インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

44 / 60
前回が黒すぎたっぽいので反省です。


第四十四話 情報入手

 学園祭が終わってから一週間近くが経った。

それまであったお祭り騒ぎの雰囲気もようやく成りを潜め始め、今では月末に行われるISの高速レース『キャノンボールファスト』の話題で持ちきりである。

これは専用機持ち全員が参加する行事であり、一夏も強制参加だ。

だからと言って一夏が何かをするということは無く、いつもの用に情報収集に精を出し続けていた。

此方から特に有用な情報は未だに得られていないが、今回はいつもより若干気が楽であった。

理由は学園祭で捕まえた亡国機業の構成員である。

いくら北辰達の組織が勝手な動きをしていようと、流石に大本の組織の意向には従わなければならない。ならば、その組織の人間である構成員を捕え情報を聞き出すことが出来れば多少なりとも相手の行動が予測出来る。

奴等への手がかりになるかも知れない。

その事に一夏は若干ながら喜び、暗い笑みを深める。

そしてそれを後押しするようにその日の放課後、アカツキから通信が来た。

 

『やぁ、一夏君。元気かな』

 

いつものようにさわやかな笑顔を浮かべるアカツキ。

一夏もいつもと同じように無表情にそれに応じる。

 

「……用件は……」

『そう急かさないでくれよ。そんなんじゃこの娘に嫌われちゃうよ』

 

いつもと変わらない一夏にアカツキはやけにニヤついた笑顔を浮かべ、手に持った物を一夏に見えるようにヒラヒラと動かしていた。

それは写真である。

その写真には、無表情の一夏が手に持っていたよく分からないぬいぐるみを簪に渡している所が写っていた。

一夏はいつもと変わらない顔をしているのだが、ぬいぐるみを受け取った簪は恥じらいで顔を真っ赤にしつつもどこか嬉しそうに笑っていた。

それは学園祭の時、一夏が簪と一緒に行った美術部の催し物、『爆弾解体ゲーム』をクリアしたときのものである。

これはアカツキがツキオミとゴートの二人に命じて撮影、もとい盗撮した物である。

その写真を一夏に見えるようにひけらかすアカツキは明らかに一夏をからかう気がありありと出ていた。

それを見せられても一夏は無表情であったが、内心では若干ながらに苛立っていた。

二人を学園祭によこした時点でこうなることは予想されていた事なので、こうなることも分かってはいた。だが、それでもやられて苛立たないわけではない。

一夏はその感情を悟られぬよう、表情を引き締めアカツキに答える。

 

「お遊びは程々にしろ……それで本題は……」

『あれ、怒ったかい? 別に怒ること無いだろ、ただいつもの君からは考えられないような行動をしてるから驚いたってだけでさ~」

 

尚も食い下がるアカツキに一夏は静かに言う。

 

「……今すぐに其方に向かう……墓の準備をしておけ……」

『いやいや、そんなに怒んないでよ! 只の冗談だよ、冗談』

 

一夏の顔と雰囲気から本当にやりかねないと思ったのか、アカツキは慌ててからかうのをやめた。

そして軽く咳払いをすると、いつもの不敵な笑顔を浮かべて改めて話し始めた。

 

『コホンっ…さて、ある程度一夏君をからかったことだし本題に移るとしようか。それで本題なんだけどねぇ………君が捕まえてくれた彼女の件だよ』

 

一夏はそれを聞いて顔が変わった。

表情自体はさっきと変わらない無表情なのだが、その身に纏う雰囲気が殺気を含んでさらに濃い物へと変わっていた。

それを見てアカツキもさらに笑みを深める。

 

『彼女から得た情報だと、『奴等』は亡国機業に殆ど情報を渡していないらしい。でも、亡国機業の上の連中は成果を上げているのでそのことを黙認しているようだ。と言っても、流石に亡国機業の作戦には組み込まれているということが分かった。それでなんだけど、どうやら連中は近いうちに行動を起こすみたいなんだ。だけど、そこから先はまだ明確には分からない。それでちょっとした朗報なんだけど、どうやら彼女達は君の学園にまたちょっかいをかけに行くらしいんだ。詳しくはキャノンボールファストかな。それに襲撃をかけるってさ。それでお願いなんだけど、それに来る子をウチに招待してくれない。あ、そうそう、あの美女みたいに手足を切り落としちゃ駄目だよ。あんまり女の子に乱暴なことをするのは僕、感心しないなぁ。ちゃんとその子は『丁寧』に扱ってね。その子からもうちょっと情報を提供して貰いたくて』

