インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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少し前にチラシ裏に書けって評価が来てしまいへこんじゃいましたよ。
今回はそう言われないよう頑張りました。


第四十話 学園祭開始

 楯無が一夏に突っかかってから三日余りが経った。

あの事件があろうとも一夏が何か変わる訳ではないが、楯無はそうではなかった。

簪に大嫌いと言われて以来、楯無は生徒会の仕事を遂行出来なくなるくらいにショックを受け塞ぎ込んでしまっていた。

その事で生徒会の仕事は滞ってしまい、布仏 虚は事態に急を要すると判断。

簪に頭を下げて楯無を説得するよう頼み込んだ。

更識家と布仏家は主従の関係。主たる更識家にそんなことを頼むのは甚だしいこと極まりないが、このままでは学園祭を開催することが出来ない。

主従の関係であるが、学園でのことに家のことを全て持ち込む訳にはいかないので、主をそっとしておくわけにもいかないのだ。

虚自身、何度も説得を試みるが楯無は聞いてくれない。

もう楯無を復活させるには、今回の原因となった簪本人に説得してもらう以外に道は無いのだ。

対する簪は最初こそ拒否していたが、虚の泣きそうな顔での説得に心折れた。

確かに姉には苦手意識があるが、本当に嫌いというわけではない。

姉が自分の事を気にかけていることは、どことなく理解もしてはいた。それでも苦手で劣等感を抱くのは変わらないが。

簪にとって、確かに姉は苦手で劣等感を抱き超えるべき存在ではあるが、同時に家族でもあるのだ。

その家族がこうして主従の関係とは言え人を困らせ、そのせいで学園全体に被害が及んでいる。しかもその原因が自分にあると言うのなら、その責任は取らなければならない。

だからこそ、簪は虚と一緒に楯無を説得しに向かった。

そしてそこで楯無は簪に許しを請い、簪はこれを渋々受け入れた。

楯無は簪に許して貰ったことに号泣し、何とか復帰。

その後は今までの遅れを取り戻すように楯無は仕事に励んだ。

その御蔭で何とか学園祭は開催出来る状態へと持ち直した。

 

 

 

 皆、一週間後に開催される学園祭で浮かれた雰囲気になっている中、一夏だけは取り残されたようにその雰囲気に入っていなかった。

別にその事を気にする一夏ではなく、興味もない。一夏はいつも通りに誰とも関わらずに過ごしていた。

そして学園祭前日になり、その情報はいきなり入って来た。

その日の深夜、皆が寝静まった時間帯に一夏はいつもと変わらずに情報を漁っていた。

それまで事態には何も進展はなく、一夏自身そのことにいつもと変わらない苛立ちを覚えていた。

そんな時、アカツキから通信が入ってきた。

一夏はいつもと変わらない無表情でそれに応じる。

 

「やぁ、こんばんわ! 元気にやってるかい」

 

通信に出たアカツキはバスローブにワイン片手でくつろいでいた。

アカツキは一夏に上機嫌で話しかけるが、一夏の表情は何も変わらない。

アカツキの表情を見るに、少し酔っているようだ。

一夏はそのままアカツキをバイザー越しに見ているだけである。アカツキはそんな一夏を見ながら笑うと、さっそく話し始めた。

 

「その様子だと変わらないようだね。結構結構」

「………話は……」

「そう急かさないでよ。もう少しゆっくりしたらどうだい」

「………………」

 

明るく陽気に言うアカツキをジッと見る一夏。

表情に出てはいないが、内心ではジト目になっていることだろう。

それを受けてもアカツキは笑顔を崩さない。

しかし、笑顔のまま本題を話してきた。

 

「君がせっかちなことはいつものことか。まぁ、それは別にいいよ。それで本題なんだけどね~……ウチで掴んだ情報によると、どうやら君の所の学園祭に亡国機業が遊びに行くらしいよ」

 

アカツキはまるで友人が今度家に遊びに来るよ、と言うかのように軽く重大な事を一夏に告げた。

それを聞いた一夏は静かに話を聞く体勢になる。

 

「……奴等か……」

 

