インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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今回は一夏が出ません!


第四十五話 M

 とある国のホテルの一室。

そこには二人の女性が椅子に座っていた。

一人は美しく豊かな金髪に艶やかな赤いドレスで豊満な身体を包んでいる絶世の美女で、もう一人は真っ黒く体にフィットしたダイバースーツのような服を着ていて、黒い髪に鋭い目つきをした少女であった。

 

「あぁ………オータム……」

 

金髪の女性は悲しみ悲嘆に暮れた様子であった。

彼女の名は『スコール』。亡国機業のIS実働部隊の一つに所属しており、その部隊のまとめ役を担っている。

そんな悲しみに暮れている彼女を、特に感情も浮かべずに見ていた黒髪の少女もまた、このスコールが率いる部隊の一員であった。

彼女の名は『M(エム)』。その姿は……現代における最強の呼び名も高い女性、『織斑 千冬』と非常に酷似していた。織斑 千冬を十代にしたらこのような姿だろう。

同じ部隊に所属していた人員はもう一人いたが、今はもういない。

その人物の名は『オータム』。

先のIS学園での単独任務において、音信不通となった。

それがただIS学園に捕まったのなら、スコールがそこまで悲しみに暮れることはなかっただろう。

少なくても彼の学園組織は温厚である。オータムの生存は確実であっただろう。

だが、オータムが捕まったのは別の組織。

 

『ネルガル重工』

 

世界に名だたる大企業。

一電化製品から宇宙開発まで手広くやっている一流の企業。

そしてスコール達が所属している組織、亡国機業に所属している組織の一つ、『クリムゾングループ』の大本となった組織。

その壮大な栄華の裏には、常に黒い噂が絶えない。

その組織に所属している『織斑 一夏』が今回の作戦のターゲットだった。

そのターゲットと戦い、こうして連絡が途絶えた。

しかも調べた情報によると、ターゲットは冷酷無比で殺人も躊躇なく行うということが分かっていた。現に夏の間に亡国機業の研究所がターゲットとネルガルによっていくつも破壊されている。無論、生存者は無し。全員殺されている。

そんな組織に捕まったのなら、オータムの生存は絶望的といっていいだろう。

部隊の隊員の生死が不明というのは確かに悲しいだろうが、スコールの悲しみようはそれ以上であった。

実の所、オータムはスコールの恋人であった。

彼女は所謂同性愛者なのである。

その恋人が死んだかもしれないと知れば、その悲しみようも納得出来るものだ。

しかし、いくら悲しんだところでオータムは帰ってこない。

それが分かっているからこそ、スコールは気を持ち直してMと作戦について打ち合わせをする。

 

「ごめんなさいね、M」

 

スコールはMに向かって軽く謝るが、Mは特に気にした様子はない。

そのまま無言で話を聞く体勢を取る。

それを見てスコールは次に行う作戦について話し始めた。

 

「前回の作戦の失敗でオータムを失ったのは手痛いわ。でも、まだターゲットがいる限り作戦は続いてる。それで次に仕掛けるの時はIS学園の行事、『キャノンボールファスト』。この行事を行う時は、学園内ではなく外にある民間のホールを使用するの。いつもの様な厳重な警備がない分、仕掛けようはいくらでもあるわ」

 

説明するスコールの話をMはただ静かに聞いていた。

 

「今回はそこに二人で仕掛けるわ。もう失態は犯せない」

 

そう言うスコールにMは嘲笑うかのように答えた。

 

「今回は私一人で充分だ。寧ろ今のお前では邪魔にしかならない」

「なっ!?」

 

部下にそう言われ顔を歪めるスコール。

それを気にせず、Mは部屋を出ようとする。

それを急いでスコールは呼び止めた。

 

「待ちなさい、M」

 

呼び止められたMはスコールに振り向くと、無表情で言う。

 

「オータムを失ったお前では冷静な判断が出来ない。そんな危険な状態の人間と一緒に戦えるほど私は温厚ではない。大人しく黙って引っ込んでいろ」

 

そう言い、今度こそMは部屋を出て行った。

スコールはその言葉の真意、『もうしばらく悲しんでおけ』ということを理解し、外に聞かれないよう声を押し殺して泣いた。

 そんなスコールとは別に、通路を歩くMは様々なことを考えていた。

最初は自分の『姉』である『織斑 千冬』のことを考える。

Mの知る限り最強かもしれない人物。それを殺す事によって初めてMはMから変われると。

当初はそれだけを考えて生きてきた。

だが、ここ数年でその考えは少し変わってきた。

当初の考えは変わらないが、それ以外にも考えることが増えてきたのだ。

その最たるが、『クリムゾングループ』の実働部隊、そのリーダーの北辰のことである。

初めて会ったとき、途端に逃げ出したくなった。

見た目が不気味だとか、雰囲気がおかしいからとか、そう言うことではない。

Mは北辰を一目見た瞬間、即座に殺されると思ったのだ。見た瞬間、その一瞬で北辰に抱いたイメージは『死』そのものだった。

その死が自分を見て嘲笑う。それだけで体が芯から震えた。

まるで蛇に睨まれた蛙のような……事実、北辰の気配はそういった爬虫類じみたものをMに感じさせた。

直接戦いを見たことはないが、その戦果は凄まじいの一言に尽きる。

全てを破壊し殺し尽くす…………まさに『最凶』。

できる限り近づきたくはないMだが、それでもその凶悪さには少し惹かれるものがあった。

その北辰がしつこく、それこそ粘着的な妄執を向けている人物がいた。

それが『織斑 一夏』。

今回のターゲットであり、ネルガル所属の死神。千冬の弟でもあった。

これが単なる男だったら興味も示さなかっただろう。

だが、あの北辰があそこまで執着する人物にMは少なからず興味を持った。

その男がどれほどのものなのか、千冬とどう違うのか気になった。

だからこそ、それがどれほどのものか見てみたい。

Mはそう考えながら自分の部屋へと歩いて行った。

 

(どれほどのものか見せてもらうぞ………織斑 一夏!!)

 

そう思いながら歩くMの口元はつり上がり、暗い笑みを浮かべていた。

 

 

 

 


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