インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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第六話 決別の後ろには

 一夏が屋上へと連行されていく中、千冬は保健室のベッドで目が覚めた。

 

「あれ・・・私は一体・・・・・・ッ!? そうだ、一夏!?」

 

 千冬は一夏の事を思い出してベッドから跳ね起きた。

二年前から行方不明になっていた千冬の弟。二年前から躍起になって千冬は探していたが、全然見つからなかった。それで、心のどこかで諦めかけていた。

しかし、一夏はIS学園に現れた。

二年前よりも身長が伸び、がっしりとした体。バイザーをかけているとは言え、面影は昔のままだった。

 行方不明になっていた二年間のことを聞きたくて、千冬はすぐにでも一夏の元に行こうとした。

しかし、その行動はすぐに止められた。

 

「悪いんだけど、今君を一夏君の所に行かせるわけには行かないんだよなぁ」

「誰だ、貴様!!」

 

 保健室の扉の前には千冬の知らない男が立ち憚っていた。

長い髪の毛をした男で、軽薄そうな笑顔が印象的だった。

 

「う~ん、僕の名前を言うと面倒なことになるからね~、教えるわけにはいかないかな。まぁ、一夏君の『今の友人』とだけ言っておこうか」

 

 男がにこやかに笑顔でそう言うが、千冬はこの男から不信感を感じて警戒を強める。

 

「外部の人間が勝手に侵入して許されると思っているのか」

 

 そう殺気を込めた視線で千冬は男に問いかける。その殺気は、普通の人なら青ざめて何も言えなくなってしまうくらいの恐怖を相手に与える。しかし、男はその殺気を軽やかに受け流し、笑顔のままでいた。

 

「一応許可は貰ったんだけどねぇ~、ほら、これ」

 

 男がそう言って千冬の前に出したのは、確かに外部の人間がIS学園に入るために必要な許可証だった。

正規の手段で入ってきたことを知って千冬は軽く舌打ちをしてしまう。男はそれを聞いて、やれやれと言った感じに肩をすくめた。

 

「それで・・・・・・私を一夏の所に行かせないようにするとは、どういうことだ」

「どうも何も言った通りさ。君は一夏君に聞きたがるだろう、この二年間の事とかをね。やめておいた方がいい、彼が嫌がる。この際だからはっきり言うけど・・・・・・一夏君に関わるのはやめてくれ。彼はもう君の知っている弟ではないよ。彼は只の・・・『復讐人』さ。もし彼の邪魔をすると言うのなら、彼は君を容赦なく殺すだろう。彼はもう止まらない、その『復讐』だけが彼を突き動かしているからね」

「なっ!?」

 

 まさか弟に殺されるとまで言われるとは千冬は思っていなかった。

そこまで弟が変わってしまったとは思ってもみなかった。

そして・・・その復讐は千冬本人が対象ではないかと考えた。

二年前に一夏は誘拐され、そして助けられなかった。そのことを恨んでいるのではないだろうか。少なくともそれくらい憎まれても仕方ないと千冬は思っている。

 

「その復讐は・・・私が一夏を助けられなかったからか」

「まぁ、それも一端ではあるかな~。でもそう気にすることはないよ。君に落ち度は無かった」

「そんなわけはない!! 一夏が私を恨んでないわけがない! だって助けられなかったんだ! 大切な家族なのに・・・助けられなかったんだ。それで一夏が酷い目に遭ったというのなら・・・一夏の復讐が私へのものなら、私は大人しく殺されてもいい」

 

 そう千冬は男を真っ直ぐに見据えて言う。

男はその言葉を聞いて・・・・・・愉快そうに笑い始めた。

 

「何故笑うっ!!」

 

 いきなり笑われたことに怒り出す千冬。自分の決意を馬鹿にされたような気持ちになっていた。

 

「いきなり何を言い出すと思ったら・・・何を勘違いしているのやら。まったく笑わせてくれるよ。別に一夏君がああなったのは君のせいじゃないし、そもそも君のことなんて恨んでもいないよ。それどころか意識すらしていない。彼はただ拉致された先で人体実験に使われただけさ。彼が復讐したいのは、その拉致を実行した奴等だけだよ。それ以外は興味ないんじゃないかな」

 

 男は笑いながらそう言う。

そして千冬に最終申告を告げた。

 

「一夏君はもう復讐以外に何も興味なんかない。君はさっき一夏君のことを『大切な家族』って言ってたけど、一夏君はもうそう思ってないよ」

「え・・・・・・・・・・・・」

「一夏君にとって君は、もう家族『だった』人だ。彼に家族は居ない、彼に優しい友人はいない。すべて二年前に捨ててしまったよ。彼は二年前からずっと一人だ、これからもね。彼にいくら問い詰めても無駄だよ。絶対に口を割らないから。寧ろ話しかけたって傷付くのは君だよ。悪い事は言わないから関わらない方がいい。それが彼が一番望んでいることだから」

 

 見知らぬ男から告げられる弟への干渉禁止。

普段なら咄嗟に、理論的に反論してねじ伏せていただろう。

しかし、この目の前にいる男からは絶対の真実を千冬は感じた。

反論のしようも無い真実。この男がわざわざ言いに来たのは、男なりの気遣いからであった。

 ただし、それは千冬への気遣いではない。

一夏への気遣いだ。

一夏の邪魔になりそうなものを事前に撤去するようにしただけである。

そのことを千冬は察し、さらに口を噤んでしまう。

 そして一つだけ聞きたいことを聞いた。

 

「何故・・・・・・貴様は一夏にそこまで入れ込むんだ。さっき言っていたはずだ、一夏に友人はいないと。友人でも無い人間が利益のためであったとしても、ここまで入れ込むものではあるまい」

 

 そう千冬は男に問いかけると、男はそれこそ、本当に楽しそうに笑う。

 

「僕はねぇ・・・見てみたいんだよ。『人の執念』というものをね」

 

 そう男は答えると、部屋から出て行ってしまった。

千冬は部屋でただ、その場で立ち尽くすことしかできなくなっていた。


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