いやぁ~楽しみですね~。でもここの一夏はラブコメしないですけどね(笑)
決闘までの一週間はあっという間に過ぎた。
本来ならば決闘に向けて訓練なり何なりをするべきなのが普通なのだが、一夏はまったくそれらをしてはこなかった。世間的に考えればISが使えることが分かった時点から訓練をしたところで代表候補生に操縦時間で勝てるわけが無い。しかし、一夏は二年前から何度もISを使って死線を潜り抜けてきたのだ。最早ISを己の体同然に使うことも造作も無いこと。それどころかISの補助無しには生活することもままならないことを考えれば、まさにISは一夏の体そのものなのだ。
今更訓練も何もない。酷い話だが、一夏のISの操縦技術は北辰達との戦いで格段に上がった。命も賭けたこともない輩に負けるほど一夏は甘くない。
箒はこの一週間を実に気まずく過ごした。
あの決別から話しかけることがしづらくなってしまったのだ。別に無視をされているわけではない。話しかければ返事は一応とは言え返すのだから無視はしていない。しかし、その反応には何の感情も込められてないのだ。一夏は箒のことを完璧に他人として扱っている。初めからやり直しとかならまだ、また友情を育むなり何なりとしたのかもしれない。しかし、一夏は一切人と関わらなかった。必要最低限に会話をするだけで関わろうとしない。クラスの女子も最初こそ話しかけていたが、今では腫れ物に触るような対応しかとらない。
また箒はこの一週間、一夏と同室だと言うことを別の意味で意識させられた。
箒はこの一週間、一夏が食事をしたり寝たりしている姿を見たことが無い。
いつも机に座って何かを調べている以外の姿を箒は部屋で見たことが無いのだ。朝起きると既に部屋には居ないし、食堂に来たところも見たことが無い。昼休みも教室には居ないうえに、どこに行っているのかもわからない。授業が終わってもすぐどこかに行ってしまうため、箒は一夏がどこに行っているのかわからないのだ。追いかけてみようともしたのだが、気がつけば目の前から消えているのだ。そのため箒は一夏と同室なのにまったく一緒に過ごしている感触がしない。
だからこそ、別の意味で意識させられたのだ。
一夏と同室の感じが全然しないと・・・・・・
決闘の時間になり、一夏は現在第三アリーナのピットに居た。
セシリアは先に出ているため、アリーナの中央で威風堂々と構えていた。
その姿はまさに、決闘に望む騎士そのものである。
一夏は皆に何も言わずにアリーナに向かって歩いていた。その姿は特注のISスーツである真っ黒なボディスーツを纏っていた。これも特殊な代物で、一夏の五感の補助の役割を果たしている。一夏はいつも制服の下に着込んでいた。
「お、織斑君、ISは?」
千冬はあの一週間前から一夏に話しかけられずにいたため、一夏にはもっぱら真耶が話しかけるようになっていた。
「・・・・・・問題ない。展開する」
そう一夏は淡々と言うと、さっそくISを展開し始めた。
首に架けていた真っ黒い石のペンダントが光り始め、そして『一夏の胸辺りも光り始めた』
あっという間にISが展開されていき、箒達の目の前には悪魔のような真っ黒な姿が現れた。
全身装甲をしていて色は真っ黒。足は完全に巨大なスラスターユニットと化しているのか、足らしい形をしていない。肩の張り出した大きな装甲にまるで羽のような巨大なスラスターバインダー。まるで悪魔の尾を連想させるテールバインダー。そして・・・・・・通常のISよりも一回り大きかった。
通常のISとはかけ離れたその異形の姿に、その場にいた三人は戦いた。特に驚いたのは教師の二人だ。学園の教師である以上、当然生徒の持つ機体の情報も把握していなければならない。一夏の機体であるエステバリスを見たときもその普通とは違う姿に驚いたが、今回の姿は事前の情報とはまったくかけ離れていた。通常のISはパッケージを装着すると、多少形は変わるが、それでも装着前の面影は充分に感じられるものだ。しかし、一夏の機体はもはや別物にしか見えない。
