インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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今回はグロ注意です。


第五十五話 復讐者の狂宴

 織斑 一夏がIS学園を去ってから二週間後、世界は激震した。

何と世界各国の軍とISを所有する企業での大規模な実弾演習を行う事が決定し、即座に実行されたのだ。

この発表を行ったのは世界的大企業である『ネルガル重工』。

此度の大規模演習はこの企業が中心となって行う事になっている。

演習目的は各国の軍の士気、及び企業の創作意欲の向上。または、技術の発表の場の提供などといった側面的な部分もあった。

いくら大企業とは言え、それだけで各国の軍まで動かせるわけがない。

だが、その呼びかけに即座に応じたのはアメリカ軍とイギリス軍であった。

両国の軍ともこの演習にとても感心を抱き、周りの国にも積極的に参加するよう呼びかけてくれたのだ。

それによって他の国の軍や企業もそれに賛同していき、此度の演習が可能となった。

 ただし、これは表の話。

この裏ではまったく別の話が進んでいた。

この演習の本当の目的。それは…………

 

亡国機業の壊滅!

 

それがこの『作戦』の本当の目的である。

この大規模演習は隠れ蓑であり、その面目を持って各国の戦力を動かし亡国機業を根絶やしにする。

それがネルガルが主導で行う本当の目的だ。

そしてアメリカとイギリスの両軍が動いた本当の所は、ネルガルが単純に脅したからである。

現在、ネルガルには二つのISコアがある。

それは一夏が破壊した亡国機業のIS………サイレント・ゼフィルスとアラクネのコアだ。

この二つの機体のコアは、詰めるところ元々はイギリスとアメリカが所有しているものであった。それを亡国機業に奪われた負い目がある両軍としては、それをちらつかされては言うことを聞かないわけにはいかなかった。尚、ネルガルの黒い噂は世界各国の軍や企業にも知れ渡っている。真偽はともかくとしても、その黒さは凄まじく下手に敵に回すのはまずいと判断するに充分なものであった。

 そうしてこの大規模演習は実行に移された。

尚、この作戦に要請を受けていない中に、IS学園も入っていた。

 

 

 

 演習当日、世界の各国の軍が『亡国機業と言う仮想敵を相手にした』演習を開始し始めたのと同時に、ネルガルの地下研究所の一室ではとある作戦会議が行われていた。

その場にいる人数はたったの四人である。

 

「さて……我等ネルガルが起こしたこの殲滅作戦。各国軍や企業が亡国機業の基地や施設に攻撃している間に、我等は目的である『クリムゾングループ』の殲滅を行う。これはネルガルの悲願でもある。だから君達には是非とも頑張って貰いたい」

 

最初こそ堂々とした言い方だったが、後半には殆ど砕けた様子でそう言ったのはネルガルの会長であるアカツキ・ナガレであった。

この亡国機業殲滅作戦はネルガルにとって、クリムゾングループを潰すことが本当の目的なのである。これはネルガルにとって一番重要なことだ。

 

「そう簡単に言ってくれるな、アカツキ。言っておくがお前だって今回はちゃんと働いて貰うからな」

 

その物言いに呆れながら返したのは、このネルガルの暗部である『ネルガルシークレットサービス』の隊長を務めるツキオミ・ゲンイチロウである。

そう言われアカツキは苦笑する。そして今度はツキオミの部下にあたる大きな巌のような男がツキオミに変わって今回の作戦について説明し始めた。

この男の名はゴート。ツキオミの腹心で仕事に実直な男である。

 

「今回の作戦ですが…」

 

ゴートがそう言い手元の装置を作動させる。

すると薄暗い部屋の中央にホロウィンドウが現れ、男の姿が映し出されていた。

 

「この男、クリムゾングループのヤマサキ博士の殺害が目的です」

 

