明るくともないですけどね~。
千冬は一夏のことは後に問い質そうと何とか心に決めることで精神を平常に保ち、IS学園の教師として振る舞うことにした。そうでもしないと一夏を前にして何も出来なくなってしまいそうだったから・・・・・・。
そして授業の時間になり、教室へと戻っていった。
一夏は先程にあったことなど気にせずにまたISを使って情報を集めていた。
先程あった出来事。それは休み時間中に一夏にイギリス代表候補生であるセシリア・オルコットが絡んできたことだ。セシリアはISを使える男ということで一夏にちょっかいをかけてきたのだが、一夏は一切関わらず、無視してずっとISで情報を探っていた。
無視されたセシリアは一夏のその態度にかなり怒り、さらに突っかかろうとしたのだが、授業開始のチャイムによって遮られてしまった。そのため、凄く不満な様子でセシリアは席へと戻っていった。
普通、このような態度を取られれば誰だって不快に感じるものだ。
しかし、一夏は不快にも感じていなかった。それどころか本当に何とも思っていなかった。
一夏にとって、いくら騒がれようが、いくら罵られようが気にすらならない。いくらセシリアが代表候補生のことを自慢し、男のことを見下す今現在の主流である、『女尊男卑』の思考の持ち主であっても、一夏には気にならないのだ。一夏が今、唯一気になる人間といえば北辰達だけであり、それ以外は範疇にない。篠ノ之 束も似たような感じだが、それ以上に一夏は北辰達に執着している。ただしそれが復讐心ということだけが違うだけなのだが。
一夏にとってセシリア・オルコットとは、範疇外。つまり気に留める必要もない人間だということだった。故に一夏はセシリアを無視していた。
「ではこの時間はクラス代表を決めることにする」
教室に入ってきた千冬は一夏を前にしても何とか気丈に振る舞い、声を上げていた。
この時間は急遽、クラス代表を決める話し合いになった。
クラス代表とは、文字通りの意味でクラスの代表ということ。クラスの代表としてクラスの皆をまとめ、クラスの代表として会議に出席する。言わば学級委員である。
ただIS学園ではそれ以外にもクラスを代表して他のクラス代表とISを使って試合を行ったりもする。クラスを代表するだけに、弱者ではあまりよろしくない。必然的に強い者がクラス代表になりやすい。
そう千冬は皆に説明していく。
無論一夏も聞いてはいるが、気には留めていない。
目は常に世界から情報を集めていた。
「自薦、他薦は問わない。誰かいないのか」
そう千冬がクラスに問いかけるが、皆少しざわつきながら中々手が上がらない。
確かにクラス代表と言えば格好良く聞こえるが、言い換えればクラスの雑用係。余程真面目でも無い限り、やりたくはないのだろう。
そうして少しざわついたあとに、やっと一人の生徒から手が上がった。
「わ、私は、織斑君を推薦します」
手を上げた少女は一夏のことを見ながら、おっかなびっくりにそう言った。
彼女としては、一夏のことを知るのに良い機会だと思った。確かに一夏はよく分からない人間だが、だからこそ気にもなるというものでもあるのだ。年頃の少女達には、一夏の容姿は格好いいと分類されるものだ。そんな格好いい男子のことを気にするな、ということのほうが年頃の女子には無理な話であった。
「あ、なら私も」
それに乗じてさらに手を上げていくクラスメイト達。
一夏は断ろうと手を上げようとした。
そんなことにかまけている時間など、一夏には無い。一夏はすぐにでも北辰達を殺したいのだ。
しかし、そう行動に移ろうとしたところで、大きな声が上げられた。
「納得がいきませんわッ!!」
クラス中の視線が声の方向へと向くと、そこには一夏が推薦されたことに我慢ならないセシリアが席から立ち上がって怒っていた。
「納得がいきませんわっ!! 何故イギリス代表候補生である私ではなく、ISを満足に使えない彼なのですか!?」
セシリアが怒るのも分からない話ではない。
さっきも言ったように、クラスを代表する以上、強い者がなったほうがいい。その点ではこのクラスで唯一の代表候補生であるセシリアは、このクラスで今現在一番強いだろう。そう言う点を鑑みれば、クラス代表はセシリアが一番ふさわしい。
しかし、彼女達はまだ十代の少女なのだ。
まだ幼さが抜けきらない彼女達は、そこまで合理的に考えることを良しとはしない。
「だって私達、もっと織斑君のことを知りたいし」
「このクラスだけの特性だしね~」
「普通に選んでも面白くないじゃない」
そう彼女達は口々に言う。
その言葉に悪意は一切ない。しかし、その言葉は彼女の琴線に触れた。
「そのような選出は認められませんわ! そんなわけのわからない不気味な男がクラス代表なんて、このIS学園での良い恥じさらしですわ。私にそんな屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
セシリアはそうクラス中にまくし立てる。
真面目な物言いにも聞こえなくも無いが、そこには一夏への侮辱が込められている。
「実力からすればこのわたくしがなるのが必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!大体! 文化として後進的な国で暮らさなければ行けないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」
彼女はさらにまくし立てて言った。
最早それは一夏への非難では無く、日本そのものへの非難へと変わっている。
頭に血が上っているセシリアには気付かなかったが、彼女がやっていることは本来なら代表候補生にあるまじき行いである。国を代表する候補生とは言え、国を背負っている身。それが他国を侮辱するということは、国際問題になりかねないのだ。
