IS学園のアリーナで、簪は緊張した面立ちで開会式に参加していた。
一夏はすぐに帰ってくると言ったが、結局開会式には間に合わず簪は一人で開会式に出ることになったのだ。そのことに不安を感じオドオドとしそうになってしまうが、簪にとっての目標……生徒会長である更識 楯無にそんな姿を見せるわけにはいかないと自分なりに気丈に振る舞う。
しかし、やはり内心は怖くて不安で仕方ないのであった。
(お、織斑君……どこに行ったの………)
簪が不安に怯えながら待っていると、楯無の司会の元に対戦発表が行われた。
簪達の試合は後半であり、まだ時間が空いていることを見て簪は若干不安が和らいでいくことを感じた。
(よ、よかった……まだ試合まで時間がある。それまでに………帰ってきて、織斑君……)
そう願ってやまない簪。
そのまま開会式も終わり控え室へ戻ろうとした矢先、突如アリーナに緊急警報が鳴り響いた。
そのことに困惑する生徒達。何事かと騒ぎ始めるが、それを楯無と教員が静め急遽タッグマッチトーナメントの中止を宣言して一般生徒を避難させる。
そしてタッグマッチに参加する専用機持ちはその場で集められ、入って来た情報を千冬自らが説明し始めた。
「いきなりですまんとは思うが、皆に集まって貰ったということがどういうことか……お前等ならば言わずとも分かるだろう」
そう答える千冬に集められた専用機持ち達は皆無言で頷く。
専用機持ちが呼び出される緊急時など、『有事』しか有り得ない。
そのことに簪は不安を感じながらも気を引き締める。
「よろしい。ではまず情報だが……IS学園のレーダーの届く範囲外ギリギリのところで突如爆発が連続で起こっている。これは明らかに戦闘行為をしているということだろう。いくらIS学園のレーダーに引っかからない範囲とは言え、これを見過ごす訳にはいかん。お前達は即座に対応出来る様この場で待機。レーダーの範囲に入り次第、この『アンノーン』を無力化せよ」
千冬が落ち着いた様子で状況を説明し、何か質問がないかを皆に聞いていく。
すると楯無が早速手を上げた。
「織斑先生、その『アンノーン』の情報については何かありますか。それに先程、先生は『戦闘が行われている』と言っていました。つまり誰かと戦っていると言うことですよね。その戦っている相手に関しては」
「ああ、それについてはこの情報を掴んですぐに無人偵察機を飛ばしたので、そろそろ着くはずだ。モニターに映像を映そう」
楯無の質問に千冬はそう答えると、ホロウィンドウを操作して飛ばした無人偵察機からの映像を映し出す。
出現したホロウィンドウから映し出された映像は、やけにカラフルな全身装甲のIS四機と、見たこともない黄金色のISを纏った女性が一点に集中して砲撃を行っている所であった。
その映像を見て、顔を顰める楯無。それとセシリアと鈴。
楯無が顰めた理由はその黄金のISを見たせいであり、セシリアと鈴が顰めた理由はそのカラフルな全身装甲のISの一機に見覚えがあったからだ。
「あの、織斑先生、これはっ!」
セシリアが若干の恐怖を感じながら手を上げずに発言する。
それを見て千冬は咎めずに答えた。
「ああ、お前が言いたいことは分かっている。あの一機は一学期に学園を襲撃してきた機体と同じものだろう。つまりこれを仕掛けてきたのは前と同じ組織ということだ」
千冬は冷静に答えるが、内心はそれどころでは無かった。
嫌な予感がする。
このカラフルな全身装甲のIS……調べた結果無人機だと判明したISが来たということは、つまり一夏に何かしら関係があるということ。そしてその予感を裏付けるように、この場でざっと探してみるが一夏の姿がない。
その予感が確信に変わったのは、映像の爆炎が収まった瞬間であった。
ホロウィンドウの画面を覆いつくさんばかりの爆炎が晴れていくに連れて、その集中砲火を受けていた存在が顕わになっていく。
そこには………黒き悪魔が佇んでいた。
先程の爆炎をものともしないかのように、平然とその場で浮かんでいる。
そしてその悪魔は、この場にいる人間なら大体知っている者だった。
その姿を見て頭を押さえる千冬。
そしてその姿を見て驚愕する箒達と簪。
「なっ、何で……織斑君が………」
驚きのあまりそんな声を洩らしてしまう簪の脳裏には、少し前に一夏が控え室から出て行くところが思い出されていた。
一夏は無表情だったが、まるで少し出歩いてくると言わんばかりな感じで出て行ったのだ。それがまさかこんな事になっているなんて、簪には想像も付かなかった。
簪は映っている一夏を見て、ただひたすら心配するしか出来なかった。
一夏はまず最初に一番近い距離にいた無人機のデンジンを一機始末した。
その事にスコールが気付いた瞬間、他の無人機達も反応してブラックサレナにミサイルやレーザーを発射していく。
ブラックサレナはその怒濤の集中砲火をディストーションフィールドで防ぎながら、次の標的へとそのまま突進を仕掛けていく。