それを見た途端に、この部屋にいた最後の一人。全身黒づくめの男……織斑 一夏がニヤリと口元をつり上げた。真っ黒いバイザー越しに見える瞳には、周りを凍てつかせるかのような殺気が宿っている。

 

「ヤマサキ博士はクリムゾングループのISやその他の兵器を全て手がけている天才です。博士を生かしておけばクリムゾングループが弱体化することはないでしょう。今回の作戦の重要標的の一人として、早急に処分する必要があります」

 

ゴートが説明すると、それを補足するようにアカツキが笑いながら話す。

 

「それに一夏君をこんな身体にした張本人だ。まぁ、彼の御蔭で男でもISが使える方法がある程度分かってきたんだけどね。その点で言えば偉大だけど、だからといってとても尊敬は出来ないなぁ。どう、一夏君。殺れるかい?」

 

愉快そう笑うアカツキに一夏は無表情で応じる。

しかし、その身に纏う殺気は聞かれたことを肯定していた。

 

「うん、結構だ」

 

アカツキは一夏の反応を見て満足そうに頷く。

そのままゴートに話を進めるよう促すと、ゴートから具体的な作戦が発表された。

 

「今回の作戦に向けてヤマサキ博士が籠もっている研究所を特定しました。すでに何処の部屋にいるのかも把握しています。ですので、ターゲットを殺すために戦力を二分します」

 

そう言ってゴートがまた装置を操作すると、ヤマサキが潜伏しているであろう基地の情報と図がホロウィンドウに映し出された。

 

「今作戦では、まずシークレットサービスが数班に分かれ基地の各所から正面突破で突入します。それを陽動として基地内の戦力をあぶり出し、その間にヤマサキ博士がいるであろう場所に織斑を単独でボソンジャンプさせ……そして処分します。その後は織斑は内側から残りの人間を全員殲滅に移行。基地を殲滅します」

「うん、大いに結構。それでいこう」

 

作戦を聞いてアカツキはにこやかに笑う。

 

「よし、それじゃあみんな………盛大にパーティーを始めようか」

 

その声と共に四人は頷き、各自作戦のために部屋を出た。

 

 

 

 その数時間後……クリムゾングループの所有している秘密基地が突如として襲撃された。

出入り口を守っている兵隊が瞬く間に銃弾でもの言わぬ骸へと変えられ、その集団は施設内にいる研究員にも襲い掛かる。

突然の襲撃にパニックになる基地の職員達は皆必死に逃げ出そうとするが、その背後から銃弾を受けて身体をズタズタに裂かれて絶命していく。

遅すぎるくらいになってようやく鳴り響く非常事態宣言の警戒音。

すでに集団は更に奥地へと侵入していき、殺戮の限りを尽くしていく。

そこには嘲笑も何もない。ただ、機械のように淡々と殺していくのみである。

その警戒音を聞いて、基地の奥にある研究室の中にいる男はのんびりと言った。

 

「おやおや、これは危ない。早く逃げないとね」

 

すぐにでも近づいてくる死の可能性。常人ならば恐怖し慌てるというのに、その男……ヤマサキはのんびりとして落ち着き払っていた。

彼はそのまま研究室のデータを手早く纏め始めた。彼自身、研究さえ続けられるのならば場所は何処でもよかった。なのですぐにでも移動出来るよう常に纏められるよう準備はしていたのだ。

そして彼が情報を纏め終え部屋を出ようとした瞬間、彼の目の前に青白い光が現れた。

それは段々と増え集まっていき、人の形を成していく。

そして一瞬目映く発光すると、そこには全身黒づくめの男……一夏が立っていた。

それを見たヤマサキは少しだけ驚きに目を開いたが、すぐにいつもと変わらないのんびりとした感じに戻った。

 

「ボソンジャンプか。なら今来てるのはネルガルの人達だね」

「…………………」

 

一夏を見て笑いながらそう聞くヤマサキに一夏は無言で銃を突き付ける。

そして少しだけバイザーを外し素顔を見せると、またバイザーをかけ直した。

一夏の素顔を見てヤマサキは思い出したように手を叩く。

 