一夏は笑うアカツキに静かに聞く。

その声には狂喜と殺気に満ちていた。

それを聞いてアカツキは苦笑する。

 

「ん~……残念ながら、彼奴等ではないんだよね~」

 

それを聞いた途端、一夏から溢れ出していた殺気が収まる。

その様子を見てアカツキは苦笑していた。

 

「そうがっかりしないでよ、気持ちは分かるけどね~。まぁ、学園祭は外部から様々な人が出入りするからね。侵入には最適ってわけだ。そんな侵入の仕方を考えている自体、お行儀のいい連中だよ。狙いは十中八九、君だね。どうやら連中、自分達の情報を組織に隠してるらしい。でなきゃこんなことは考えないよ。でだよ、さっそくだけど君に指令だ」

 

アカツキは先程と変わらずに笑顔で一夏に指令を話し始めた。

 

「まぁ端的に言うと、この亡国機業の人間を捕まえてくれない。こっちで調べるよりも多くの情報を持ってるみたいだから、是非とも欲しいんだよ。来るのは実働部隊でもトップの女性らしい。写真を送るけど、結構な美人さんだよ。是非とも一緒にお茶したいねぇ~。おっと、エリナ君が睨んでいくる。綺麗なんだから怒らないで欲しいねぇ~」

 

アカツキは笑いながらそう言う。

一夏はそれを聞いて大体を把握する。

つまり情報源入手のために此方に襲い掛かる敵を逆に捕らえろ、ということ。

そのために生け捕りにしなければならないということを一夏は理解した。

ただし、それは言い替えるなら相手が口を利ける状態であるのならどのような状態でも良いということになる。最悪、喋らなくなっても自白剤の投与で無理矢理吐かせることも出来る。

現代の薬学ならば、それくらい何てことは無い。

つまり……アカツキはそう言っているのだ。

それを理解し、一夏はアカツキに返事を返す。

 

「……了解……」

 

返事を聞いてアカツキは満足そうに頷くと、今度はニヤニヤと笑いながら一夏に話しかける。

 

「そうそう、後ね……学園祭にはちゃんと参加しなよ」

「………」

 

アカツキにそう言われ、一夏は何故? と疑問に思った。

はっきり言って参加する必然性がまったくない。寧ろ参加せずに亡国機業の人間を探した方が断然良いはずなのに。

しかし、一夏はニヤニヤ笑うアカツキを見て何か考えがあることを察する。そして同時に嫌な予感も感じた。こういうふうにニヤニヤと笑うアカツキが考えることはろくな事がないことを一夏は身を持って知っている。

 

「……狙いは?」

「うん、そうだね~。せっかくの学園生活だ、ちゃんと満喫しないとね。と説明しても君は納得しないだろうからね。僕の予想が正しければ、君が探さなくても向こうから来てくれるよ。だからその間は学園祭を楽しみなさい。そうだね、そう言えばあの眼鏡をかけた女の子を誘うといいよ。たぶん彼女は…」

 

最後まで話す前に一夏は通信を切った。

何を馬鹿馬鹿しいことを言っているのやら……そんな温いことが出来るわけがない。

そう一夏は思うが、それを裏切るかのように携帯にメールが来た。

一夏は無表情でそれを見ると、アカツキからだった。

内容は……

 

『追伸……応援としてツキオミとゴートを向かわせるから』

 

それを見て一夏は内心うんざりした。

この応援というのは任務の応援も兼ねるが、専ら一夏が学園祭に参加しているかの監視だろう。

ゴートはともかく、ツキオミがニヤニヤした目で此方を見てくるだろう。

それが微妙に苛立つ。

笑われていることにではなく、そんなことを命として受け入れるあの二人に。

自分にそんなことが出来る訳が無いと分かってそういうことを言っているアカツキが妙に恨めしかった。

 

 

 

「良いのですか、あのような事を言って?」

 

通信を終えたアカツキに向かってエリナがそう聞いてきた。

今の一夏の現状を理解している彼女は、一夏にはそんなことが出来るわけがないことを知っている。

エリナに聞かれたアカツキは苦笑を浮かべながら答える。その苦笑はどこか寂しい雰囲気を纏わせていた。

 

