インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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今回はあまり上手く書けてるか難しいです。
何せスコールさん、あまり戦闘したところがないですから。


第五十二話 大雨の止んだ日

 一夏は全ての無人機を破壊し、残る一人であるスコールに向き合う。

何故無人機を先に片づけたのか? それは一夏もまた北辰の意図に気付いたからだ。

この襲撃において、何故スコールがいるのか? 無人機を統率していない様子から見て、本来この襲撃に参加するというわけではないことが窺える。

つまり……急遽加わったということ。

何より、北辰なら無人機だけ寄越して様子を見るという考え方をするだろう。憎むが故に、一夏は北辰の考え方をある程度分かるようになっていた。

なら、北辰の意図は無人機五機プラスα如きで負けるなら戦うに値しないと言っているということ。

あくまでも無人機が本題である以上、プラスαのスコールは後回しにしたということである。

実際に一夏の中の戦力図において、この襲撃の脅威は無人機の方が上だった。

技量ではなく、単純な火力の差という意味で。

 ブラックサレナを改めて見たスコールは自分の顔色が真っ青になっていることに気づけないでいた。

それどころか、彼女のIS『ゴールデン・ドーン』は操縦者の精神状態の低下や心拍の不規則な上昇などの異常をけたたましく表示するが、それでもスコールが気づくことはなかった。

 

彼女はただ、魅入ってしまっていた……………ブラックサレナという……死そのものに。

 

人間、死に直面すると大抵はわめき散らすものだが、稀に静かに納得してしまう者もいる。

それは妙に精神が落ち着き、理由もないのに絶対の納得出来る力がある。

スコールは落ち着いてその姿に魅入ってしまった。

自分を殺す死の形を。

それに自分で気づき、気を取り直す。

確かに自分の死を納得してしまったが、それと敵討ちは別問題。

相打ちだろうが何だろうがそれでも敵を取るんだ!と自らを震え立たせ、負けじとにらみ返す。

 

「随分とした強さね。流石、あの男が執着するだけのことはあるわね」

 

余裕を装いながら不敵に笑いかけるが、一夏は何も答えない。

ただし、返事の代わりにハンドカノンを展開してスコールへと向ける。

それを見て、スコールは挑発的な笑みを浮かべる。

 

「いいわ……さぁ、殺し合いましょうかっ!!」

 

スコールはブラックサレナにそう叫ぶと、互いに弾かれるように動き撃ち合いを始めた。

ゴールデン・ドーンからソリッド・フレアの火球が押し寄せるようにブラックサレナへと殺到するが、ブラックサレナはその巨躯からは考えられないアクロバティックな機動で回避して反撃にハンドカノンの応射を放っていく。

スコールはこの砲撃の精密さと向こうの行動予測の正確さに舌打ちをする。

 

(改めて相対するとその凄さが分かる。一見乱射にしか見えないのに、此方の回避先を予知するかのような射撃。それをあんな普通じゃまず出来ないような機動を行いながらするなんて……Mも大概と思っていたけれど、これはもうまったく次元の違うものね)

 

スコールはそう考えながらも此方も負けてないとソリッド・フレアの応射を繰り返す。

それはしばらく続いていき、接戦になっていく。

ただしこれは双方とも様子見。

スコールは表情こそ余裕を崩していないが、内心では焦れていた。

理由としてはこちらは先程戦闘らしい戦闘をしていないのに対して、向こうは大立ち回りをしたというのにその勢いが全く衰える様子がないからである。

互いに互角だが、その前に向こうは戦闘をした後にこの強さ。

そして此方の精神は摩耗していき、機動や射撃の精度が低下してきていた。

対して向こうは全く低下せず、寧ろ更にその精度は上がってきている。

もはや人間ではない。そんな人外との戦いにスコールは更に焦っていく。

そして遂に、その焦りは表に出始めてきてしまった。

スコールはブラックサレナの砲撃を回避し切れなくなり、被弾してしまう。

 

「くぅ!?」

 

その衝撃に歯を食いしばり、シールドに目を通すとかなりの量が減っていた。

そのことに余計焦り、機動が乱れていく。

それを見透かされてか、さらに砲撃を受けてしまいシールドエネルギーが減っていってしまうという悪循環に陥りそうになる。

それにジレンマを感じながらも、気を持ち直して更に仕掛ける。

 

「たとえ貴方が私よりも強かろうと、私はあの二人の敵を取らないといけないのよ!」

 

