より、その瞳が死んでなく負けを認めていない。

 

「……耐え……ろ……よ……」

 

 左手の掌を駆け寄ろうとするリリカとミラに向けて2人を制止し、ナツに向かって言い放つ。執念とも呼べるソロの威圧にナツは動くことが出来ずにいた。

 

降……雷……呪文(ライデイン)……!」

 

「なっ……!」

 

 ソロが唱えた呪文を捉えたその瞬間、晴天の空から一筋の雷光が落ちる。

 そしてそれは立ち尽くすナツを捉えて地を穿ち、先の火竜の煌炎が起こしたものよりも遥かに強大な砂塵を巻き上げた。

 

「うおっ、なんだ!?ラクサスか!?」

 

「いや、違う!アイツが、あの男がやったんだ!」

 

 1人の者は同じギルドのメンバーがやって来たのかと思いあたりを見回す。しかしソロが呪文を唱えて雷を落とした瞬間を見ていた者もいたようだ。

 周囲が混乱している中、少しずつ砂塵は晴れてナツの影が見えるようになった。

 

「……んっ……だ……と……」

 

 完全に砂塵が晴れると、大きなクレーターの中にナツが倒れていた。

 ソロの炎を食べた事で体力と魔力を回復したが、ダメージまでは癒えた訳ではない。そんな時に高威力の雷の魔法を食らってしまってはいくらタフなナツでも身体を地に伏せる他無くなってしまった。

 

「フッ……引き……分けって……ところ……か……」

 

 倒れているナツの姿を見たソロは満足そうに笑みを浮かべた次の瞬間、糸の切れた人形のように力なく地に倒れこんだ。それと同時に天空の剣は光の粒子となって宙に消え入った。

 


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