「確かに彼は復讐人だ。その姿は美しい。だが、それと同時に十五歳の少年だよ。少しくらい楽しんだって罰は当たらない」

「ですが、そんなことを彼が出来るわけがないのは社長も御存知ですよね。何故…」

 

エリナの質問にアカツキは少し真面目な顔をする。

 

「僕の予想だけどね……彼は彼奴等と戦って彼奴等を殺せた時、彼も死ぬよ。それまでずっと抱いていた復讐を果たして何の未練もなく、生きる目標も同時に失うことになる。それだけが彼を生かし続けてきたからね。僕だって鬼じゃない、年若い若者がそんなふうに何もなく死んでいくのは見るに堪えない。だから死ぬ前にせめて、思い出の一つでも作ってもらいたくてね」

 

それを聞いたエリナはアカツキを少し尊敬した目で見た。

まさかそんなことを考えているとは思わなかったのだ。

しかし、ここでアカツキはその尊敬を裏切る。

 

「そ・れ・に、彼みたいな根暗な男がどう学園祭を過ごすのか興味あるじゃないか。それを見るためにゴートとツキオミを送ったんだしね」

 

それを聞いたエリナは眉間に青筋を立てて静かに怒っていた。

さっきまで自分が感じていた感動をこの男はことごとく裏切ってくれたのだ。

その感動した自分に恥ずかしさを感じ、同時にその感動を返してもらいたくなった。

そのため、エリナはアカツキをジト目で睨み付ける。

 

「どうかしたのかい、エリナ君?」

「ッ……何でもありません!!」

 

アカツキのふざけたような声に、エリナの怒りの籠もった声がその場に響き渡った。

 

 

 

 学園祭当日になり皆朝早くから教室へと向かっていく中、一夏は亡国機業を相手にすべく銃器の整備や弾薬の補充、各種装備の点検などを行っていた。

アカツキにはああ言われたが、真面目に聞く気はない。

今の自分がどのような顔で学園祭を楽しめば良いというのだろう。せいぜい、ずっと廊下を歩き続けるしかない。

出店に行ったとしても食べ物は食べる意味がないし、催し物を楽しめる精神構造ではない。

どちらにしろ、楽しいなどという感情は一夏からは消え去っているのだから。

命じられたからには聞くが、それはあくまでも向こうが接触してくるのを待つということだけ。

満喫するといった気はない。

だからこそ、一夏は戦うために準備を整えている。

そうしていると、急遽部屋の扉がノックされた。

一夏は無表情で扉に近づくと扉を開けた。

何となくだが、予想がついたから。

そして開けた先には、予想通り……更識 簪が立っていた。

 

「お、織斑君…ちょっといい?」

 

簪は顔を赤らめながら一夏に聞いてきた。

一夏は少し考えた後に答える。

 

「………問題ない…」

 

それを聞いた簪は何かを言おうとして一瞬留まり、顔を先程以上に真っ赤にし瞳を泣きそうなくらい潤ませながら一夏を見つめて聞く。

 

「よ、よかったら! ……い、一緒に学園祭……回りませんか!!」

 

その様子は本当に一生懸命であった。

一夏は断ろうと考えたのだが、断った瞬間には泣き出しかねない簪を見て仕方ないと判断し答えた。

普段ならばそんなことは絶対に考えない。しかし、一夏は何故か簪を泣かせるのはまずいと思ったのだ。理由を挙げれば色々あるが、何よもあの生徒会長が此方の邪魔をしてくる可能性が高いというものだった。いなすのは容易だが、すればするだけ余計に絡んでくる。ああいうタイプはそういうものだと一夏は分かっている。ならばここは素直に頷くのが得策だろう。

そう理性は判断するが、どこか納得のいかない答えであった。

 

「………了解した……」

「っ……よかった!」

 

一夏の答えを聞いて簪は花が咲いたかのような笑顔になった。

その笑顔はとても可愛らしく、男性十人が見れば全員が振り返るような笑顔である。

そんな笑顔を向けられた一夏は、何とも言えない気持ちになるのであった。

 

 

 こうして、一夏は簪と学園祭を回ることになった。


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