悲痛に満ちた叫びを上げながらも、スコールは果敢に攻めていく。

しかし、それをまるで嘲笑うかのようにブラックサレナは防いでいく。

スコールは必死だが、一夏には何も感じることはない。

この差が出るのは、ブラックサレナがディストーションフィールドを持っているからでも、ブラックサレナとエステバリスの装甲を貫かなければシールドが消費されないからでもない。

スコールは今、言わば一夏と同じ『復讐者』となっている。

だが、同じ立場でもその年期………憎悪の量は桁違いに違う。

それがこの差を出した。

同じ復讐者なれど、その憎悪は……復讐心はあまりにも違い過ぎた。

一夏は北辰を倒すために、復讐するために戦う。自らの全てを奪った原因たるあの男を殺すために。

対してスコールは味方の敵を討つという、今はいない味方のために一夏と戦っている。

他人のためというのは尊いものだが、自らのためでないのならそれは只の虚栄だ。

復讐とは、本来自らのためにするものである。その理由を他者に預けてしまった瞬間には腐り只の腑抜けた嘘に成り下がる。復讐とは尊いものにあらず、醜いものである。

その醜さを自覚せずに認めぬ者に負けるようでは、北辰と戦える訳が無い。

故に一夏は理解している。

目の前の人間が脅威にすらならないことを。

それを見透かされているかのように感じ、スコールは吠えた。

 

「あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 絶対に負けない!!」

 

そのまま接近戦にスコールは移行する。

射撃戦では既にブッラクサレナに分がある。現に此方のソリッド・フレアは殆ど回避され、当たったとしてもディストーションフィールドによって逸らされ本体には当たらない。

射撃で此方がダメージを与えられないのなら、接近戦でたたき込むしかない。

スコールはブラックサレナに向かって突進すると、自分よりも大きな尾をブラックサレナへと振るう。その尾は開閉式の鉤爪を持ち、その鉤爪がブラックサレナを貫こうと突き出される。

それはディストーションフィールドでも防ぎ切れず、ブラックサレナへと激突した。

その衝撃で後ろへと飛ぶブラックサレナ。

 

「………………………」

 

一夏が攻撃を受けた所を見ると、少なからず損傷を受けていた。

別に驚くようなことでもない。ディストーションフィールドだって万能ではないのだ。

先程までの戦闘で流石にフィールドも摩耗していたらしい。

一夏はそのことに驚かない。しかし、この一撃はスコールにとって大きいものとなった。

 

「やった! なら今こそ! はぁああああああああああああああああああああああああ!!」

 

スコールは勝機と判断し、両腕を前に出す。

その腕に装備されたパーツが回転し始めると、自機の周りを覆うように熱線のバリアを張り始めた。

 

「受けなさい、『プロミネンス・コートっ!!』」

 

バリアを纏ったままスコールはブラックサレナへと突進し、体当たりを嚙ました。

その体当たりを受け、さらにブラックサレナは吹っ飛ばされる。

この武装は本来、バリアを張って攻撃を防ぐものである。こうして体当たりをするために使うものではない。だが、その並外れた出力のバリアはそれだけでも触れたISにダメージを与える。

故にスコールにとってコレが最大の攻撃手段であった。

 

「これで終わりよ!!」

 

スコールは止めと言わんばかりにソリッド・フレアの集中砲火をブラックサレナへと放った。

それを全弾受けたブラックサレナはその場で大爆発に飲まれる。

その爆発は凄まじく、通常のISならば確実に機能停止を引き起こすほどであった。

 

「やったわよ……オータム……M……」

 

その爆発を見て、スコールは小さく呟いた。

これで彼女は敵を取れたと、心の底から喜ぶ。敵が取れたからといっていなくなった人間が戻ってくるわけではない。だが、その者達に報いることが出来たと。そうスコールは思った。

そしてそのままその感傷に浸っているところで………

 

胸部に衝撃が走り、その身体が吹っ飛ばされた。

 

「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!?」

 

その衝撃に心底驚きながら何が起こったのかを確認すると、胸部に砲弾が撃ち込まれたことが報告されていた。その衝撃で一部の装甲が砕ける。

そのことにスコールは驚きながら砲撃が来た方向を見ると、そこは先程まで爆炎が覆っていた空間だった。

その爆炎が晴れていくにつれて顕わになるブラックサレナ。その手には大型レールカノンが握られていた。

その姿は確かにダメージこそ負っているものの、弱っている様子はまったくない。

そのままブラックサレナは更にレールカノンをスコールに向かって発砲し、スコールは急いでそれを回避した。

 

