インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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装甲正義が終わってしまったため、砂糖不足に………


第四十三話 復讐者の学園祭めぐり 後編

 一夏はツキオミ達と別れると、簪と待ち合わせをしていた場所へと向かっていく。

しかし、その歩みは突然止められた。

 

「ちょっといいかしら、織斑 一夏君」

 

一夏は声がした方向を向くと、そこには口元に扇子を当てていた更識 楯無が立っていた。

一夏は特に何も感情も浮かべずに楯無を見る。

それが話を聞く体勢だと判断し、楯無は一夏に話しかける。

 

「さっきアリーナの更衣室で何かあったみたいだけど、あれは君の仕業?」

 

楯無はにこやかな笑顔を浮かべてそう聞くが、その目と雰囲気は全く笑っていない。

今にも一夏を糾弾しようとする意思がはっきりと感じられた。

きっと先程更衣室であった騒動の事について言いに来たのだろう。学園祭と言うこともあって人が集まっている中であの爆発である。何かあったのではないかと皆困惑したのかもしれない。それを一夏が気にすることなどまったくないのだが。歩いている最中、周りの生徒は特に気にした様子はないことから、何かしらの手は打ったのだろう。

一夏はそのまま無視したかったが、先日のことを考えると面倒なことになると判断し答えることにした。

 

「……鼠がちょっかいをかけてきた……それだけだ……」

「そう、それであの爆発なわけね」

 

楯無は一夏の言い分を聞いて深い溜息を一回吐き、一夏に向き合う。

そして…楯無は頭を急に下げた。

 

「ごめんなさい」

「…………」

 

一夏は突然謝られたことに理解が出来ない。一夏の考えでは、学園を危険に晒した奴を許すわけにいかないと因縁を付けて襲ってくるのではないかと思っていたのだ。

それがいきなり謝られるとは誰も思わないだろう。

一夏は特に感情には出していないが、内心では若干困惑していた。

そんな一夏に楯無はさらに言う。

 

「本来、生徒会が学園の治安を守らなければならないのにあなたを危険に晒してしまった。それは私達のミス、本来あってはならないことなの。だからごめんなさい」

 

真剣な表情で謝る楯無に、一夏は変わらず無表情で答える。

 

「………狙いは此方だ。謝られることはしていない……」

「それでもよ。私は生徒の長として学園の生徒を守らなければならない。私も亡国機業が侵入してくることは分かってた。だから誘い込んで捕らえようとしたけど……」

 

その先の言葉が楯無の口から出ることはなかった。

しかし、言いたいことは分かっている。それを一夏は分かった上で何も答えない。

何度も言うようだが、今回学園がどう思おうと一夏には関係がない。狙いが此方で襲ってきたから返り討ちにして逆に捕縛しただけである。此方の事情でそうしたのだから、謝られるような事では無い。

だから一夏は無視して歩き始める。

それを見て楯無は一夏を呼び止めようとする。

その様子を感じて一夏は内心呆れつつ楯無に振り返った。

 

「……何度も言う…此方の勝手だ……気に病むようなことじゃない……」

 

それを聞いた楯無は呆気にとられてしまう。

何故なら、そう言った一夏の顔は若干ながら笑っているように見えたから。

それを見て、楯無は少し笑うと、謝る以外のことを口にした。

 

「こ、今回は助かったわ。で・も・簪ちゃんとの仲は認めないからね」

 

そう一夏に言うと、楯無は照れ隠しをするように早足で去って行ってしまった。

一夏はそんな楯無を見て何を言っているのか全く分からないと思い、そのまま簪との待ち合わせ場所へと再び歩き始めた。

 

 

 

 待ち合わせ場所であった和装喫茶の前に着くと、そこには簪がちょこん立っていた。

 

「あ、織斑君!」

 

簪は一夏を見つけると顔を赤らめながら喜び、一夏の方に歩いてきた。

そして一夏の顔を見て少し驚いた。

 

「織斑君、頬から血が出てるっ!」

 

簪に言われ一夏は自分の頬を触ってみると、確かに出血しているらしく手に血が付いていた。

どうやら先程の戦闘でISを展開する前に回避した際、飛んで来た壁の破片か何かで切ったようだ。

一夏は痛覚を失ってしまっているため、まったく気付かなかった。

バイザーの御蔭で怪我をしていることを認識することは出来る様になっているが、あまりにも小さい、戦闘に支障をきたさない怪我は意識しないのだ。

自分が怪我をしていることをやっと認識した一夏は、相変わらずの無表情で簪に答える。

 

「……問題ない……」

「問題ないじゃないよ! はやく手当しないと…」

 

簪は慌てた様子で懐から絆創膏を取り出すと、一夏に貼るために近づく。

そして一夏が何かを言う前に絆創膏を一夏の頬に貼った。

 

「こ、これで大丈夫だと思う…」

 

簪は一夏の頬に貼った絆創膏を見て満足したのか笑みを浮かべる。

一夏はその笑みから何故か目が離せない。

 

「………感謝する……」

「そ、そんな、感謝だなんて……っ!?」

 