 

それを聞いた一夏は無言で頷く。

少なからず手に入った情報をより鮮明にするのにはより多くのサンプルが必要だ。

一夏は僅かとは言え手に入った情報に歓喜する。

それを分かっているのか、アカツキは少し笑みをほがらかな物にして一夏に話しかける。

 

『そうそう、近いうちにこっちに来てくれない。ブラックサレナの改修が終わったから取りに来て欲しいんだ』

「………分かった……」

 

そうアカツキに返事を返し、一夏は通信を切った。

その顔には狂喜の笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 アカツキの通信を受けてから三日が経ち、一夏はネルガルの地下研究所へと出向いていた。

いつもの様に研究所に入り、担当エンジニアからブラックサレナのペンダントを受け取る。

するとアカツキが少し微妙な笑顔を浮かべながら一夏に近づいてきた。

 

「……何だ、アカツキ?」

 

一夏はその微妙な笑みに何かあると思いアカツキに聞くと、アカツキは少し言いづらそうにしたがやがて話し始めた。

 

「いや、実はね……ブラックサレナの改修なんだけど、そのままだとまだ君の反応速度に追いついてないんだ」

「……どういうことだ」

「君の反応速度なんだけど、前にブラックサレナに乗っていた時よりも急激に上がってるんだよ。とくに福音を落とした時から劇的にね。それで今のウチの技術では君の反応速度に合わせることが出来ないんだ。ウチで出来ないんじゃ、世界中でも出来ないって事。それで少し観点を変えて対応することにしたんだ」

 

アカツキは一夏にそう説明すると、意を決したかの様な笑顔を一夏に向けた。

 

「君自体を改造することで反応速度を上げようってことになったんだ」

「……………そうか……」

 

それを聞いた一夏はいつもと変わらない無表情で頷く。

そんな反応を見たアカツキは少し滑った。

 

「あれ、普通に返しちゃう、そこ。一応真剣な感じに言ったつもりなんだけど」

「……お前がそんなことを気にするような人間か……」

「ま、それもそうだね。君の体はある意味、もうウチの所有物だからねぇ」

「………くだらない巫山戯は終わらせろ……本題は…」

 

そう言われたアカツキは大げさに両手を挙げると、少し言い訳がましく話し始めた。

 

「いや、だって最近僕、悪者に見られがちじゃない? 別にそこまで酷いことしてるわけでも無いのに影でこそこそ色々言われてるみたいだし。ここいらで誤解を解いといたほうがいいと思って。僕ほど善良な人間はそうはいないよ」

 

それを聞いた一夏は内心呆れながらアカツキに何の感情も込めずに言った。

 

「……俺は……お前ほどの悪人はそうはいないと思っている……」

「酷いな~一夏君は」

 

苦笑しながらアカツキはそう返すが、一夏は口に出してないだけできっとツキオミもゴートもエリナも皆同じ事を思っていると確信していた。

しかし、いつまでもこんな馬鹿な話をしている訳にもいかないので、一夏は改めて自身の改造法を聞く。

 

「……俺をどうする?」

「うん、実はね……君にウチの研究で出来たあるナノマシンを注入してみようと思うんだ。と言っても、元は君から取れたデータで研究してるものなんだけどね。これを注入することにより、君とISをより一体化……つまり一々体を動かす必要を無くさせるのが狙いだ。この特殊なナノマシーンを使った『IFS』(イメージフィードバックシステム)は、使用者の思考をISにダイレクトに伝える。まぁ、ぶっちゃけ考えた通りに体が動くって事だね、それもタイムラグなしに。これを使えばきみの反応速度でも追いつくと思う。ただ……」

「………」

「正直何が起こるのかまったくわからないんだよね~、これが。分かってるのは君しか試せそうな人がいないこと。普通の五感がある人間だと、不具合を起こして下手すると精神崩壊を起こすみたいなんだよねぇ~。ただ、これしか君の要望に応えられるのがないんだよ。どう、受ける?」

 

そう問いかけるアカツキに一夏は口元をつり上げてにやりと笑う。

 

「……彼奴等を殺せるんだったら何だっていい………どうせ俺がそう答えるのも折り込み済みだろう…好きにしろ」

「うん、君ならそう言ってくれると思ってたよ。んじゃさっそく注射しようか」

 

