メインの話が甘いだけに、こっちがまた美味く感じてしまいますよ。
感想、まってま~す。
一夏が来てから一年一組は大変だった。
あまりのショックに千冬が喪心してしまい、授業を中断。
千冬は副担任の山田 真耶に連れられて保健室へと運ばれていった。
一夏は気にせずに空いている席に勝手に座るが、生徒達は千冬が倒れたことで騒いでいてそれどころではなかった。
その後帰ってきた真耶によって授業は再開される。
初日だが、ISに重きを置いているだけに授業の難易度はそれなりに高い。
しかし、一夏は二年前からISを使い続けている身。今更初期の知識など本を見なくても分かっている。
「ここまでで誰か分からない人はいませんか~」
最初の授業とあって真耶が心配した面立ちでクラスに聞こえるように聞くが、誰からも手は上がらない。一夏はと言うと、そんなことはわかりきっているので別のことをしていた。
教師にばれないようにISのセンサー等を起動、世界各国にあるネルガルの情報網を閲覧していく。
この際に言ってしまえば、一夏にとって授業も、学園生活もどうでもいい。
学園に来たのはアカツキとの約束と義理立てであって、それさえはたせれば後はどうでもいいのだ。
そんなことに時間を割くくらいなら、一夏は北辰達の行方を追うほうが大切だ。
故に授業中であっても、一夏は北辰達の情報をかき集めていた。
「お、織斑君は・・・大丈夫かな~」
いきなり現れた一夏のことを心配して真耶が聞いてきた。彼女自身、そこまで男性との会話は得意ではないが、彼女なりに教師として心配してのことだった。
「・・・・・・・・・問題ない」
一夏はそう静かに答える。
バイザー越しとは言え、目を向けられた真耶は怖さのあまり喉をひくつかせてしまった。
彼女にとって、初の男子生徒は少し不気味な少年だった。
一夏はそんな真耶の様子にも目を向けず、又北辰達の行方を調べ始めた。
休み時間に入り辺りが騒がしくなる中、一夏はまったくそこから動かずにいた。
何をしているのかと言えば、アカツキに頼んで作ってもらった一夏だけが使うエステバリスの専用のパッケージのカタログスペックに目を通していた。
何故一夏だけなのか? それは誰も使いたがらないほどにピーキー過ぎる仕様だからだ。そんなものを使いこなせる人物なんてそうそういない。今ネルガルでこれを使えるのは、これの制作を頼んだ一夏だけだ。事実、正気を疑う仕様をしていた。
まわりの生徒は一夏に話しかけようかと悩んでいた。
初の男性操縦者にして、容姿秀麗、しかも千冬と同じ『織斑』の性。
気にならないほうがおかしい。しかし、自己紹介といい、さっきの授業での反応といい、何だか近づけない印象を女子達は受けていた。
まるで一夏自身が、周りの人達を近づけないかのように。
そんな中、一人だけ一夏に近づき声をかけてきた女子がいた。
腰まで伸びるポニーテールを下げた凜々しい女子、篠ノ之 箒である。
「ちょっといいか」
箒が何気ない感じに一夏に声をかけると、一夏はバイザーに覆われた顔を箒の方へ向ける。
「何か用か」
一夏はそう何の感情も込めずに返す。
目の前の少女についても一夏は知っていた。
ISの産みの親である篠ノ之 束の妹。そして織斑 一夏にとって幼馴染み『だった』人物。
遅かれ速かれ接触してくることは予想済みのことだった。
箒は一夏に会えたことが嬉しくて仕方なく、それを表に出さないように顔を顰めていた。
しかし一夏は何も思わない。箒と話しつつも、その目はデータに目を通すことにいそしんでいた。
そのまま箒に無理矢理連れて行かれ、一夏は屋上へと連れてこられた。
移動する理由はなかったが、あのままあの場に居ると言えば駄々をこねられそうな勢いだった。そんなことをされてはデータに目を通すのに支障を来してしまう。
そう判断して一夏は屋上へと向かうことにした。
箒は一夏の方へと振り向くと、少し嬉しそうに話かける。
「久しぶりだな、一夏! 五年ぶりか」
その声には初恋の男の子と会えた喜びがありありと出ていた。
しかし・・・・・・
一夏は何も応えない。
その態度に少しおかしなものを感じた箒は、少し心配した様子で一夏の様子を探る。
「どうしたんだ、一夏? 何か気に障るようなことでも」
箒は少し弱気になりながらそう聞く。
元来強気な箒だが、一夏の様子から強気に行くことができなかった。
一夏はしばらく黙り続けている。
「一夏?」
箒が壊れ物をさわるかのような感じに一夏に話かけると、一夏はやっと口を開いた。
「誰のことを勘違いしているのかは知らない。しかし、俺はお前など知らない」
そう何の感情も読み取れない声でそう言った。
「なっ!? 何を言っているんだ、一夏!! 私は・・・・・・」
感情的になり声を荒立ててしまったが、一夏の『顔』を見た瞬間にその声は出なくなってしまった。
一夏は箒の前でバイザーを外し、素顔になった。
途端に何も見えなくなり、何も聞こえなくなる。また五感のすべてが関知できなくなってしまう。
立っているのかも、バイザーを持っているのかもわからなくなる。
そして一夏は口にする。
決別の言葉を・・・・・・
『お前の知っている織斑 一夏はもう死んだ。ここにいるのはその成れの果てだ』
そう言い切ると、エステバリスのハイパーセンサーを静粛モードで起動、少し戻った視覚と触覚でバイザーをかけ直す。
箒が真っ青になりながら何かを言っていたが、一夏は気にせずに屋上から去って行った。
この台詞を言わせたいだけに書いてきた気がしますよ。