「な、何で貴方がっ!? さっきの爆発でも沈まないというの!!」

 

スコールは驚愕の声を上げるが、一夏はそれを聞いても何も答えない。

酷く言えば、ブラックサレナは基地の自爆にも耐えられる程の耐久性を持っているのだから、高々IS一機の起こした爆発如きで落ちる程柔ではない。

そして多少損傷したブラックサレナの中で一夏は………

 

嗤う。

 

「…………この程度で沈むようでは……彼奴等を殺せない……死ね……」

 

そう小さく、しかし確実に聞こえるように呟く。

それを聞いたスコールは全身が凍り付くかのような恐怖に襲われた。

先程まで昂揚していた精神がまた一気に凍り付く。

そんなスコールに向かってブラックサレナは突進する。

 

「く、くるなぁああああああああぁああああああああああああああああああ!!」

 

恐怖に駆られながらソリッド・フレアを連射するスコール。

それを全身に浴びながらもブラックサレナはまるで勢いを失う事無くさらに加速する。

 

「あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

スコールは損傷を受けても気にせずに突進してくるブラックサレナに恐怖し、吠えながら鉤爪の付いた尾を突き出す。

それを察してブラックサレナはテールバインダーを下からすくい上げるように自身を後転させた。

激突する尾と尾。

テールバインダーよりも太く丈夫そうな尾は、この一撃を受けて根元から千切れ飛んだ。

 

「っっっっっっっっっっっ!!」

 

その事で言葉を失いながらもスコールは後退し、牽制でソリッド・フレアをばらまく。

それを受けながらもブラックサレナは突き進むのを止めない。

 

「はぁあああああああああ! 『プロミネンス・コートっ!!』」

 

スコールはプロミネンス・コートを展開すると、最大出力でバリアを張ってブラックサレナへと突進した。

もうこの状況を脱するには、正面から打ち勝つしかないと判断したからだ。

それを見たブラックサレナは全スラスターを解放し、文字通り黒い砲弾と化してスコールと激突した。

結果、空中で違いに火花を散らしながら競り合いに発展した。

 

「くぅうううううううううううううううううううううううううううううう!!」

 

スコールが苦悶の声を上げる中、一夏はニヤリと笑みを深めた。

そして出力をさらに引き上げていく。

それによってスコールは押し出されていき、やがて跳ねられた。

 

「ぐはっ…!?」

 

口の中から鉄の味がするのを感じながらスコールは何とか体勢を取り直す。

そして機体状況を確認すると、プロミネンス・コートがオーバーヒートを起こして崩壊していた。

そのことに舌打ちをしつつブラックサレナを探すが、その姿が何処にも見えない。

探そうと辺りを見ようとした瞬間、砲弾で撃たれたかのような衝撃が真横から襲い掛かった。

 

「がっ………」

 

その衝撃に腕がへし折れる。

あまりの威力に絶対防御が作動しても尚、その攻撃力が貫通してきたのだ。

さらにそれは続き、四方八方から衝撃に襲われゴールデン・ドーンは崩壊していく。

すでにエネルギーは底を尽き、最早只の重しとなる。

そしてスコールの身体は折れ曲がり千切れ、サイボーグとしての機械部分を露出している。

全身から火花を散らし、スコールは満身創痍であった。

ブラックサレナはそれでも攻撃を止めず、ハンドカノンと大型レールカノンで撃ち抜き、テールバインダーで切り砕き、そして………

手足の殆どを失ったスコールの首だけを持って持ち上げる。

 

「………………………………」

 

スコールにはもう声を上げることも出来なくなっていた。

そんなスコールを見て、一夏は静かに言う。

 

「………『誰か』のための復讐など……復讐じゃない………そんな半端な奴に殺されるほど……甘くない…………死ね」

 

そうスコールに言って、展開したフィールドランスで、

 

その首を撥ねた。

 

海へと落下していく首を見届けて、一夏はアカツキに通信を入れる。

 

『お仕事ご苦労さん』

「………後で拾っておけ……」

『ああ、分かってるよ。君もはやく学園に戻りなさい。それじゃね』

 

アカツキとの通信を終えて、一夏はIS学園へと戻っていった。

学園で簪があまりのショックに言葉を失って泣いていることも知らずに………

 

 

 

 

 

 

 


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