クラスメイト達はそんなセシリアの様子を見て若干引け気味になっていた。
彼女達の世代は女尊男卑が主流の世代。とは言え、セシリアほど激しくは無い。その上自分の国のことを馬鹿にされているというのは、あまり愛国心が無いとは言え気分は良くないものだ。
そして罵詈雑言を言われた一夏はというと・・・・・・
まったく気にも留めず情報収集に勤しんでいた。
聞こえてはいるし、理解もしてはいる。
しかし・・・・・・
だからどうした。
そう言わんばかりに一夏は気にしない。
愛国心と言う物など、一欠片も持っていない。侮辱されて腹を立てるようなプライドなど二年前に捨ててしまった。女尊男卑を気にするようなこともない。一夏はたとえ誰であろうと邪魔するのならば容赦はしない。女だろうが男だろうが、邪魔ならば関係ないのだ。
しかし、その何も聞いていないかのような態度にセシリアはさらに怒る。
「聞いていますの! 織斑 一夏!!」
「・・・・・・・・・・・・言いたいことはそれだけか」
「なぁッ!?」
一夏の何の感情も抱いていない応答に、セシリアは空いた口が塞がらなくなっていた。
一夏はそんなセシリアの様子を気にもせずに千冬の方に顔を向ける。
顔を向けられた千冬はビクッ、として固まった。
「彼女はやる気があるらしい。こういう役職はやる気があるものが好ましいものだろう。なら彼女がクラス代表でいいだろう、どのみち俺はそんなものをやる気は無い」
そう一夏は淡々と千冬に言う。
そこには否定も肯定も感じられない。ただ事実を淡々と述べるだけであった。
しかし、その様子はセシリアの癪に障った。
「馬鹿にしていますの!」
「・・・・・・別にしていない。クラス代表になりたいのだろう、ならば丁度いいはずだ。俺としても、そのほうが有り難い」
一夏は素直にそう答えた。
しかし、その様子にセシリアは自分が馬鹿にされたように感じたようだ。
「馬鹿にしていますわね!! キィーーーー、決闘ですわ!! 負けたらあなたを私の小間使い・・・・・・いえ、奴隷にしますわっ!!」
セシリアはそう一夏にまくし立てながら言う。若干ヒステリックになっていたが、一夏はまるで何ともないかのように聞いていた。
「お前たちで勝手に決めるな。しかし、自薦も推薦ももうないようだしな。よし、では来週の月曜日に第三アリーナで決闘を行う。構わないか」
これ以上は話が進まないと判断し、千冬が話を強引に進めていき、この話は終わりとなった。
一夏はその授業が終わったのちにプライベートチャネルでアカツキに連絡を取った。
別にする必要はなかったのだが、念には念をいれるためだ。一応とは言え、一夏はエステバリスのテストパイロットをしている身だ。当然データを取るのなら報告もすべきだろう。それぐらいの義理はある。
さっそく出たアカツキにこの話を報告すると、アカツキは何故か笑っていた。
「さっそく青春してるじゃないか、一夏君。いいんじゃない、そういう青春も」
「冗談はよせ、アカツキ。そんなものは俺に必要無い。しかし、『アレ』のテストをするのに丁度いい。データが取れたらそちらに送る」
「ああ、わかったよ。学園生活を楽しんでね」
そう笑いながらアカツキは言うが、一夏はそれを無視して通信を切る。
これ以上の通信は無意味と判断したからだ。一夏には冗談を聞いている暇はない。
そのまま放課後になり、一夏は寮へと向かっていた。
教室を出て職員室へ行くことに。IS学園に通う以上、入寮は当然の条件になっている。
一夏は極秘裏に学園に入ったため、急遽部屋を用意する必要があった。そのことは十蔵によって何とかなったが、流石に急すぎたので一人部屋は確保出来なかった。
しかし、一夏がこんな感じでは間違いの一つも起こらない。そう十蔵は判断を下した。
職員室につくと、一夏は真耶から寮の鍵を渡され諸注意を聞かされる。一夏は何の表情も浮かべずに大人しく話を聞いていた。
その後真耶から、同室の女の子に変なことをしてはいけませんよ、と真っ赤になりながら言われたが、一夏はそれも平然と聞き、返事も返さずにそのまま職員室を出て行った。
寮に着き自分の部屋を探す一夏。
手に持っている鍵の番号は1025となっている。
部屋は探していてすぐに見つかった。一夏はさっそく扉をあけ、部屋に入ると浴室の扉が開いた。
「む、同室の方だろうか? こんな恰好ですまないな。私は篠ノ之・・・・・・てぇッ!?」
開いた扉から出てきたのは箒だった。
さっきまでシャワーを浴びていたらしく、バスタオル一枚を体に巻き付けているだけの姿である。
箒は同年代の女子からすれば、かなり胸が大きくスタイルが良い。そんな彼女が男の前でバスタオル一枚巻いただけの姿で出てきたのだ。普通の男性なら、その姿に欲情を抱いただろう。
箒も一夏の姿を確認して顔が真っ赤になっている。しかし・・・・・・
一夏はそんな箒の事など目もくれずにそのまま部屋を進んでいき、勝手に机に荷物を置くと、何も言わずに机に座り込み、何かを始める。
そこに箒がいることなど、まったく気にせずに。
一夏には性欲なんてものはない。本来の年頃にあるべきはずの感情が無い。
いくら目の前で美女が全裸で誘惑しようが抱きついてこようが、何も感じない。
一夏にある唯一と言っていい感情はただ一つのみ。
『復讐という憤怒のみ』
ただそれだけである。
一夏は『アレ』の調整をしながら北辰達のことを考えていた。
(あぁ・・・・・・はやく・・・・・・はやくッ・・・・・・・・・殺したい・・・・・・・・・)
そう考えている一夏の後ろで、箒は昼間の事とさっきのことを気にも留めない一夏にショックを受け打ち拉がれていた。