簪は一夏に礼を言われ顔を上げて照れるが、その時に一夏と視線が合ってしまった。

そして気付く…………自分の顔が一夏の顔の近くにあるということを。

絆創膏をちゃんと傷に貼るために傷を見る必要があり、そのためには顔を近づけなければならない。

簪は傷の手当てで精一杯だったため、一夏の顔に自分が顔を近づけていることにまったく気付かなかったのだ。

その距離は間近であり、後2~3センチ前に進めば触れてしまうほどである。

簪はそのことを理解した途端、顔を真っ赤にして慌てて一夏から離れた。

 

(は、はうっ! 織斑君の顔、近かった~~~~~~~~~!! ど、ドキドキしちゃう……)

 

簪は真っ赤な顔で静かに下を向いてしまうが、一夏は何故そうなっているのかまったく分からない。

だから今の簪に何を言えば良いのか分からず、一夏は何も言わない。

そのため、二人とも静かになってしまう。

そしてそのまま少し経ってから簪は一夏に顔を向ける。その顔は未だに真っ赤であった。

 

「きゅ、急にごめんなさい。そ、その…びっくりしてしまって…」

「? ……問題ない…」

 

謝る簪に疑問符を浮かべながらも一夏は答える。

それを聞いて簪は咳払いを軽くしてこの気まずい空気を切り替え、一夏に笑いかけながら聞く。

 

「そ、それじゃあ、どこに行こうか…」

 

そう言われ、一夏はやはりと言うべきか無表情で答えた。

 

「……好きな所にしろ……」

「っ…うん!」

 

それを聞いた簪は笑顔になり、無意識に一夏の手を引っ張って歩き出した。

一夏はただ、それに従うように一緒に歩いて行った。

少なくても悪い気分ではないと、そう感じながら。

 こうして、簪は一夏と一緒に学園祭を過ごした。

この日、簪にとって忘れない一日となったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 そんなふうに二人? が学園祭を楽しんでいる際中、一夏によって手足を斬り飛ばされたオータムはツキオミ達によってネルガルの特殊な部屋へと運び込まれていた。

そこのベッドでオータムは目を覚ました。

 

「……あれ……ここは……」

 

オータムは辺りを見回すが、全く知らない場所だったために少し混乱する。

そして未だにぼんやりとする頭で何故自分がこんな所にいるのかを思い出そうと思考する。

その瞬間、フラッシュバックするエステバリスとの戦闘。そして斬り飛ばされた手足の記憶を。

 

「っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」

 

思い出してしまい、意識が完全に覚醒したオータムは声にならない叫びを上げそうしなってしまう。

しかし、それはやんわりと止められた。

オータムの口は手によって塞がれていた。

 

「こらこら、起きたばかりに騒ぐと疲れてしまうよ」

 

この場ではおかしいと思えるくらいに優しい声をかけられ、オータムは咄嗟に声の方を向く。

そこには、長髪の男が立っていた。

咄嗟に男から離れようとオータムは体を動かそうとするが、体は一ミリたりとも動かない。

その前に手足を斬られたのだから、当然のことなのだが。

だが、そうではなかった。

オータムの手足はちゃんと綺麗にくっついていた。まるで最初からそのようにあったかの如く、先程一夏に斬り捨てられたのが悪夢だったかのように。

しかし、その手足はぴくりとも動かない。

それを分かっていてなのか、長髪の男……ネルガル会長、アカツキ・ナガレは笑顔をオータムに向ける。

 

「いやぁ、ウチの一夏君が手荒ですまなかったね。まさか手足を斬り飛ばして持ってくるとは思わなかったから驚いてしまったよ。悪いと思ったから手足はちゃんと付けといたからね。まったく一夏君もとんだ事をするよ。こんな美人の手足を何とも思わずに斬り飛ばすんだから」

 

笑顔でオータムにそう言うが、オータムはアカツキの笑顔を見て恐怖する。

何気ない笑顔。でも、それが何だか冷ややかに感じるのだ。

オータムは何とか開ける口でアカツキに聞く。

 

「な、何が狙いだ…何故、手足を……」

 

オータムにそう問われ、アカツキは親しい友人に話しかけるように答えた。

 

「それはね……君に君の組織のことを教えて貰いたいから。僕は女の子には優しいからね。手荒な真似はしたくないんだ」

 

それを聞いてオータムはアカツキを変人を見るような目で見た。

普通、聞かれて素直に答える者はいない。しかもワザと負傷を治癒させる奴なら尚更。

 

「答えるとでも思ってるのか…」

「出来れば素直に話して欲しいかな」

「馬鹿か?」

「それは酷いなぁ」

 

オータムは答える気など全くない。

それを理解した上でアカツキは部屋を出ようと扉の方へと歩き扉を開ける。

そして出る前に思い出したかのようにオータムに言った。

 

「あ、そうそう。これから君に話して貰うために人が来るけど、その人が言うには手足をくっつけた理由があるんだ。それはね………『だって指がないと拷問で痛めつけられないじゃないか』だってさ。まったく酷いよね~」

 

アカツキは愉快そうにそう言うと、今度こそ部屋を出て行った。

 その後、この部屋ではオータムの悲鳴や叫び声が響いたのは言うまでもなく、部屋では目を覆いたくなるような悪逆非道、人道無視の行いが行われ続けたとか。

その数日後、その声はぱったりと消えたらしいが、オータムの姿を見た人は誰もいない……。

 

 

 

 


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