この無人機の中でデンジンは防御力が一番高いが、その分機動性が低い。
そのことを見抜き、一夏はもう一機のデンジンへと仕掛ける。
そのまま先程と同じトップスピードを持っての体当たりを叩き込み、その戦列から弾き飛ばす。
砲弾の如き突進を受けたデンジンは衝撃に装甲を砕かれながら吹っ飛び、それを更に追撃しようとブラックサレナが豪速をもって追いかける。
他の無人機がそれを察してレーザーとミサイルの雨をブラックサレナに向かって降らせるが、それを物ともせずにブラックサレナは進み続ける。
寧ろミサイルに関しては殆ど追いついていない。
吹っ飛ばされたデンジンもブラックサレナを迎え討とうと両腕を飛ばしてきたが、ブラックサレナはその速度を一切殺さずに身体を回転させテールバインダーを両腕に叩き付けた。
その神速の鞭は両腕を切り裂き弾いて破壊した。
ブラックサレナはそのままさらに加速し、デンジンに激突する。
慣性がまったく違う方向だというのに、ブラックサレナの体当たりを喰らったデンジンは直角に違う方向へと吹っ飛ばされた。
装甲の破片を宙に舞わせながら火花を散らすデンジン。
ブラックサレナはそのまま更に近づき、大型レールカノンを展開するとコアの部分に銃口を叩き付けながら発砲。
コアを貫かれたデンジンは崩壊しながら海へと落下し爆発した。
「なっ………」
その事に言葉を失うスコール。
さっきからずっと撃ち続けているが、まったくダメージを負ったような素振りがない。
数の有利を圧倒的な力でねじ伏せていくその姿は、悪魔以外の何者でもない。
その暴力に本能が恐怖するのをスコールは感じ取った。
だからといって退くなんてことは出来ない。もう逃げるなんて選択肢もない。だからこそ……
「墜ちなさい、織斑 一夏っ!!」
そう叫びながらスコールはさらに苛烈にソリッドフレアをブラックサレナに撃っていくしかなかった。
ブラックサレナはデンジンに大型レールカノンを撃ち込んだ後、今度はダイマジンへと突進する。
それに反応したダイマジン二機は両腕に搭載されている小型重力波砲をブラックサレナへと発射する。
小型と言えど重力波砲。その威力はISの火力を余裕で上回る威力を有している。その砲火をブラックサレナはアクロバティックな機動で回避し、更に速度を上げていく。
近くにいたダイマジンはその突進を迎え討とうと小型重力波砲の放射を切り上げ、ディストーションフィールドを展開しブラックサレナへと突進した。
ディストーションフィールドが激突し合い、激突音が空に轟く。
双方ともお互いを弾き飛ばそうとスラスターの出力を上げていく。
ダイマジンの機体がきしんでいく中、一夏は無表情に告げる。
「………………この程度か…………」
そう呟くと共に、ブラックサレナは肩部や腰部などの各部姿勢制御用ノズルも推力に回してさらに推力を上げると、最大出力でそのままダイマジンを押し込んだ。
その出力の凄まじさから根負けして押し出されたダイマジンはもう一機のダイマジンに激突。
ブラックサレナはそのままその二機を一緒に押し込んだまま海面へと叩き付けると、大型レールカノンを収納してイミディエットナイフを二本展開すると逆手に持って二機のコアに突き刺した。
爆散する二機に向かって残った一機……ダイテツジンが胸部の重力波砲(グラビティブラスト)を発射した。
激流のようなエネルギー波がブラックサレナに襲い掛かり、海水を吹っ飛ばす。
ブラックサレナはそれを察して自らを弾くような機動で回避すると、ダイマジンに向かって突進を仕掛けようとした。
しかし、それまでの戦闘を見ていたダイテツジンはブラックサレナを近づけまいと頭部の速射レーザー、胸部の大型レーザー、両腕の大型ミサイルを使って弾幕を張る。
レーザーとミサイルの嵐がブラックサレナへと襲い掛かっていく。
それをブラックサレナは回避していくが、その凄まじい砲撃に距離を詰めることが出来ない。
そのままダイテツジンは胸部にエネルギーを平行して溜め始め、もう一回グラビティブラストを撃とうとする。
それを察した一夏は、フィールドランスを展開。
ディストーションフィールドを纏わせると、その速度を載せてダイテツジンへと槍投げのように投げつけた。
それと同時にダイテツジンがグラビティブラストを発射した。
その激流にフィールドランスが矢のように向かって行き、まるで切り裂いていくかの如く進む。
そしてそのままダイテツジンの胸に突き刺さり、コアを貫き破壊した。
その威力はそれに留まらず、ダイテツジンの身体その物を崩壊させていく。
そのまま粉砕されたダイテツジンはその残骸を海へと落下させ、爆発した。
これで全ての無人機を破壊した一夏は、最後に残っているスコールに向かってゆっくりと振り向く。
「………後は…お前だけだ………」
スコールはこの言葉を聞いて、自分が絶望していることに初めて気がついた。