「「「なっ!?」」」
言葉に詰まる三人。しかし、一夏は何も気にせずにその場でPICで浮遊し、発進する。
「『ブラックサレナ』・・・・・・出る」
そして火を噴く足のスラスター。まるで砲弾のように一気に一夏はアリーナへと飛んでいった。
ピットから出た一夏を見たセシリアが最初に抱いた感想は『不気味』だった。
一夏の纏っているISは、とてもISには見えない異形。その姿にセシリアは不気味に感じ、少なからず恐怖を感じた。
しかし、そんなものを認める訳にはいかなかった。男なんかに怖じ気づいてしまった自分を認めることなど、出来るはずが無い。彼女はプライドでそれをねじ伏せた。
「随分遅かったですわね。逃げずに来たこと、まずは褒めて差し上げますわ」
そう自分を鼓舞する意味合いも込めて挑発的に言うが、一夏は何も答えない。
その事に業を煮やしそうになったが、何とか堪えてさらにセシリアは言う。
「わたくしが一方的な勝利を得るのは当たり前のこと。ですから、惨めな姿を公衆に晒したくなければ、今ここで謝るというなら、許してあげないこともなくってよ」
そう胸を張って一夏に向かって言うが、一夏は何も返さない。そのままじっとしていた。
そしてセシリアは堪えきれなくなり、声を叫び上げた。
「キィーーーーーーーーーー! 無視するとは失礼なっ!! いいですわ。ならばあなたには無残に負けて、皆の笑いものになってもらいましょう。二度と楯突かないように!」
そう叫ぶと同時に試合開始のブザーが鳴り響き、セシリアは持っていたレーザーライフル『スターライトmkⅢ』を一夏に向けて発砲した。
一夏は目の前のセシリアの機体の情報に目を通していた。
イギリスが開発した第三世代IS『ブルー・ティアーズ』。射撃メインの機体で最大の特徴はその機体名にもなっている特殊兵装、『ブルー・ティアーズ』だ。これは遠隔操作可能な独立兵装らしい。
一夏はそう言った情報や機体スペックを確認していき、内心で落胆していた。
(この程度の機体か・・・・・・テスト出来ても50パーセント出来れば良い方か・・・・・・)
セシリアが何かを一夏に向かって喋っていたが、一夏は気にせずに情報を漁り、そして決めた。
20分で終わらそう、と。
そしてブザーが鳴ると同時にセシリアがライフルを構えて撃ってきた。
中々に見事な射撃であり、普通ならまず当たるだろう。
しかし・・・・・・
「なっ!?」
セシリアの顔は驚愕に歪む。
一夏はその巨体からは信じられない速さでセシリアのレーザーを回避したのだ。
「ま、まぐれですわ!」
セシリアはそう叫びながらさらに果敢にライフルを撃っていく。しかし、一夏はそのレーザーをことごとく回避していく。その巨体からは想像もつかないほど軽やかに、まるで空を舞うように、軽々とアクロバティックに避けていった。
その事にセシリアは驚き焦るが、一夏は何の感情も浮かべずに機体を動かしていた。
「まだ甘いな。反応速度がコンマ3遅い。それと出力はもう少し上げるべきだ。でなければ奴等には・・・・・・」
そう独り言を口にしながら回避していた。アカツキに要請して作って貰ったパッケージだが、まだ一夏の満足のいく物では無かった。この程度は北辰達には勝てないと、一夏はまだ詰められるところを報告事項として挙げていく。常にその目は機体の状態や取れたデータなどに向けられていた。セシリアには殆ど向けられていない。
管制室は異様な空気に包まれていた。
代表候補生と初めて試合をする男子。普通なら苦戦して当然。しかし、現実はまったく違った。
セシリアの射撃を軽々と回避していくその姿には余裕が溢れているようだった。