一夏の答えに満足したアカツキはどこから持ってきたのか透明な液体の入った注射器を取り出した。

そしてそれを一夏に刺し、中の液体を注入していく。

抜き終わり次第、一夏は体を見るが変化は無い。

実はこの注射、体内に入った途端に身体中に激痛が走る代物である。

その痛みは凄まじく、被験者の中ではそれだけでショック死した者もいたらしい。

だが、一夏は痛覚が無いので何が起こっているのか全く分からなかった。

それを見届けたアカツキはさらに満足そうに笑うと、一夏に提案する。

 

「うん、良いみたいだね。それじゃさっそくテストしてみようか。それが終わったら渡すものがあるからこっちに来てくれ」

 

それを聞いて一夏は久しぶりにブラックサレナを展開し、テストをすべく研究所の外へと飛び立っていった。

 

 

 数時間後。

アカツキと担当エンジニアは一夏のテスト結果を見て笑っていた。

アカツキは満足そうな笑みを浮かべ、担当エンジニアは狂喜する。

 

「この結果は想像以上ですよ、会長! 特にこの反応速度はもう人外です」

「そうだね~。さすがは一夏君だ。彼も奴等と戦えると聞いてモチベーション上がったみたい。これも偏に執念だねぇ」

「ですね」

 

一夏が帰った後、二人はその結果に満足していた。

 

 

 IS学園に戻った一夏は、ある部屋を訪れていた。

いつもはまず他の人の部屋になど近づかないだけに、その光景は異様としか言いようが無い。

そして一夏がその部屋をノックすると、中の住人が出てきた。

 

「はい…誰ですか……って織斑君!?」

 

部屋から出てきたのは更識 簪であった。

簪は一夏の姿を見た途端、顔を真っ赤にして慌て始める。

 

「な、何で部屋に!? って私、こんな恰好で!!」

 

慌てると共に簪は自分の恰好に恥ずかしくなり、急いで扉で体を隠す。

簪の恰好は上は水色の薄いパジャマで、下は下着だけの姿だった。IS学園特有の、『女だらけだと恰好も気が抜けてだらける』という状態であった。

簪は少しして扉から顔だけ覗かせる。

 

「ご、ごめんね。急にこんな慌ただしくしちゃって……」

 

顔を恥ずかしさで真っ赤にしながら簪は一夏に謝る。

一夏はそれを受けて何も答えない。それが簪には気にしていないと言っているように思えた。

 

「そ、それでどうしたの?」

「………ツキオミを覚えているか……」

 

そう一夏に言われ簪は少し考える。

そして一夏の言った人物を思い出した。

 

「うん。確かネルガルの人だよね」

「……彼奴から…正確にはアカツキからお前に渡し物だ……」

 

一夏は簪にそう言うと、持っていた紙袋を簪に渡した。

 

「これは?」

 

簪は不思議そうに受け取り一夏に聞くが、一夏は何も答えない。

 

「……確かに渡した……」

 

そう静かに簪に言うと、一夏はさっさと簪の部屋から去ってしまった。

それを見てから簪は部屋に戻り、渡された紙袋を早速開けてみることにした。

そして中から出てきた物を見た瞬間、顔が沸騰したかのように真っ赤になった。

 

「なっ、なっ、何でこんなもの!?」

 

簪が見た物、それは一夏の頬に絆創膏を貼っている簪の写真……つまりキスするくらい顔が近い一夏とのツーショットだった。

写真を撮られた覚えはないのにあるということは、盗撮ということである。

つまり全て見られていた。

それを理解した瞬間、簪は恥ずかしさのあまり頭を抱えてベットで転げ回ってしまう。

 

(キャーーーーーーーーーーーーーーーーーー! 見られてた!! 見られてたのーーーーーーーーーーーーーーー!!)

 

そして一通り転がった後にむくりと起き上がると、改めて写真を手に取り見つめる。

 

「お、織斑君とのツーショット………えへへへへへ」

 

少しふやけた笑顔が湧き上がってしまい、簪は嬉しさのあまり近くにあったぬいぐるみを抱きしめまたベッドで転がる。

 

「織斑君とのツーショットだよぉ~、えへへ、嬉しいなぁ~。ど、どうしたらいいんだろう、ねぇ、ふ〇シー?」

 

その抱きしめられたぬいぐるみは学園祭に一夏にプレゼントされた? ものだった。

そのつぶらな瞳は喜びに打ち震えている簪を見つめているのだった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。