「あぁ、君か! 織斑 一夏君。君の御蔭で研究はとても進んだよ。是非ともお礼を言いたいが、今はそんな場合じゃないね。それに出来れば君のことはもうちょっと研究したいけど、いいかな」

 

ヤマサキは一夏に笑いかけるが、その目は人を見る目ではなかった。

研究対象に向ける情のない好奇心の瞳が一夏に向けられる。

一夏はその視線を受け、表情こそ変えないが声に憎悪の念を込めて返した。

 

「………ふざけるな……貴様の所為でこうなった。貴様の所為で俺は全てを失った。貴様がいたから俺は………」

「そう言われてもねぇ~。研究に犠牲は付きものだよ。君は一々モルモットに情を抱く暇があると思うのかい? 僕は研究者だ。研究対象に一々何か思ったりするくらいなら、その分研究に情熱を注ぐよ。君のように研究したいモノはたくさんあるからね」

「………………」

 

さも当たり前のように答えるヤマサキに一夏は無表情のまま向けた拳銃の引き金を引いた。

暗い室内に発砲音が響き、空薬莢が床に落ち転がる。

しかし、その部屋が血で汚れることはなかった。

 

「…………………」

「あっはっは~、驚いた?」

 

一夏が放った弾丸は確かにヤマサキへと飛んでいた。

しかし、それは途中で『黒い半透明の膜』のようなものによって逸らされ、ヤマサキの背後にある機材に当たり機材を破壊した。

 

「………ディストーションフィールド………」

「正解。何も用意してないわけじゃないんだな~、これが」

 

まるでイタズラが成功したかのように喜ぶヤマサキに一夏は更に銃を発砲するが、悉く逸らされてしまう。

 

「それが無駄だってことはわかるだろうに。これで君は僕を殺すことは出来ない。だから僕はそろそろお暇させてもらうよ。もっとやりたいことが一杯あるからね」

 

ヤマサキは一夏にそう言うとのんびりと部屋を出て行こうとする。

その歩みにあるのは絶対の余裕。事実、ヤマサキが張っているディストーションフィールドを破れる火器を持っている者は誰もこの場にいない。

ヤマサキはそのままディストーションフィールドを張ってさえいれば、いくら銃弾の嵐に飲み込まれても怪我一つなく研究所から出られるだろう。

一夏はそのまま去って行くヤマサキの背中に向けて拳銃を向け、そして小さく何かを呟きながら引き金を引いた。

その瞬間、確かに炸薬の破裂した音が鳴ったが銃弾が砲口から飛び出すことはなかった。

そして………

 

「っっっっっっっっ!?!?」

 

ヤマサキの胸から真っ赤な鮮血が飛び散り、ヤマサキは跪く。

 

「な、……何で………」

 

自身の心臓から血があふれ出ていることを感じながらヤマサキは不思議そうに呟く。

そして正解が分かったらしく、笑いながら一夏へと話しかけた。

 

「そ…そうか……。銃弾を発射させた瞬間に『銃弾をボソンジャンプさせた』んだね。銃弾を僕の内側に………」

 

一夏は答えない。

しかし、その沈黙が正解だと判断してヤマサキは嬉しそうに微笑む。

それを不快に感じ、一夏は感情を噴出させて叫ぶ。

 

「死ねぇえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

そして銃弾に意識を向けて発砲と同時にボソンジャンプさせた。

次の瞬間、ヤマサキの頭蓋は炸裂して部屋に肉片と脳漿をぶちまけた。

力なく床の血だまりに沈むヤマサキだったものを見つめ、少しした後に一夏は部屋から出た。

そして目に付くクリムゾングループの人間を誰彼構わずに殺していった。

 

 

 こうしてその日、クリムゾングループの秘密基地から人は一人もいなくなった。

 

 

 


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