その光景に三人は唖然としてしまっていた。
唯一真耶がデータを取ろうと解析をしていたが、その顔が驚愕で固まった。
「えっ!? これって・・・・・・何で!?」
その声にはっとして二人が真耶の方へと行く。
「どうしたんだ、山田先生」
「お、織斑先生。それが・・・織斑君の機体がおかしいんです!」
「おかしい? どういうことだ」
千冬はそう聞きながら解析したデータに目を向け、真耶はそのまま説明し始めた。
「織斑君の機体のシールドエネルギーを見て下さい。通常のISは高くても700くらいが限度です。ですが、織斑君の機体からは2500と出ています。これはどう考えたっておかしいですよ」
真耶が言うことはもっともな事で、この数値は軍事用のISでさえ凌駕する数値である。
通常のISコアから出せるエネルギーの量としては異常すぎるのだ。リミッターを外したところでここまでの数値にはならない。
「なんなんだ・・・これは・・・・・・」
さすがの千冬もこの異常事態にはついて行けない。箒も言っていることの重要性こそ理解は出来るが、何故そうなっているのかはまったくわからない。そのため、三人はまた二人の試合を見つめることしか出来なくなっていた。そして千冬はデータに出ていた機体名を思い出して呟いた。
「ブラックサレナ・・・・・・黒百合。花言葉は『呪い』『復讐』・・・・・・」
その呟きは二人の耳には届かなかった。
このシールドエネルギーの秘密。それは単純なことだった。
先程真耶が言っていたことはISコア1個に対してのことであり、それが普通の話。しかし、一夏の機体にはISコアが『2個』使われている。エステバリスを自分に埋め込まれたコアと同期させまず一つ。そして、そのあまりの性能からコアなしには無理と判断されてコアを使い作られたパッケージ『ブラックサレナ』に一つ。これら二つを同時に展開しているときのISの総エネルギー量は2倍以上である。つまり、一夏のISにはコアが2つ使用されているのだ。そうでもしなければ北辰達には勝てないと一夏が判断したために、こうなった。七対一ならば仕方ないことである。
一夏はある程度ブラックサレナの機動性をテストし終えると、今度は防御性能を測るために敢えてセシリアの射撃を受けた。
「やった!」
初めて攻撃が当たったことにセシリアの顔が晴れる。
それまで一発も当たらないことに焦り、顔からは疲労がにじみ出ていた。やっとのヒットにセシリアの戦意は少しは高揚する・・・・・・はずだった。
「え・・・・・・・・・」
セシリアの期待は物の見事に裏切られた。
撃たれたブラックサレナは何の支障も無く、平然とその場に浮いていた。
その装甲には焦げ目一つ無い。
一夏は受けたダメージを調べるが、そのあまりの少なさにまた落胆した。
(威力が低すぎて計れない。これではディストーションフィールドのテストも出来そうに無い)
とてもじゃないが、この程度の威力ではブラックサレナには傷一つ付けられない。
一夏はセシリアに落胆しつつも、更に攻撃性能を試すべく武器を展開した。
両腕に展開されるハンドカノン。手をすっぽりと覆い、機体のサイズに見合うよう大型の銃口を持つそのハンドカノンを見て、セシリアは一夏が攻撃してくることを悟ると、狂乱気味に叫ぶ。
「イヤァアアアアアアアアアアアアアアッ!? 行きなさい、ティアーズ!!」
セシリアの叫びに応じて背中の非固定ユニットからブルーティアーズが飛び出し、ブラックサレナに向かって一斉掃射を始める。
それはまさにレーザーの雨。普通のISならば大ダメージを受けていただろう。
しかし、ブラックサレナはまるでシャワーを浴びているかのごとく、平然とその場に浮いていた。
その装甲には傷一つ無い。
一夏は念のためシールドエネルギーにも目を通すが、2500から一桁も減っていない。
エステバリスにはシールドバリアーが無く、絶対防御を作動させないかぎりは減らない。そしてこの硬い装甲を打ち破らなければ、絶対防御は発動しないのだ。
そのことも視野に入れて一夏はテストする。
セシリアの顔には完璧な恐怖が貼り付いており、歪みに歪んでいた。そしてブラックサレナをまるで、化け物を見るかのような目で睨みながら叫ぶ。
「き、消えなさいッッッッッ!!!」
腰にあるミサイル型のティアーズも全弾発射し、さらに通常のティアーズも用いての一斉砲撃。
普通のISだったらとっくに機能停止しているだろう。
ミサイルの爆炎がブラックサレナを覆い、姿が見えなくなってもセシリアは射撃を辞めない。もはや無我夢中で撃ち続けていた。
そしてミサイルが尽きたところでやっと止まる。
その顔は疲労で歪み、息切れを起こしていた。
「こ、これでもう・・・・・・」
そう淡い期待を抱きながらブラックサレナの居たところに目を向ける。
そこには・・・・・・
まったく無傷のブラックサレナが浮いていた。
多少煤で汚れてはいたが、まったくダメージを受けた様子が無い。
セシリアにはその姿が背景の爆炎と相まって、悪魔にしか見えなかった。
「この程度か。ならもう用は無い。終われ」
一夏はそう言うと同時にセシリアに向かって手に持っているハンドガンを連射しながら突進する。その射撃は一件粗雑な様に見えて、実に的確に相手へと食らい付く。
「キャァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
セシリアは咄嗟に回避を試みるが、一夏は回避先も読んで連射するためにセシリアは避けきれずに銃撃を受けた。その片手用の武器からは考えられないほどの威力にブルーティアーズのシールドエネルギーがガリガリと凄まじい勢いで減っていく。
そのまま一夏はセシリアに体当たりを嚙ます。咄嗟にセシリアはライフルを盾にして堪えようとするが、思いっきり撥ねられた。
「かはぁっ!?」
セシリアはその威力と衝撃に肺の空気を吐き出してしまう。そのままアリーナの壁に叩き付けられてしまった。
ブラックサレナはそれを確認すると、その場で一端止まる。
一夏はまだブラックサレナの機動性を全部を出し切ってはいない。だからこそ、最後はそれを試そうと考えた。
セシリアに通信で最後の言葉を贈ったのは、テストの礼替わりかもしれない。
「これで終わりだ・・・」
一夏はそう通信を入れると、セシリアに向かってまた突進する。
前回と違うのは、その速度である。両肩の展開式スラスターバインダーを展開、肩部や腰部などに各部姿勢制御用ノズルも推力に回す。前回よりも断然に速い速度、まさに砲弾そのものと化してセシリアに向かって行く。
セシリアは意識はあるが、最早死に体同然だった。
先程の体当たりでライフルは破壊され、ティアーズはほぼ全部使用不能。機体の各所からはスパークが散っていた。ダメージクラスC、最早戦える状態では無い。
しかし、一夏は容赦はしない。
壁に寄りかかるようにして立っているセシリアに向かって、黒い砲弾は容赦なく激突した。
壁が粉砕され辺りに粉塵が舞う。
セシリアは最早声すら上げられなかった。ただ、その顔は恐怖で染め上げられたまま気絶した。
粉塵が収まるとそこには、直径五メートルほどのクレーターが出来上がっており、その中心にはほぼ全壊したブルーティアーズと、絶対防御が発動して強制的に気絶したセシリアが転がっていた。
あまりの光景に皆声を上げることが出来なくなっていた。
まさか代表候補生を相手にして、ここまで一方的に叩き潰すとは誰が思っていようか。
そのあまりの悲惨さに誰もが声を失っていた。
一夏はそれを気にせずにその場から自分の発進したピットへと戻っていった。
試合終了のブザーは鳴らなかったが・・・・・・